好奇心 未知に挑む力 人間の欲求16種類(3)

好奇心
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好奇心とは「珍しい物事・未知の事柄に対して抱く興味や関心」のこと。

人は誰もが好奇心を持ち、未知の世界に足を踏み入れ、多くのことを学んでいる。

そして、この好奇心はマーケティングの世界にも生かされている。

情報の断片的開示にとどめ、あえて興味を引かせる「ティザー」の手法に代表されるように、消費者の好奇心をくすぐり、購買行動を引き出す施策はここかしこで見られるのだ。

もしブランディング生かそうとするなら、さらに一時的な販促効果だけではなく、そのブランドを思い浮かべただけで好奇心にスイッチが入る、ワクワクしてくるというのが理想だろう。

そうしたブランドの例は少なからず存在する。

本記事ではこの好奇心をマーケティングに生かすのに具体的にどんな手の打ちがあるのか、多くの事例を交えながら考察してみたい。

目次

16の基本的欲求

本ブログでは以前の記事に人は誰しもが生まれつき16の基本的欲求を持っていると書いた。

米国の心理学者、スティーブン・リース氏による「本当に欲しいものを知りなさい―究極の自分探しができる16の欲求プロフィール」(角川書店、2006年)で詳述されている説だ。

日常の何気ない判断や意思決定も実はこれら16の欲求と無関係ではない。

消費者のブランド選択もしかりである。

その16の基本的欲求は以下の通りとなる。

  • 力(power):他人を支配したいという欲求
  • 独立(independence):人に頼らず自力でやりたいという欲求
  • 好奇心(curiosity):知識を得たいという欲求
  • 承認(acceptance):人に認められたいという欲求
  • 秩序(order):ものごとをきちんとしたいという欲求
  • 貯蔵(saving):ものを集めたいという欲求
  • 誇り(honor):人としての誇りを求める欲求
  • 理想(idealism):社会正義を追求したいという欲求
  • 交流(social contact):人と触れあいたいという欲求
  • 家族(family):自分の子供を育てたいという欲求
  • 地位(status):名声を得たいという欲求
  • 競争(vengeance):競争したい、仕返ししたいという欲求
  • ロマンス(romance):セックスや美しいものを求める欲求
  • 食(eating):ものを食べたいという欲求
  • 運動(physical exercise):体を動かしたいという欲求
  • 安心(tranquility):心穏やかでいたいという欲求

好奇心:知識を得たいという欲求

今回の記事では16の基本的欲求のうち、「好奇心(curiosity):知識を得たいという欲求」に光を当ててみたい。

「好奇心が湧く」「好奇心が旺盛」「好奇心にかられる」といった言い方をよくするが、この好奇心がどう消費者の購買行動を引き起こす力になり得るのだろうか? 

マーケターたちは好奇心をマーケティング施策にどう生かしているのだろうか? 

本記事で考察を試みたい。

前出の「本当に欲しいものを知りなさい」には、「好奇心、知識を得たいという欲求」のキーワードには以下のようなものがあるという。

好奇心のキーワード

探究心、知識欲、向学心、学究的、興味、自己啓発

また、個人が好奇心を強く持つのか否かを測る心理テストの尺度も紹介しておこう。

好奇心が強い人がどんな感じの人かもおぼろげながら掴めるだろう。

好奇心:知識を得たいという欲求

次の文のうち、一つでもほぼ当てはまるものがあれば、「好奇心」への欲求は「とても重要である」

  1. 知識欲がある
  2. 仲間にくらべて、質問をたくさんする
  3. 真実はなんだろうよく考える

次の文のうち、一つでもほぼ当てはまるものがあれば、「好奇心」への欲求は「それほど重要ではない」

  1. 知的な活動は好きではない
  2. めったに質問をしない

好奇心を満足させるには?

