たべっ子どうぶつ Z世代を射落としたキャラクター戦略

たべっ子どうぶつ ギンビス
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かわいい動物キャラクターたちが目印のビスケット菓子「たべっ子どうぶつ」

「親子のコミュニケーションビスケット」をコンセプトに掲げ、老舗菓子メーカー・ギンビスの主力ブランドに育つ。

その一方で、親子を対象とする特徴ゆえの「若者離れ」という悩みも抱えることになる。

その打開策として始めたのが動物キャラクターのグッズ展開だ。

フィギュアや一番くじ、異業種のコラボ商品と、間断ないグッズの展開がSNSで話題となり、Z世代を中心とした若者層から思わぬ反響を呼ぶ。

ブランドの露出が拡大したことで、ビスケット菓子自体の売り上げ伸長にもつながっている。

決してメジャーでもないキャラクターがなぜ、そこまで成果を上げたのか? 

本記事では、そこに考察のメスを入れ、ロングセラー化を支える隠れた黄金律を解き明かしてみたい。

目次

「たべっ子どうぶつ」がZ世代の人気に

「たべっ子どうぶつ」というビスケットをご存知だろうか? 

老舗菓子メーカー、ギンビスの薄焼きビスケットだ。

名前を聞いてピンと来ない人でも、ピンクの箱に9匹の動物のキャラクターが描かれたパッケージを見れば思い出す人も多いだろう。

その「たべっ子どうぶつ」が昨今、売れ行き好調という。

ギンビスの22年の売り上げ(1~10月)は前年比2桁増を記録しているが、その実績には「たべっ子どうぶつ」の伸長が大きく貢献している(日本食糧新聞2022.12.23)

さらに「たべっ子どうぶつ」で注目すべきは、Z世代(1990年代後半~2010年代初め生まれ、10代~25歳前後)を中心に若者層からの支持を集めていることにある。

2018年ごろから始めた動物キャラクターのグッズ展開が同世代から思わぬ反響を呼んだのだ。

その愛らしいキャラクターたちがSNSで盛んに話題となり、ツイッターでトレンド入りしたことさえあったという。

フィギュアやカプセルトイ、ぬいぐるみ、文房具、コスメ雑貨など、そのグッズ展開も多岐に渡り、さらなる注目や関心を集め、その相乗効果でビスケット菓子自体の売り上げも大きく伸びる。

「たべっ子どうぶつ」はどんなブランドか?

「たべっ子どうぶつ」は1978年に発売された、老舗菓子メーカーのギンビスを代表するロングセラー

薄焼きのビスケットで、今でこそ様々なフレーバーがあるが、ブランドの誕生からあるのがバター味だ。

軽い食感ながらバターの風味が香ばしく、あとを引く味わいである。

ギンビスの公式サイトによれば、からだの元気を応援するカルシウム、DHAを配合。

さらにおなかにスッキリやさしい食物繊維を加えたという。

ちょっとした知育菓子の側面も

そして「たべっ子どうぶつ」をロングセラーたらしめたのが、ビスケット一枚一枚がかわいい動物の形をしていること。

定番の「たべっ子どうぶつ バター味」であれば、動物の種類は46種にも上るという。

さらに「BEAR(くま)」「DOG(いぬ)」「ELEPHANT(ゾウ)」というように動物の英語名が印字されており、ちょっとした知育菓子の側面も持つ。

パッケージの裏側には「たべっ子どうぶつ・楽しい英会話」と称した教材コンテンツの掲載もあるようだ。

これはお菓子に「教育性」の要素を担わせるというギンビスの企業理念から来ている。

公式サイトに「おいしく、楽しく、食べて学んでもらうためのビスケット」とあるが、「たべっ子どうぶつ」を通して親子が楽しく学べる機会を提供したいとの同社の思いが、そこには込められているのだろう。

人気に火をつけた動物のキャラクターたち

そして、ピンクの箱のパッケージには、昨今の若者人気に火をつけた動物のキャラクターたちが描かれている。

ライオン、キリン、サル、カバ、ウサギ、ワニ、ネコ、ゾウ、ヒヨコと全部で9匹が並ぶ。

色どりも鮮やかで、そのキャラクターたちは少し天然が入った風で愛嬌もたっぷりだ。

一方、歴史を刻んだロングセラーブランドらしくどこか懐かしく、ほのぼのとした雰囲気も漂う。

定番のバター味を取り囲む豊富なバリエーション

同ブランドは箱入りのバター味から始まったが、ギンビスの公式サイトをみると、期間限定アイテムを含め、フレーバーやパッケージの形態、サイズなど、ラインエクステンションも盛んに行っている。

