単純接触効果 なぜ、視界に入るだけで好意が芽生えるのか?

単純接触効果
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「単純接触効果」とは接触頻度が高まるにつれて、対象が好ましく思えてくる効果を指す。

「見れば見るほど好きになる」という、極めてシンプルな原理で効果も絶大だ。ブランドの好意形成を狙うマーケターなら覚えておくべき概念の一つだろう。

ただし、その効果が十分に発揮されるためには、あるタイミングを見計らう必要がある。

本記事では、「単純接触効果」に関する心理学的な実験を紹介しつつ、その効果を引き出す「千載一遇の機会」について解説する。

目次

「単純接触効果」とは? 別名「ザイアンス効果」とも

特定のブランドが好きになる、気に入るということはよくある。

なんとなくひいき目でみてしまい、つい手を伸ばして買いたくなる。マーケターならその好意がどこから来るのか、ぜひ知りたいところだろう。

好意形成には複合的な要因が絡むことは容易に想像できるが、その一つでも特定できれば、攻略や改善の対象になり得る。

そして、その好意の有力な源泉となり得るのが、今回取り上げる「単純接触効果」だ。

見たり、聞いたり、触ったり、あるいは匂いを嗅いだりと、接触頻度が高まるにつれて、対象が好ましく思えてくる現象を指す。

呼び名に「単純」とあるだけに「見れば見るほど好きになる」という、その原理は極めてシンプルだ。

それでいて効果は絶大らしい。

しかも汎用性が高く、対象が人物であれ、音楽やアートであれ、香水の香りであれ、自然に好意が湧いてくるという。

「単純接触効果」は1960年代後半に心理学者のロバート・ザイアンスが提唱しており、別名「ザイアンス効果」とも言われる。

ザイアンスが行った実験では、まずアメリカ人の実験参加者に見知らぬ人の顔写真をいくつも見せる。

その見せる回数を顔写真によって変えたのだが、その後に好意度を尋ねると、事前に見せた回数が多い顔写真ほど好感が持たれていた。

また、顔写真だと生来の顔の好みも好感度に影響してしまうことから、純粋に接触頻度の効果だけとも言い切れなくなる。

そこでザイアンスはアメリカ人の実験参加者にはまったく馴染みのない、トルコ語の単語や中国語の漢字を使って実験を試みている。

それでもなお、頻度の効果が大きいということが改めて確認されたという。

なぜ、度重なる接触が好意につながるのか?

ではなぜ、単純な接触頻度が好意度を高める要因になるのか? 

諸説あるが、有力な説に「知覚的流ちょう性誤帰属説(misattribution of perceptual fluency)」というのがあるようだ。

よく知らない対象でも、繰り返し接触しているうちに、「いったい何なのか?」が段々とわかってくるようになる。

徐々に霧が晴れてくるのだ。

情報処理もより迅速に容易になり、かかる負担はずっと少なくなる。すなわち、知覚的流ちょう性が向上するのだ。

同時に自分に危害を与えるものではないと感じ始め、緊張感や警戒心が徐々に解かれていく。

どうやら、その心地よさや安堵感を、人は好感によるものだと誤って解釈(誤帰属)してしまうらしい。

すなわち、自分の心の中に好意が芽生えていると錯覚してしまうのだ。

社会心理学の古典的名著であるロバート・B・チャルディーニ著「影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか」(2014年、誠信書房)では、好意の形成要因を紐解くのに1章が割かれており、ザイアンス以外の研究者の「単純接触効果」に関する実験結果が紹介されている。

