エレコムはどこの、どんな会社? その強みの源泉とは?

エレコム
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パソコン・スマートフォン周辺機器メーカーとしてほぼひとり勝ちのエレコム。

マウスやキーボード、モバイルバッテリー・充電器、スマートフォンケースなどデジタル周辺機器の10部門でトップシェアを獲得している。

その最大の強みが年間4,000もの新商品を投入する「高速開発」だ。

工場を持たないファブレス企業ゆえの機動性を生かし、「Fail fast、Learn fast(失敗を恐れず、失敗から素早く学べ)」と言われるアジャイル開発を粛々と実践する。

昨今はユーザーが思い描く理想像から逆算するアマゾン流「ワーキング・バックワーズ」の考え方を倣い、商品の質と機能性に磨くをかけることに焦点を当てているという。

目次

デジタル周辺機器の雄、エレコム

パソコン・スマートフォン周辺機器メーカーとしてほぼ1人勝ちしている企業がある。

エレコムだ。

マウスやモバイルバッテリー、スマートフォンケース、ワイヤレスイヤホンなどのデジタル周辺機器なら、ふと気づくとエレコムの商品だったという人も多いだろう。

モバイルバッテリー
人とモバイルバッテリー

エレコムの公式サイトをみると、昨今はヘルスケア、美容・健康、アウトドア、調理家電などのジャンルにも商品を盛んに投入している。

テレビCMのような派手な広告は一切なく、ブランド名も「ELECOM」と英字で表記されるため、どこの国の会社だろうなどとふと頭をよぎった人もいるかもしれない。

しかし、本社を大阪にかまえるれっきとした日本の企業である。

調査会社のBCNによれば、マウスやキーボード、モバイルバッテリー・充電器、スマートフォンケースなどデジタル周辺機器の10部門でトップシェアを獲得しているという(PR TIMES 2023.1.19)

PCやスマートフォン本体のような主役は張れないが、その周辺領域で「おっ、これはいい!」と思える、心憎いほど勘所を押さえた商品をエレコムはぶつけてくる。

しかも値段は手ごろだ。

商品主導(product-led)で知名度獲得

エレコムのユーザーからは「気づいたら家にエレコムの商品がたくさんあった」という声が届くという(DIAMOND SIGNAL 2022.2.26)

どこかフリーミアム(freeとpremiumの造語)的だといってよい。

フリーミアムとは無料ないし格安のサービスから連鎖的に顧客を獲得し、その便利さに納得した一部の顧客が有料版に移行することで収益を上げていくビジネスモデル。

クラウド上でソフトウエアを提供する企業に成功例が多く、ZOOMがその典型だろう。

ZOOMは日本でまったく知名度のなかった状態からコロナ禍に入って家庭やオフィスに急速に浸透している。

エレコムもハードウエアを売る企業ながら、周辺機器ゆえに気軽に試せる。

家電量販店にいけばふつうに置いてあるのも後押しとなる。

エレコムという認識もなく使い始めると、いつしかその便利さや快適さに気づく。

そして、ある瞬間からティッピングポイント(傾き瞬間/転換点)を超え、エレコムというブランド名が意識に上るようになるのだ。

それは広告に頼らず、あくまで商品主導(product-led)で同社の知名度がまた1つ積み上がる瞬間でもある。

強さの神髄「高速開発」

そのエレコムの強みの1つに「高速開発」がある。

約2万点もの商品を取り扱うエレコムだが、常に超高速サイクルで商品開発を行い、年間4,000もの新商品を投入するという。

しかし、一方でその新商品とほぼ同じ数の商品が毎年消えていくらしい(日本経済新聞 2022. 11.1)

「まずは世に出し、売れなければすぐにやめる」というのが同社のポリシーなのだ(日本経済新聞 2019.8.8)

新陳代謝が繰り返され、3~4年でほぼ全ての商品が入れ替わっている。

デジタル機器の分野はとりわけ、たとえばWi-Fi(無線LAN)であれば、新規格でより高速な「Wi-Fi6」が登場するなど、市場のテクノロジートレンドの移り変わりが目まぐるしい。