ビスケットにチョコがしみ込んだ「たべっ子水族館」、ホワイトチョコレートがしみ込んだ「白いたべっ子どうぶつ」はもはやバター味に並ぶ主力の定番だろう。

また、卵アレルギーにも配慮し、口溶けをよくして生後1歳から食べられるたべっ子BABYもある。

そのほか、季節限定のフレーバーではミルク感のあるいちごチョコをしみ込ませた「いちごのたべっ子どうぶつ」や、りんごペーストとシナモンを生地に練り込んで焼き上げた「ミニたべっ子どうぶつ アップルパイ味」などがあるようだ(2023年2月現在)。

フレーバーのバリエーションだけではなく、たとえば基本の薄焼きビスケットに対し、より食感にこだわった厚焼きのものも発売されている。

パッケージの形態も箱入り以外に、スタンディングパウチと呼ばれるラミネートフィルムを使用した袋状の容器もある。

机やテーブルの上に立てて置いて、勉強や仕事の合間にちょっとつまむのにはちょうどいいだろう。

昔から変わらないバター味を基本としつつも、その大定番を取り囲む豊富なバリエーションが、話題性や注目度につながり、ブランドのロングセラー化に一役買ったといえよう。

マーケティング上の課題に「若者離れ」

菓子市場では歴史あるロングセラーブランドが終売となることも少なくないなか、「たべっ子どうぶつ」は売り上げが好調に推移し、ギンビスの屋台骨を支える主力ブランドになっている。

しかし、そんな同ブランドも「若者離れ」というマーケティング上の課題を抱えていたという。

ロングセラーブランドにはついてまわる悩みの一つだが、10代や20代の若者たちの喫食機会がめっきり減ってしまっていたのだ。

おそらく子どもの頃には親から買い与えられて食べた経験はあったであろうが、自分で菓子を購入する年代になると、「たべっ子どうぶつ」にそうそう手が伸びなくなっていた。

去る者は日々に疎(うと)し

「去る者は日々に疎(うと)し」という諺(ことわざ)がある。

「親しかった者も、遠く離れてしまうと、しだいに親しみが薄くなる」という意味だが、まさにそれだろう。

別に「たべっ子どうぶつ」が嫌いになったわけではない。記憶から遠ざかってしまったのだ。

「たべっ子どうぶつ」はもともと「親子のコミュニケーションビスケット」がコンセプトなのだという(東京街人 2022.11.4)

そのため、ビスケットの形から何の動物かを当てたり、動物の英語名をクイズにしたりと、親と子どもとの会話のきっかけをつくる工夫をしてきている。

そんな取り組みがブランドを特徴づけ、活性化につながった一方で、小さな子どもをもつ親が買い与えるお菓子というイメージが定着する。

親子のコミュニケーションビスケット

結果的にユーザー層が子育て世代に偏ってしまった。

若者世代がユーザー層から脱落してしまったのである。

同世代の若者たちが菓子類を買うコンビニでみかけなくなったことも若者離れに拍車をかける一因となったようだ。

若者たちの頭の中に記憶の本棚があったとしよう。

蓄えられた記憶がそこに並べられているイメージだ。

国民的なお菓子ブランドの蔵書もたくさん並んでいる。

ところが「たべっ子どうぶつ」はかろうじて棚には置かれてはいるものの、棚の片隅、極めて取り出しにくい位置にあるのだ。

いったいどうすれば、スッと見つけてもらえるようになるのか?

