強いブランドはいかにポジショニングされるのか? ポジショニング戦略の類型論

ブランド・ポジショニング
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マーケティングのキーコンセプトの1つである「ポジショニング」

簡単にいえば、消費者の頭のなかにおける「ブランドのユニークな位置取り」のことだ。

消費者の困りごとや欲求に直結しており、競合ブランドとは一線を画している。

しかも記憶上何らかのひっかかりがあってブランドが容易に想起される。

そんなポジショニングが叶えば、おのずと購買意欲も湧き、高い確率で消費者から選ばれることになるであろう。

ではどうブランドをポジショニングするのか?

実は1980年代にブランド論の大家であるデービッド・A・アーカー氏らが書いた論文で「ポジショニング戦略のタイポロジー(類型論)」なるものが提案されていたのだ。

強いブランドはいったいどうポジショニングされてきたのか? 

日本で販売されている身近なロングセラーブランドの例も多く交えながら、そのタイポロジーを紐解いていきたい。

目次

ブランド・ポジショニングとは?

マーケティングにおけるキーコンセプトといえば、そればブランディングでもCRMでもなく、紛れもなくポジショニングだろう。

ポジショニングについては本ブログでも何度か記事にしているが、改めて定義してみると、消費者の頭のなかにおけるブランドの「ユニークな位置取り」のこと。

たとえどんなユニークであっても、その位置取りが的外れではいけない。

消費者に何か困りごとや欲求が発生したときに、ブランドを真っ先に思い浮かべてもらえるような位置(position)を狙うのだ。

しかも、他の選択肢がかすんでしまうような位置取りが理想である。

他の選択肢がかすむ/ブランド・ポジショニング
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結果的に消費者の購買意欲を掻き立てることになる。

そんなブランドのポジショニングが叶えば「純粋想起」「独自性」「購買動機」の好循環サイクルがひとりでに回り出すことになるだろう。

近代マーケティングの父と称されるフィリップ・コトラーが著した「マーケティング・マネジメント 」(16版、コトラー&ケラー&チェルネフ)には、マーケティングをマネジメントとは何かについて、以下のように説明している。

ターゲット市場を選択し、優れた顧客価値創造、提供、伝達することにより顧客を獲得、維持、成長させる、アートでありサイエンスなのである。

特定のターゲットに向けて、ブランドがどう役立つのか、顧客価値を創造する起点となるのがポジショニングだろう。

そのポジショニングが成功裏に進めば、その価値の提供も伝達も容易となる。

ブランドを選ぶべき理由が頭のなかに勝手に思い浮かぶのだ。

しかもブランドの記憶が顧客の脳裏に焼きつき、顧客の獲得、維持、成長にも有利に働くことにもなる。

ポジショニングはマーケティング・マネジメントの要諦となる概念といえよう。

ポジショニング戦略のタイポロジー(類型論)

実はこのポジショニング戦略タイポロジー(類型論)なるものが1980年代に1つの論文によって提案されている。

ブランド論の大家であるデービッド・A・アーカー氏が共著者の1人に名を連ねる「Positioning your product」(Business Horizons、1982年)がそれだ。

今から40年以上前の論文ではあるが、方々の論文やマーケティングのテキストに頻回に引用され、今でも古びた印象はない。

後に複数の研究者たちによって改変が試みられているが、その基本的なタイポロジーは以下の通りである。

  • Positioning by Product Attributes and Benefits(製品属性/便益)
  • Positioning by Price/Quality(価格/品質)
  • Positioning by Use or Application(使用状況/使用方法)
  • Positioning by Product User(ユーザーイメージ)
  • Positioning by Product Class(製品カテゴリー)
  • Positioning by Competitor(競争相手)

今回の記事では計6つのポジショニングの切り口について日本でも身近なブランドの事例を交えながら紐解いていきたい。

なお、取り上げる事例は、それぞれの製品カテゴリーを代表するようなロングセラーブランドや、長寿とはいえないが一世を風靡した人気ブランドを中心に選んでいる。

また、切り口によっては例外もあるが、その多くは低関与商材、価格もさほど高くなく、直感的にブランドが選ばれるような最寄り品(食料品や日用雑貨など)から事例を選んでいる。

スーパーの棚 低関与商材 最寄り品
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他の購入決定要因の介入が少なく、ポジショニング効果がよりダイレクトに反映されやすいためだ。

