大ヒット!「0秒チキンラーメン」 絶大だった「0秒」のインパクト

0秒チキンラーメン
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チキンラーメンを“そのままかじって食べる”用に開発された新商品「0秒チキンラーメン」が一時販売休止になるほどの大ヒットとなった。

3分待つという即席めんの常識を打ち破り、「0秒」と打ち出したことが絶大なインパクトを放ったといえよう。

新たな喫食シーンの開拓にもつながった「0秒チキンラーメン」。

そのヒットの背景には「100年ブランド カンパニー」を目指す日清食品のロングセラーブランド活性化の取り組みがあったのだ。

目次

「0秒チキンラーメン」が大ヒット

即席ラーメンの元祖ともいえるブランド、日清食品のチキンラーメンがまたも話題を振りまいている。

2022年の4月に発売された新商品「0秒チキンラーメン」が想定以上に売れているのだ。

発売後ひと月も経たないうちに供給が追いつかずに販売休止に追い込まれたほどである。その後、7月下旬になってようやく販売を再開した。

日経MJが発表する2022年上期ヒット商品番付にも選ばれている。

この「0秒チキンラーメン」とは、本来はお湯かけ3分で食べるはずのチキンラーメンを“そのままかじって食べる”用に開発された商品。

主食はもちろん、子どものおやつやお酒のおつまみなど、いろいろな食べ方ができるという。

袋を開けてそのままがぶっとかじれば、バリバリっとした食感が楽しめる。

場所を選ばずワンハンドで手軽に食べられるのも利点の一つだろう。

すぐおいしい、すごくおいしい。」とはチキンラーメンのキャッチフレーズだが、同商品はその実現に向けて、日清食品流のひねりを加えてさらに一歩駒を進めたといえる。

通常のチキンラーメンは、粉末スープはつかずに麵そのものにしょうゆベースのチキンスープで味付けされている。

「0秒チキンラーメン」はそのうまみや香ばしさはそのままに、塩分を約50%に抑えることで、そのまま食べてもしょっぱ過ぎないよう、“あっさりうす味” に仕上げたという。

さらに注意を引くのは同商品のパッケージデザインだ。

チキンラーメンのパッケージというと、おなじみの「セピア・白・オレンジ」の3色カラーを誰もが思い出すであろう。

国内で9例目の「色彩のみからなる商標」として特許庁から認められたことでも知られている。

一方の「0秒チキンラーメン」は、商品名のロゴデザインこそそのまま残しているものの、麺の袋には鮮やかな黄色を採用し、公式キャラクターの「ひよこちゃん」の愛嬌のある顔が全面にデザインされている。

