ワークマン なぜ人気に? カギ握るアンバサーマーケティング

ワークマン アンバサダー・マーケティング
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業績好調が続く作業服専門店チェーン、ワークマン。

「高機能×低価格」の商品を武器に作業服で圧倒的なシェアを握り、昨今はプロの職人から一般客へ客層を広げる。

同社の快進撃を側面から支えるのがワークマン流アンバサダー・マーケティングだ。

ワークマンのファンであり、たとえ無償でもワークマンに協力を惜しまないアンバサダーたちがヒットを引き寄せる。

では従来のインフルエンサー・マーケティングとは何が違うのか? 

本記事ではアンバサダーたちが放つ神通力の秘密に迫る。

目次

「高機能×低価格」のマーケティング戦略が奏功

作業服専門店チェーン、ワークマンの業績好調が続いている。

プロの職人向けの作業服や作業用品などを扱うが、昨今は一般の人々にも客層を広げた「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」にも注目が集まっている。

ワークマンが群馬県伊勢崎市に「職人の店・ワークマン」として1号店をオープンしたのは1980年。

その後はフランチャイズ化によって店舗数を増やし、今や店舗網は47都道府県に900店以上にのぼる。

プロの職人向けというニッチな市場ながら、そのシェアは圧倒的だ。

あとに続く2番手、3番手チェーンでもせいぜい数十店規模のため、いかにワークマンが断トツかがわかる。

そのワークマンの最大の強みが「高機能×低価格」の商品。プロの職人たちが認める品質と機能を搭載しながらリーズナブルな値段で購入できるのだ。

一口に作業服といっても防寒性、防風性、遮熱性、通気性、吸汗性など着用する現場の環境に応じて求められる機能は様々である。

ワークマンはプロの職人たちの意見をひたすら耳を傾けながら商品開発を進めるという。

「わからないことはお客に聞け」というのが同社のやり方であり、経営陣はこの文化を「声のする方に、進化する」と端的に言い当てている(ダイヤモンド・オンライン 2020.11.22)

作業服はファッション衣料とは異なり、いったんニーズに合えば顧客は流行を追うことはなくずっと買い続けてくれる。

顧客の再来訪率は高く一人あたりの年間購入総額も大きい。

翌年に持ち越せるため、シーズン中に値引きして無理に売り尽くすこともない。

こうした安定需要がワークマンに低価格を実現させる。

圧倒的な店舗網をバックに、大量ロットの生産が可能となることから高機能であっても製造コストが大幅に抑えられ、その分、価格に還元できるのだ。

「作業服のユニクロ」と異名をとるゆえんだろう。

安定的な売行きは取引先との関係構築や店舗運営などサプライチェーン全体に好影響を及ぼす。

需要予測が立てやすいことで、ワークマンの取引先にも調達や生産の面でメリットが生まれる。

一方でフランチャイズの加盟店側のメリットも大きい。

受発注管理がしやすくなり、接客など他の店舗運営に多くの労力が割けるようになる。

突き抜けた市場シェアゆえの危機感

こうしてワークマンは「高機能×低価格」を武器に市場でゆるぎない地位を確立していったが、実はその一方で、その突き抜けた市場シェアゆえの危機感に駆られていたという。

このまま出店攻勢を続けても、これ以上のシェア伸長は難しく事業成長が頭打ちになることが見えていたのだ。

しかも昨今は、盤石なワークマンの牙城をアマゾンやモノタロウといったEC企業が切り崩しにかかっていた。

そんなときである。転機となる発見がワークマンにもたらされる。

建設作業者や交通誘導員などの屋外作業者向けにつくった防水防寒ウェアが局所的な売行きを示していたのだ。

プレジデントウーマンの2020年11月24日付の記事によれば、屋外作業者向けの商品が異常値ともいえる売行きだったため、その理由を探ってみると、バイクのライダーたちがこぞって買っていたという。

