工具界のアマゾン、モノタロウに「神風」。後手に回った大企業が急になびいた理由

モノタロウ
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「工具界のアマゾン」との異名をとる工具通販サイトのモノタロウ。

非効率だった間接材(MRO)の調達モデルを抜本的に変革し、直近12年間の売上高成長率は常に20%以上と快進撃が続く。

その強さの秘密を読み解く鍵は、アマゾン創業者のベゾス氏が描いたとされるビジネスの好循環モデル「フライホイール効果」にあった。

目次

ビジネスの好循環モデル、アマゾン「フライホイール効果」とは?

アマゾンの「フライホイール効果」という考え方をご存知だろうか?

アマゾンの草創期、創業者のベゾス氏が紙ナプキンに書いたとされるビジネスの好循環モデルに由来している。

「フライホイール」は日本語では「はずみ車」といい、慣性の力で効率よく回転運動を持続させるしくみを指す。

「フライホイール効果」と命名したのは1990年代のベストセラー「ビジョナリーカンパニー」の著作で知られる経営コンサルタントのジム・コリンズ氏だという。

ベゾス氏が思い描いたアマゾンの未来の姿とは、低コスト構造(LOWER COST STRUCTURE)でビジネスを始め、商品の低価格化(LOWER PRICES)豊富な品ぞろえ(SELECTION)を実現し、顧客の体験価値(CUSTOMER EXPERIENCE)を高めていく。

その体験に満足した顧客はリピーターとなって再訪するため、アマゾン全体の取引量(TRAFFIC)が増える。

するとさらなる取引を狙って売り手(SELLERS)が集い、品ぞろえがますます充実し、低コスト化から低下価格化への流れも一段と進む。結果的に顧客の体験価値がさらに高まる。

いったんはずみがつくと、慣性の力であとは安定的にスパイラルアップしていく。

取引量→売り手→品ぞろえ→体験価値がそれぞれ連鎖的に積み増しされ、その好循環でアマゾンのビジネスは持続的に成長(GROWTH)するというもの。

フライホイール効果で快進撃が続くモノタロウ、「工具界のアマゾン」との異名

この「フライホイール効果」は、アマゾン以外にもウーバーやネットフリックスのビジネスモデルにもあてはまるとの指摘もある(Strategy& Foresight、参照日2022.7.6)

そして、実はここ日本でも「フライホイール効果」で大成功を収めている企業がある。モノタロウだ。株式会社MonotaROが運営する企業向け工具通販サイトで、「工具界のアマゾン」との異名をとる。

2000年に創業したモノタロウだが、その後の急成長には目を見張るものがある。

直近12年間の売上高成長率は常に20%以上を保ち、登録顧客数も破竹の勢いで増え、2022年3月には700万口座を超えた。

そしてモノタロウの実績で特徴的なのは、新規の顧客を獲得するのみならず、既存顧客もまた順調に育っていることだ。

たとえば2008年に初めて顧客となった層の合計の購入金額はその10年後に2.2倍にもなったという(bizSPA!フレッシュ、2022. 2.15)

それだけリピーターたちの購入単価が上がっているのだ。

モノタロウのこうした好業績にはアマゾンのいう「フライホイール効果」が働いていることは間違いない。

構成要素の一つ、「品ぞろえ(SELECTION)」においては、モノタロウは今や1,800万点強の商品を扱う。

工具や梱包資材など工業用に始まり、建設・工事業、自動車装備業、さらに医療・介護、飲食、学校、農業向けの商品と品ぞろえの対象となる業種も幅広い。

「現場を支えるネットストア」と銘打つ通り、モノタロウなら現場で欲しいものは大抵みつかるというのが目下の評判だ。

また、「フライホイール効果」でいうところの「売り手(SELLERS)」では、充実した品ぞろえを実現するために様々な販路の開拓に努め、創業当初はたった1社だった仕入先は今や国内数千社、海外数百社の規模にまで達している(ZUU online  2021.10.07)

