【要約】ポジショニング戦略 新版 成功事例から「型」を知る

ポジショニング戦略
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「ポジショニング」とは消費者の頭のなかにおけるブランドの「ユニークな位置取り」のことを指す。

その位置取りが叶うことで、消費者はブランドを思い出しやすくなり、競合との明確な違いを認識し、結果的に買ってみようという気持ちになる。

「純粋想起」「独自性」「購買動機」の好循環サイクルが回り出すのだ。

近代マーケティングの父と称されるフィリップ・コトラーは「ポジショニング」を「企業やブランドが市場で真の独自性を確立し、その地位を維持するための強力なツール」と絶賛する。

本記事では、そのコンセプトをわかりやすく説いた「ポジショニング戦略 新版」を取り上げる。

同書の数ある掲載事例を振り返りながらその本質に迫ってみたい。

目次

革命的なコンセプト「ポジショニング」

今から半世紀以上も前、マーケティングの世界を席捲するコンセプトが登場した。

アル・ライズ、ジャック・トラウトという気鋭のマーケターたちが提唱した「ポジショニング」だ。

「消費者の頭のなかを制する者がビジネスを制する」といったフレーズをドンピシャでなくとも「頭のなかに〇〇」ぐらいなら耳にしたことのあるマーケターは少なくないだろう。

頭の中を制する

近代マーケティングの父と称されるフィリップ・コトラーはポジショニングを「革命的なコンセプト」とさえ呼んだ。

その歴史を紐解くと、ポジショニングなる言葉は1969年のハーバード・ビジネス・レビューの論文に初めて登場したという。

その後、1972年に米国の広告・マーケティング誌「アドバタイジング・エイジ」で「ポジショニング時代の到来」が連載されたことから注目を浴びる。

そして、アル・ライズ、ジャック・トラウトによる「Positioning: The Battle for Your Mind」が出版されたのは1982年のことだ。

日本でもその翻訳書「ポジショニング―情報過多社会を制する新しい発想」が電通から1987年に出版され、2008年にはその新版「ポジショニング戦略」(海と月社)が出版されている。

新版は「世界中で30年間読み継がれる、マーケターのバイブル」という触れ込みだ。

「ポジショニング」とは何か?

ポジショニングを改めて定義すれば、消費者の頭のなかにおけるブランドの「ユニークな位置取り」のこと。

そのユニークな位置取りが叶うことで、消費者はブランドを思い出しやすくなり、競合との明確な違いを認識し、結果的に買ってみようという気持ちになる。

マーケティング用語を使えば「純粋想起」「独自性」「購買動機」の好循環サイクルが回り出すということだ。

フィリップ・コトラーは「ポジショニング戦略(新版)」の序文で「企業やブランドが市場で真の独自性を確立し、その地位を維持するための強力なツール」と書いている。

アル・ライズ、ジャック・トラウトの著作が世界のマーケターの間では読み継がれた理由には、そのコンセプトがマーケティング史に残るひとつのエポックだったことはもちろんある。

しかし、一方で、掲載されていた事例が極めて分かりやすかったことが後押ししたことは間違いない。

アル・ライズ、ジャック・トラウトの2人が選りすぐったのだろう。

読み進むにつれ、なるほどそれゆえポジショニングが重要なのだと納得がゆく。

米国のブランドばかりではあるが、日本人にもなじみのあるブランドが多く理解に困ることはまずない。

今回の記事では、その掲載事例に改めて光をあて、それらを読み解く形でポジショニング概念の本質に迫ってみたい。

人の認識の基本原理「カテゴリー化」

それら事例を振り返る前に一つだけ、ポジショニングの概念に通じる心理学の理論的な枠組みを紹介しておきたい。

「カテゴリー化」だ。

人は常日頃、生活のなかで様々なモノやコトに触れながら生きている。

しかし、それら1つひとつをいちいちバラバラには見ていない。

似たもの同士をひとくくりに分類しながら見ているのだ。

これは椅子だ、コップだ、犬だという風にである。

色や形、大きさなど個別具体的な違いには目をつむる。

きわめてざっくりとした、抽象度の高い分類だ。

そこに言葉でラベルを貼り、記憶としてストックしておく。

そして、たとえば椅子らしきものをみたとき、そのラベル(言葉)を手がかりに、蓄えていた記憶と瞬時に照らし合わせ、「ここに腰をかけてもいいんだ」などと使用用途を予測したりする。