夜間作業の着用に目立つ色にしていたこともプラスに働き、冬場のツーリングに最適との口コミがライダーたちの間で広がっていたのだ。

この発見は危機感を募らせていたワークマンに一筋の光明となった。

その後、ワークマンは客層拡大へ大きく舵を切るが、その決断を後押しすることになる。

「作業着」を「機能性ウェア」へ再定義する

ワークマンはまず「作業着」を「機能性ウェア」と定義し直す。これは単なる呼称の変更ではない。

別の市場の例を挙げるならアサヒ飲料のウィルキンソンがあるだろう。

「お酒の割り材」だったウィルキンソンを、直接飲む“炭酸水”に位置づけを変え清涼飲料の市場に風穴を開けている。

同様にワークマンも「作業着」から「機能性ウェア」へ土俵を変え、これまでと異なる客層を取り込み、これまでと異なる競争相手と闘う覚悟を決めたのだ。

そして、従来から進めていたPB(プライベートブランド)商品の開発にも本腰を入れ始める。

その高機能と低価格を武器にアウトドアやスポーツシーンでの着用を見込んだ商品を増やし、客層をプロの職人たちから一般の人々へと広げることを狙ったのだ。

当時のアウトドアやスポーツ向けの衣料といえば「ザ・ノースフェイス」のような「高機能×高価格」の商品と、その対極に位置する安価な普及品とに市場は二分されていた。

ワークマンの強みは、まさにその間隙、「高機能ד低価格”」という、目立った競争相手のいない空白地帯で存分に生かされる。

一般客が着実に増えていったことから同社はPB商品を用途やシーン別に分類ブランド化にも踏み切る。

アウトドアウェアの「フィールドコア(FieldCore)」、スポーツウェアの「ファインドアウト(Find-Out)」、防水性能を極めた「イージス(AEGIS)」の3つだ。

ワークマンプラスの新業態開発

このPB商品をもっと多くの人に知ってもらいたい。その目的から着手したのがワークマンプラスという新業態の店舗開発である。

ワークマンプラスのコンセプトは「高機能×低価格のサプライズをすべての人へ」

そのコンセプトのもと、これまで拡充を進めてきたアウトドアやスポーツウエア向けのPB商品の見せ方を大きく変えている。

内装や照明を変え、商品のディスプレイもマネキンを置いて上下のコーディネイトを提案をするなどアパレルショップらしい雰囲気にし、一般客が入りやすく選びやすいようにしたのだ。

しかし、刷新したのは見せ方のみであり、品揃えを大きく変えることはなかった。

ワークマンプラスでもプロの職人向け商品は従来通り扱う。

ワークマンプラスは想定以上の成果を生む。

もともとPB商品は一般客から一定の評価を得ていた上に、メディアでも盛んに取り上げられたこともあって、評判が評判を呼ぶ形で一般客が増えていった。

ワークマンプラスの人気につられ、ワークマン自体のブランドが知られるようになり、一般客が従来のワークマンにも足を運んでくれるようになったという。

東洋経済オンラインの2021年12月27日の記事によれば、店舗数では2021年10月時点でワークマンが567店舗、ワークマンプラスは351店舗

今後もワークマンは新規出店や既存のワークマンのリニューアルによってワークマンプラスの店舗を積極的に増やしていく計画でいる。

また一般客のうち、予想以上に女性からも人気を得たことで、より女性を意識した新業態「#ワークマン女子」もオープンさせている。

こちらは一般客向けの商品のみを扱うが、男性客や家族の分をまとめ買いする女性客を想定し、男性用の商品も扱う。「女子」と銘打つが、女性用商品だけを扱っているわけではないのだ。

ワークマン流アンバサダー・マーケティング

先に触れたようにワークマンは「声のする方に、進化する」を信条としているが、アウトドアやスポーツウエアの商品開発においてもその方針を貫いている。

ユーザーの意見を吸い上げる新しい取り組みを始めたのだ。それがワークマン流アンバサダー・マーケティングである。

アンバサーとは本来「大使」の意味があるが、ワークマンの公式サイトによれば、同社の商品が好きであり、なおかつSNSなどで継続的に発信してくれる人をアンバサーとして認定しているという。

「ワークマン」などをキーワードにエゴサーチ(企業名や商品名などで検索すること)することで条件に合う候補者を見つけ出し、ワークマンから声がけしている。

ワークマンのアンバサダーたちは全員が情報発信を担うが、登山やキャンプ、釣り、バイクツーリングなど特定の分野に精通しているアンバサダーであれば商品開発にも積極的に関わってもらう。

実際、同社のオンラインストアを覗くと、ここかしこにアンバサダーの顔写真とともに「アンバサダー開発協力商品」との表示がある。

ダイヤモンド・チェーンストアオンラインの2021年8月13日付の記事によれば、女性キャンプブロガーと商品を共同開発したことがアンバサダー・マーケティングのきっかけだったようだ。

