日本コカ・コーラのペットボトル入りコーヒー「コスタコーヒー」が好調だ。
コスタコーヒーとはイギリス発祥の老舗カフェチェーンで、コカ・コーラ社の傘下に入った後、2020年春に日本に進出。
日本でのカフェチェーンの本格展開はこれからであるが、先陣を切ったペットボトル入りコーヒーが想定以上の反響を得ている。売れ行きも好調という。
その成功の要因をひとことで言えば、「マスプレミアム」というブランド・ポジショニングを狙ったこと。
「RTD(Ready to Drink)」の手軽さには惹かれつつも、バリスタが手淹れしたようなクオリティのコーヒーを望む人たちの心をつかんだのだ。
それは競合ブランドがひしめく日本のコーヒー市場にあって、競争の少ない手つかずの市場でもあったのだ。
ヨーロッパのカフェブランドが日本の市場に存在感
コスタコーヒーの名まえを知っているだろうか?
イギリス発祥の老舗カフェチェーンで、ヨーロッパやアジアなど45カ国で約4000店舗を展開しているヨーロッパNO.1のカフェブランドだ。
さしずめ、ヨーロッパのスターバックス的な位置づけのブランドといっていいだろう。
同ブランドは2019年にコカ・コーラ社の傘下に入る。
2020年春に日本に進出し、業務用ルートの開拓を着々と進めていた。
そして、2021年春に日本コカ・コーラからペットボトル入りコーヒーが発売され、その知名度を一気に高めることになる。
ブランドアンバサダーを務める俳優の米倉涼子を起用したテレビCMも話題を呼び、ブランド認知率は80%近くまで跳ね上がる。
年間の累計ユーザー数も約1400万人に達している(ダイヤモンド・チェーンストア・オンライン 2023.5.1)。
缶コーヒーやペットボトルといった「RTD(Ready to Drink)」のブランドにせよ、スターバックやタリーズコーヒーのようなカフェチェーンにせよ、日本には勢いのあるコヒーブランドがいくつもある。
手頃な価格のコンビニコーヒーなども加わり、ブランド間の競争は年々激しさを増していた。
そんな市場に割って入ってわずか3年、コスタコーヒーは日本のコーヒー市場で確かな存在感を示すに至ったのだ。
販売実績も好調という。
「マスプレミアム」というブランド・ポジショニング
その躍進の要因といえば、ひとえに「マスプレミアム」というブランドのポジショニング戦略にある。
「プレミアム」だけならブランドのサブネームや広告のキャッチフレーズでよく使われており、もはや耳新しくはない。
しかし、「マスプレミアム」となるとそうそう聞く言葉ではないだろう。
これは「手が届く範囲のプチ贅沢」を日常に取り入れることを指す(NewsPicks 2022.9.26)。
コスタコーヒーはプチ贅沢ニーズを満たすプレミアム感と、それを日常的に取り入れてもいいと思える「手の届きやすさ」の両立を目指したブランドだったのだ。
そして、その特異なブランドのポジショニング(消費者の頭の中の位置取り)が速やかな市場浸透に勢いをもたらすことになる。
プレミアム感はどう担保されるのか?
では、この「マスプレミアム」のうち、プレミアム感はどう担保されるのか?
プチ贅沢ニーズはどんな形で満たされるのだろう?