始まった動物キャラクターのグッズ展開

そこで「たべっ子どうぶつ」は、パッケージに描かれた動物キャラクタービスケットが動物の形をしていることに白羽の矢を立てる。

キャラクターグッズの展開に舵を切って、若者たちとの接点拡大に努めようとしたのだ。

フィギュアが入ったカプセルトイに反響

その筆頭が動物たちのフィギュアが入ったカプセルトイである。

パッケージの動物キャラクターは平面に描かれているため、フィギュアにするにあたっては、後ろ姿も含め、立体化するのに苦心したという。

しかし、その苦労は十分に報われる。発売直後から話題を集め、多くの売り場であっという間に売り切れてしまったという(ダイヤモンドオンライン 2021.9.10)

一番くじ・一番コフレがヒット

そして、金字塔ともいえるグッズ展開が、コンビニなどで売られるハズレなしのキャラクターくじ「一番くじ」である。

「たべっ子どうぶつ」のビスケットをそのまま大きくした抱き心地満点のクッションや、ビスケット全46種類をデザインした大容量のバッグなどが当たるというもの。

この企画がギンビス側が驚くほどの反響を呼んだという。その「一番くじ」はコンビニや書店、ホビーショップ、ゲームセンターなどで販売されていた。

若者たちの目に触れる機会は格段に増えることにもなったであろう。

記憶の片隅にあった同ブランドは主流へと引っ張り出されることになったのだ。

さらに「一番くじ」のコスメ・コスメ雑貨バージョンである「一番コフレ」もスマッシュヒットとなった。

「たべっ子どうぶつ」のビスケットがデザインされたデザインのコンパクトやメイクパレットなどが当たる企画である。

発売日にはツイッターでトレンド入りもしたという。

他業種とのコラボやポップアップストアも

その後、「たべっ子どうぶつ」のキャラクターグッズは展開の幅を次々に広げていく。

そのいくつかをギンビス公式サイトのリリース情報から挙げてみよう。

まずはサンスター文具とのコラボがある。

第一弾では、クリアファイルやレターセット、ボールペン、ふせんなどの文房具、さらに第二弾でステッカーやポーチ、エコバッグへと展開を広げた。

また、店舗などの物理的な拠点の狙い撃ちもしている。

本や雑貨を取り扱う「ヴィレッジヴァンガード」ポップアップストア(期間限定店)をオープン。

また、イオンのアミューズメント施設「モーリーファンタジー」では限定グッズがゲームの景品になったりもした。

スーパーやコンビニなどの小売店以外の場所でも存在感を高めたのだ。

さらに、表参道に「たべっ子どうぶつ」のカフェスタンド「たべっ子どうぶつカフェスタンド 『Omotesando』」も期間限定でオープンしている。

「たべっ子どうぶつ」をイメージしたオリジナルのフードやデザート、ドリンクなどが楽しめる。

カフェ内にはフォトスポットも設置し、 “かわいい映え写真” が撮れる仕掛けも用意したという。

ワンスポットの展開とはいえ、SNSを賑わせた効果は大きい。

そのほか、ファーストリテイリング傘下のGU(ジーユー)とコラボし、オリジナルウエアを店舗やECサイトで発売したり、家電メーカーのライソンから「たべっ子どうぶつカステラメーカー」を発売したりもしている。

ギンビスにとってはキャラクターの権利を貸すだけのライセンス事業となる。

しかし、ブランド価値を棄損することのないよう、グッズの監修にも細心の注意を払ってきたという(ダイヤモンドオンライン 2021.9.10)

なぜ、キャラクター戦略が当たったのか?

こうした接点拡大の積み重ねがやがて着実に実を結ぶ。

日本食糧新聞の2022年11月18日付の記事によれば、SNS映えする「なつかしくて新しいカワイイブランド」として10~20代の若年層に再認識されることになったという。

若者たちが自分で「たべっ子どうぶつ」を購入する機会も増え、同ブランドの販売実績も2桁増を記録する。

そのことにはおそらく、昨今の昭和や平成のレトロブームも追い風となったであろう。

それにしても、いったいなぜ、「たべっ子どうぶつ」のキャラクター戦略はここまで目に見える成果につながったのか?

メジャーでないキャラクターに脚光

マーケティングの世界ではマンガ、アニメ、ゲームのキャラクターが販売促進に活用されるのは珍しいことではない。

人気アニメの「鬼滅の刃」の菓子やドリンク、ファーストフードなどのコラボ商品が人気を集めたことなどは記憶に新しい。

しかし、「たべっ子どうぶつ」の場合は、たかがパッケージに描かれたキャラクターである。

国民的な人気作品に登場するような、感情移入を誘うキャラクターではないのだ。

にもかかわらず、周辺的な位置づけのキャラクターが、フィギュアやコスメグッズといった “いっぱし” の待遇を受ける。

そのことが意外性や面白みを生み、人気に火が付いたのだ。

本能に訴えるベビーフェイス効果

自明のことではあるが、よく言われる「ベビーフェイス効果」というのもある。

これはヒトが赤ちゃんの顔や身体つきに似た対象には無条件で好感をもつ傾向を指す。

マクロミル社が発表した「2022年版、大人に人気のキャラクターランキング」によれば、スヌーピー、トトロ、くまのプーさん、ミッキーマウス、ムーミンなどが上位を占めている。