ワークマンの商品の一つに溶接工が火花を避けるために着用するヤッケがあるが、ある時、その売上げが急に伸びたことに同社が気づく。

まさにプロの職人向けでそうそう売れるものでないため、その理由を調べるとカリスマ級の女性キャンパーがそのヤッケを「たき火に最適」とブログに紹介し、そこから口コミが広がり人気に火がついたという。

ワークマンはその女性キャンパーに協力を求め、たき火に使われていたヤッケに改良を加える。

かぶりタイプのヤッケでは女性だと髪の毛がくずれるのが気になるという彼女の意見を反映し、ファスナー付きのタイプにしたところ、大ヒットに至ったという。

アンバサダーのインサイトを商品開発に

ワークマンは改めてユーザー視点に立ち返るという経験を目の当たりにする。

女性キャンパーの視点が新鮮だったのだ。

ワークマンの社員だけでは決して思いつくことはなかったであろう。

既に口コミで人気を得ていた商品に、その火付け役の意見をもとに改良を加えて大ヒットにつなげる。

何もかも手探りで1からヒット商品を目指すのに比べ、はるかに効率がいいのは明らかだ。

この経験を契機にワークマンはアンバサダーを商品開発のパートナーに迎え、ユーザーのインサイトを探り直し、次々にヒット商品を世に送り出す。

いずれもワークマンの高機能の商品をひとひねりして新たな用途に転用しており、もはや軽やかに “化ける” という感覚に近いだろう。

それらはニッチな空白地帯とはいえ新市場の開拓にほかならない。

こうしたアンバサダー発のヒット作の積み重ねが客層拡大や新業態ワークマンプラスの躍進を側面から支えていたのだ。

プロの職人たちが何を求めているか、ワークマンはひたすら現場で働く当事者たちの声を吸い上げてきた。

そんなマインドで商品開発を進めてきた同社にとって、特定の領域に通じたアンバサダーたちの意見に虚心坦懐に耳を傾けることはもはやデフォルト(初期設定や当然の意)」だったのだろう。

アンバサダーたちは常日頃からブログやインスタグラム、ユーチューブなどのソーシャルメディアを通して情報発信をしており、自らの領域に紐づくエンドユーザーたちの声が自然に耳に入る環境にある。

どんな声なら本質と捉え、どんな声なら聞き流してもよいのか、そのあたりの感度も日々磨かれていく。

それゆえアンバサダーたちは通り一遍ではない、ほどよくマニアックな知恵をワークマンに対して伝授できるのだ。

アンバサダーとは持ちつ持たれつの関係に

一方、アンバサダーたちにもメリットがある。

あくまで協力は無償で共同開発の商品がどんなに売れようとワークマンから報酬が支払われることはない

しかし、ワークマンにかかわることで、アンバサダーたちが自ら運営するソーシャルメディアに人々を呼び込めるようになるのだ。

開発に携わった商品はもちろん、ワークマンのイベントや勉強会などから得られた希少な情報をいち早く発信することができる。

アクセスや再生回数も増えるし、それに伴ってアフィリエイトなどの広告収入も増えるだろう。

ワークマンの公式サイトやインスタグラム経由の流入も見込める。

また、ワークマンの店頭でQRコード付きのPOPからアンバサダーたちが商品を解説する動画やブログに誘導するしくみもあるようだ(ワークマンニュース&トピックス2019.10.23)

なぜ、 インフルエンサーに頼らなかったのか?

ここで一つ疑問が湧くのが、なぜワークマンは「インフルエンサー・マーケティング」の手法に頼らなかったのだろう?

今やインフルエンサーを活用したマーケティングサービスを提供する会社はいくつもある。

インフルエンサーの興味・関心、あるいは抱えるフォロワーの属性などを分析した上で企業側の広告ニーズとのマッチングまでしてくれるのだ。

インフルエンサーの中にはタレント並みのフォロワー数を持つ人たちもいて、金銭的報酬は伴うものの、リーチできるパイは大きい。

情報発信だけならインフルエンサーを起用する選択もワークマンにはあったはずである。

インフルエンサー

しかし、ワークマンが重視したのはおそらく、フォロワー数やそのリーチ力よりもむしろ、どれだけ影響を受けやすい人が紐づいているかだろう。すなわち感受性の高さだ。

たとえばアンバサダーがワークマンに関する投稿をしたとき、その投稿に織り込まれた判断目線や問題意識に対し、即座に共感できる人たちがどれだけついているかである。

ワークマンの公式サイトでアンバサダーたちの紹介ページをみると、「キャンプブロガー」「漁師」「農業女子」「釣りブロガー」「バイクブロガー」といった様々な肩書が目に入る。

