カバヤ食品「タフグミ」 なぜ今、男性向けのハードグミは受けるのか?

カバヤ食品 タフグミ
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「タフグミ」が10~30代の男性に人気

カバヤ食品の「タフグミ」が売行き好調という。キューブの形をした大粒・大容量グミで、弾力性があって噛み応えがある

「クセになる食感」との触れ込みだ。

昨今人気が高まるハードグミに分類される商品で、2014年に男性をターゲットに発売されている。10~30代男性を中心に支持されているという(@Press 2022.9.27)

味はといえば、 “すっぱウマい”パウダーがまぶされ、食べ始めからパンチのある味が楽しめる。

フレーバーはコーラ、ソーダ、エナジードリンクの炭酸飲料系3種に加え、期間限定のフレーバーが季節ごとに投入されようだ。

首都圏コンビニのレシートデータの分析によれば、2022年9月に発売された「タフグミ デュアルパンチャー グレープ&グレープ」が同年10月にグミカテゴリー内で売り上げ1位を記録している(日本経済新聞2022.11.28)

この新フレーバーの瞬発力は「タフグミ」の人気ゆえだろう。

日本マーケティングリサーチ機構の調査では「集中したい時に食べたいグミ No.1」と「ハードグミ人気 No.1」にも選ばれている(PR TIMES 2022.4.26)

詳細は後述するが、このことが「タフグミ」の好調を支える一番の要因だ。

多くの商品が競合し合うグミ市場にあって「集中したい時」や「ハードグミ」という切り口でポジショニングされたことが勝ち組への布石となったのである

百花繚乱のグミ市場 “写真映え”する見た目がSNSで話題に

「タフグミ」のポジショニング戦略の話題に移る前に、ここでグミ市場を軽く俯瞰しておこう。

そもそもグミとは水飴や砂糖にゼラチンなどを加えて作り、そこに果汁などの味をつけ、ゴムのように弾力のある形に固めた菓子をいう(デジタル大辞泉)

発祥はドイツで、その名前はドイツ語でゴムを意味する「Gummi」からついた。

日本では1980年に明治製菓(現・明治)が発売した「コーラアップ」が初のグミ商品らしい。

子供向けの菓子として知られていたが、1988年に同社が発売した「果汁グミ」が女子中高生を中心に大ヒットし、グミの市場が大きく拡大する。

グミのフレーバーは炭酸飲料系果汁系に大別されるが、「果汁グミ」のヒット以降、果汁系のフレーバーが市場を席捲することになる。

同市場はやがて百花繚乱の様相を呈するようになっていく。

「タフグミ」や「ピュアラルグミ」を擁するカバヤ食品を始め、カンロや春日井製菓、UHA味覚糖などの参入も相次ぎ、目先を変えた新商品が続々と投入されていったのである。

なんといってもグミは色や形、大きさ、噛み応えなどアレンジできる自由度が高いため、各社が独自色を打ち出し、豊富なバリエーションを生み出せる。

実はそのことがカテゴリーの成長を支える原動力でもあったのだ。

常に話題は尽きず、新商品が投入されるたびに、“写真映え”するその見た目も手伝ってSNS上でも話題を集めるようになった。

さらに「グミ」はコラーゲンを含むゼラチンが材料になっていることから、健康や美容に気を使う人でも手を伸ばしやすい。

果汁入りでジューシーさをうたう商品も多く、甘いものを食べる際の免罪符になり得るのだ。

UHA味覚糖の「UHAグミサプリ」など、実際に栄養補給ができるサプリメントタイプのグミも販売されている。

コロナ禍でグミ市場が成長軌道に 一方で競争も激化

ガムやタブレット菓子と同様、グミは自宅以外で消費されることが多かったため、コロナ禍に入っていったんは需要がしぼむ。

しかし、すぐに回復し、その後は成長軌道に乗るようになった。

エチケットとしてというより嗜好性の高かったグミが家庭で買い置きされるようになり、巣ごもり需要を取り込んだのだ。

グミの市場規模は2021年に、マスク生活で苦戦していたガムを追い抜き、2022年度は562億円、前年比14.0%増が見込まれるという(流通ニュース 2022.10.13)