「間接材」に特化したモノタロウ、間隙を突いた戦略ドメイン設定

モノタロウのようなビジネスモデルはN対N (あるいは多対多) 取引ともいわれ、売り手と買い手の双方の数(N)が増えるほど、価値が高まる「ネットワーク効果」が如実に働く。

これがまさに「フライホイール効果」を支える根本原理で、アマゾンとも軌を一にしている。

しかし、一方で、アマゾンとは似て非なるもの、というより「対極にあるのではないか」と思える点もある。

いろいろな工具

一つは、「地球上で最も豊富な品ぞろえの実現」という目標を掲げ、「Everything Store」に向けて邁進するアマゾンに対し、モノタロウは扱う商品を間接材に限定し、その深さにこだわっていることだ。

間接材とは「工場や現場で使う消耗品、工具、事務用品など原材料以外の全てのもの」を指し、英語では「MRO:Maintenance Repair and Operation」という。

実は運営企業である株式会社MonotaROの社名は、このMROから来ており、桃太郎が鬼退治を行ったように、非効率だった間接材(MRO)の調達モデルを変革するという野心的な意味合いが込められているという(MonotaRO 事業概要)

製造業であれば、仕入れる原料・原材料(直接材という)の調達には品質やコストの管理に躍起になるだろう。最終製品の評価や競争力に直接跳ね返ってくるためだ。

企業は仕入先に対し、見積もりをとったり、商談を重ねたりと、購買部など社内の専門組織を介して全身全霊で取り組むのが常となる。

一方、間接材の調達ではどうか? 多くの企業が品質やコストの管理に全力を注ぐことはまずないだろう。

必要とする間接材の種類は多種多様で、必要とする拠点や現場も、必要とするタイミングもまちまちとなるため、一元的な管理の対象になりにくいのだ。

購入単価も原料・原材料ほどではないため、価格交渉にいちいち時間をかけたりしない。

むしろ、急に壊れた、切らしてしまったというときに、必要とするものを直ちに注文でき、必要とするタイミングで手元に届くことの方がよほど重要となる。

コスト高や不効率をはらんだ従来の間接材調達チャネル

こうした間接材の商流をもっぱら担ってきたのは、機械工具商や専門販売店など、訪問営業で「御用聞き」的に注文を請け負う事業者たちである。

顧客のニーズや事情に精通し使い勝手のいい半面、コスト高や不効率の問題もはらんでいる。品ぞろえに限りがあるうえ、商品によっては納期も不安定だ。

滅多に注文することのない商品であれば、最適な品目、規格、等級などの判断は難しく、結局は発注先である事業者の知見にゆだねることになる。

かなりの確率で各ジャンルの値の張るトップブランドから「言い値」で買わされることになるだろう。

より安価なPB商品や海外からの直輸入品など、ニーズに応じて最適な選択肢を提案してくることは滅多にない。

モノタロウはそこに「ホワイトスペース(空白地帯/未開拓領域)」を見い出す。

新たなビジネスモデルを構築することで、従来の「御用聞き」に代わる間接材の調達サービスを提供することに決めたのだ。

取引はECサイト経由を主軸とし、低コストオペレーションを追求しつつ、顧客企業内のいたるところでてんでんばらばらに発生するニーズに柔軟に対応する。

今直ちに欲しい商品を簡単にサイトから注文でき、しかも納期が早い。

目指すのは間接材の調達に特化したワンストップサービスであり、そんな間隙を突いた戦略ドメインの設定こそが、モノタロウに快進撃を引き寄せたのだ。

品ぞろえ、ワンプライス、即日配送、モノタロウが切った3つのカード

ボウリングのピン ボーリングレーン戦略

モノタロウは取り扱う商品ジャンルをインクリメンタル(漸進的)に拡充していく。

その歩みはまさにボーリングレーン戦略にたとえられるだろう。センターピンを倒すと2番ピン、3番ピンと連鎖的に倒れていくあのイメージだ。

アマゾンが書籍のネット通販からビジネスを始めたように、創業期のモノタロウは中小・零細企業の多い金属加工業をターゲットとし、目立った競争相手のいなかった工具類に照準を絞った。