エレコムは持ち前の高速開発によって、その時々で求められる商品を迅速かつタイムリーに市場に投入できる体制を築き上げてきたのだ。

一方で、旬を過ぎた、低収益の商品は即断で打ち切られる。

それゆえ高水準の収益性を維持できているという。

ビジネスの世界では「進化論」を唱えたチャールズ・ダーウィンが言った(実際は違うらしい)として広く定着している言説がある。

最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。

唯一生き残るのは、変化に対応できる者である

まさにその言説通りの世界がエレコムでは繰り広げらているといえよう。

「デザインのエレコム」との評判も

その過程で、商品自体も、そして開発に携わる人員もいっそう鋭敏に研ぎ澄まされていく。

「Fail fast、Learn fast(失敗を恐れず、失敗から素早く学べ)」と言われるアジャイル開発を実践し、その渦中で常にもまれるのだ。

公式サイトには同社は人々に快適さや便利さを提供するいい商品「グッドプロダクツ」の追求をしているとある(エレコム公式サイト)

「グッドプロダクツ」といってもスペック的な機能や性能にとどまらない。

プロダクトデザイン

使い勝手がよく、生活に溶け込むプロダクトデザインもその射程に入る。

「デザインのエレコム」として既に市場で定評を得ており、2023年度には15商品のシリーズで日本デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞を受賞している(PR TIMES 2023.10.5)

たとえば、AC充電器であれば、片手でレバーを押すと楽にコンセントやタップから軽い力で抜け、力の弱い子どもや高齢者の負担の少ないユニバーサルデザイン仕立てになっている。

ワイヤレスマウスであれば、高さと角度にこだわったエルゴノミクス(人間工学)形状で、自然に手を添えるだけで操作ができ、長時間使っても疲れない。

見た目の継ぎ目のないやわらかな曲線とやさしい色調で作業空間にもすっとなじむ。

まさに工業デザインでいわれる「形態は機能に従う(Form Follows Function)」(機能性を追求するとデザインの美しさに行く着くの意)を具現化したマウスといってよい。

エレコンの商品案内の説明には「かゆいところに手が届く」との表現がよく使われているが、単なる宣伝文句ではないことがよくわかる。

ファブレス企業ゆえの強み

こうした「高速開発」が可能となる背景には、エレコムが工場を持たないファブレス企業の道を選んだことが大きい。

日本でいえばニトリやユニクロ、バルミューダなどが該当するが、製造設備にお金をかける必要がないため、それだけ商品の企画や開発、マーケティングなどに経営資源を集中できるのだ。

エレコムの公式サイトによれば、商品の製造を委託する提携工場やベンダーは、品質・コスト・供給体制を総合的に勘案して選定しているという。

その生産委託先の7割弱は中国の工場となるが、その多くは大規模な設備は持たないため、働く人の数を調整して機動的に増減産に対応できるらしい(日本経済新聞 2020.7.1)

売れると見た商品は増産し、動きが鈍いと見た商品は躊躇せずに新旧入れ替える。

そんなファストファッション業界のような早業をやってのけるのもファブレス企業ゆえなのだ。

柔軟で緊密なサプライチェーンを着々と築き上げてきたエレコムだが、実はそこにもう1つ重要なプレイヤーが絡んでいる。

主に家電量販店やライフスタイルショップを担当する同社の営業部隊だ。

過剰供給や品薄を防ぐ適切な在庫管理に一役買うとともに、何が売れ筋かをいち早くつかむ役割も果たす。

「高速開発」を側面から支えているのだ。

さらには売場の構成やセット販売の企画など「売れる仕組み」をトータルに提案し、店舗側の売上アップに貢献することも念頭に置いているという。

アマゾン流「ワーキング・バックワーズ」

エレコムには企業としての信条や行動方針を定めた「クレド(credo/ラテン語で「信条」の意)」がある。

クレド

そこから浮かび上がるのは常に成長し、新たな機会や領域に挑み続ける企業像だ。

商品開発においても「より楽しく、より快適で、より創意工夫にあふれる付加価値の高い商品・サービス」を果敢に創り出すことを目指す。

その具現化に向けてエレコムは「高速開発」にさらに磨きをかける。

高速開発にはこだわり続けるものの、質の高さや機能性をより高めていく方針だという(日本経済新聞 2022.11.2)

その手立ての1つが海外市場の開拓も踏まえたEC事業(電子商取引)拡大の取り組みだ。

アマゾンサイト

ECチャネルではリアル店舗とは異なり、エンドユーザーとダイレクトにつながる

量販店を経由せずにニーズをビビットに捉えることが可能だ。

そこからスペックやデザインなどユーザーが本当に求めているものを割り出し、商品開発に努めていく。

これまでのリアル店舗向けとは別にEC向け商品の開発も本格化させるという。

そんなエレコムが倣(なら)おうとしているのがアマゾンの「ワーキング・バックワーズ」の考え方だ。

バックワーズ(backwards)は「後ろから」の意味で、「ワーキング・バックワーズ」とは最初にあるべき顧客体験を明確にし、その絵姿から逆算して開発に取り組むことを指す。

ワーキングバックワーズ

今ある技術の延長線上に何ができるかを考えるのではない。

家電量販店のバイヤーにどうしたら気に入ってもらえるかでもない。

まずはユーザーは自分たちの生活がどうありたいと望んでいるのかを徹底的に議論する。

そのユーザーの理想の世界を起点に、どんなソリューションが求められているのか?