「タフグミ」が売上げを順調に伸ばしたのも、このグミ市場全体の成長によるところが大きい。

グミが幅広い年代層から市民権を得たことで、男性をターゲットにした「タフグミ」も旺盛な消費欲の恩恵に浴することができたのだ。

しかし、その一方、グミ市場内では競争も激しい。

グミの売場といえばコンビニやスーパーなどのフックがけの棚が一般的だが、多種多様な商品が投入されるなか、その陳列幅が広がったとはいえ、その棚に場所を確保するのも、その棚から消費者に選んでもらうのも決して容易ではないのだ。

グミは消費者行動論でいう、いわゆる「バラエティシーキング型」の商品カテゴリーとなる。

特定の商品を習慣的に購入するというより、衝動的に他の商品へのスイッチや新商品のトライアルが高頻度で起こり得る。

低価格のため、商品がハズレだったとしても損失はたかが知れている。いちいち注意深く比較検討することもないのだ。

そんな購買スタイルが一般的な商品ジャンルにあって、マインドシェア(ヒトの意識に占める特定商品の割合)を維持し、競合する商品に競り負けないようにするには困難が伴う。

ハードグミ人気で「タフグミ」に追い風

では「タフグミ」はどうやってマインドシェアの闘いに打ち勝ち、消費者から選ばれてきたのだろう? 

百花繚乱状態にみえるグミ市場ではあるが、そこに2本の補助線を引いてみると、「タフグミ」が善戦しているわけが見えてくる。

まず1本目の補助線がハードグミとソフトグミを分ける線である。

グミは消費者の頭の中ではハードグミとソフトグミの2種類に大別されている。グミの硬さや食感の噛み応えによる分け方だ。

おそらく実際には硬さの度合いにいくつもの段階があるだろうが、消費者の頭の中ではあくまでシンプルに「ハード」「ソフト」の二分法なのだ。

そして、このハードグミ、噛み応えのある硬めのグミが、昨今は人気を集めるようになる。

噛むお菓子といえばコロナ禍以前はガムであったが、需要の減ったガムに取って代わったのが弾力性のあるハードグミだったのだ。

このことが「タフグミ」にとっては強力な追い風となった。

2022年9月のアンケート調査では、直近1年間にグミを食べた人に好きなグミのタイプを複数回答で聞いたところ、「ソフトタイプ」が6割、「ハードタイプ」が4割だったとい(PR TIMES 2022.9.30)

そのハードタイプの筆頭が「タフグミ」となる。先に触れたように同商品はこのハードグミで人気 No.1に選ばれているのだ。

「鶏口(けいこう)となるとも牛後(ぎゅうご)となるなかれ」ということわざがある。

大きな集団の末端にいるより小さな集団の先頭に立つほうがよいとの意味であるが、「タフグミ」はまさにそれなのだろう。

明治の「果汁グミ」やカンロの「ピュレグミ」など果汁系を中心に人気商品がしのぎを削るグミ市場にあって、ハードグミというアイデンティティによって「タフグミ」は埋没するのを免れたのだ。

しかし、実はそのハードグミのセグメント内においても競争は半端ではない。

明治の元祖グミ「コーラアップ」シリーズからはガッツリした噛み応えの「コーラアップザハード」、カンロからはハード食感の「カンデミーナ」シリーズがある。

さらに、UHA味覚糖の「忍者めし」シリーズからは鋼のようなハードな噛み心地をうたう「 鋼(はがね)」もその競争に加わる。

ハードグミ自体の人気が高まっていることもあり、それぞれ好評を博しているようだ。

男性ターゲットの打ち出しが奏功

競争相手が手ごわい中、「タフグミ」の善戦を説明するにはもう一本の補助線が要る。

男性向けか否かの補助線だ。

もともと「タフグミ」は、子供や女性向けの商品が多いグミ市場では珍しく男性をターゲットにしており、弾力性のある噛み応えはもちろん、大容量で大粒のキューブの形としたのも男性を狙ってのことだ。

