「見ためスーツ、着心地パジャマ。」のコンセプトで、コロナ禍の大ヒット商品として脚光を浴びたAOKIのパジャマスーツ。
人気は今も健在だが、オフィス回帰と相まってちょっとした需要の変化が起きている。
ビジネスシーンでスーツの着用機会が格段に増えたのだ。
名まえにパジャマとつく以上、「外回りの営業や出張にパジャマスーツでも大丈夫か?」と不安になる向きもあるだろう。
そこでAOKIが新た打ち出した一手が「パジャマスーツ プレミアム」の展開だ。
素材や仕立てにこだわり、商談などビジネスの大事な場面に着用しても遜色のないアイテムに仕上げたという。
今回の記事では「見ため本格ビジネススーツ、着心地パジャマのまま。」とうたうプレミアムシリーズの実力に迫ってみたい。
パジャマスーツの快進撃
「見ためスーツ、着心地パジャマ。」のコンセプトを打ち出し、一世を風靡したAOKIの「パジャマスーツ」。
上下セットで1万円台の格安スーツながら、きちんと感があってパジャマのような着心地。
2020年11月の発売以来、在宅勤務やリモート会議に重宝され、たちまち人気を呼ぶ。
インパクトのあるネーミングにも後押しされ、2021年には紳士服業界のみならず、日本の消費市場を代表する大ヒット商品に上り詰める。
多くのメディアが同商品の快進撃を取り上げ、年末のヒット商品ランキングを賑わせる存在となった。
その経緯については本ブログの以下の記事でもまとめている。
口コミの評判も健在
そのパジャマスーツ、人気は今も健在でAOKI全体の増収にも貢献しているようだ(PR TIMES 2024.3.11)。
口コミも活況でX(旧ツイッター)で検索する限り、パジャマスーツに関する投稿が尽きることがない。
お笑いコンビ「かまいたち」を起用したテレビCMが話題を呼んでいることもあるだろう(2024年4月時点)。
口コミの評判は総じてよく、未だ購入経験のない人たちからの期待感も高い。
ネーミングのわかりやすさが口の端にのぼりやすくしているのだろう。
オフィス回帰の一手に プレミアム
しかし、そんなパジャマスーツにも今、昨今のオフィス回帰と相まって、ちょっとした需要の変化が起きている。
ビジネスシーンでスーツを着用する機会が格段に増えたのだ。
パジャマスーツのユーザーであれば、その着心地のよさ、手軽さは手放したくはない。
着たまま寝転がって寝落ちできるという快適さ。
そんじょそこらのストレッチスーツの比ではないのだ。
しかし、果たして通勤やオフィスでパジャマスーツまかり通るだろうか?
カジュアル化が進んだオフィスならまだしも、取引先に出向くのはアリだろうか?
失礼にあったりしないだろうか?
名まえに「パジャマ」とある以上、既に着用経験のある人でも少なからず抵抗はあるだろう。
パジャマスーツの購入経験が未だない人なら、なおのこと不安なはずだ。
そこでAOKIは機を見るに敏、新たな一手を打ち出す。
「パジャマスーツ プレミアム」の展開だ。
通常のビジネススーツと遜色ない「きちんと感」をさらに追求したという。
「着心地パジャマ」はそのままに、よりパリッとしたスーツらしさが際立ち、結婚式などハレの日の正装としても十分に通用する仕上がり。
黒の取りそろえもあるため、お葬式での着用も可能だろう。
プレミアムと銘打ってはいても、価格は上下合わせても2万円を切る手ごろさだ。
ではAOKIは、このプレミアムシリーズでどう「きちんと感」を追求したというのか?
同シリーズを象徴するアイテム、「ウールジャージパジャマスーツ」(2024年春の新作)を例にそのポイントを追っていこう。
尾州産ウールの上質な質感
プレミアムシリーズにはいくつかラインアップがあるが、いずれも本格的なビジネススーツらしい「きちんと感」を出すために生地の素材に趣向を凝らしている。
その筆頭となるのが「ウールジャージパジャマスーツ」だ。
「見ためは正統派スーツで着心地パジャマ」の両立を目指しウール混ジャージ生地(ウール38%)を採用したという。
しかも世界三大ウール生地産地の1つである尾州(びしゅう)のウール。
この「尾州」は愛知県の尾張地域を指し、木曽川の恵みを受け、古くから織物産地として発展したきたところらしい。
公式サイトには尾州産ウールを用いることで、高級感のある風合いや色の深さを追求し、商談などビジネスの大事な場面に着用しても遜色のないアイテムに仕上げたとある。
たしかに素材にウールが入ると肌触りが違うのは誰もが知るところだ。
ウール混紡のストールなどでその癒されるような感覚を実感したことのある人も少なくないだろう。
しかし、実はその触覚は見た目にも大きく影響する。
「視覚的触感」と呼ぶらしいが、触覚と視覚は想定以上に影響し合っているのだ。
AOKIはワンランク上のウール生地を使うことで、商談のような至近距離で相手と向き合うシーンでもその風合いがきちんとした印象として伝わることを見越したのだろう。
スーツの内側をアップグレード
表地の質感から来る見た目の印象だけではない。
プレミアムシリーズの「ウールジャージパジャマスーツ」では、普段は目立たないスーツの内側、内仕様にもこだわった。
パジャマスーツでは初となる「大見返し」を採用しているのだ。