ある実験ではまず、実験参加者に数人の顔写真をスクリーン上に高速で次から次へと見せる。

一枚一枚の顔写真が映し出される時間はわずかで、参加者はどの顔も覚えてはいない。

しかし、それでもなお、その後、同写真の人物と実際に対面したときは、スクリーンに映された回数が多かった人物ほど好感が持たれていたのだ。

さらに、最も多くスクリーンに映された顔写真の人物が言うことには、他のどの人物の意見より、実験参加者たちは納得したという。

また、別の研究者による実験では、実験参加者が記事を読む間、あるカメラのバナー広告が繰り返し表示される。

5回表示させた場合、10回表示させた場合、全く表示させなかった場合を比べると、バナー広告の表示回数が多かったほど、カメラに対して好印象をもったのだ。

この時も、広告の表示時間はごくわずかで、記事を読まされていた参加者たちは広告が表示されていたことすら気づいていなかったという。

私たちの生活実感とも合致する「単純接触効果」

二人の男の子が一緒に遊ぶ

こうした実験結果を持ち出さなくとも、「単純接触効果」は私たちの生活実感とも合致している。

最初は全く何とも思っていなかった人なのに、何の気なしに繰り返し接触していくうちに、段々親しみを感じるようになる。

いつしか仲良くなり、気が付けば生涯の友やパートナーになっていたりする。

最初はちょっとした脇役でドラマに出演していた俳優が、次第に注目され始め、準主役、しまいには主役にまで躍り出るようになる。

俳優が所属する芸能事務所もそうした段階的な効果をきちんと承知していて、用意周到に露出の頃合いを見計らっていたりするものだ。

さらに悪徳商法や詐欺事件などでは、犯人が事前に何度も被害者に接触し、巧妙に信用させていたという話しもよく耳にする。

そしてマーケティングの世界では、広告やプロモーションにこの「単純接触効果」がそこかしこで効果を発揮している。

テレビCMやインターネット広告、屋外広告や交通広告、チラシ、ダイレクトメールなど生活に溶け込んだメディアを介して、頻回に消費者の目に留まるよう設計されているのだ。

また、広告とはいえないが、スーパーやコンビニの陳列棚で商品が視認されるのも「単純接触効果」を引き起こしていると考えて間違いない。

ノベルティグッズ

もちろん、対面による勧誘や販売においても「単純接触効果」は健在だ。

最初は名刺をもらって挨拶を交わしただけなのに、いつしか営業スマイルに絆(ほだ)され、高額の商品を買ってしまったという経験を持つ人もいるだろう。

対面販売ではペンやメモ帳、カレンダーなど、ブランド名やロゴマークの入ったノベルティが多用される。

実は、それらも「単純接触効果」を見越してのことなのだ。

頻繁に視界に入る環境に身を置くことになり、ふと気づけば「こういうのもありだな」と近しさを感じていたりする。

「単純接触効果」を生む千載一遇のチャンスとは?

天窓から青空が見える 機会の窓(ウィンドウズ・オブ・オポチュニティ)

ここまで「単純接触効果」の万能ぶりを説明してきたが、この現象には、その効果が出現しやすい「機会の窓(ウィンドウズ・オブ・オポチュニティ)」なるものがあるようだ。

「機会の窓」とは、窓が開いている間だけのごく限られた、千載一遇のチャンスをいい、その「単純接触効果」が生じやすい好機に、ひとしきり接触を試みなくては好意を湧かせるのも難しくなるらしい。

「機会の窓」といえば他にも、幼児の言語習得が急速に進む語彙爆発期、発病の初期など治療効果が出やすいハネムーン期、労働力人口の厚みが増し経済成長を促進しやすい人口ボーナス期などがある。

いずれも限られた期間の好機であり、タイミングが何より重要となる。

「単純接触効果」もしかりなのだ。

その好機を逃してしまうと、頻回に渡る接触の試みがかえって嫌悪感を生み、逆効果になってしまうことさえある。

では「単純接触効果」の千載一遇のチャンスはどういうときに巡ってくるのか? 

どんなときに接触を開始すればいいのか? 

それは好意形成の対象となるモノやコトに対し、好きでも嫌いでもなく、ニュートラルな心理状態にあるときである。

特段インパクトもなく、何とも思っていないぐらいがむしろ狙い目なのだ。

そんな状態であれば、視野に入ったときに、興味本位に詮索されたり、ネガティブな先入観でラベリングされることもなく、メンタルブロック(思い込みによる意識の壁)が発動される心配はまずない。