ニッチでディープな品ぞろえで付加価値を生み、手堅く実績を稼ぐ。

すると同じ間接材(たとえば材料を磨くための研磨材など)を使う他業種の事業者もその評判を聞きつけてモノタロウのサイトに集まってくる。

そうした顧客の中から、強い引きのある業種を次のターゲット(次なるボーリングピン)に見据え、重点的に攻略する。その地道な積み重ねで1,800万点強もの商品を取り扱うまでになったのだ。

価格設定は「一物一価主義(ワンプライス・ポリシー)」とした。

従来の間接材の調達では、発注量に応じて価格が大きく変動し、大口の注文ができる大企業は割安になり、そうでない中小企業なら割高になるというのが半ば常態化していた。

しかし、モノタロウは顧客に不公平感を与えることのないよう、発注量の多寡にかかわらず一つのモノに一つの値付けを原則としたのである。

一方でモノタロウは即日配送の体制づくりにも余念がなかった。

間接材が届かなければ業務が滞ることにもなりかねない。顧客の体験価値を高めるには、品ぞろえの密度に加え、納期の短縮も生命線だったのだ。

大規模な物流センターを開設し、即日配送に万全を期すため、比較的回転の早い、約50万点もの商品をあえて在庫として抱えている(ZUU online 2021.10.07)

午後3時までに注文すれば、原則として当日中に出荷し、翌日には客の手元に届くという(日経ビジネス 2022.6.16)

すみずみまで神経の行き届くような品そろえで、ワンプライスの明朗価格。

しかも即日配送。間接材の既存の商流と差別化を図るカードをモノタロウは次々に切っていく。

その道のりは決して一足飛びだったわけではないが、やがてモノタロウはクリティカルマスを超える。

クリティカルマスとは、先に触れたN対N (多対多) 取引でいえば、売り手と買い手の数(N)が一定数に達し、その後は自律的に、しかも急速に膨らむ分岐点のことだ。

いったん分岐点を超えると、購入頻度の極めて低いロングテールな商品であっても、多くの買い手がつくため、モノタロウは十分に採算がとれるようになる。

はけることが見越せるため、即日配送のために在庫を抱えて置くこともできるのだ。

やがて「モノタロウなら大抵のモノはそろう、しかも早く届く」という評判に一段と拍車がかかり、ビジネスの好循環が加速されていく。

質の高い検索体験、モノタロウが切った4つ目のカード

検索体験

実はもう一つ、この好循環サイクルを確立するのに、モノタロウが力を注いできたことがある。

「検索性の向上」だ。

顧客にとって「良い検索とは何か」ということを常に意識し、「モノタロウにしかできない検索体験」の実現を創業当初から目指してきたという(モノタロウnote公式アカウント 2022.3.11)

阿吽(あうん)の呼吸が通じる御用聞き的な営業にとって代わるには、顧客がモノタロウのサイトを訪れた際に、必要とする商品を簡単に見つけ出し、注文できることが肝要だ。

現場で必要とされる部品や工具が決まっていたとしても、サイト上で注文するには品番(注文コード)まで落とし込む必要がある。

これが案外難しく、とっさのキーワード検索ではなかなかたどり着けない。

用途や材質、形状などたくさんのバリエーションの中から絞り込まなければならないのだ。

モノタロウが強みとしてきた品ぞろえの幅と深さゆえの難しさといえる。

そこでモノタロウは取り扱う商品の分類体系を独自に考案し、サイト上の検索システムに組み込んだ。

1,800万点もの商品を大分類、中分類、小分類とわかりやすく体系化したのである。

たとえばモノタロウのサイトで検索窓に「手袋」と入力してみよう。

トップページに掲載された分類体系によれば、「手袋」は中分類に位置し、上位の大分類「安全保護具・作業服・安全靴」となる。

「手袋」の下位レベルとなる小分類には「軍手」や「革手袋」といった一般的な分類に加え、「耐熱・防火手袋」「防寒用手袋」「溶剤・酸、アルカリ用手袋」など専門的な用途の分類が並ぶ。