大辞林によれば、好奇心とは「珍しい物事・未知の事柄に対して抱く興味や関心」のことだという。

「好奇心にかられる」という言い方をするように、未知の世界に衝動的に足を踏み入れてしまうイメージだ。

それゆえ楽しさやスリルが伴う。

好奇心 少女

そして、この好奇心は人や動物の生存確率を高めるうえで大きく貢献している。

好奇心があるからこそ、人や動物は未知の世界を探検し、経験から様々なことを学ぶのだ。

結果的にえさや食料の確保が可能となり、命の危険を回避する術(すべ)を体得する。

おそらく人の好奇心は特別に強いのだろう。

人は世界中のいたるところに生息しているからだ。

これだけ広範な生息域を広げた種は、ほかの生物にはあまり見あたらないらしい。

しかし、前出の「本当に欲しいものを知りなさい」によれば、より人間らしい、高度な知的活動も好奇心と密接な関係があるという。

読書する親子

本を読んだり、ものを書いたり、ものごとを考えたりしたいというのも好奇心が駆り立てているのだ。

たしかにそうした知的活動にも知らなかったことを発見する喜びが伴う。

2021年にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏も「好奇心を満たす研究を続けてきただけだ」と語ったという。

好奇心旺盛な人ってどんな人?

マイナビウーマンの2022年5月17日付の記事によれば、好奇心旺盛な人の性格や特徴に以下の5つがあるという。

  • 疑問がよく生まれる
  • 行動力がある
  • 情報や知識量が豊富
  • 忍耐力・集中力がある
  • 飽きっぽい
好奇心旺盛な人の性格や特徴

たしかに好奇心から未知のことを知ろうとすれば様々な疑問が湧くだろう。

その疑問を解こうといろいろな場所を訪れたり、それまでしていなかった行動を起こしたりと行動力も求められる。

結果的に情報や知識の量が増えることになる。

いったん好奇心のスイッチが入ると、いわゆるゾーンに入ったかのように忍耐力や集中力が発揮されるのも想像に難くない。

一方で好奇心の対象は移ろいやすい

知りたいことを知り、好奇心を満たしたら、その旺盛さゆえ、また興味は新たな対象に向かうのだ。

本人の好奇心は持続しているものの、対象がころころ変われば周囲の目には飽きっぽい、熱しやすく冷めやすいと映るだろう。

好奇心とマーケティング施策

ではこの好奇心はマーケティングにどう生かされているのだろう?

実はマーケティングプラクティスにおいて八面六臂の活躍をしている。

好奇心を刺激し、消費者を衝き動かす仕掛けがいたるところに用意されているのだ。

人々の日常に潜む例をいくつか挙げてみよう。

たとえば、日ごろ何気なくみているネットニュースで以下のようなタイトルを見かけたことはないだろうか?

「3位は〇〇、2位は〇〇、そして圧倒的1位は?」

こうしたタイトルを目にし、1度や2度ぐらいなら思わずクリックしてしまった人もいるだろう。

上位3つのうち、3位と2位の答えを知らされてしまうと、つい続きの1位を知りたくなる。

好奇心を刺激し、クリックを促し、PV数を増やす。

そんな記事タイトルの典型的なパターンだ。

もちろん、ネットニュースの記事タイトルだけではない。

マーケティングの世界には「ティザー」と呼ばれる古典的な手法がある。

「ティザー」とは英語の「teaser=じらす」から来ており、断片的な情報の開示にとどめ、消費者の興味をひきつけることをいう。

ティザー

発売前の新商品公開前の映画などの告知でよく使われる。

ドラマやバラエティ番組などでも、あえて情報を小出しにして興味を湧かせ、視聴者を釘付けにするのも常套手段だろう。

キャンペーンの一環で行われる「人気投票」なる手法も好奇心と無縁ではない。

ライバル同士を対決させることもある。

明治のチョコレート菓子「きのこの山」と「たけのこの里」の総選挙や、東洋水産の「赤いきつね」と「緑のたぬき」の人気投票、人気1位のバーガーを決定する「マクドナルド総選挙」などがその例だ。