パッケージデザインも黒を基調に「TOUGH GUMMY」という金の商品名を全面に押し出したデザインで、いかにもハードな印象で男性向けであることを伝えている。

多くの商品が個性を競い合うグミのフック棚にあって、黒のパッケージは異彩を放つ。

本ブログでも以前に取り上げたが、ちょっとしたフォン・レストルフ効果(孤立効果)といっていいだろう。

そして極めつきは「タフ」と銘打つそのネーミングだろう。

シンプルに「タフグミ」としたことがよけいに男性ユーザーをイメージさせるのだ。

「ハード」といえば物理的特性に使われることが多いが、「タフ」というと人格的な印象にもつながる。

その記号的なイメージの力で自分事化を誘い、男性が手を伸ばしやすくなった。

また、「タフグミ」の定番フレーバーがコーラやエナジードリンクという炭酸飲料系なのも男性のユーザーイメージを際立たせるのにはプラスに働いたであろう。

弾みをつけた新フレーバー投入や販促施策

「ハード」&「男性」の2本の補助線で商品を突出させ、マインドシェアの闘いに挑み、「タフグミ」は想定通り主に10~30代の男性から支持され、順調に売上げを伸ばしてきた。

もちろん、その軸足に沿って商品を活性化する種々の試みが効果的だったことも見逃せない。

カバヤ食品のニュースリリースを見る限り、「ジューシーボム メロン&レモン」「タフグミ エナジーゾーン」「デュアルパンチャー グレープ&グレープ」など新フレーバーも投入し、その新奇性によって商品に注目が集まるように仕掛けている。

また、「集中したい時に食べたいグミNo.1」に選ばれていることにちなみ、「タフグミ」のTwitter公式アカウントでは、商品情報はもとより、「集中」をテーマととしたキャンペーン情報も随時発信している。

2021年にはクイズプレイヤーの伊沢拓司が率いる東大発の知識集団「QuizKnock(クイズノック)」とコラボし、「3年タフ組! 集中力UPキャンペーン」と題した消費者キャンペーンも実施している。

受験シーズンにも合わせ、「QuizKnock」が「集中して勉強をするためのコツ」なども披露したという。

実はこの「集中」もまた「タフグミ」を際立たせる切り口となる。

「タフグミ」のパッケージには「集中したい時に食べたいグミNo.1」と書かれているが、もしもう一本補助線を引くとしたら、喫食シーンにも直結する「集中できるか否か」を分ける補助線であろう。

ただし、あまり「集中」を強調し過ぎると、喫食シーンを狭めてしまい、オーバー・セグメンテーション(過度な市場細分化)に陥る懸念がある。

ポジショニング戦略とは頭の中に補助線を引くこと

ここまで「タフグミ」の好調理由を説明するのに「補助線」という言い方をしてきた。

補助線とは本来、幾何学で、与えられた図形にはないが問題解決の助けとするために新たに描く線を指す。

実はこの補助線という考え方は商品のポジショニング戦略を発案する上でも有効となる。

消費者の頭の中に補助線を引き、その便益や競合商品との違いなどから「何たる商品か」を示すツールになり得るのだ。

たとえば牛丼チェーンの吉野家は「うまい、はやい、やすい」という3本の補助線で、消費者の頭の中の明確な位置取りに成功している。

今ではもう「うまい、はやい、やすい」に類する飲食チェーンは他にもいくつもあるが、吉野家がいち早く3本線と結びついたことで、マインドシェアを高めるのに効果を上げた。

手軽にお腹を満たそうとするニーズが発生したときに、「吉野家」の名がその候補として意識の俎上にのぼりやすくなったのだ。

「タフグミ」もしかりである。形や容量、噛み応えなどその商品特性を踏まえ、「ハード」と「男性」の補助線で商品をポジショニングしたことが奏功する。

そのネーミングやパッケージデザインの記号性にも助けられたであろう。もちろん、昨今のハードグミ人気にも後押しされる。

サッカー

サッカーには試合時間のうちどれだけチームがボールを保持していたかを示す「支配率(ボールポゼッション)」という指標がある。

一般には支配率が高いチームが優勢となるらしい。

しかし、実は一瞬でも相手チームにボールを奪われると、それまでの均衡が崩れ、ボールを奪取した選手が端緒となって素早いパスが繰り出される。

そして、一番いい位置にいた相手チームの選手にゴールを決められるということもあるのだ。

「タフグミ」はまさにそれだ。噛み応えのあるグムが徐々に人気を集め、ソフトタイプで果汁系のグミが支配していた市場の一瞬の隙を突き、一気にハードグミの「タフグミ」が決定力を発揮したのだ。

