パナソニック ヒット商品分析 衣類スチーマー NI-FS790

パナソニックの衣類スチーマー
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パナソニックの衣類スチーマーが売れている。

並み居る競合商品を抑え、市場シェアは5割に迫るという。

ロングヒットの要因にはユーザー視点での継続的な商品改良によって、ペインポイントを解消し、使いやすさを向上させていったことがあるだろう。

単に「シワとり」用途にとどまらず、脱臭や除菌といった衣料ケア、「一着を長く着る」というニーズにも応え、SDGsやサステナブルへの意識とも接続させる。

やがてパナソニックの衣類スチーマーは生活に溶け込み、新たな生活文化の担い手に進化していったのだ。

目次

ロングヒット! パナソニックの衣類スチーマー

パナソニックの衣類スチーマーが売れている。

2013年の発売からの累計販売台数は370万台(20213.10~2022.11)を超え、市場シェアでも5割に迫るという(パナソニックのアイロン総合カタログ、2023年春)

衣料スチーマーは、主に衣類をハンガーにかけたままで高温のスチームを噴射し、簡単にシワを伸ばすのに使う。

しかし、簡易アイロンの機能を兼ね備えていたり、熱の力やスチームで除菌や消臭ができたりする商品も登場し、若い世代を中心に使う人が増えていった。

そして、そんな衣料スチーマーの市場を2013年の参入以来、ずっとけん引してきたのがパナソニックだ。

生活家電といえば、消費者ニーズをくみ取り、常に商品改良に取り組み、自動車でいうモデルチェンジを繰り返して新規ユーザーを獲得していくのが王道となる。

長いタイムスパンでとらえれば、新規ユーザーのみならず、買い替えや買い増しユーザーの需要も取り込める。

しかし、一方で、いったん市場が有望と判断されると他の家電メーカーが放っておかない

少し目先を変えた商品で追随してくるのが常である。

成長途上の市場であれば、時短や軽量化といったスペック競争の余地が残されているため、必ずしも後発企業が不利とは限らない。

衣類スチーマーの市場においても、東芝ライフスタイル、ティファール、アイリスオーヤマなどの競合メーカーが少しでも多くのパイを奪おうと特徴ある商品を投入している。

そんな中、パナソニックの衣類スチーマーは並み居る競合商品を抑え、圧倒的なシェアを占めて今日に至っているのだ。

快進撃はこうして始まった!

ではなぜ、パナソニックにはそれが可能だったのだろうか?

もともとパナソニックは家庭用アイロンでは定評があった。

家庭用アイロン市場で8年連続で国内メーカー出荷台数NO.1の座にあり、統計を遡(さかのぼ)れば2015年には5割を超え、2021年には6割に達している(パナソニックのアイロン総合カタログ、2023年春)

衣類スチーマーは厳密にいえばアイロンではないが、「アイロンといえばパナソニック」というブランド力の恩恵に浴することができたのだ。

一方、その従来からある家庭用アイロンだが、「一家に一台ある」のが当たり前という存在ではなくなりつつあった。

シワが付きづらい衣類や、洗って干しておくだけでシワが取れるといった衣類が増えたことが一因だという(価格.comマガジン 2023.5.3)

若い人たちを中心にアイロンを持たない人も着実に増えていたのだ。

そのアイロンに代わる受け皿としてパナソニックが力を入れたのが、アイロンよりもずっと手軽に使え、サッとシワが伸ばせる衣類スチーマーだ。

いちいちアイロン台を取り出す手間も省け、衣類をハンガーにかかたままでシワを伸ばせる。

それでいて、パナソニックは「2WAYタイプ」と呼んでいるが、フラットな「かけ面」も備え、ハンカチのアイロンがけやズボンの折り目つけなど簡易アイロンとしても使える。

男性を意識した商品の投入

パナソニックの衣類スチーマーは発売当初は女性用衣類に合わせて開発されていたという。

レーヨン素材でドレープ状のデザインなど婦人服には細やかな装飾が施されていることも多い。

衣類スチーマーなら従来のアイロンでは行き届かなかった箇所をふんわり仕上げられるメリットあったのだ。

しかし、その後は男性からもビジネスでの着用機会が多いワイシャツやスーツに使用したいというニーズが浮上し、男性のユーザーを意識した商品も投入していく(パナソニック Newsroom 2014. 2. 26)

平面的な男性の衣類に対応するため、よりフラットな形状のかけ面にしたのだ。

また、パナソニックの衣料スチーマーはもともと衣類に付いたタバコのニオイや飲食臭などの脱臭ができることが特徴の一つだったが、男性が気になる汗のニオイへの効果も期待できるという。