もちろん、これらは自分が推す商品を応援したいと気持ちが投票に向かわせている。

しかし、推しの商品がどれだけ票を集めのかにも興味が湧くはずだ。

応援、好奇心、競争意識などが相まってキャンペーンは大いに盛り上がる。

好奇心とブランディング

ここまでの好奇心を刺激し、消費者の行動を駆り立てる例をいくつか見てきた。

しかし、ブランディングとなると、一時的な好奇心の刺激策によって単発の行動を促せばいいというものでもない。

ブランドを思い浮かべただけで好奇心にスイッチが入る、ワクワクしてくるというのが理想だ。

たとえば、バンダイのカプセルトイ「ガシャポン」はその域に達しているといっていいだろう。

ガシャポン

キャラクター展開は多種多様で、しかも新作が続々と登場する。

さらに自販機を回してみるまで何が出でくるかわからない。

そうした経験や風聞の記憶がぎっしりと詰まった「ガシャポン」。

の名前を聞いただけで心が躍る人もいるはずだ。

そして好奇心をくすぐるブランドの雄といえば、ニュースやコンテンツを次々に発信するメディアブランドだろう。

たとえば日本を代表する経済紙「日本経済新聞」

そのブランドに知的興奮を覚える人は少なくない。

イギリスの有力経済紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」を発行するフィナンシャル・タイムズ・グループを傘下に収めており、読者数では今や世界最大の経済メディアという。

そう聞くだけでますます知的好奇心がそそられるかもしれない。

好奇心と商品カテゴリー

ここからは日本経済新聞社の業種分類をベースに、どんな商品カテゴリーのブランドなら好奇心を駆り立てやすいのかを見てみよう。

やはりバラエティ豊かなラインアップやコンテンツが前提となるカテゴリーが中核となる。

なお、ここで取り上げた業種分類は日本経済新聞社が提供する日本最大級の経済データサービス「日経NEEDS」で使われているものだ。

以下に示したのは大分類と中分類となる。

これらの業種分類の下位に小分類としてより具体的な商品カテゴリーが名を連ねている。

赤字は好奇心と比較的相性がよいと思われる大分類、あるいは中分類だ。

主だったものには後ほど解説を加える。

日経NEEDSの業種分類
  • 資源・エネルギー
    • 鉱業・エネルギー開発/電力・ガス
  • 素材
    • 紡績・繊維/製紙・紙製品/化学・化成品/ゴム・ゴム製品/窯業・土石製品/製鉄・金属製品/産業用資材
  • 機械・エレクトロニクス
    • 産業用装置・重電設備/製造用機械・電気機械/業務用機械器具/情報機器・通信機器/総合電機/家庭用電気機器/半導体・電子部品
  • 輸送機器
    • 自動車自動車部品/造船/輸送用機械
  • 食品
    • 食品製造/飲料・たばこ・嗜好品
  • 生活
    • 衣料品・服飾品/日用品・生活用品/趣味・娯楽用品
  • 医療医薬・バイオ
    • バイオ・医薬品関連/医療・ヘルスケア・介護
  • 建設・不動産
    • 建設・土木/建設資材・設備/不動産・住宅
  • 商社・卸売
    • 総合商社/繊維・化学・製紙卸/建材・電気機械・金属卸/医薬品・医療品卸/食品卸/生活関連用品卸
  • 小売
    • 総合小売・食料品小売/衣料品・服飾品小売/専門店・ドラッグストア/家電小売/自動車小売/通信販売
  • 外食・飲食サービス
    • 飲食店/弁当・デリバリー
  • 金融
    • 銀行/証券/保険/消費者・事業者金融/リース・レンタル/投資/不動産投資信託/取引所・証券代行
  • 物流・運輸
    • 倉庫・物流/陸運/海運/空運
  • 情報・通信・広告
    • マスメディア/通信サービス/広告/コンテンツ制作・配信/インターネットサイト運営/システム・ソフトウエア
  • サービス
    • レジャー・レジャー施設/生活関連サービス/教育/人材紹介・人材派遣/企業向け専門サービス/旅行・ホテル

情報機器・通信機器

「機械・エレクトロニクス」の「情報機器・通信機器」には、好奇心と極めて相性のよい商品カテゴリーがある。

パソコンとスマートフォンだ。

常に身近にあって、未知の世界を開く窓となる。

日本マイクロソフトの例を挙げよう。

同社は高速起動で軽量・薄型、操作性やデザイン性に優れたノートPCを総称して「モダンPC」と呼ぶが、そのテレビCMには以下のコピーが掲げられた。

限界なんて、つまらない。

好奇心に、飛び込め。

モダンPCで毎日はガラッと変わる

新生活や新しいチャレンジを応援する「ENTER!キャンペーン」の一環で放映されたものだ。

日本マイクロソフトが提唱する「モダンPC」の活用で、新しいチャレンジにもっと楽しく、かんたんに取り組めるようになると訴求している。

好奇心の赴くままに、新しい世界へ飛び込むことを日本マイクロソフトの「モダンPC」が応援するスタンスなのだろう。

また、同様の路線はグーグルのスマートフォン「Google Pixel」からもうかがえる。

こちらは「世の中の知らないことをもっと知れる、知的好奇心をくすぐる」との触れ込みだ(TABI LABO 2019.1.30)