市場の潮目が変わる瞬間でもある。

優れたポジショニング戦略は二項対立に従う

商品のポジショニングを決める補助線を選ぶうえで、マーケターが知っておくべきことが一つある。

その補助線はなるべく単純な二項対立の概念を分かつ線とすることだ。

二項対立とは「二つの概念が矛盾や対立の関係にある」ことをいい、たとえば自分を起点にした位置関係を示す「右・左」「上・下」「前・後」などがその典型となる。

そのほか、「内と外」「生と死」「明と暗」「男と女」「西洋と東洋(非西洋)」なども典型的な二項対立の例としてよく挙がる。

そして、ポジショニング戦略を考案する際には、商品が対立し合う概念のどちらか一方を陣取れるような補助線を選ぶことだ。

そうすることで競合商品をもう片方の概念へと一網打尽に追いやってしまうようにする。

吉野家でいえば「うまい、はやい、やすい」なら、「うまい・まずい」のうちの「うまい」「はやい・おそい」のうちの「はやい」「たかい・やすい」のうちの「やすい」を陣取ったことになる。

「タフグミ」も同様で、「ハード・ソフト」のうち「ハード」を、「男性・女性」のうち「男性」を占拠したことになるのだ。

すると競合する商品はそれ以外の領域へ締め出されるように見えてしまう。

このため、二項対立にはなっていない概念(たとえばピンポイントの便益など)と紐づけた場合に比べると、商品のポジショニングがより明確になるのだ。

二項対立によるポジショニングは記憶されやすい

そして実は単純な二項対立の概念を選ぶことで副次的なメリットもある。

消費者に商品のことを覚えてもらう、すなわちマインドシェアを維持するのがたやすくなるのだ。

人の認識や記憶をつかさどる認知システムは、複雑さや分かりにくさを嫌い、単純な二項対立に従って意思決定をするのを好む。

そう主張する哲学者の弁を借りれば、たとえば「カレーはカロリーが高いから、お昼はお蕎麦にしよう」と何気なく判断するときにも、意識下では「健康」「不健康」や「安心」「不安」などの二項対立がベースラインとして働いているという(LEON 2022.6.2)

何かを決めることとは水面下にある二項対立のどちらか一方を選ぶことなのだ。

であれば、商品のポジショニングを決める際にも、人の認知システムをむしろ積極的に利用したほうがいい。

うまく噛み合うよう迎合したほうが、商品のその後の一連の記憶プロセス、記銘(符号化)・保持(貯蔵)・想起(検索)のいずれの段階でも有利となる。脳への負担が著しく少なくてすむのだ。

「陸」と「海」の二項対立 「海辺」はどっち?

二項対立の概念は、厳密には互いに排他的で重なりがないことを指すが、その定義にあまりとらわれる必要はない。

ウィキペディアの二項対立の項では、「陸と海」の対立概念を例にこのことを説明している。

本来は陸であれば海でないし、海であれば陸ではない。

すなわち、相互に排他的な関係にあるのだ。そして、陸と海を合わせると、地球の表面のすべてを網羅し、全体を構成することになる。

しかし、実際は多くの二項対立はあいまいさや重複をはらむ。たとえば「陸と海」という二項対立の場合、「海辺」はどちらに入るのかという問題が残るという。

吉野家の「うまい、はやい、やすい」も、いずれも程度の問題であり、「うまい」ならどこからがうまいのか明確な基準があるわけではない。あいまいさが残る。

しかし、それでも人は中間にある細やかなグラデーションには目をつむり、とりあえず単純に二分法で捉えることを好むのだ。

そうしないと脳にスムーズな情報処理のエンジンがかからない。

「わかる」ことは「分ける」ことから始まるのだ。

二項対立には社会の価値観が反映される

さらにウィキペディアによれば、二項対立には何らかの社会的な価値観が反映されているという。

たとえば「臆病者」といえば、暗黙のうちに「英雄」と対比されて「臆病者は良くない」というネガティブな意味づけがされる。

「うまい、はやい、やすい」もそうだろう。「うまい、はやい、やすい」こそが消費者が価値を置くことであり、「まずい、おそい、たかい」を選ぶ人はまずいないとの前提がある。