このことは男性ユーザーにとっては大きなメリットだろう。本体カラーも男性向けに黒が加わった。

快進撃を勢いづけたテレビCM

そして、パナソニックの衣料スチーマーの快進撃は2016年に放映されたテレビCMによって、さらに勢いづく。

向こうが透けてみえるほぼ透明のカーテン、しかもシワだらけのカーテン越し独り暮らしの男性の部屋を覗き見るシーンを想定してほしい。

CMの映像は、カーテンのシワでやや見えにくいが、男性が目覚まし時計の音で目を覚ますところから始まる。

どうやら寝坊したようだ。

するとその男性がこちらに向かってくる。

実はカーテン越しと思いきや、男性がその日に来ていく、シワだらけのビジネスシャツ越しの風景だったのだ。

視聴者はそのことにいきなり気づかされるが、男性が衣類スチーマーでシャツのシワを伸ばし始めると、あっという間に映像が鮮明になっていく。

その意表を突くCM表現のギミックとともに、忙しい朝にサッとシワが伸ばせる衣類スチーマーの鮮やかなパフォーマンスが強烈な印象を残す。

2023年モデルにみる進化の形

では2013年の市場参入から10年ほど経った今、パナソニックの衣類スチーマーはどんな進化を遂げているのだろうか?

パナソニックの公式サイトから、2023年3月に発売された「NI-FS790」のモデルを見ていこう。

サイトを訪れると「ハンガーにかけたまま、サッとシワとり・ニオイとり。除菌も。」と大きく書かれたコピーが目に入る。

従来から衣類スチーマーは「ハンガーにかけたまま、サッとシワとり」が売りだったが、今ではニオイとりや除菌の効果がセットのようだ。

サッとシワが伸ばせる秘密には強力なスチームの効果があるという。

「NI-FS790」はスチーム量がパナソニックの既存モデルよりも36%アップし、もはやスチームのパワフルさは従来のスチームアイロンにも劣らないという。

実は衣類スチーマーがアイロンの向こうを張って市場を広げるにあたって、このスチーム量が足かせとなる側面もあった。

いくら軽量で手軽に使えても、スチーム量が物足りないと感じる人たちもいたからだ。

パナソニックも新モデルの開発にあたっては、このスチーム量のアップに力を注いだのだろう。

「パワフルスチーム」「大容量なのに軽い」といった特徴を強く打ち出している。

約7分の間スチームが持続するため、衣類をまとめてケアできるともうたっている。

また、商品の説明で強調されていることの一つに、スピーディな立ち上がりがある。

新モデルを新モデルたらしめている特徴の一つだ。

衣類スチーマーにせよ、スチームアイロンにせよ、電源を入れてからスチームが出てくるまでにある程度の時間がかかる。

発売当初は40秒ほどかかっていたが、新モデルでは19秒まで短縮されたのだ。

「ハンガーにかけたまま、サッとシワとり・ニオイとり」というキャッチコピーのうち「サッと(颯とを実現すべく、初代モデルから改良を続けてきたのだろう。

忙しい朝の身支度の際に使おうする人にとってはうれしい進化だ。

この「サッと」を実現するのは立ち上がりまでの時間だけではない。

新モデルでは使いやすさも極めている。

スチーム量を増やすのに本体には大容量タンクが使われているが、それでも軽量でコンパクトなデザインを実現している。

そのため片手で楽々と扱える。

しかも持ちやすく、腕への負担を少なくする設計となっていて取り回しもいい。

ハンガーにかかけままの洋服にスチーマーを縦横無尽にあてることができるのだ。

しかも、パナソニックが「360°パワフルスチーム」と銘打つように、スチーマーをどんな向きにしようとスチームが出にくくなるということがない。

袖や裾(すそ)、襟など細かなところにも困ることがない。

すべては「タイパ」のために

パナソニックの公式サイトの「衣類スチーマーってどう便利?」のページには、もうすぐ家を出る時間なのに、着ていく服にシワがあるのに気づていしまう、そんなときこそ、新モデルの衣類スチーマーの出番だとある。

電源を入れて19秒で使え、サッとシワを伸ばせるため、コーディネートを諦めることなく出かけられるという。

東洋経済オンラインの2023年3月4日の記事には、AI研究の第一人者の弁として「脳はとにかく楽をしたがる器官で、どうしても“タイパ(タイムパフォーマンス)”が良いほうに流れてしまう」とある。

何も時間のない忙しいときだけではない。

比較的時間に余裕のあるときでも、人の脳は「タイパ」を望むのだ。

森永製菓のロングセラーブランド「チョコフレーク」が売れ行き不振で販売終了となった。

「スマホを見ながら食べる人が増え、手が汚れやすいチョコフレークは避けられるようになった」ことが一因らしい(朝日デジタル 2018.10.2)