「大見返し」とは、スーツの内側全体を裏地でおおう「総裏」とは異なり、表地を広くとって裏地の面積を最低限に減らした仕様のこと。
その減らす加減がポイントらしく、「総裏」のような重さを抑えつつ、軽やかながらシルエットが崩れない程度に仕上げることから高度な技術を要するという。
最近のビジネススーツでもこの「大見返し」がよく使われており、ちらりと見える流線形のラインが見た目のアクセントとなる。
エレガントでいかにも本格的でおしゃれなスーツという印象を周囲に与えるのだ。
また、この「大見返し」仕様にしたことで、ペンや名刺入れをしまえる内胸ポケットをつけられるようになった。
ポケットからパッと出せる利便性も備え、ビジネスシーンにスッと馴染み、着ている本人でさえパジャマスーツであることを忘れてしまう感覚となる。
きちんとした印象のスラックス
同じプレミアムシリーズでカラーや素材を上下そろえてスーツ風に着るなら、スラックスの「きちんと感」もポイントとなる。
「ウールジャージパジャマスーツ」のスラックスはノータックですっきりきれいめシルエット。
前開きのファスナーでベルトループも付いているため、見た目はビジネススーツのスラックスとまったく変わらない。
一方で、ドローコード(ヒモ)で腰回りを締めることもできる2way仕様のため、シャツアウトでスマートカジュアルな装いも重宝する。
もちろん、パジャマスーツはセットアップが基本で着回しのよさが特徴。
ジャケットをプレミアムシリーズで、パンツは従来のパジャマスーツから選び、別カラーで着用してもいいだろう。
オフィスカジュアルから商談時の一着に
従来のパジャマスーツであっても外回りや出張用に着るのもまったく問題はないだろう。
ストレッチ性の高いジャージ素材に、AOKIが培った立体縫製を施してスーツのようなきちんと感が実現されている。
それでも従来のパジャマスーツだとバレないか心配なら、自分の中であえて線引きするのもいい。
ここぞというとき、たとえば取引先との商談用といった具合に、プレミアムシリーズを一着そろえておくのだ。
ありていにいえば、「本格的なビジネススーツ」だと周囲に錯覚してもらうのがミッションとなる。
周囲にその分かりやすいシグナルを発するために、AOKIは素材や内仕様においてより手の込んだ工夫を施したのだ。
本格スーツの見た目を実現させつつ、着用している本人はすまし顔で「着心地パジャマ」を存分に享受すればよい。
価格もプレミアムだからといって急に高くなることはない。
同社のオンラインストアで「ウールジャージパジャマスーツ」の価格をみると、ジャケットは10,989円、パンツ7,689円 (いずれも税込、2024年4月時点)とある。
従来のパジャマスーツと比べてせいぜい2割増しといったところだ。
なお、今回の記事では「ウールジャージパジャマスーツ」に焦点を当てたが、同シリーズの2024年春の新作にはほかにもバリエーションがある。
地球環境に配慮して再生繊維を使用していたり、ひんやりとした接触冷感性を備えていたり、あるいは自宅で洗えるものまである。
ウール素材にこだわらず、用途や見ための風合いで選ぶのがいいだろう。
いずれも本格ビジネススーツとして遜色ない仕上がりとなっている。
ジャケットはS~BLLと豊富なサイズバリエーションが用意されており、自分の身体にフィットするサイズを選べばよりシャープな印象を与えられるだろう。
金のパジャマスーツ プレミアム
もし、プレミアムシリーズよりさらに上のランクを「勝負スーツ」として持っておきたいなら、「金のパジャマスーツ プレミアム」の選択肢もある。
素材と仕立てにさらにこだわった上級ラインだ。
価格は2万円台後半となるが、その価格でラグジュアリーな雰囲気と、パジャマスーツだとはまずバレない安心感が手に入るのだ。
コストパフォーマンスの点では申し分ないだろう。
一説によれば人の物事との向き合い方には2つのタイプがあるという。
いつも最高の結果を求める「マキシマイザー(利益最大化人間/Maximizer)」と、「ほどほど」でよしとする「サティスファイサー(満足化人間/Satisficer)」だ(なぜ選ぶたびに後悔するのか)。
「マキシマイザー」は最高のモノを得ようと情報をとことん求め、比較検討を怠らない。
しかし、際限のない追求は、失望感や渇望感と常に隣り合わせで、必ずしも生活の質の向上にはつながらないようだ。
その点、「サティスファイサー」は自分の中で基準を設け、そこをクリアさえすれば、たまたま手近にあったものでも満足する。
やみくもに高みを追わないのだ。
多くは望まず、「足るを知る者は富む」の道を歩む人たちといっていい。
おそらくパジャマスーツは「サティスファイサー」のモードにある人たちにうってつけなのだろう。
「マキシマイザー」はそもそもスーツに「見ためスーツ、着心地パジャマ。」の両立を求めない。
高額なフルオーダースーツをも見据え、スーツ特有のヒエラルキーを追い求めることになる。
あくまで着心地の快適さが優先で、本格ビジネススーツの印象さえ与えればよい。
そこを基準とする「サティスファイサー」なら、AOKIが打ち出した「パジャマスーツ プレミアム」は会心の一着になり得るだろう。