試しに、それら小分類の一つである「革手袋」をクリックしてみよう。

その小分類の下位のレベルに今度は「牛革手袋」「豚革手袋」「人口皮革手袋」などの細分類が表示される。

この細分類までたどり着くと、あとはブランド名やサイズ、価格、デザイン、納期などから注文する商品を選ぶことになる。

一つひとつの商品に商品特徴や用途の説明、商品レビューが添えられているため、納得の上で注文できるだろう。

実際に届いた商品が想定とは違っていたという事態も起こりにくい。

仮に商品の分類体系には乗らない、周辺的なキーワードで思いつくまま検索したとしても、サイトのサイドバーに、その入力ワードに関連しそうな分類名が表示され、分類体系の中に引き戻してくれるのだ。

ここで表示される分類名は、予め登録した業種や購入履歴に応じて優先順位が変化するという。

リピーターであればより早く、求めている商品にたどり着ける設計になっているようだ。

ネジ ナット ボルト

さらに圧巻なのは商品の分類体系を補う「絞り込み検索機能」だ。

たとえばモノタロウのサイトで「ボルト」と検索してみよう。

基本となる商品の分類体系に加え、ブランド名や長さ、材質、頭部形状、表面処理など細やかな絞り込み条件がいくつも表示され、顧客が探し求めるピンポイントの商品にたどり着くのを助けている。

BtoB(企業対企業)がECサイトにおいて間接材を買い求める顧客の行動は一般的なショッピングサイトのそれとは明らかに異なる。

道草を楽しんで商品との思いがけない遭遇(セレンディピティ)を求めたりはしない。

あくまで究極の必需品の購入であり、最短で注文したい。煩わしい思いを微塵(みじん)もしたくない。

それゆえ、質の高い検索性もまたモノタロウのビジネスにとっては要(かなめ)であり、品ぞろえや即日配送と並んで「フライホイール効果」のキードライバーの一つだったのだ。

大企業を惹きつけた「フライホイール効果」

モノタロウは顧客のタイプを大企業、中小企業、個人事業主、個人の4つに分類してきたが、昨今は大企業の顧客の成長が著しく、前年比40%超で伸びているという(LNEWS 2022. 2.8)

大企業であれば大量発注による割引の恩恵も受けられるため、必ずしもモノタロウのワンプライス・ポリシーとは相性がよくない。

間接材を扱う販売事業者たちのフォローも手厚いという事情もある。

どちらかといえば大企業の攻略は後手に回ってきた。

しかし、近年はモノタロウの圧倒的な品ぞろえや利便性が認知され、大企業もモノタロウを積極的に利用し始めたのだ。

さらにモノタロウが大企業に導入を推し進める「モノタロウ購買管理システム」の効果も大きいという。

同一企業でも間接材は拠点ごと・現場ごとでばらばらに調達されることが多く、一元的に集中管理するのは難しかったが、そこにモノタロウはメスを入れたのだ。

モノタロウの公式サイトによれば、「購買管理システム」によって調達先が一本化されるメリットは大きく、購買業務におけるコスト削減や業務スピード向上につながるという。

間接材は積上げると企業コストの10~20%を占め、多くの場合、人件費よりも間接材のコストの方が大きいとの指摘もある(Leaner Magazine 2021.5.19)。

効率化やコスト削減を見据える大企業もいよいよモノタロウの「フライホイール効果」に抗い得なくなったというところだろう。

東洋経済オンラインの2021年11月23日付の記事によれば、日本の間接材の市場規模はおよそ5兆~8兆円といわれ、モノタロウのシェアは3%程度に過ぎないという。

開拓の余地はまだまだ大きく、モノタロウは今後も「見つける時間」「購買手続の時間」「商品を待つ時間」の短縮によって体験価値を高め、利用者を増やす覚悟でいる(モノタロウ2022年12月期の決算概要)

「フライホイール効果」によるモノタロウの快進撃は当面続きそうな気配だ。

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