ウェットティッシュなどいくらでも手に入るし、チョコフレークをつまんだ手が気になるなら、スマホをみるとき一拭きすればいい。

しかし、人の脳はそうは行かないのだ。

「タイパ」が悪いという印象が生むネガティブな感情がキャッシュとして脳にたまってしまい、やがてチョコフレークが「回避」の対象になってしまう。

これは生活家電も一緒で、「タイパ」が悪いという印象を一度持ってしまえば、たとえ気に入って買った家電であっても、いつしか使わなくなってしまう。

棚の奥に家電をしまい込んだ経験を持つ人は少なくないはずだ。

「衣類スチーマー」が生活に溶け込む

人は使わなくなった家電をわざわざ話題にしようとはしない。

反対に「タイパ」もよく高いパフォーマンスを発揮している家電なら熱心に推奨はしないまでも、何気なく人に話したりもするだろう。

そんなやりとりが積み重なって、そこにネット上の商品レビューなども加わり、その家電に関する評判が形成される。

そして、やがて市民権を得るようになるのだ。

口コミで人気となった高級トースターや美容ドライヤーなどはその最たる例だろう。

2013年の発売以来、モデルチェンジを重ね、ユーザーのペインポイント(困りごと)を解消していったパナソニックの衣類スチーマーもこの流れに乗ったといえる。

文化とは人と人とが関わるなかで、模倣や言語伝達によって学習され、定着していく生活様式をいうが、パナソニックは「衣類スチーマーを使う」という一種の文化を育ててきたといえる。

そのために、立ち上がりまでの時間の短縮操作性の向上、従来のスチームアイロンに劣らないスチーム量など改良をいくつも重ねてきた。

さらに、「タイパ」が今までになく価値を持つようになった、昨今の時代背景も追い風となった。

シワとりから衣料ケア、SDGsへ

そしてもう一つ、衣類スチーマーが生活文化を担うのに追い風となったのが、衣類を清潔に保ちたいというニーズの高まりだ。

パナソニックの「衣類のニオイに関する実態調査」でも、衣類の脱臭の必要性を感じる人は多く、とりわけ悩みの種は「制服やスーツ、ジーンズ、帽子等、洗いにくい衣類についた汗のニオイ」だという(PR TIMES 2021. 9.3)

公式サイトの「衣類スチーマー NI-FS790」のページには、パナソニックの衣類スチーマーが生活5大臭(生乾き臭、ペット臭、タバコ臭、汗臭、飲食臭)に加え、加齢臭、防虫剤臭まで脱臭できるとある。

また、除菌やダニ由来や花粉由来のアレル物質も抑制することができるともある。

洗いにくい衣類を清潔に保つにはクリーニングに出すという選択肢はもちろんあるが、物価が高騰している今、クリーニング代も節約したいのが実情だろう。

ピンポイントでシワを伸ばすだけにとどまらず、手軽に脱臭や除菌などの衣料ケアをしたい、さらにはクリーニング代も節約したいというニーズにパナソニックの衣類スチーマーはうまくはまったのだ。

このこともロングヒットを支えた要因の一つだろう。

ここにさらなる追い風として、昨今のSDGs(持続可能な開発目標)やサステナブルへの意識の高まりも加担する。

SDGs サステナブル

パナソニックが消費者調査でサステナブルファッションに関する意識を聞いたところ、「衣類を大切に長く着たいと思うようになった」と答えた人が9割近くに達したという(PR TIMES 2022.10. 9)

パナソニックの衣類スチーマーなら、たとえばニットなどの繊維がのびた部分にスチームを浸透させることで、衣類をふっくらさせて元の形状へ近づけることができる。

「一着を長く着る」というニーズを満たし、サステナブルファッションの実現に一役買うのだ。

本ブログのZARAの記事で取り上げたが、ZARAはサーキュラー・エコノミー(廃棄物は出さずに資源を循環させることで経済を回すしくみ)の実現を見据え、廃棄物ゼロ(ゼロ・ウェイスト)を目指している。

その手立てとして、不要になった商品を顧客から回収し、寄付やリサイクルすることに取り組んでいる。

また、衣類を末永く使うことも廃棄物削減につながるとして、顧客に洋服の消耗を抑えるための「ランドリーケア」の啓発活動も進めている。

パナソニックもしかりだ。

衣類スチーマーのプロモーションの一環で「一着を長く着る」という考え方の普及啓発にも取り組むらしい。

衣料スチーマーが新たな生活文化に

今回の記事ではパナソニックが衣類スチーマーをどう生活に溶け込ませ、市場を開拓していったかを見てきた。

ユーザー視点での継続的な商品改良によって、ペインポイントを解消し、使いやすさを向上させ、ユーザー側に極力ストレスやネガティブな感情を生じさせないようにする。

利便性云々(うんぬん)というより、普段使いしていて「しっくりくる感覚」をユーザーに持ってもらう、その一念でパナソニックは取り組んできたのだ。

さらに「シワとり」というピンポイントの用途にとどまらず、脱臭や除菌、さらには衣料ケアにまでその用途を広げ、SDGsやサステナブルへの意識とも接続させる。

本ブログでは以前に作業服専門店チェーンのワークマンを取り上げたが、ワークマンは「声のする方に、ゆっくり進化する」が信条なのだという。

まさにパナソニックの衣類スチーマーもそれなのだろう。

生活家電をロングヒットさせることとは新たな生活文化を創造することにほかならない。

パナソニックの取り組みは、私たちにそう教えてくれている。

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