製品属性/便益

6つのポジショニングの切り口のうち、もっとも強力でポピュラーなのがこの製品属性/便益だろう。

製品属性は製品にまつわる固有の特徴や性質のことであり、便益ベネフィットとも言われる。

多くの場合、製品属性と便益は1対1対応で結びついている

たとえば、アパレル衣料で軽量性や通気性、伸縮性といえばどんな便益が得られるかは多くの人にとって想像に難くないだろう。

そして、この製品属性/便益の切り口がブランド・ポジショニングの大半を占めているといっていい。

消費者が何かモノを買おうとするのは困りごとや欲求に直面したからだが、それをダイレクトに満たすのが製品属性/便益だからだ。

その困りごとや欲求を、ニーズやウォンツ、不安、懸念、悩み、葛藤、願望、満たされぬ思いなどとどう置き換えてもかまわない。

とっさに心に何らかの飢餓感を覚えるのである。

そんなとき、消費者が頭に思い浮かべるのは、ブランドが提供する便益であり、その便益とほぼほぼ1対1で対応する製品属性だろう。

そうであれば、製品属性/便益でブランドをポジショニングするほうが断然いい。

購買行動に直結し、マーケターにとってはブランドの実績につながりやすくなる。

改めて、ブランドのポジショニングには、何らかの飢餓感が湧き上がり、それを埋めようとスイッチが入ったとき、真っ先に自社ブランドを思い浮かべてもらうこと。

そうなるよう消費者の頭のなかに予めブランドの位置取りを済ませておくことである。

競合ブランドが割り込む隙がないのが理想だろう。

いわば自社ブランドの選択がデフォルト(初期設定)になるようにしておくのである。

デフォルト(初期設定)
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ここで、参考までにデービッド・A・アーカー氏が著書「ブランド優位の戦略」のなかで機能的便益として取り上げたブランドの事例を紹介しておこう。

  • ボルボはその重要とデザインによって安全で丈夫な車である。
  • クエーカーオーツはあたたかくて栄養のある朝食シリアルを提供する。
  • BMWの車は氷の上でもハンドリングに優れている。
  • ハギーズ(紙おむつブランド)は快適でフィット感を与え、漏れを少なくする。
  • ゲータレードはスポーツ時における体内の水分補給に役立つ。
  • セブンイレブンの店舗は利便性を意味する。
  • コーク(コカ・コーラの俗称)は爽快感と味のよさを提供する。
  • ノードストローム(米国の高級百貨店)は心のこもった顧客サービスを提供する。

たしかにそれぞれのブランドの便益はそういうことだし、ブランドを選ぶ理由として頭に真っ先に浮かぶのもそのあたりだろうと納得がいく。

ではここから製品属性/便益の切り口でポジショニングされた日本国内の身近なブランドの事例を挙げてみよう。

まずはとっかかりとして、わかりやすくネーミングによって便益を言い当て、ロングセラーとなったブランドからだ。

製品属性/便益:ネーミングで言い当てる
  • 明治 牛乳飲料「明治おいしい牛乳」
  • 明治 カカオ含有量の多いチョコレート「チョコレート効果」(カカオポリフェノールを多く配合)
  • キッコーマン食品 しょうゆ「『いつでも新鮮』シリーズ」
  • マルコメ だし入りの液状みそ「料亭の味」
  • サントリー 缶チューハイ「ほろよい」(アルコール度数3
  • 資生堂 美白化粧品「HAKU」
  • ライオン ハンドソープ「キレイキレイ」
  • 大日本除虫菊(金鳥) 虫よけ剤「虫コナーズ」
  • エステ― 防虫剤「ムシューダ」
  • ワコール ナイトウェア(パジャマ)「睡眠科学」

なお、海外のブランド事例となるが、ネーミングによるポジショニング戦略については、本ブログでも過去に、以下の「ネーミングとポジショニング戦略」に記事にもまとめている。

以下はマザーブランド(上位ブランド/エンドーサーブランド)は別にあるものの、その製品属性や便益の記述的(descriptive/ディスクリプティブ)な説明を付したサブネーム(ブランド論では「ディスクリプタ―」ともいう)が効いているブランドの例だ。

製品属性/便益:サブネームで言い当てる
  • 日清オイリオ「 BOSCOエキストラバージンオリーブオイル」
  • ミツカン 「金のつぶ パキッ!とたれとろっ豆」
  • 森永乳業 「ビヒダス ヨーグルト 便通改善」
  • ハウス食品「北海道100さけるチーズ」
  • ニベア花王 リップクリーム「ニベア ディープモイスチャー リップ」
  • 花王 女性向け白髪染め「ブローネ 泡カラー」(手軽に染められる泡状の白髪染め)
  • ジンズ ブルーライトカットメガネ「JINS SCREEN」