そのコンセプトを体現するテレビCMシリーズの1つが「あなたの旅が、もっと広がる。」篇だ。

CMではタイのバンコクを「Google Pixel」を片手に旅する若い女性が描かれる。

そして旅の通訳や道案内、カメラ機能など「Google Pixel」ならではの便利機能が次々に映し出されるのだ。

そのコピーは以下の通りとなる。

あなたの旅が、もっと広がる。Google Pixel

見て、歩いて、撮って、食べて、調べて、話して。

知らないものに触れると、

眠っていた好奇心みたいなものが、

どんどん広がっていって、やっぱり旅っていいなと、そう思います。

持ち前の好奇心が「Google Pixel」の優れた機能によって触発されていく。

グーグルが伝えたかったのはそんなメッセージだ。

自動車

「輸送機器」の「自動車」も好奇心を狙い撃ちすることもまれではない。

リアルの世界であれば、好奇心を満たすのに未知の世界に飛び込むにはまず物理的な「移動」が必須となる。

自分の足で歩くより速く、そして自由の利く「移動」といえば「自動車」だろう。

たとえばSUBARUの中型多目的スポーツ車(SUV)の「クロストレック」の広告コピーがその最たる例だ。

「好奇心、駆ける、クロストレック」

実はテレビCMの映像を見ると分かるが「駆ける」は「掛け合わせる」の意味も兼ねている。

食品

「食品」の「食品製造」や「飲料・たばこ・嗜好品」も、好奇心をきっかけに購買行動が引き起こされることは多い。

その端的な例が期間限定商品季節限定商品だろう。

新しい味やフレーバーなどを次々にラインアップに加え、その新奇性や季節感で試してみたいという衝動を駆り立てようとしているのだ。

たとえば、サッポロビールの「エビスビール」がそうだろう。

「Color Your Time! ビールの楽しさ、もっと多彩に。」のコンセプトを掲げ、定番商品のラインアップを増やし、そこに不意を打つように期間限定商品を登場させ、人々を楽しませる。

その商品を実際に試すか否かは別として、「エビスビール」というブランドに与える影響は大きい。

従来のプレミアム感のみならず、好奇心をくすぐる、多彩さを楽しめるとの印象が人々の脳裏に刻まれるはずだ。

もうひとつお菓子の例を挙げよう。

クラシエフーズの手作り菓子シリーズ「知育菓子」も子どもたちの好奇心を駆り立てるブランドといえる。

「知育菓子」と聞くと一般名称のようだが、れっきとしたブランド名で、かき混ぜる、こねる、形作るなど、自分で手を加えて完成させるお菓子である(BCN+R 2022.03.30)

「ねるねるねるね」「おえかきグミランド」「たのしいおすしやさん」など24種類ものラインアップが揃う(2023年5月時点)。

たとえば「たのしいおすしやさん」なら粉と水だけで本物そっくりのおすし菓子が手作りできるのだ。

公式サイト(2023.9参照)には「子どもは好きなものに出会い、その『好き』をきっかけに、自分の世界を広げていく」とある。

その子どもたちの夢中を、お菓子で応援できないかという思いから「知育菓子」シリーズの発売に至ったという。

生活

「生活」には中分類として「衣料品・服飾品」「日用品・生活用品」「趣味・娯楽用品」の3つがある。

いずれも工夫次第で人々の好奇心を駆り立てるのは可能だろう。

「衣料品・服飾品」はおおよそ人が着飾るためにあり、ちょっとした変身願望をかなえてくれる。

しかも流行やファッションは常に移ろうもの

好奇心がたえず刺激される典型的なカテゴリーといえる。

そしてその「衣料品・服飾品」に並び立つのが「日用品・生活用品」の化粧品カテゴリーだ。

「衣料品・服飾品」と同様、変身願望を満たすメイクともなれば好奇心は否応なしにくすぐられるだろう。

たとえば花王が立ち上げたZ世代を向けのメンズコスメランド「UNLICS(アンリクス)」

公式サイト(2023年9月参照)にはブランドスローガンが「HUNGRY FOR BEAUTY.(欲望のままに美しく)」、ブランドのパーパスは「誰もが好奇心の赴くままに、美を求め、美を語り合える社会を目指す。」とある。

