情報カスケード 究極の群集心理 多数派や権威に流される心理 炎上理由にも

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「情報カスケード」とは周囲の多数派の意見に(流されるように)従ってしまうことをいう。

自分の意見や折角集めた情報はどこかに追いやられ、どっと一方向の意見に引き込まれてしまう。

そして、この現象には、スタート時の初速の勢いがその後の成否を分けるという特徴がある。

実は「情報カスケード」はヒット商品が生まれる力学とも関係が深く、新商品のプロモーションにおいて、最初の一撃をどう講じるか? 

マーケターにとって思案のしどころなのだ。

目次

多数派に流される心理

行列

人気の飲食店や買物スポット行列ができているのを見て、ふと気づくと自分も並んでいたりする。本当は別の店に入ろうとしていたのにだ。

これはもう「情報カスケード」の中に呑まれてしまった典型的な例といえる。

「情報カスケード」とは、何らかの判断や選択をする際に、周囲の多数派の意見に(流されるように)従ってしまうことを指す。

自分の意見や集めた情報はひとまず無視されるのだ。

「情報カスケード」という言い方は知らないまでも、それに類する事象は誰もが日常的に経験しているだろう。

そもそもカスケードとは、階段状に流れる小さな滝のことをいう。

傾斜地にある庭園などで何段にも連なって水が流れ、涼を呼ぶ風景となる。

四の五の言う間もなく、人々が他の誰かの判断に次々と影響されることを、上の段の滝が下の段の滝をつくり、やがて大きな流れになるようすにたとえたのだ。

誰が最初に口火を切るかで結果が変わる

ここで一つ、ダニエル・カーネマン、リヴィエ・シボニー、キャス・R・サンスティーンの共著による「NOISE (上・下): 組織はなぜ判断を誤るのか?」で挙げられていた「情報カスケード」の例を手短に紹介しよう。

架空の例ではあるが、「情報カスケード」が生じるようすをわかりやすく示している。

会議 リーダーが発現

10人が参加する会議で、ある重要なポストに誰を採用するかを複数の候補者から決めているとしよう。

会議に参加していたA氏が口火を切り、1人の候補者を推す

するとA氏をよく知り、A氏に信頼を寄せているB氏も(確固たる意見があったわけではないが)A氏に賛同し、その候補者を推すという。

では三番目に意見を求められたC氏はどう出るか? 実はC氏はA氏やB氏が知らない、候補者に関する情報を持っていて、別の候補者を推そうとしていた。

しかし、結局はA氏やB氏の意見を尊重し、賛同してしまう。

自分が持ち合わせている情報以上に、A氏やB氏は何か十分な根拠があって推していると考えたのだ。

A氏とB氏が意見が一致していたことで、自分が異論を述べれば2対1の構図となることも少なからず影響していた。なんとなく言いづらかったのだ。

すると後に続く会議の参加者も次々に、A氏が最初に押した候補者に賛同し始める。

一種の同調圧力が働き、早くもカスケード現象が引き起こされてしまったのだ。最終的には満場一致で採用者が決定してしまう。

サイバーカスケードはなぜ起こるのか?

ここで重要なのはC氏は候補者に関してA氏やB氏が知らない情報を持ち合わせていたことである。

しかし、その情報は最後まで共有されることはなかった。

もし、C氏にB氏の前に意見を述べる順番がまわっていたなら、その情報が会議の場でも明かされ、A氏やB氏の意見が変わっていたかもしれない。

後に続く会議の参加メンバーたちの意見が一つの方向になだれ込むこともなかったかもしれない。

最終的に別の候補者が採用されていた可能性だってあるのだ。

ちょっとした話す順番の違いが人ひとりのキャリアを変えてしまい、採用する側の企業やチームにとっても、より適切な採用者を逃してしまうことにもなり得る。

一方向にどっと連鎖的に流れをつくってしまう「情報カスケード」は、個々の意見が十分にシェアされ、吟味される機会を集団から奪ってしまうという危うさをはらむのだ。

会議で拳を合わせ一致団結

とりわけ強い発言権を持った、支配的なリーダーがいる会議の場では、反対意見が言いにくくなり、付和雷同ともいえる傾向が強くなる。

そんな空気感が漂う中では、明らかに間違った判断でさえも正されず、まかり通ってしまうこともある。

このタイミングで異論を述べたら、周囲からどう見られるだろうか? 