一方でネーミングは呼び水程度となるが、特異な製品設計や継続的なプロモーションを通して便益が強い印象を残し、ポジショニングに成功しているのが以下のようなブランドだ。

製品属性/便益
  • 三菱鉛筆 シャープペン「クルトガ」(折れずにとがり続ける)
  • ゼブラ シャープペン「デルガード」(芯が折れない)
  • パイロット 消せるボールペン「フリクション」
  • 明治 機能性ヨーグルト飲料「プロビオヨーグルト R-1、LG21、PA-3
  • ヤクルト 乳酸菌飲料「ヤクルト1000」(睡眠の質向上、ストレス緩和)
  • 森永製菓 ゼリー飲料「in ゼリー」(10秒チャージ)
  • ゼブラ 油性マーカー「ハイマッキー」(太字と細字を1本に)
  • カシオ 腕時計「Gショック」(落としても壊れない丈夫な時計)
  • 西川 高機能マットレス「AiR(エアー)」(点で支える、睡眠の質向上)

ここからは必ずしも便益とは直結しないが、製品属性が際立ってブランドのポジショニングにつながった例を挙げてみよう。

先にも触れたが属性とは固有の特徴や性質のことであり、製品の形や色、大きさなども属性に含まれる(ただし、便益との結びつきはゆるやか)。

このうち、形に関しては、群を抜いてポジショニング効果が高いといっていい。

小さな子どもが言葉を覚えるとき、似たもの同士をひとくくりにカテゴリー化して語彙(例:ワンワン、ブーブー)を増やしていくが、その際、真っ先に形に着目するという。

おそらくそんな習性が形によるポジショニングを強力にしているのだろう。

形のユニークさから、息の長いブランドとして定着した事例はいくつも見つかる。

製品属性:形状
  • 江崎グリコ チョコレート菓子「ポッキー」
  • 森永乳業 一口サイズのアイス「ピノ」
  • ハウス食品 スナック菓子「とんがりコーン」
  • 雪印メグミルク「6Pチーズ」
  • 味の素 三角すいのパック入り粉末ドレッシング「Toss Sala(トスサラ)」
  • サントリー ウイスキー「角瓶」
  • 白鶴酒造 サケパック「まる」
  • P&G アリエール 衣料用洗剤「アリエール ジェルボール」
  • 小林製薬 消炎鎮痛剤「アンメルツヨコヨコ」

大きさ(サイズ感)や色でポジショニングされたものもいくつか挙げておこう。

製品属性:大きさや色
  • 森永製菓「チョコモナカジャンボ」
  • 江崎グリコ「ジャイアントコーン」
  • 明治 大容量カップアイス「エッセルスーパーカップ」
  • アサヒ飲料 炭酸飲料「ドデカミン」
  • 伊藤園「お~いお茶 濃い茶」
  • 東洋水産 カップ入り即席麺「赤いきつねうどん」「緑のたぬき天そば」
  • エスビー食品「赤缶カレー粉」

本ブログの「カントリー・オブ・オリジン」の記事にも書いたが、ブランドの原産国/原産地もポジショニングの切り口としては有効だ。

日本でも身近なブランドなら以下のようなブランドが代表例だろう。

製品属性:原産国・原産地
  • 明治 「ブルガリアヨーグルト」
  • 日本ハム ソーセージ「シャウエッセン」
  • ロッテ チョコレート「ガーナ」
  • ハウス食品 カレールー「ジャワカレー」
  • 大塚食品 無糖紅茶「シンビーノ ジャワティ」
  • 森永乳業 ギリシャヨーグルト「濃密ギリシャヨーグルト パルテノ」
  • ハウス食品 「北海道シチュー」
  • 明治「北海道十勝チーズ」
  • サンヨー食品「サッポロ一番」
  • ジャパンブルー 国産高級ジーンズ「桃太郎ジーンズ」

製品属性と便益の切り口の最後に情緒的便益についても触れておこう。

アーカー氏は前出の「ブランド優位の戦略」で以下のようなブランドの事例を情緒的便益として挙げている。

  • ボルボに乗っているときは安全
  • BMWに乗ったり、MTV(ロック音楽専門のCATVの番組)を見ているときは興奮する
  • コーク(コカ・コーラの俗称)を飲むとエネルギッシュで活動的になる
  • オイル・オブ・オレイを使って老化を防ぐ
  • ノードストロームでの大切な時間
  • ホールマークのカードを買ったり、読んだりしているときのあたたかさ
  • リーバイスを着ているときの強さや武骨さ