男子にも自然と湧き出る「美的好奇心」に応えようとするブランドで、「UNLICS」の名も「UNLIMITED(無限の)」と「CURIOSITY(好奇心)からの造語だという。

ほかに本ブログで過去に取り上げた、マンダム・ギャツビーのヘアスタイリングシリーズ「メタラバー」や同じくギャツビーのメンズコスメライン「ギャツビー ザ デザイナー」もその路線には花王の「UNLICS」と重なるところがある。

「趣味・娯楽用品」では、「玩具」が好奇心を射抜く代表的なカテゴリーだろう。

たとえば、乳幼児玩具メーカーの「ピープル」は企業として一番楽しく夢中でやりたいことに「子どもの好奇心がはじける瞬間をつくりたい」を挙げている(公式サイト 2023.8参照)

小売

品ぞろえの幅や深さを追う「小売」もまた人の好奇心を刺激してやまない。

「衣料品・服飾品」で触れたファッションと小売りが結びついた、SPA(製造小売業)がまさにそうだろう。

その筆頭は「ZARA」だ。

続々と新商品がお目見えし、さながら生鮮食品の売場のように鮮度を保っている。

その真新しさで来店客の好奇心を刺激しているのだ。

業態は異なるが、雑多さを売りとするドン・キホーテやビヴィレッジヴァンガードもそうだろう。

よく利用する人なら、その名前を聞いただけでワクワクする人もいるはずだ。

情報・通信・広告

そして、突出して好奇心との相性がいいのが「情報・通信・広告」だろう。

人々の好奇心をくすぐることを「なりわい(生業)」にしているといっていい。

とりわけ「マスメディア」「コンテンツ制作・配信」「インターネットサイト運営」など、人々の趣味や娯楽、教養目的と絡むカテゴリーならなおのことそうだ。

いくつか実際のブランドの例を挙げてみよう。

まずは子ども向け学習図鑑の代名詞ともいえる「小学館の図鑑NEO」

シリーズ全26巻のラインアップが揃い、子どもたちの多種多様な「知りたい」ニーズに応えており、累計1,400万部を突破する(2023年5月時点/PR TIMES 2023.7.5)

「学習図鑑売上No.1」と訴えるテレビCMは「ひろがれ、好奇心」がメインコピーだ。

「日本経済新聞」について先に触れたが、新聞もまた好奇心を満たす国民的なメディアの一つである。新聞はもともと「新しく聞いた話」を意味している。

別の新聞の例を挙げてみよう。

読売新聞には小学生向けの「読売KODOMO新聞」中高生向けの「読売中高生新聞」がある。

双方ともに、テレビCMでは好奇心に訴え、若年層の購読者を増やそうとしている。

「読売KODOMO新聞」は「子どもの知力、知的好奇心、心をはぐくむ教材」と位置づけ、子どもの「知りたい」に応えるとしている。

知らなかったことを知り、わからなかったことがわかるようになり、新聞を読むことが楽しくなることを目指しているという(読売KODOMO新聞公式サイト 20023.9参照)

そのテレビCMでは「知りたい、読みたいを引き出して、新しい世界へ」とのコピーを掲げる。

一方の「読売中高生新聞」は「10代のための総合紙」を目指し、ニュース以外にも中高生の好奇心を満たす多様なコンテンツを掲載している。

2022年に放映されたテレビCM「未来のピース」篇では「可能性や好奇心をいちばん自由に増やせる時期は10代」だと訴求する(読売新聞オンライン 2023.9参照)

