MAYA理論/MAYA段階 大ヒット商品の共通点とは?

MAYA理論 MAYA段階
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「先進性」と「馴染みやすさ」を兼ね備えたモノやコンテンツ、サービスが広く大衆の心を掴む。そう唱える考え方がある。

「MAYA理論」だ。

「Most Advanced Yet Acceptable」の略で、群を抜いて先進的ではあるが、受け入れやすいといった意味になる。

「MAYA段階」という言われ方もされ、「MAYA」の段階を少しでも超えてしまうと急速に人々の心は離れていく。

そのぎりぎりのところ(臨界点)で踏み止まることがもっともアピールするらしい。

すなわち、「どこか馴染みを覚える驚き」こそが人々の心を捉える。

端緒はインダストリアル・デザインの領域であった。

しかし、今や「MAYA理論」は、モノやコトに関わるあらゆる領域でヒットを掘り当てる黄金則(ゴールデン・ルール)だといっていいだろう。

目次

先進性と馴染みやすさの両立がヒットにつながる

知る人ぞ知る「MAYA理論」。「Most Advanced Yet Acceptable」という4つの単語の頭文字をつなげたアクロニム(頭字語)だ。

日本語に直訳すなら「先進的ではあるが、受け入れやすい」といったところだろう。

ここで「Yet」は「〇〇なのにXXだ」という逆説や対比の意味を表す。

およそマーケティングの世界でヒットを放ちたいなら、ちょっと先を行く先進性を打ち出して消費者をワクワクさせつつ、それと同時に馴染みやすさも感じさせる

「MAYA理論」はそんな先進性と馴染みやすさの両立がヒットにつながるという一つの黄金則(ゴールデン・ルール)を指す。

先進的な建造物 アバンギャルド

あまりに時代の先を行き過ぎていて、消費者を置いてきぼりにしてはいけない。

とはいえ、あまりに馴染みやすくひっかかりがなくては消費者を退屈させてしまう。

その両者がせめぎ合うゾーンがモノやサービスのヒットを引き寄せるのだ。

「advanced」というと日本語では「先進的」「高度な」「進歩的」などと訳されることが多い。

そのため、どうしても科学技術系のことと結びつけてしまいがちだが、必ずしもそうではない。

企画やアイデアの斬新さや、思いもよらない、意表を突かれる状況もまた「advanced」となる。

ちょっとした日用品でも、あるいはモノに還元されない音楽や演劇、ダンスなども、そのコンセプトに斬新さが光れば「advanced」なのだ。

そして「MAYA理論」ではこの「advanced」に加え、「acceptable(馴染みやすさ)」を兼ね備えていることがヒットを掘り当てる鍵だと説く。

初めて見るのにどこか既視感がある。

斬新だと思えるのに親しみや愛着も感じる。そんな感覚に近い。

たとえば、大ヒット映画の「シン・ゴジラ」や「シン・ウルトラマン」はその好例だろう。

誰もが知る大定番のコンテンツに意外性や斬新さを吹き込み、予定調和を裏切る。

まさに「Most Advanced Yet Acceptable」のゾーンを狙い撃ちしている。

結果的に古参のファンのみならず、幅広い客層を惹きつけることにもなった。

「MAYA」ゾーンを超える一歩手前がもっともアピールする 

この「MAYA理論」は「MAYA段階」という言われ方もする。

「段階」は「進んでいく、または変化する過程の一区切り」という意味だが、人々に最大限にアピールするには絶妙な「MAYA」の段階に踏み止まっていなくてはいけない。

その「MAYA」の段階を少しでも超えてしまうと人々は急速にそっぽを向き始めてしまう。

足裏のツボを刺激するリフレクソロジー 痛気持ちいい段階

足裏のツボを刺激する「リフレクソロジー」でいう「痛気持ちいい」にも似ているだろう。

ただ単にツボを刺激されて「気持ちいい」だけでは印象に残りにくい。

しかし、快楽と苦痛の入り混じった「痛い」と感じる寸前の段階、その「痛気持ちいい」段階に踏み止まることこそがプロの施術者のなせる技なのだろう。

そのため、「リフレクソロジー」に病みつきになる人も出てくるのだ。

そして、「MAYA」か、「MAYA」でないかのぎりぎりの嗜好ゾーン(臨界点)を探り当てるのは練度の高いマーケターのなせる技なのである。

「ネオフィリア」と「ネオフォビア」 人の根源的な欲求を同時に満たす

この「MAYA理論」を最近になって紹介した本にデレク・トンプソン著「ヒットの設計図」(2018年、早川書房)がある。

商品やコンテンツ、サービスなどがヒットした要因を心理学や社会学の見地から分析している内容だが、そのヒットの要因の一つに「MAYA理論」を取り上げているのだ。