くまのプーさん

それらキャラクターには例外なく「ベビーフェイス効果」が見てとれるだろう。

「たべっ子どうぶつ」の動物キャラクターたちもしかりだ。

愛らしさや天真爛漫さを備えており、その効果は十分に見込める。

グッズ展開がどうぶつの既成イメージを増幅

しかし、人気を呼んだ最大の要因は「たべっ子どうぶつ」が元来「どうぶつ」をモチーフにしていたことだろう。

トートロジー(同語反復)のように聞こえるが、「どうぶつ」の持つイメージ喚起力が同ブランドの人気を根底から支えたのだ。

縦横無尽のグッズ展開がその力を改めて増幅させたといっていい。

たとえば、「クマ」と辞書で引くと、「クマ科の哺乳類の総称」などと出てくるが、人が「クマ」から連想することはその定義をはるかに凌駕する。

クマにまつわる、たとえばその風貌や性格、あるいはぬいぐるみのイメージおとぎ話や童話など物語での描かれ方など、背景的な記憶の断片がこぞって想起されるはずだ。

何も「どうぶつ」だけに限らない。

たとえば「レストラン」といえば、ほぼ誰もが「テーブル」や「メニュー」「ウェイター」「オーダー」「チェック」など一連の概念をひとかたまりにして記憶に蓄えている。

レストラン

それゆえ、「レストラン」ではどういう順番でどう振る舞えばよいのかに迷うことはない。

もし、他人が「レストランに行った」と聞けば、細々と説明を受けなくても、入店から退店に至るまで、どんな場面で何をしてきたかのイメージが自ずと湧くだろう。

「たべっ子どうぶつ」の動物キャラクターたちもしかりである。

ライオンやゾウ、サルなど、動物園や映像で見た記憶、図鑑や学習漫画などで学んだこと、様々なファンタジー作品で擬人化されたようすなど、多岐にわたる記憶が各キャラクターから喚起される。

9匹そろっていることで、「愉快などうぶつの仲間たち」といった連想もより楽しさを増すであろう。

愉快などうぶつの仲間たち

「ベビーフェイス効果」といった表層的な見た目から本能に訴えるだけではない。

「どうぶつたち」にまつわる一連の記憶がグッズ展開によって増幅・活性化され、さらにSNSで共鳴し合い、ブランドに若者を惹きつける価値を生んだのだ。

ブランド論では「ブランド連想」という言い方をするが、まさに連想のなせる技である。

消費者の既成の連想をブランドの力に

本ブログでもこれまで、ブランドに新たな連想を持ち込んで、再活性化に成功した例をいくつか取り上げている。

大ヒットしたアサヒビールの「スーパードライ 生ジョッキ缶」もその一つである。

缶のフタがフルオープンになり、大きく開いた飲み口からきめ細かな泡が自然にあふれ出るのが特徴の缶ビールだ。

そのようすが、たとえ自宅に居ながらでも飲食店でビールジョッキに注がれるような感覚を呼び起こし、ビールになじみの薄い20~30代の層を惹きつけた。

中公新書の「ルワンダ中央銀行総裁日記」もその例だ。

半世紀も前に出版された新書ではあるが、小説投稿サイトの「小説家になろう」に好んで投稿される一大ジャンル「異世界転生もの」になぞらえたことから、人気が再燃し、増刷を重ねることになる。

「カロリーメイト」「受験」という一連の連想をブランドに持ち込み、受験生のみならず、受験というほろ苦い経験をした大人世代を巻き込んで衰え知らずのロングセラーブランドになっている。

今回のロングセラーの記事では「たべっ子どうぶつ」を取り上げ、どう自前のキャラクターを活用し、いかにブランドの再活性化や若者の取り込みを図るかを考察した。

ロングセラー化には商品リニューアルやライン拡張、ポジショニングの変更などいくつも手立てはある。

相手の力を生かす合気道よろしく、消費者が既にかたまりとしてもっている記憶それらが絡み合った連想をうまくブランドに加担させる、そんな方法も検討に値するだろう。

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