タグラインは「満たせ、10代の好奇心」だ。

サービス

「サービス」には「レジャー・レジャー施設」「教育」「旅行・ホテル」などがあるが、好奇心を満たすカテゴリーが揃い踏みといえる。

たとえば「レジャー・レジャー施設」にはテーマパークや映画館やゲームセンターなどがあり、いずれもちょっとした非日常を味わえるカテゴリーだ。

好奇心に訴え、そのワクワク感から利用者を増やそうと抜かりない。

「旅行・ホテル」も同様の類(たぐい)だろう。

さらに「教育」もそうだろう。

学習塾や教材制作などが該当し、いずれも直接人々の「学び」を支えるカテゴリーだ。

そして、やはり人々の学習欲を高めようと好奇心に働きかけている。

1つ例を挙げよう。

通信教育「Z会」の幼児コースだ。

同コースは「あと伸び力」に重きを置いているという。

「あと伸び力」とは「Z会」によれば「主体的に学びに向かう姿勢」のこと。

生涯にわたって学ぶ糧となる知的好奇心を育むことと同義といっていい。

幼児期には「なぜ?」「どうして?」と疑問をもち、⾃分なりに答えを⾒つけようとし、考えることそのものをおもしろがることがとても大事らしい(同社の公式サイト 2023年9月参照)

そのため幼児コースには「体験型教材」が組み込まれ、身近な素材を使った課題を親子で取り組む機会をつくり出している。

幼児コースのCM「おうちが学びになる」篇では「Z会の学びは教材を閉じたあとも続く」「おうちが学びの1ページになる」とのコピーが入る。

映像には「Z会」の教材をきっかけに子どもの好奇心がくすぐられ、まさに「おうちが学びになる」ようすが映し出される。

好奇心をマーケティングに生かす

今回の記事では16の基本的欲求のうち、「好奇心(curiosity):知識を得たいという欲求」を取り上げた。

記事の冒頭でも触れたが、この好奇心があるからこそ、人は未知の世界に足を踏み入れ、多くのことを学ぶ。

その発見や学びにはワクワク感が伴うため、その好奇心はとどまることがない。

常に次なる好奇心の対象を見つけようとするのだ。

そのことが人の生存と繁栄に有利に働いてきたのである。

マーケターは人が持つ好奇心を生かさない手はない。

自らが携わるブランドに好奇心を刺激する何らかの装置を用意するのだ。

今回の記事では豊富なラインアップやコンテンツを抱えるブランドを多く挙げてきたが、そうでなくとも工夫の余地はある。

たとえばロッテのチョコレート菓子「コアラのマーチ」はビスケットに多種多様なコアラの絵柄を用意し、いつしか特定の絵柄が「ラッキー菓子」(その絵柄を見ると幸せになるの意)として人気を呼んだ。

好奇心がくすぐられたのだ。

ワクワクするような好奇心を満たす機会には、人は案外鼻が利き、マーケターが仕掛けたささやかな「好奇心刺激装置」にも目を向けようとする。

それほど好奇心はマーケターには使い勝手のよい欲求なのだ。

本記事の最後に「ブランドパーソナリティの作り方」の記事でも触れたが、好奇心が強い人さほど強くない人がお互いをどう評価しているかを紹介しておこう。

ブランドが好奇心をくすぐる施策を連発すれば、好奇心が比較的強い人たちは打てば響くように反応することになる。

しかし、一方で、さほど好奇心が強くない人からは敬遠されるかもしれない。

興味を引こうとやたらと気ぜわしいブランドに見えてしまうのだ。

好奇心が強い人、さほど強くない人にとって自社ブランドがどう映るのか、それぞれの視点に立った評価はそれを推察するヒントを与えてくれるだろう。

それはブランドの潜在的なリスクになり得ることを認識しておいたいほうがいい。

近い将来ブランドにも顧客層の拡大などの課題が浮上し、好奇心がそれほど強くない人がターゲットとなることもあり得るからだ。

くわしくは「ブランドパーソナリティ」の記事をお読みいただきたい。

「力」への欲求以外の15の欲求についても、プラス評価、マイナス評価を一覧で記載している。

好奇心の強い人・強くない人の互いの評価
  • 好奇心が強い/知的なものに興味を持つ人
    • 自分への評価(自分はこんな風に見られたい)
      • 賢い、おもしろい、気配りができる、学者肌
    • 真逆な人への評価(自分からは相手がこんな風に見える)
      • 退屈、無教養、浅薄、思慮がない、頭が悪い、情に流されやすい、粗野
  • 好奇心があまりない/知的なものに興味をもたない人
    • 自分への評価(自分はこんな風に見られたい)
      • 実用主義、現実的、世慣れている
    • 真逆な人への評価(自分からは相手がこんな風に見える)
      • 退屈、インテリ、ガリ勉、横柄、知識をひけらかす、分析好き、冷淡、常識に欠ける、非実用的、思索的
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