コスタコーヒーは今や、ドリップコーヒー向けの粉末など品ぞろえも増えつつあるが、ここではひとまず、ブランド浸透のけん引役を果たしたペットボトル入りコーヒーに焦点をあて、プレミアム感の建付けを見ていこう。
プレミアム価格
まず、価格が少々高めなことがある。通常のRTDのブランドより2割ほど高い。
こうした値付けはプレミアムブランドのお約束といっていいだろう。
コカ・コーラの「ジョージア」やサントリー食品インターナショナルの「ボス」などにもプレミアムをうたい、価格が高めに設定されたものもある。
しかし、コスタコーヒーはそのさらに上をいく価格設定になっている。
この価格差が消費者にはプレミアム感のわかりやすいシグナルになり得るのだ。
また、同じ日本コカ・コーラの「ジョージア」とのカニバリゼーション(共食い)を最小限に抑えることにも貢献することになる。
パッケージデザイン
続いて視覚的にプレミアム感を伝えているのがそのパッケージデザインだ。
ブランドのシンボルカラーである「コスタレッド」が使われ、深みのある上質な雰囲気を漂わせている。
コーヒーの味がある程度わかる人なら、エスプレッソの特有の豊かな香りや芳醇なコクにまで連想が及ぶだろう。
「1.3倍のコーヒー豆使用」のアイコンも目につく。
通常のPETボトル入りコーヒーなどと比較して、1.3倍のコーヒー豆を使用していることを示すもので、ひとランク上のコーヒータイムに誘うシグナルとなっている。
グラフィックデザイン以外にも、容器自体もほっそりとしており、上質さがギュッと詰まった印象を与える。
ランク下のRTDブランドとは違って容量で勝負していないのだ。
しかも、飲み口が広く、開けた瞬間に香りが広がるのだという。
サブブランドの名まえにも2023年春からは「プレミアム」と入った。
「コスタコーヒー カフェラテ」、「コスタコーヒー ブラック」がそれぞれ「コスタコーヒー プレミアムラテ」、「コスタコーヒー プレミアムブラック」となったのだ。
テレビCM
さらにそこにブランドアンバサダーを務める俳優の米倉涼子を起用したCMのイメージがプレミアム感を引き立てる。
2023年春のCMでは、街中で米倉涼子が「コスタコーヒー」のキャップを空けた瞬間の香りの良さに静かに感動するシーンを描く(PR TIMES 2023.3.9)。
シンボルカラーである「コスタレッド」が引き立つような映像全体の色調も印象的だ。
コクや味わいへのこだわり
では肝心の中身はどうなのだろう? プレミアムと銘打つに足りるのだろうか?
コスタコーヒーの公式サイトによれば、プレミアムコーヒーとしてのこだわりのポイントには、高級豆と100%国産牛乳があるという。
コスタコーヒーは母体のカフェチェーンで使用されているブレンド「シグネチャーブレンド」と同比率のブレンドを使っているが、そのブレンドはコクのある深い味わいを実現する高級豆がベースとなっている。
しかも、「1.3倍のコーヒー豆使用」のアイコンが示すように、使われるコーヒー豆の量自体も通常のペットボトル入りコーヒーと比較すると1.3倍にも上る。
また、ラインアップに連ねる「プレミアムラテ」や「フラットホワイト」には100%国産牛乳を使用し、しっかりとしたミルクを味わえる設計になっている。
こうしたコクや味わいへのこだわりは消費者からも好反応を得ているようだ。
コスタコーヒーのペットボトル入りコーヒーが日本市場に初めて投入された際、「おいしい」「コーヒーの味わいがしっかりしている」などとSNSで大きな反響を呼んだという(日経クロストレンド 2021.5.25)。
その味わいの評価も手伝って、想定を超えた売れ行きとなり、一時は出荷停止に追い込まれたほどだ。
ターゲット戦略
また、このプレミアムな打ち出しはコスタ―コーヒーのターゲット戦略にも直結する。
コスタコーヒーが狙い撃ちするのは「RTD(Ready to Drink)」の手軽さには惹かれつつも、バリスタが手淹れしたようなクオリティのコーヒーを望む人たちだ(東洋経済オンライン 2022.12.9)。
日経クロストレンドの2021年5月25日付の記事には、日本コカ・コーラが調べた日本のコーヒー市場の内訳が掲載されている。
コーヒー市場のトータルの規模は3兆円ほどあり、缶コーヒーやペットボトルといったRTDコーヒー類が約1兆円、手淹れやカフェ、インスタントなどの非RTDコーヒーが約2兆円に大きく分かれるという。
ユーザー数では、RTDコーヒーの飲用者が600万人、非RTDコーヒーは4300万人。また、RTDコーヒーと非RTDコーヒーを併飲するという人もいて、その数はおよそ2400万人となる。
このうち、コスタコーヒーがターゲットに据えるのは、RTD/非RTDの併飲者と手淹れコーヒーしか飲まないようなこだわりの強い層だ。
たしかに丁寧に手淹れしたコーヒーが理想ではあるが、自宅や外出時にサクッと手軽に味わいたいというモードのときもあるだろう。
そこに実はコスタコーヒーが見据えたアンメットニーズ(未充足ニーズ/unmet needs 否定のun+meetの過去分詞)があったのだ。
ジョージアやボスのようなRTDに特化したブランドとはひと味違うプレミアム感を打ち出し、そのニーズを満たしつつ、RTDの手軽さを両立することでコスタコーヒーはスターダムを駆け上った。
しかも、そのことが同じコカ・コーラの「ジョージア」とパイを食い合うカニバリゼーション(共食い)の回避にもつながったのだ。
「マス(=手が届く)」はどう担保されるのか?