今ある技術では何が足りないのかを逆算して考えていく。

たとえばアマゾンで「ワーキング・バックワーズ」によって生まれた最初の商品の1つが2009年に発売された電子書籍端末「キンドル」だという(ダイヤモンドオンライン 2022.2.18)

最初にユーザーはデジタル端末を使ってどんな読書体験を望むのかを考え、まだ開発も未着手の段階からいきなりプレスリリース(報道関係者向けの発売発表用資料)の形にまとめたという。

その明文化された読書体験を起点にすることで次々にアイデアが生まれる。

ディスプレイには液晶パネルではなく、「E-Ink(イーインク)」と呼ばれる電子ペーパーを採用し、紙に印刷されてるかのように文字をくっきり表示できるようにした。

キンドル

そして携帯電話の通信網を使って、パソコンやWi-Fiにつなごとなくコンテンツを「キンドル」から検索して購入し、直接ダウンロードできるようにしたのだ。

今ではありふれたこととはいえ、発売当初は画期的だったという。

マーケットイン×プロダクトアウト

エレコムがアマゾン流の「ワーキング・バックワーズ」を実践するのを強固に支えるのが同社の横浜技術開発センター(YTC)だろう。

YTCの拡充・移転を伝えるプレスリリース(PR TIMES 202.2.8)には以下のようなくだりがある。

マーケットイン志向に加え、技術トレンドに基づいたプロダクトアウト志向の製品開発を

製品を開発する際、マーケットイン志向によって「必要とされているモノ」を開発する流れがあります。

YTCではそれに加え、技術面でのトレンドを把握し追求することで、他社との差別化を図った製品として「技術トレンド発信の製品開発」も行うことが可能です。

このようにYTCでは独自性の高い製品開発やその提案を行っています。

これはまさにアップル創業者の故スティーブ・ジョブズが遺したとされる以下の名言に通じるものだろう。

You can’t just ask customers what they want and then try to give that to them. By the time you get it built, they’ll want something new.

顧客に何が欲しいかを聞いて、それを与えようとするだけではいけない。

完成したときには、彼らは何か別の物を欲しがるだろう

すなわち、ユーザーが今望むものを提供することに安住していてはいけない。

その少し先を見据え、ユーザーが思いもしなかった、しかし実際に形にされると「そうそうこういうが欲しかった!」と快哉を叫ぶような商品マーケットインとプロダクトアウトの合わせ技で開発していく。

エレコムはキンドルを開発したときのようなアマゾン流の「ワーキング・バックワーズ」を模範にし、その境地にたどり着こうとしているのだ。

コーポレートロゴに秘めた意味とは?

エレコムのロゴの下に「LIFESTYLE INNOVATION」というタグラインが添えられているが、その2文字の間にMの文字に似た青色のアイコンが入っている。

これはエレコム「エレコム ブリッジ」と呼ばれるもので、ライフスタイルとイノベーションをつなぐ懸け橋を象徴しているのだという。

その「M」に似た文字はわざと曖昧さを残してあり、また橋の形にも見えるし、実はタテにすると「E」にも見える。

「ELECOM」の「E」と「M」をあらわしていて、すなわち他ならぬエレコムが懸け橋になるという思いが込められているのだ。

どんな最先端の技術であっても、それが広く人々の生活に普及しなければイノベーションを起こしたことにならない。

そのキープレイヤーにエレコムがなるとの宣言を込めたロゴなのだ。

周辺機器として徹底して使いやすさにこだわり、パソコンやスマートフォンの普及に努めてきたエレコムならではこだわりがそこにはある。

冒頭でも触れたが、エレコムは目下、美容家電調理家電など新領域にも盛んに商品を投入している。

調理家電のプロジェクト担当者は「気づいたら家にある調理家電がエレコムだった」と言われるような、人々の生活にそっと寄り添う当たり前の存在になりたいと語っている(DIAMOND SIGNAL 2022.2.26)

エレコムはそんな人々のライフスタイル全般に溶け込む存在になっていくのだろうか?

ファブレス経営の機動性はどう生かされるのだろうか?

エレコムの「高速開発」の今後の進化は注目に値するだろう。

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