製品属性や機能的便益を土台としつつも、ブランドにはポジティブな気分を高める力があることを改めて知らされる事例といえるだろう。

では同様に情緒的便益が感じられる日本のブランドからいくつか挙げてみよう。

情緒的便益
  • トリンプ・インターナショナル 「天使のブラ」
  • 大正製薬 栄養ドリンク「リポビタンD」(「ファイトー、イッパーツ」)
  • ポッカサッポロフード&ビバレッジ 即席スープ「じっくりコトコト」シリーズ
  • アサヒビール 「スーパードライ 生ジョッキ缶」(フルオープンの蓋を開けると自然発泡)
  • 大塚製薬 栄養補助食品「カロリーメイト」(部活や受験勉強を応援)
  • 不二家 クッキー菓子「カントリーマアム」(焼きたての手作りクッキーの懐かしさ)
  • 有楽製菓 チョコレート菓子「ブラックサンダー」(いじられキャラ)
  • 宝酒造 スパークリング清酒「澪(みお)」
  • トリンプ・インターナショナル 「天使のブラ」

ここまで見てきたように、ロングセラーブランドや人気ブランドの多くが製品属性/便益によって効果的なポジショニングがなされている。

しかし、情緒的便益は別としても、この切り口によるポジショニングは競合ブランドから模倣されやすいのが難点だ。

製品属性と便益によって明確にポジショニングされたことがかえってあだになって、皮肉な結果を招きかねない。

本ブログの「【要約】ポジショニング戦略 新版」の記事にも書いたが、真似されても大きく影響を受けないのは当該カテゴリーに一番乗り、すなわち、先発優位性にあずかれる一握りのブランドだけだろう。

そこで浮上するのが、ここから説明する製品属性/便益以外の5つのポジショニングの切り口だ。

価格/品質

ポジショニングの2つ目の切り口が価格/品質である。

価格と知覚された品質(以下、知覚品質)とは密接な関係にあり、消費者にとっては価格帯、すなわち競合ブランドに比べ、価格が高いか安いかがブランドの知覚品質の手がかりとなりやすい。

高級アイスクリームの市場を切り開いた「ハーゲンダッツ」がその例だ。

また、単純に高価格、低価格というだけではない。

知覚品質とのバランスでコスパ(コストパフォーマンス/費用対効果)がいいという判断基準もある。

コスパ(コストパフォーマンス/費用対効果)
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あるいは高価格帯ブランドのすぐ下の価格ラインに位置し、手の届くプレミアム(例:コスタコーヒー)、アフォーダブルもしくはアクセシブル・ラグジュアリー(例:コーチ、フルラ)といった路線を狙うブランドもあるだろう。

いずれにせよ、低関与商材で極めて直感的に選ばれるようなブランドであれば、価格帯は強力なシグナルで、価格帯以外の要素をかすませてしまう。

購入の決め手になることも少なくなく、それだけポジショニング効果が高いのだ。

なお、あえて知覚品質という言葉を使ったのは、お買い得だと思うのか、高すぎると思うのか、あるいは適正価格で対価を払う十分な価値があると思うのか、それはブランドから個々人が見いだす主観的な品質感によるところが大きいからである。

まずは競合ブランドよりもやや高い値付けプレミアム路線を打ち出し、うまくポジショニングされたブランドの事例を挙げてみよう。

プチ贅沢や自分へのご褒美消費の格好の対象となる。

価格/品質:プレミアム路線
  • サントリー プレミアムビール「プレミアムモルツ」
  • 味の素AGF レギュラー/ドリップコーヒー「ちょっと贅沢な珈琲店」
  • 王子ネピア 箱ティッシュ「鼻セレブ」
  • チョーヤ梅酒 高級熟成梅酒「The CHOYA」
  • サントリー 高級ウィスキー「響」
  • 湖池屋 高級ポテトチップス「湖池屋プライドポテト」
  • セブン&アイ 高価格帯PB「セブンプレミアムゴールド」
  • 高級食品スーパー「成城石井」