専門領域に通じたセミプロやハイアマチュア級の人たちをワークマンが選んでいるのだ。

前述したダイヤモンド・チェーンストアオンラインの記事によれば、ワークマンのアンバサダーの中には自分が思いを燃やす活動領域の社会的な認知を高めようと、ワークマンのアンバサダーを引き受ける人もいるという。

そんなアンバサダーたちのフォロワーや読者たちもまた共通の関心を持ち、共感を寄せる人たちだ。

さらにそんなフォロワーや読者たちの周囲にも似た人たちが集まってくる。すなわちアンバサダーの背後にはちょっとしたコミュニティが形成されているのだ。

それもひとつばかりではない。複数のコミュニティが重層的につながり合っている。

ちょうど線香花火の中央の火球から、火花が次々に枝分かれして放射状に飛び広がるイメージに近い。

線香花火

一人の人が複数のコミュニティに紐づいていることも珍しくなく、その人たちが橋渡し役(コネクターを担うことで、アンバサダーが発信する情報は、コミュニティからその先のコミュニティへ意外なほど遠くまで行き渡ることもある。

これは「世間は広いようで狭い(It’s a small world.)」という現象の一つだ。

人はよく悪い噂が思いのほか広がるのが早いという経験をするが、実は同じ関心でつながれた人たちの間でも同様の現象が起きる。

ワークマンは、アンバサダーとパイプを持つことで、そのアンバサダーとつながる、ゆるやかに広がるコミュニティにアクセスできるのだ。

このことのメリットは大きい。

知名度や人気度で付和雷同的に売れる商品なら、数万人規模のフォロワーを抱えるインフルエンサーに頼るという選択もあっただろう。

しかし、ワークマンの商品は役に立ってなんぼの世界であり、ニッチなニーズを満たすためにつくられている。

願わくば「そんな商品ならぜひ使ってみたい」と思ってもらえる人に効率よくリーチしたいだろう。

ちょうど屋外作業用の防水防寒ウェアがバイクのライダーに、あるいは溶接工のヤッケがキャンパーたちにそれぞれ口コミで伝わったように、共通の関心事で結ばれたコミュニティを介して情報が行き渡り、最終的にニーズを持つ人の耳の届く。

“急がば回れ”で実は効率的な情報チャネルを、ワークマンはアンバサダー・マーケティングを介して開拓していたのだ。

「共鳴」による生々しい波動の力

そしてもう一つ、インフルエンサーでは到底成し得ないことがある。

アンバサダーたちの投稿にはリアリティや臨場感が自然とにじみ出てくる。

ワークマンの商品に対するコメント一つとっても、宣伝臭さが漂いがちなインフルエンサーとは異なり、信頼感や説得力が伴う。

リツイートや「いいね」、コメントなどポジティブなリアクション

リツイートや「いいね」、コメントなどポジティブなリアクションを得やすく、共鳴による、生々しい波動を通してコミュニティに情報を行き渡らせるなら、インフルエンサーよりもアンバサダーの方が断然有利となる。

MarkeZineの2020年10月22日付の記事によれば、ワークマンのアンバサダー・マーケティングの最終的なKGI(Key Goal Indicator/重要目標達成指標)は「アンバサダー自身に有名になってもらう」ことで、KPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)にはアンバサダーがつくったワークマン関連コンテンツのPV数や、コメント数などを設定しているという。

アンバサダーたちが有名になればソーシャルメディアやコンテンツへのアクセスが増える。

中にはテレビ出演などメディアで取り上げられるアンバサダーもいるという。

一方でワークマンにとっても知名度の高いアンバサダーたちからの熱心な発信は大きな宣伝効果になる。

両者は互いにメリットを享受し合う共生関係にあるのだ。

おそらく今後も、ワークマンはアンバサダーたちと良好な関係を築こうとするだろう。

プロの職人たちを相手に「高機能×低価格」の商品で断トツとなったワークマンだが、一般客が相手でも当然、断トツを狙いたい。

アンバサダーとの共生関係は、そんなワークマンの大きな助けとなるはずだ。

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