カテゴリーの記憶が間に入ることでずっと効率がよくなる。

目に入ってくる対象を「どう使えばいいんだ?」などといちいち一から吟味するよりはるかに手っ取り早いのだ。

この「カテゴリー化」は人の基本的な認識のしくみらしく、たとえば言葉を覚え始めた赤ちゃんでさえ、「わんわん」というのが犬らしきものに汎用的に使える、すなわちカテゴリーであることを理解しているという。

いろいろな犬

人は数万から数十万のカテゴリーを持っているというが(認知言語学への誘い)、そのお陰でとりまく環境を整理・構造化し、刻一刻と変わる環境にどう対処すべきかをコンマ数秒の速さで判断できるのだ。

そして実は、アル・ライズ、ジャック・トラウトが提唱するポジショニングとは、この記憶として蓄えられたカテゴリーとブランドとが混然一体化することを指す。

2人の最初の著作「Positioning: The Battle for Your Mind」では、「カテゴリー化」という言葉は使ってはいないものの、全編にわたって消費者の頭のなかのカテゴリーを巧みに手なずけることの重要性を説いているのだ。

ポジショニングの常套句にもなっている「消費者の頭のなかを制する」とは消費者が記憶として持つカテゴリーとブランドとを強固に結びつけることを意味していたのである。

カテゴリーに一番乗りが鉄則

そして優位なポジショニングをするうえで最も重要となるのが、ブランドが真っ先に、他のどのブランドよりも先にカテゴリーと結びつくことだ。

いわゆる「一番乗り」の戦略である。

アル・ライズ、ジャック・トラウトが一番乗りに成功したブランドの例として挙げたのは、コダック、コカ・コーラ、ゼロックス、IBM、マクドナルド、クリネックス、ハーツ(レンタカー)などだ。

一般的なマーケティング用語でいえば、先行優位性、もしくは先発優位性の恩恵に浴したブランド群といえる。

コカ・コーラ
コダック

いずれも米国の消費文化のアイコン的ブランドといってよい。

この一番乗りの優位性を読者に腹落ちさせるために2人が引き合いに出したのが、世界で最初に北大西洋の単独横断に成功したチャールズ・リンドバーグだ。

彼の名まえは世界中にとどろいているが、二番目に単独飛行に成功した人物となるとどうだろう?

名まえすら聞いたことがないという人が圧倒的多数だろう。

一番乗りであることは知名度にも直結するのだ。

ほかにも世界で最初に月面を歩いたのはニール・アームストロング

世界で一番高い山といえばヒマラヤのエベレスト

いずれも一番乗りが抜きん出た知名度を稼ぐが、二番手の存在が記憶に刻まれることはまずない。

ブランドも同様だ。

ブランド優位を築くにはカテゴリーに一番乗りし、そのカテゴリーを代表する、プロトタイプ(典型事例)的なブランドになること。

アル・ライズとジャック・トラウトは一貫してそう主張する。

一番乗り

そして、人の脳に最初に刷り込まれたブランドは二番手のブランドの2倍、そして二番手は三番手の2倍の市場シェアを獲得するのが歴史の常だという。

レンタカーのハーツはエイビスに、GMはフォードに、グットイヤーはファイアストーンに、マクドナルドはバーガー・キングに、GEはウェスティングハウスに大差をつけているのがその証左といえる。

ところが、たいていのアナリストや専門家たちはカテゴリーに「一番乗り」することの優位性を見落とし、優れたマーケティング戦略の賜物(たまもの)などと本質を欠いた賞賛を繰り返すのだ。