続いてお手ごろ価格/高コスパ路線でポジショニングされたブランドの事例をいくつか挙げてみよう。

価格/品質:お手ごろ価格/高コスパ
  • すかいらーく 低価格帯ファミリーレストラン「ガスト」
  • ニトリHD 家具量販店「ニトリ」(「お、ねだん以上。」)
  • 子供・ベビー用品専門店 「西松屋」チェーン
  • 生活用品/家電メーカー「アイリスオーヤマ」(シンプルな機能でお値ごろ価格)
  • サントリー 国産ジン「翠(SUI)」(高価格帯が主流のジン市場にお手ごろ価格で投入)
  • ロート製薬 化粧品「肌研(ハダラボ)」シリーズ(ヒアルロン酸など肌に良い成分配合でお手ごろ価格)
  • シチズン時計 低価格ファッション時計「Q&Q」
  • RIZAPグループ 低価格のコンビニジム「chocoZAP」

使用状況/使用方法

ポジショニングの3つ目の切り口が使用状況/使用方法だ。

ブランドがどんな状況で、どんなふうに使われるのか? 

そこから何らかの記憶されやすい局面を見つけ出し、ブランドを結びつける。

わかりやすいのが時間と場所による区分だろう。

時間であれば、日、週、月、年単位の区分となるし、その中には季節ごとの年中行事やお祝い事、あるいは人生の節目なども含まれる。

なかには「ハレの日消費」を促す契機となる局面もあるだろう。

場所であれば、ブランドの利用する場所による区分が典型で、自宅や職場(シェアオフィスを含む)、学校、あるいは通勤・通学を含んだ外出先などがなる。

コロナ禍にはイエナカ需要が何かと話題になったし、スターバックスで知られるようになった「第3の場所/サードプレイス」というのもある。

一方でブランドの使用方法で切り分けるという方法もある。

ブランドをどんな目的や文脈でどう使うのか?

たとえば、ワインであれば料理に使う、食器用洗剤であればつけおき洗うに使う、あるいは生活家電であれば、操作ボタンが少なく迷わず使えるなどがそうだろう。

支払い方法によってポジショニングされることもある。

もたらされる便益がたとえ競合ブランドと大きく変わらなくても、使用状況や使用方法に競合ブランドと明確な違いがあれば、ポジショニングの切り口として有効となる。

主観的な印象で捉えざるを得ない便益などと違い、使用状況や使用方法は物理的な世界で実際に起きていることである点も、記憶の粘着性が高まることからポジショニングには有利だ。

実はこの使用方法は、企業側ではなく、ユーザーたちから発見されることがある。

いわゆる「ユーザー・イノベーション」だ。

よく知られた事例が刻み海苔(のり)用につくられたはさみがュレッダーはさみとして使われたり、建築用のマスキングテープがデコレーション雑貨として使われたりしていたことだ。

より最近の例ではカネボウフーズの知育菓子シリーズの1つで、かき混ぜると色や味が変わる「ねるねるねるね」子どもの服薬補助向けに使われたりしている。

それらがもとになってアレンジされ、新たな商品開発につながっている。

そして、その使用方法がポジショニングの切り口にまで発展したのが「ワークマン」だ。

ユーザーの着想から作業服をアウトドアウエアとして提案し、作業服専門店のワークマンから「ワークマンプラス」や「#ワークマン女子」なる派生ブランドも登場し、ワークマンは業績を大きく伸ばすことになる。

では使用状況/使用方法でポジショニングされたブランド事例を挙げてみよう。

まずは時間や場所など使用状況によってポジショニングされたブランド事例からである。

使用状況
  • アサヒ飲料 朝専用の缶コーヒー「ワンダモーニングショット」
  • カルビー シリアル「フルグラ」(手軽で健康的な朝食)
  • 山崎製パン 菓子パン「ランチパック」(ケータイするランチ)
  • カゴメ 野菜飲料「野菜一日これ一本」
  • I-ne シャンプー/トリートメント「YOLU(ヨル)」(夜の摩擦ダメージ&地肌のナイトケア)
  • ゼリア新薬 コンビニ向け健康サポート飲料「ヘパリーゼW」(肝臓エキス配合、お酒を飲む機会に)

続いて特異な使用方法でポジショニングされたブランドの事例だ。

使用方法
  • カネボウフーズ 知育菓子「ねるねるねるね」(かき混ぜると色や味が変化)
  • 日清製粉ウェルナ ボトルタイプ容器の小麦粉「日清クッキングフラワー」
  • ライオン 下痢止め薬「ストッパ」(下痢に速攻!水なしで効く)
  • パナソニック 音波振動歯ブラシ「ポケット ドルツ」(携帯用モデル)
  • エバラ食品 1個で1人分のポーション調味料「プチッと鍋/プチッとうどん」
  • ネスレ チョコレート菓子「キットカット」(受験のゲン担ぎ)