「湯かけ禁止(おいしくないよ)」との記載も目につく。

端緒はチキンラーメンをそのまま食べる、新たな食べ方提案

そもそもこの「0秒チキンラーメン」は、2017年にチキンラーメンが実施したキャンペーンに端を発している。

通常ならお湯かけ3分、煮込んでも1分の調理時間を要するが、袋から開けてそのまま食べてもおいしい、すなわち調理時間0秒という新たな食べ方の提案をしたのだ。

この食べ方は、お湯を入れて3分待つ間にかじっている人がいることからヒントを得ている。

テレビCMでは女優の新垣結衣がお湯をかけることなく “生”のチキンラーメンにかぶりつくシーンを描いて注目を集めた。

その後はチキンラーメンの「0秒食べ」がSNSでも引き続き話題になっていたことから、改めて「0秒チキンラーメン」としてそのままかじる用に新商品が開発されたのだ。

それゆえ、「0秒チキンラーメン」のテレビCMでも「そのままかじる」という特長を最大限に引き立てるつくりになっている。

女優の高橋ひかるが無言のまま「0秒チキンラーメン」をひたすらかじり続けるCMで、かじるときの咀嚼(そしゃく)音が繰り返される。

「子どものおやつに!」「おつまみに!」「塩分50%オフ!」といった文字情報は入るものの、やはり印象に残るのはその咀嚼(そしゃく)音だ。

聴覚への刺激で脳が心地よいと感じる「ASMR(アスマー/アズマー)」を狙っているのだろう。

チキンラーメンの公式サイトには「0秒チキンラーメン」はかじってナンボの商品であり、「かじる」以外の要素を削ぎ落とした、究極の引き算から生まれたCMとある。

あえて「0秒チキンラーメン」を湯戻しする猛者たちも

また、SNSの同商品に関する投稿を見ると、あえて「0秒チキンラーメン」にお湯をかけて食べる人もいるようだ。

パッケージには「湯戻しして食べるとおいしくありません」との記載があるが、そうあっさり禁止されると逆にお湯かけしたくなる気持ちが湧いてしまう。

いわゆる「カリギュラ効果」といわれる心理が働くのだ。

カリギュラ効果

「カリギュラ効果」とは暴君だったローマ皇帝「カリギュラ」を主人公とした映画から来ている。

シーンの過激さからアメリカのボストンで公開禁止となるも、市民たちの興味を逆に掻き立て、かえって映画が話題を呼んだ現象に由来しているようだ。

「0秒」のインパクト! チキンラーメンの活性化に向けて

日清食品がこうしたチキンラーメンの話題づくりに力を入れる背景には、1958年の発売以来、人々にずっと親しまれてきたブランドを勢いづけたいとの思いがあるだろう。

大いなるロングセラーブランドとはいえ、市場では常に熾烈な同質化競争にさらされている。

消費者が小腹を満たすものを買い置きしておこうと思ったときに、チキンラーメンを頭の中にいの一番に思い浮かべてもらえるとは限らない

そこで消費者の興味をそそるような情報やコンテンツをたとえ断続的にでも発信し、ブランドに注意を引きつけておく必要がある。

0秒

その取り組みの一環で発売されたのが「0秒チキンラーメン」だったのだ。

この注意を引きつけるという点で絶大な効果を放ったのが「0秒」という打ち出し方だ。

インスタントラーメンといえば、3分なり1分なりの調理時間を要することに人々の脳は慣らされてきた。

そこに突如、「0秒」という「有」から「無」への転換起きたのだ。

想定していたこととは正反対の情報に接したとき、人々の脳はその刺激をほかよりも強く認識するようになる(人は記憶で動く、2017年)

このチキンラーメンの突然の反転劇が、新鮮さを持って受け入れられ、女優の新垣結衣や高橋ひかるを起用したテレビCMキャンペーンとも相まって大きな反響を呼んだのである。

もちろん、味付油揚げめんをスナック菓子風に食べるという提案自体も斬新であったし、新たな喫食シーンを開拓したことは間違いない。

そこにたたみかけるように「0秒」の打ち出しが乗っかって同商品は大ヒットとなったのだ。

報道量が重要度が決まる「議題設定効果」 はブランドにも

マスコミュニケーション効果研究の用語に「議題設定効果(アジェンダセッティング効果)」というのがある。

あるテーマに関するニュースが連日のように報道されると、あたかもそのテーマが重要であるかのように感じ、次第に人々の関心を集めるようになる効果をいう。

すなわち、そのテーマが重要か否かの価値判断は、個人の価値観や信念に照らしてというよりも、報道の言及量や頻度によって大方決まってしまうということだ。

ITmedia ビジネスオンラインの2020年3月12日の記事によれば、コロナ禍で一時期、トイレットペーパーなど紙製品の買いだめが発生した。

この現象もごく一部での品不足をマスメディアが頻繁に報じたことで、人々が「これが世間の人々の現在の非常に大きな関心事だ」と判断したことが大きいという。

「早めに確保しておこう」という気にさせたのだ。これがまさに「議題設定効果」に当たる。

「0秒チキンラーメン」も同様だ。その議題設定によって、広告も含めたマスメディアでの露出が格段に増え、SNSでも反響が湧き起こる。

人々は「チキンラーメン」というブランドが世の中の関心事になっている、それだけ人気のあるブランドなのだろうと判断したことは想像に難くない。

消費者の「注意」「関心」の獲得がブランドの至上命題に

チキンラーメンは2003年に、麺の中央に卵がうまく乗せやすくするくぼみ「たまごポケット」を採用し、人々の注目集め、過去最高の売上を達成した経緯がある。

その後も「Let’s しろたま!」と題し、たまごの白身が簡単にきれいに白くなることを面白おかしく伝えたり、期間限定で「チキンラーメンどんぶり キムラー」を発売してヒットを飛ばしたり、次々に話題を振りまくことに成功している。

この「チキンラーメンどんぶり キムラー」とは、漫画家の谷口菜津子氏がTwitterで紹介して話題を呼んだ、チキンラーメンとキムチを組み合わせたアレンジレシピ “アクマのキムラー” を再現した商品だ。

市場のちょっとしたうねりに当意即妙に反応するのも日清食品流なのである。そこに、今回の「0秒チキンラーメン」の商品ヒットが加わった。

ネット上の世界は昨今、アテンションエコノミー(注意経済/注目経済)が進捗しているとの指摘がよくされる。

アテンションエコノミーとは、情報量が爆発的に増え続ける中、人々が注意や関心を向ける時間が多大な経済的価値を持つ市場の状況をいう。

GoogleやTwitter、Facebook、LINEなどいわゆる広告収入で稼ぐ巨大企業は、人々が希少な時間を割く注意や関心を一番高く買おうとする広告主に売っているのだ。具体的にはアクセス数やクリック率が指標となる。

この人々の注意や関心が直接的に経済的価値に結びつくのは何もネットの世界だけとは限らない。リアルの市場でも大きく変わらないはずだ。

FMCG(Fast Moving Consumer Goods/日用消費財)のように直感的に買われる商品ならなおのことそうだろう。

人々の注意を引きつけ、高いマインドシェア(消費者の心の中に占めるブランドの占有率)を維持し、真っ先に想起されることが大命題となる。

「日清食品「100年ブランド カンパニー」への取り組み続く

日清食品は「100年ブランド カンパニー」を社内スローガンに掲げる。

ブランドが100年経ってもお客様から愛され、鮮度を維持し成長し続けるようとする企業姿勢の表明だ。

当然、同社を代表するブランド、チキンラーメンの取り組みもその一環にほかならない。

「成功( success )」は、何かが連続的に変容して生き延びる能力「継承する(succeeding)」に由来するのだという(新・ラグジュアリー ――文化が生み出す経済 10の講義、2022年)

キチンラーメンが今後、どんな変容を遂げながら成長を維持するのか? マーケターにとって注目に値するだろう。

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