その本には「MAYA理論」に関する以下のような説明がある。

消費者のほとんどは、「ネオフィリア(好奇心が強く、新しいものを発見したいと思う)」であると同時に、重度の「ネオフォビア(あまりに新しいものを怖がる)」でもある。

優れたヒットメーカーとは、新しいものと既存のものを絶妙な加減で組み合わせて、「意味がわかる瞬間」を作り出す天才たちである。

「どこか馴染みを覚える驚き」を作り出す人たちと言ってもいい。

川べりで網を使って採集する少年 人の脳は元来、新しい刺激やチャレンジを好む

いきなりネオフィリアと聞き慣れない言葉が出てくるが、いわゆる「新しもの好き」の人たちのことだ。

そうだと分かれば、周囲に一人や二人、そういう人が思い浮かぶのではないだろうか? 

個人によって濃淡はあるものの、人の脳は元来、新しい刺激やチャレンジを好むらしい。

その一方で、人は「ネオフォビア(フォビアは恐怖症の意)」でもある。

新しいことや経験のないことには不安を覚え、つい遠ざけようとしてしまうのだ。

新しいものへの興味関心と抵抗感の折り合いをつけ、「どこか馴染みを覚える驚き」を作り出す人たちが優れたヒットメーカーになり得ると著者のデレク・トンプソンは説く。

ちなみに、この「MAYA理論」は「理論」とあるため、心理学か何かの領域から生まれたように聞こえるが、実はそうではない。

「インダストリアル・デザインの父」とも称される世界的なデザイナー、レイモンド・ローウィーの経験則に由来するという。

ローウィー氏は米国を中心に様々な企業のデザインコンサルタントを務めている。

たとえば、米国大統領専用機「エアフォース・ワン」米石油大手シェルのホタテ貝印のロゴマークは彼のデザインによるものだ。

日本でも日本専売公社(現・日本たばこ産業)の「ピース」不二家のFの文字に花をあしらった「ファミリーマーク」のデザインなどを手掛ける。

この著名なデザイナーは、自分の経験を通していかに大衆の心を掴むかを見抜いていたのだ。

「MAYA理論」で読み解くマーケティング事例

本ブログでも、ヒット商品を取り上げてきたが、「MAYA理論」を内包していると思われるものがいくつかある。

誰もが知る馴染みやすいもの同士を意外な形で組み合わせ、「どこか馴染を覚える驚き」を人々に与えたことでヒットにつなげている。

その一つが丸亀製麺の「丸亀うどん弁当」だ。

「うどん」と「お弁当」という “ありそうでなかった” 組み合わせで、意外性はあるものの、わかりやすく馴染みやすい商品コンセプト。

それまで丸亀製麺に来ていなかった層を惹きつけることにもつながった。

また、AOKIの「パジャマスーツ」も同様だろう。

くつろげるのにきちんと感もあるという在宅勤務用のスーツを、「パジャマ」「スーツ」という本来は相容れないウェアの名まえを組み合わせ、まさに「どこか馴染みを覚える驚き」を人々に与えた。

海外メディアが報じたこともあり、スーツ業界では異例の販売着数を誇るヒット商品となった。

さらに金鳥の「ゴキブリムエンダー」がある。

見た目はエアゾール殺虫剤なのに、「バルサン」や「アースレッド」などのくん煙剤のような効果が期待できるという商品。

既成の概念を覆(くつがえ)す画期的な商品だが、くん煙剤がエアゾール殺虫剤に入れ替わった体(てい)で、十分に馴染みやすさもある。

それゆえ、商品は大ヒットし、今では金鳥の屋台骨を支えるまでに成長している。

「ヤクルト1000」やアサヒビールの「スーパードライ 生ジョッキ缶」も同様だろう。

広く知れ渡った既存ブランドの強みを生かしつつ、意想外の新機軸を打ち出すことで「どこか馴染みを覚える驚き」を作り出し、スマッシュヒットとなった。

およそ消費財のマーケターなら日々判断の連続となる。

新商品を開発するにしても、商品コンセプトから、ロゴやネーミング、容器やパッケージのデザイン、広告企画などいくつもの選択肢から最適と思えるものを選ばなければならない。

消費者調査にかけて反応を拾えたとしても、評価が分かれることもあり、必ずしも白黒がはっきりつけられるとは限らない。

そんな時、偉大なデザイナーの経験則、「MAYA理論」に照らして判断を下すのもいいだろう。

やや独創的な領域にあるなら、どうやったら馴染みやすさを打ち出せるのか? 

あるいは逆に、既に馴染みの領域にある案なら、どうやったら新奇性を打ち出せるのか? 

もちろん、どこからどこまでが「MAYA段階」なのか、その見極めは容易ではないが、「MAYA理論」はマーケターなら頭の片隅に入れておきたい概念の一つだろう。

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