ユーザー(使用者)イメージ

ポジショニングの4つ目の切り口がユーザー(使用者)イメージだ。

ブランドが主にどんな人たちをターゲットにしているのか、ブランドと想定ユーザーとの結びつきを強め、その記憶を手がかりに自社ブランドを選んでもらうようにする。

ユーザーイメージ 使用者イメージ
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提供される便益の点では競合ブランドと明確な差がない場合でも、ユーザーイメージが際立つことで選ばれる理由となることもある。

理想はそのユーザーイメージと実際のリアルユーザーが合致していることだが、そうでなくてもかまわない。

たとえば古典的な事例であるジョンソン・エンド・ジョンソンの「ベビーローション」は赤ちゃんの肌にやさしいローションは大人の肌にもやさしいというイメージを掻き立て売り上げを大きく伸ばしている。

この場合、想定ユーザーのイメージ提供し得る便益の強いシグナルとなったのだ。

想定ターゲットのスピルオーバー(波及)でそれ以外のユーザーにも買ってもらい、市場のパイを広げた典型的な事例だろう。

ではユーザーイメージによってポジショニングされているブランドをいくつか挙げてみよう。

ユーザーイメージ
  • ハウス食品 甘口カレー「バーモントカレー」(主に子ども向け)
  • 大塚食品 ビタミン炭酸飲料「MATCH(マッチ)」(青春の味、高校生らがゴクゴク飲める)
  • 永谷園「おとなのふりかけ」
  • カネカ食品 「パン好きの牛乳」
  • マンダム 女性向け化粧品ブランド「ルシードエル」
  • セイコーウオッチ「ルキア」(主に20代~30代の働く女性向け)
  • アキレス 子供靴「瞬足」
  • サイクルベースあさひ パパのための自転車「88サイクル」(パパチャリ)
  • パイロット 子ども向け万年筆「カクノ」(低価格のため実際には若者たちも買う)
  • 旅行ガイドブック「ことりっぷ」(旅好きの女性向け)
  • 土屋鞄製造所 大人ランドセル「OTONA RANDSEL」

製品カテゴリー(クラス)