逆に言えば、もともと嫌悪感がある対象や、第一印象で欠点ばかり目についてしまった対象に、接触を重ねたところでその嫌悪感がかえって強化されてしまう。

嫌なものは嫌なのだ。

職場の反りの合わない上司や同僚など、四六時中接していても嫌いなままなのはこうした理由による。

「単純接触効果」を狙うならさりげなさが肝心

マーケターが「単純接触効果」によって好意形成を狙うなら、商品やサービスに対し、少なくとも拒否感を持たない人たちをターゲットにすべきだろう。

そして、しばらくはあくまでさりげなく、接触を続けることだ。

「単純接触効果」は刺激が小さすぎてほとんど意識にのぼらないときこそ強まることも知られており、むしろターゲットとなる人たちが存在に気づかないぐらいがちょうどいい。

そのほうがバリアを開いたままでいてくれるのだ。

それゆえ、当面は露骨な宣伝臭は封印すべきだろう。攻めの姿勢は好意が形成された後からでも遅くはない。

先に触れた「影響力の武器」の実験でも、実験参加者に事前に顔写真を見せた時間はあまりにも短く、参加者はどの顔も覚えていなかった。

また、カメラのバナー広告を見せた実験でもはやり表示時間が短く、表示されていたことすら参加者たちは気づかなかった。

それでも好印象が形成されていたのだ。

よく恋愛ドラマで「あっ、自分はこの人のことが好きなのかもしれない」と不意に気づく瞬間が描かれることがある。

相手としばらく会えなくなるとわかったときや周囲の知人からぴしゃりと指摘を受けたときなどがドラマのお約束の設定だ。

それまでまったく気づいていなかった恋愛感情にふと目覚めるのである。

そんな知らず知らずのうちに好意が芽生えていたというのが「単純接触効果」のひとつの理想の形だろう。

繰り返しの接触を短期間で、間隔を空けずに

そして「単純接触効果」はこの機会の窓が開いている短い期間に、頻回に、間隔を大きく空けずに接触を重ねるのがポイントだ。

あまりのらりくらりと接触を続けても、好意が芽生える前に、見飽きられてしまうリスクもある。

1回あたりの接触時間はさほど重要ではなく、小刻みに頻度を重ねることが重要だ。

また、「単純接触効果」は当然ながら同一対象との反復接触が原則となるが、接触のたびに、周辺的要素などちょっとした変化を加えると、過剰感が意識されにくく好意形成にはプラスに働くこともあるという。

よく広告キャンペーンという言い方をするが、このキャンペーン(campaign)とはある特定の成果を出すために、ひとしきり行う一連の軍事行動や社会運動などをいう。

それを広告プロモーションに転用したのだ。

まさに「単純接触効果」の醸成を狙って、好機を逃すまいと短期決戦に打って出る試みと軌を一にしているといえるだろう。

「ノースフェイス」や「ワークマン」の人気の一因に「単純接触効果」

本ブログでも、この「単純接触効果」が影響したであろう事例をいくつも取り上げている。

筆頭はアウトドアブランドの「ザ・ノース・フェイス」だろう。

タウンウェアとして定着し、目に付きやすいロゴの入ったウェアを着ている人をとにかくよく見かけるのだ。

ノースフェイスのウエアを着たことのない人でさえ、接触する頻度が増えれば、ついついブランドに親しみを覚えてしまうことになる。

また、統一された佇まいの店舗の存在も「単純接触効果」を生む重要な源泉となる。

作業服専門店チェーンの「ワークマン」がその好例といえるだろう。

「作業着」を「機能性ウェア」へ再定義し、闘う土俵を広げた「ワークマンプラス」がヒットする。

そのため、一般の人々の目に触れる機会が格段に増え、従来の作業服専門店の「ワークマン」にも一般客が来店するようになったという。

「マスターカード」のブランディングにも「単純接触効果」が一役買っているといえる。

世界の決済額シェアでは「ビザ」に大きく水をあけられているが、世界中の加盟店の数では、わずかながら「マスターカード」が「ビザ」を上回っている。

「プライスレス・キャンペーン」と相まって、店舗網における露出の機会が徐々に好感を生み、マインドシェアの点ではビザと並び立つブランドへと躍進を遂げたのだ。

「単純接触効果」は10回の接触までなら好意度は上昇するものの、それ以上は横ばいになるという説もあるが、10回という数字にそれほど普遍性があるとは思えない。

マーケターが覚えておくべきは、ブランドの好意度を上げるのに、根気よく接触を重ねるという手立てもあるということだ。

担当するブランドが常に目をひく斬新さや独自性を持ち合わせているとは限らない。たとえそうでなくともやり方はある。

イソップ童話の「北風と太陽」にたとえるなら、北風のように正面から風を起こすのではなく、じわじわと温かみを感じさせ、消費者が自ら寄ってくるようにするのだ。

そんなアプローチをここぞというときに迷わず行使できるようにしたい。

大一番の機会を逃さないためにも、「単純接触効果」なる原理をマーケターなら頭の片隅に入れておいてもいいだろう。

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