巨大企業がどんなにマーケティングに長けていても、カテゴリーに一番乗りできなければほぼ勝ち目はない。

飲料業界のリーディングカンパニーであるコカ・コーラが「ドクターペッパー」の向こうを張り、巨費を投じて「ミスターピブ」を発売した。

しかし、そのトップの座を脅かすには至っていない。

巨大企業のIBMもコピー機市場ではゼロックスを、コダックもインスタントカメラではポラロイドを凌駕することはなかった。

それほどカテゴリーに「一番乗り」することの刷り込み効果は絶大なのである。

百事がカテゴリーになり得る

しかも、この一番乗りの鉄則はこれから起ち上げようとする新しいブランドでもあってもあてはまる。

コダック、コカ・コーラ、ゼロックスなど大市場に君臨するメガブランドだけの専売特許ではないのだ。

先に触れた人の基本的な認知能力としての「カテゴリー化」だが、「カテゴリー」と聞くとどうしても、フィルムや清涼飲料、コピー機などの商品分類、あるいは動物や植物の生物分類など歴然とした分類が先に来てしまいがちだ。

しかし、人はありとあらゆるモノ・コトをカテゴリー化する。

たとえば、動詞であっても「歩く」と「走る」は別のカテゴリーであり、位置関係をあらわす前後・上下もそれぞれ別カテゴリーだ。

性質や状態をあらわす形容詞「大きい」「小さい」「高い」「低い」などのラベルが付される形でカテゴリーを成している。

「わび」「さび」といった抽象的な概念でさえカテゴリーなのだ。

一番乗りできる「穴」を探せ!