ポジショニングの5つ目の切り口が製品カテゴリーである。

文献によっては製品クラスと表現されている場合もある(一説によれば、カテゴリーはより広範囲で製品クラスはより具体性を帯びた分類を指すという)。

ブランドはふつう何らかの製品カテゴリーに属している。

消費者にとってコカ・コーラが炭酸飲料、マクドナルドがファストフードのカテゴリーに入ることは自明だろう。

いわゆるカテゴリー・メンバーシップ(ブランドがカテゴリーの構成員であること)が明確なのだ。

メガブランド化し、複数のカテゴリーにまたがるブランドも多いが、それでもブランドの出発点となったコアとなるカテゴリーは存在する。

仮に新ブランドを投入するなら、既存のどのカテゴリーに属するのかを消費者に認知させることが先決だ。

ブランド選択を考える上で真っ先に必要となる基本的な情報だからである。

そのうえで、ここまで説明してきた製品属性/便益、価格/品質、使用状況や使用方法、ユーザーイメージを駆使し、差別化するのが常道となるだろう。

ひたすら自社ブランドが競合ブランドよりも選択肢としていかに優れているかを訴え続けるのだ。

まさに「こっちの水は甘いぞ」と歌う童謡の世界といえる。

レッドオーシャン/ブルーオーシャン戦略

そんなレッドオーシャンともいえる熾烈な闘いから抜け出したいなら、製品カテゴリーによるポジショニングは最有力候補である。

まずは意想外のカテゴリーに矛先を向けるというやり方を取り上げよう。

意表を突くようなカテゴリーにブランドごと憑依(ひょうい)して、我が物顔でそのカテゴリーメンバーとしてふるまってみせるのだ。

その好例がクラフトの冷凍ピザブランド、「ディジョルノ」だ(「ブランド論」)。

同ブランドは事前に調理されていない生地を使った初めての冷凍ピザ。

「プレミアム冷凍ピザ」の打ち出しも考えられたが、あえて宅配ピザのカテゴリーメンバーとして船出する。

使われたキャッチコピーは「宅配ピザではありません。ディジョルノです」

これがブランドのポジショニングの決定打となった。

通常の宅配ピザと肩を並べるブランドとして見なされ、しかも宅配は不要で価格は宅配ピザの半分程度

ディジョルノは市場で大成功を収めることになる。

そして、製品カテゴリーによるポジショニングにはもう1つ定番のやり方がある。

今までになかったサブカテゴリーを創造することだ。

新しいサブブカテゴリーといっても斬新過ぎて理解に窮するようではいけない。

言語化はできていなかったものの、指摘を受ければその存在に納得する「ありそうでなかった」レベルのサブカテゴリーが狙い目だ。

そこに乗っかる形でブランドをポジショニングするのである。

古典的な例でいえば、日本コカ・コーラが主力のコカ・コーラに対し、ファンタ「フルーツ炭酸飲料」として投入したのがそれにあたるだろう。

同じ炭酸飲料でもカテゴリーが異なると周知させ、同社のブランド間で棲み分けを図ったのだ。

明治のゼラチン菓子「果汁グミ」も、その名が示すようにグミのサブカテゴリーを作ったという点では同様だろう。

レッドブルが先駆けとなった「エナジードリンク」の呼称は清涼飲料のサブカテゴリーの最たる例といえる。

ではここから製品カテゴリーによるポジショニングの例を挙げてみよう。

別のカテゴリーに転身して闘う土俵を変えたり、サブカテゴリー化して一発で違いを印象づけたり、この切り口には大ヒットを呼んだブランドも少なくない。

製品カテゴリー
  • アサヒ飲料 無糖炭酸飲料「ウィルキンソン」(お酒の割り材からカテゴリー転換した無糖の炭酸水)
  • 食べるラー油(桃屋 「辛そうで辛くない少し辛いラー油」やエスビー食品「ぶっかけ!おかずラー油チョイ辛」など)
  • ロッテ アイスをもちで包んだ「雪見だいふく」
  • サントリー「こだわり酒場のレモンサワーの素」(料飲店で飲む本格的なレモンサワー家庭で)
  • キングジム 電子メモ帳「ポメラ」
  • AOKI 伸縮性に優れるセットアップ「パジャマスーツ」
  • アサヒビール「スーパードライ」
  • キリンビバレッジ 緑茶飲料「生茶」(摘みたての生茶葉からエキス抽出)
  • ロッテ ワンハンドで飲むアイス「クーリッシュ」
  • カルビー カップ入りスナック菓子「じゃがりこ」

競争相手

6つ目、そして最後のポジショニングの切り口が「競争相手」となる。

競合ブランドと対比させることで自社ブランドの存在や優位点を知らしめるやり方である。

また、往年のコカ・コーラとペプシのライバル対決のように、お互いを引き立て合う関係もある。

ライバルがいるからこそ、自社ブランドがその好敵手として認知され、購入候補の選択肢(エボークトセット/想起集合)に首尾よく入れるということもある。

競争相手/好敵手/ライバル
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スポーツの世界で強力なライバルの存在によって、注目を浴びる選手がいるのと同じ理屈といえよう。

心理学には「対比効果(コントラスト効果)」という用語がある。

双方の対象を直接対比させることで実際よりも両者の差が大きく見えることをいう(スイカに塩をかけるとスイカの甘さが引き立つといったこと)が、まさに競争相手を切り口にポジショニングすることで、その効果も期待できる。

たとえば、同じファーストフードチェーンでも「マクドナルド」に比べれば、「サブウェイ」のほうがよりメニューが健康的に思えるといった具合だ。

クレジットカードの「ビザ」と「アメリカン・エクスプレス」の場合であれば、「ビザ」が強調すべきは取り扱う加盟店が多く「世界中のどこでも使える利便性」だろう。

一方の「アメリカン・エクスプレス」は持ち前の「プレステージ」で対抗するという図式になる。

また、この競争相手によるポジショニングでは多くの場合は、競合ブランドを名指しで対比させる場合もあれば、それとなく匂わせる場合もある。

本ブログの「敵対的ポジショニング戦略」の記事にも書いたが、前者の古典的なブランドの事例が米国の鎮痛薬ブランド「タイレノール」だ。

「アスピリン」よりも身体への負担が少ないこと訴えてライバルの弱点を突き、その後は鎮痛薬市場を席捲したという。

また、米国のボーデンのポテトチップスブランド、「ワイズ」も広告でライバルのP&Gの「プリングルズ」を名指しで攻撃する。

「ワイズ」が自然由来の成分を使っていることに対し、「プリングルズ」は「人工的な味」とのレッテルを貼り、当時破竹の勢いだった「プリングルズ」を窮地に追いやることに成功したのだ。