このことを表す典型的な例にフォルクスワーゲン・ビートルの広告「Think small.」がある。広告界の不朽の名作といわれる広告キャンペーンの一つだ。

当時の米国では「大きいことはいいこと(Think big)」という価値観を反映し、多くの米国人が自動車といえば大型車を選ぶ傾向にあった

しかし、それは本当に求められていることだろうか? 平均世帯人数が減少傾向にあった米国にあって、大型車にコストをかけることは賢い選択なのだろうか? 

そううすうすとは感じ始めていた米国人に「Think small.」という広告クリエイティブが新たな価値観を提示し、小型車の市場を切り拓く。その後、ビートルは米国市場で何年も売れ続けることになる。

商品のポジショニング戦略に二項対立の補助線を探すのなら、選んだ対立概念に反映される価値観にも着目すべきだろう。

自社商品がそのどちらを取り込めば市場に風穴を開けることができるのか? マーケターならそこまで見極めたいものだ。

二項対立によるポジショニング戦略の具体例

実は本ブログでも以前に、二項対立によるポジショニング戦略の成功例をいくつか紹介している。

まずは森永製菓の「チョコモナカジャンボ」だ。

「ジャンボ」と銘打ち、二項対立の「大きい・小さい」のうち、同商品は「大きい」に紐づき、対する競合商品は相対的に「小さい」の括りで一緒くたに捉えられるようになる。

やがて「チョコモナカジャンボ」は市場で突出するようになったのだ。

日清食品のヒット商品「0秒チキンラーメン」も二項対立による線引きの効果が鮮明となった例だ。

チキンラーメンを“そのままかじって食べる”用に開発された商品だが、調理時間が「0秒」という打ち出し方がインパクトを持ち、同商品のヒットを勢いづけた。

インスタントラーメンといえば、3分なり1分なりの調理時間を要することに人々の脳は慣らされている。

そこに突如「0秒」という銘打ち、すなわち二項対立の「有・無」のうち、「無」の領域を占拠することになる。

フォルクスワーゲンの「Think small.」のように、社会的な価値観の鮮やかな転換を提示した例も本ブログでは取り上げている。クレジットカードの「マスターカード」だ。

同ブランドは「プライスレス…お金で買えない価値がある。」の広告キャンペーンで知られるが、そのメッセージが市場を二分する補助線となった。

お金やモノとの結びつきが強かったカード業界にあって、逆説的に人とのつながりがもたらす「精神的な豊かさ」を打ち出したことで、ブランドが独特なオーラをまとうことになったのだ。

マスターカードが「精神的な豊かさ」と結びつくと、 それ以外のブランドはすべて対立概念の「物質的な豊かさ」に類するように見えてしまう。

人とのつながりが生む特別な体験を提供するのがマスターカードなら、業界トップのビザや他のクレジットカードはその対極にあって、あたかも物質的な体験、たとえば宝飾品やブランド物の衣服など自分を誇示するための消費を担うクレジットカードに見えてしまったのだ。

やがて決済額シェアではビザとは大きな開きがある「マスターカード」が、市場ではビザと並び立つほどの存在感を発揮するようになる。

今回は人気を集める「タフグミ」の事例を引き合いに、二項対立によるポジショニング戦略について解説した。

要は突き詰める「タフグミ」は「ハード」&「男性」のたった2本の補助線を引いたとで商品がヒットしたことになる。

にわかには信じがたいだろう。誰でも思いつきそうなことだ。

しかし、そこが「コロンブスの卵」なのである。

市場の主流軸に逆らう形で先鞭をつけるのは案外難しいものだ。「タフグミ」のような例もあることをマーケターなら頭の片隅に入れて置いてもいいだろう。

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