そんな一抹の不安から会議の参加者たちは口をつぐみ、必要な情報の共有も妨げられ、容易に「情報カスケード」が発動されてしまう。

ネット上ともなると、一方向へなだれ込むカスケードの連鎖がより起こりやすいとの指摘もある。

「サイバーカスケード」という現象だ。

SNSなどを通じて、同じ考えや嗜好を持つ人たちの交流が進むことが一因となって、いつしか冷静さを失い、極端に偏った情報が流布されやすくなるという。

そのせいか「サイバーカスケード」は、炎上やフェイクニュースなどネガティブな文脈で報じられることが多い。

しかし、プラスの側面もあることを意識に刻んでおくべきだろう。

たとえば、クラウドファンディングで目標を大きく超える活動資金が集まるなど、カスケードの効果は社会を動かす力にもなり得るのだ。

“キックスタート”が成否を分ける

この「情報カスケード」は一見、マーケティングとは関係が薄いように思えるが、実はそうでもない。

ヒット商品が生まれる際にも、同様の原理が絡んでいることがある。

商品が人気を呼んで「バズっている」という状態は、いくつかのカスケードが積み重なって引き起こされているのだ。

リレー選手のスタート

この「情報カスケード」の一つの特徴が、スタート時が成否を分けることにある。

スタートダッシュが運命の分かれ目といっていい。

前述した「NOISE (上・下): 組織はなぜ判断を誤るのか?」で採用者を選ぶ会議の例でも、口火を切ったA氏の発言がその後の流れを方向づけている。

さらに歴史を振り返れば、関ケ原の戦いの直前、諸大名たちを招集して開かれた軍議もそうだ。

「家康に城を明け渡してまでもお味方します」との第一声が上がり、それによって流れが変わる。

豊臣方の大名たちをも味方につけて、徳川家康を天下分け目の合戦で大勝に導いている。

マーケターはその最初の一撃の威力を、過小評価してはいけない。

このことに関して、ネットワーク理論の世界的権威であるアルバート=ラズロ・バラバシが、著書の「ザ・フォーミュラ――科学が解き明かした『成功の普遍的法則』」で興味深いエピソードを披露している。

キーワードは「キックスタート」だ。

アマゾンの最初のレビュー

英国の作家R・J・エロリーの新しいミステリー小説「静かなる天使の叫び」に対し、最初のアマゾンのレビューに以下のような書き込みがあったという。

この見事なプロットについては、何も言う必要がない。だが、段落や章に私が立ちすくんだことだけは言っておこう。

血も凍るかと思えば疾走するようでもあり、時には詩的で気怠い雰囲気を醸し出している

文章の深みを真に味わうためには、2度、3度と読み返さなければならない……まさに壮大な一冊である

作家のエロリーは既に人気作家で熱心なファンも獲得していたが、この熱烈なレビューは新作にさらなる賛辞を引き寄せる強い勢いを生み出す。

そして結果的に「静かなる天使の叫び」は全世界で100万部を売り上げる、エロリーにとって最大のベストセラーとなった。

しかし、実はそのアマゾンの最初レビューは作家のエロリー自身が偽名を使って書き込んでいたという。

倫理的に問題のある「自演」行為だったのだが、それでも成功を始動(キックスタート)させ、売行きに弾みをつけたのだ。

このアマゾンのレビューに関するエピソードは「キックスタート」がカスケードの成否を握ることの特異な例に思えるかもしれない。

しかし、実はこの初速のインパクトは大規模なニュースサイトの実験でも裏付けられている。

高評価のレビューを最初に見た人は、そうでない人に比べ、好意的なレビューを書く比率が32%増加し、最終的な評価値は25%も上昇したという(川合 伸幸監修「『脳のクセ』に気づけば、見かたが変わる 認知バイアス大全」ナツメ社、2022年)

「生ジョッキ缶」をヒットさせた初速の一撃

本ブログでも「情報カスケード」が巧く機能した事例を取り上げている。大ヒットを記録したアサヒビールの「スーパードライ 生ジョッキ缶」だ。

フォロワーを多く持つインフルエンサーたちを含め、2,000人前後の人たちに、発売前に「生ジョッキ缶」を試飲してもらっている。

映画でいう先行試写会に近いだろう。

するとツイッターをはじめ、ユーチューブやインスタグラムなどでも、フタがフルオープンとなる「生ジョッキ缶」から泡があふれ出るようすが次々に投稿される。

この初速の一撃が人々の関心を引き、発売直後に大きなバズが起きたという。

また、やはり大ヒットしたヤクルトブランド初の機能性表示食品「ヤクルト1000」にも似た現象が起きている。

同商品がうたう「ストレス緩和」や「睡眠の質向上」の効果を実感するユーザーたちのリアルな体験談が口コミで野火のように広がったのだ。

その初速を稼ぐのに大きく貢献したのがヤクルトレディたちである。

話題が急速に拡散する「バズ」が狙って起こせるなら、世の中にあふれるインフルエンサーマーケティングの試みは百発百中のはずだ。

だが現実は「バス」を予測することは難しくマーケターは常に試行錯誤を繰り返すこととなる。

それでも「初動時のこの一撃なら案外効くのでは?」とふとひらめくよう、マーケターなら「情報カスケード」の原理を頭の片隅に入れておいてもいいだろう。

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