また、ライバルの名をはっきりと語ることはなかったが、競争相手によるポジショニングの金字塔として知られる2つのキャンペーンも路線は一緒だろう。

1つは米国のレンタカー会社「エイビス」。

「エイビスはレンタカー界でNo.2に過ぎません。」のコピーで始まり、NO.2ゆえの企業努力を続ける覚悟を表明したキャンペーンを展開して成功を収めている。

当然、米国の消費者の頭のなかで対比されるのは業界No.1の「ハーツ」だ。

また、グリーンのボトルに入った典型的なレモン・ライム系透明炭酸飲料、「セブンアップ」も「UNCOLA(コーラではない!)」と銘打つ。

その当時のコーラといえば、ソフトドリンク市場で圧倒的なシェアを占めていたコカ・コーラやペプシだ。

トップブランドの七光り的な効果で、市場で埋没しかけていた「セブンナップ」は、当時の米国で広がり始めていたカウンターカルチャー(対抗文化)とも相まって、脚光を浴びることになる。

ではここから日本で販売されているブランドで成功裏に「競争相手」によってポジショニングされた事例を挙げてみよう。

競争相手
  • 台所用洗剤 P&G「ジョイ」(油汚れに強い vs. 他社は手にやさしい)
  • タブレット菓子 アサヒグループ食品「ミンティア」(クラシエフーズ「フリスク」がライバル)
  • アサヒ飲料 エナジードリンク「モンスターエナジー」(レッドブル・ジャパン「レッドブル」がライバル)
  • 明治 チョコレート菓子「たけのこの里」「きのこの山」(どっち派?の総選挙が話題に)
  • まるか食品 ソース焼きそば「ペヨング」(同社「ペヤング」の公式の“偽物”で 主に特売用)
  • サントリー「ソウルマッコリ」(韓国の伝統的ブランド群とは一線を画すメジャーなブランドに)
  • サントリー ノンアルコールビール「オールフリー」(先行したキリンビール「キリンフリー」に対抗)

ブランドのポジショニング戦略再考

今回の記事ではデービッド・A・アーカー氏らが1982年に書いた「Positioning your product」の論文をベースに、ポジショニング戦略のタイポロジー(類型論)を日本で販売されている身近なブランドの事例を交えながら紹介した。

その事例の多くが息の長いロングセラーブランドであり、一世を風靡した人気ブランドだ。

消費者の頭のなかにうまく位置取ることの有効性を垣間見ることができただろう。

もちろんブランドの成功にはそもそもの製品力、プライシング、流通支配力、広告宣伝力などがかかわってくることは言うまでもない。

そうしたマーケティング活動をどう消費者の頭のなかに帰着させるのか?

それを言い当てるのがポジショニング戦略の役割なのだ。

「海図なき航海」とならないよう、およそマーケターが仕掛けるブランディングにおいて、ポジショニング戦略の発想を取り入れるか否かの差は大きいといえる。

本ブログの「【要約】ポジショニング戦略 新版」の記事にも書いたが、人は世界を無意識のうちにカテゴライズしている。

似たもの同士をひとくくりに分類し、そこに言葉でラベルを貼って秩序立て、刻一刻と迫りくる現実に対処しているのだ。

カテゴリー化することで事物や事象の関連性(「AはBと〇〇の関係にある」といった認識)がつかめるようになるのも、推論や判断するうえで役に立つ。

そして、このカテゴリーとポジショニングは密接な関係にある。

6つのポジショニングの切り口のうち、「製品カテゴリー」はあくまで製品の分類上の区分けを指すが、実は製品属性や便益、価格帯、使用状況や使用方法、ユーザーイメージなども(言葉でラベリングされた)カテゴリーには相違ない。

俯瞰する/カテゴリー化
Image by Freepik

すなわち、ブランドをポジショニングするとは、この世のなかに数多(あまた)あるカテゴリーからどれとブランドとを結びつけるかにほかならない。

人は数万から数十万のカテゴリーを持つ(認知言語学への誘い)というが、競合ブランドとの差別化や消費者ニーズの充足、想起のしやすさなどの観点を考慮するなら選択肢も絞られてくる。

おそらく、その峻別の指針の1つとして加わるのが、1980年代に既に提案されていたという、本記事で紹介したポジショニング戦略のタイポロジー(類型論)なのだろう。

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