アル・ライズとジャック・トラウトはその1つひとつのカテゴリーに一番乗りしさえすれば、ブランドの市場優位をねらえると太鼓判を押す。

2人はその一番乗りし得るカテゴリーを「穴」と呼ぶ。

日本語の「風穴」に通じる言い方だろう。

穴・カテゴリー

ここから彼らが「穴」として挙げた例をいくつか見てみよう。

まずはビールの「最高級ブランド」として成功した「ミケロブ」がある。

日本でいえば「プレミアムビール」にあたるだろう。

当時の米国では、ビールの広告といえば「ホップ味のキスのよう」「スカイブルーの水の国から来たビール」など詩情豊かに品質や風味をアピールするのが常だったという。

そんな折、ミケロブが放ったのは以下の広告コピーだった。

「ファーストクラスといえば、ミケロブです」

極めて直接的なコピーであったが、それゆえ効果を上げたのだ。

「ミケロブ」は国産ビールの最高級ブランドというポジションを確立し、高価格にもかかわらず、数年後には全米で最も売れるビールになったという。

数あるビールブランドのなかでも「最高級」という「穴」(カテゴリー)に一番乗りしたことで成功を収めた例といえる。

実は「ミケロブ」よりも先に「最高級」を訴求していたブランドは他にあったという。

それでも大々的な広告キャンペーンによって、消費者の「頭のなか」に一番乗りしたのは「ミケロブ」だったのだ。

この「最高級」といった「穴」(カテゴリー)はビールだけに限らない。

ほかにも米国市場におけるメルセデスベンツやBMWといった高級車、ライターのデュポン、アイスクリームのハーゲンダッツなどの例がある。

香水や時計でも「最高級」という「穴」を射止めたブランドがある。

その際に使われた広告コピーは以下の通りだ。

「世界でいちばん高価なたったひとつの香水、ジョイ」

「世界一高価な時計、ピアジェを身につける理由とは?」

ここでもう一つ、別の「穴」を射止めたビールブランドの成功譚(たん)にも触れておこう。

「ライトビール」のカテゴリーに一番乗りした「ミラー・ライト」だ。

その「穴」、すなわちカテゴリー名をブランド名に取り込んだ例といえる。

実は米国ビールのトップブランドの1つ、シュリッツもライトビールを発売していた。

しかし、そのコピーがまずかった。

「偉大なるライトビールにあふれるうまさ」とかなりまわりくどい。

のちに「シュリッツ・ライト」と名前を改め売りに出したが、時すでに遅し。

ライトビール・ナンバー1の地位はとっくに「ミラー・ライト」に奪われていたのだ。

手つかずの「穴」はほかにも続々

アル・ライズとジャック・トラウトが指摘した「穴」(カテゴリー)はほかにもいくつもある。

まずは「サイズ/大きさ」という「穴」がある。

その成功例がフォルクスワーゲンの「ビートル」だ。

広告界の金字塔ともいえる広告キャンペーンで打ち出したコピーが「Think small.(シンク・スモール)」

たった2語のシンプルなコピーで米国の人々の「大きいほうがいい」という常識を覆したのだ。

当時、ほかにも小型車はあることにはあったが、「スモール」という「穴」(カテゴリー)を最初に射抜いたのはほかならぬ「ビートル」だったのだ。

「性別」という「穴」もある。

タバコ市場で最初に「男性のタバコ」というポジションを奪った国産ブランド「マルボロ」

カウボーイ
マルボロ

このポジションが奏功し、「マルボロ」は10年間で売り上げ5位のブランドからトップブランドへ躍進を遂げたという。

その後、ロリラードから「ルーク」という男性向けタバコも発売されたが、「男性」というカテゴリーに一番乗りした「マルボロ」の刷り込み効果はあまりにも強く、「ルーク」はまったく太刀打ちできなかったようだ。

一方、「女性のタバコ」として成功したのが「バージニアスリム」だ。

「イブ」という女性向けのブランドが後を追ったが、「ルーク」同様に失敗に終わっている。

「年齢」も重要な「穴」になるという。

たとえば、「子ども」という穴を掘り当てて成功したのが、子ども向け歯磨き粉「エイム」だ。

P&Gのクレストとコルゲートという二大ブランドが支配する市場にあって10%もの市場シェアを獲得したという。

さらに「時間帯」という「穴」もある。

史上初の「夜用」に特化したかぜ薬「ナイキル」がその一例だ。

ブランドの「販路」も「穴」になり得るようだ。

デパート向けのパンティストッキングブランドのヘインズは、スーパーマーケットに販路を広げる際に別ブランドを起ち上げた。

「レッグス」である。

スーパーマーケット向けというポジションがブランドを勢いづけ、全米ナンバー1のストッキングブランドにまで成長したという。

さらに「ヘビーユーザー」向けという「穴」もある。

ビールブランドの「シーファー」がその例だろう。

「一本ではもの足りない人が選ぶビール」というポジションで成功を収めている。

「ポジショニング戦略(新版)」の後半の章では、ケーススタディという形でポジショニング戦略によってブランドが息を吹き返した例がいくつか紹介されている。

そのうちの1つ、スウィッツアー・クラークのソフトキャンディ「ミルクダッズ」の例を挙げておこう。

「ミルクダッズ」はライバルとなる人気キャンディーバーの多くが食べごたえがなく、あっという間に口のなかでなくなってしまうという弱点を巧みに突いた。

自らの特徴を生かし、「長持ち」するキャンディと広告で打ち出したのだ。

十代の若者たちの間では既に一定の人気があった「ミルクダッズ」だが、そのポジショニング効果で、さらに下の年代の子どもたちを取り込むことに成功した。

その後「ミルクダッズ」の過去最大の売り上げ数を更新続けたという。

「長持ち」という「穴」(カテゴリー)にターゲットの意識を振り向け、頭のなかを制することでブランドの再活性化に漕ぎつけたのだ。

チャンスとなる「穴」の発見

今回の記事ではアル・ライズ、ジャック・トラウトが唱えた「ポジショニング」という画期的なコンセプトを、彼らの代表的な著書の訳本「ポジショニング戦略(新版)」の掲載事例とともに概説した。

既存の商品カテゴリーはたいていの場合、強いプレイヤーが牛耳っている。

1人勝ちともいえるほどのマーケット・リーダーが君臨するケースも少なくないだろう。

しかし、それでも消費者の頭のなかには無数のカテゴリーが格納されている。

既存の競合ブランドが手をつけていないカテゴリー、すなわちチャンスとなる「穴」はまだまだ存在するだろう。

たとえ最後発のブランドでも一番乗りできるチャンスは十分に残されている。

いかにその「穴」(カテゴリー)を発見するか?

ブランディングに携わるマーケターの最大の思案のしどころはまさにそこにあるといえる。

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