アフォーダブルとは?
ここまで「マスプレミアム」のうち、「プレミアム」に貢献する要素をいくつか挙げてきた。
では一方で、「マスプレミアム」の「マス」の部分にコスタコーヒーはどう対応したのだろう?
コスタコーヒーは「マスプレミアム」を「手が届く範囲のプチ贅沢」と定義しており、「マス」とは「手が届く」を指すことになる。
この「手が届く」はおそらく英語の「affordable/アフォーダブル」から来ているのだろう。
日本語でも「アフォーダブル・ラグジュアリー」などといったいい方をする。
従来のハイブランドより手頃な価格で買えるバッグブランドの「コーチ(COACH)」や「フルラ(FURLA)」などがそのくくりの代表的なブランドだ。
コスタコーヒーも「アフォーダブル」な状態を目指しているが、それは価格が通常の2割高程度ということだけではない。
消費者が場所やシーンの制約を大きく受けることなく、ふと気づくと自然にコスタコーヒーにアクセスしている状況をつくりだすことをブランド戦略の主軸に据えている。
それが同ブランドが仕掛けるマルチ・プラットフォーム戦略だ。
マルチ・プラットフォーム戦略
このマルチ・プラットフォーム戦略とは、コスタコーヒーを様々な生活シーンで味わってもらうために複数のチャネルをかまえることをいう。
具体的には以下の5つのチャネルである(NewsPicks 2022.9.26)。
- RTD(Ready to Drink)
- スーパーやコンビニ、自販機で買えるペットボトル入りコーヒーなどの販売
- 自宅用
- レギュラーコーヒーやコーヒーベース(牛乳などで割って飲む希釈タイプ)などホームカフェシリーズの販売
- PTS(Proud To Serve)業態
- レジャー施設、ホテル、オフィス、飲食店などでの業務向け卓上マシンの展開
- カフェ店舗
- カフェチェーンの展開
- コスタエクスプレス
- オフィスやコンビニエンスストアなどの無人カフェマシンの展開
以上の重層的なチャネルを通して消費者とのコンタクトポイントを増やし、コスタコーヒーはトータルコーヒーブランドを目指すという。
たとえば、しばらくコンビニでコスタコーヒーを買っていなかったとしても、レジャー施設やシェアオフィスなどでコスタコーヒーの卓上マシンをみかけたりする。
あるいは街中でコスタコーヒーのカフェをみかけたりする。
そんな状況下で、要所要所の点をつなぐような形でブランド認知やブランドへの愛着が積み上がることを狙うのだ。
5つのチャネルのうち、自宅用では、自宅で毎日手軽にコスタコーヒーが楽しめるよう、「コスタコーヒー ホームカフェ ブレンド 粉」、紙パックで大容量の「コスタコーヒー ホームカフェ ブラック」、6倍濃縮タイプで牛乳などで割って飲む「コスタコーヒー ホームカフェ コーヒーベース」がある。
PTS(Proud To Serve)業態は、フルオートの卓上エスプレッソマシンによる展開で、既に1100カ所以上(2023年3月時点)の施設や店舗に導入されているという。
設置場所は公式サイトで検索できる。
無人カフェマシンのコスタエクスプレスは、タッチパネル式で手軽に本格的なコーヒーが味わえるもの。
コンビニエンスストアでテスト的な導入も始まっているという。
カフェチェーンの展開
そして、コスタコーヒーがトータルコーヒーブランドとして存在感を発揮するのに、今後大きく貢献するのがカフェチェーンの展開だ。
総合商社の双日と外食大手のロイヤルホールディングスが共同出資会社の双日ロイヤルカフェを設立し、コスタコーヒーのフランチャイズチェーン展開を始める。
2023年度中に関東地方を中心に10〜30店舗の出店を想定しているという(日本経済新聞 2023. 3.16)。
トータルコーヒーブランドへ続く道のり
ここまでコスタコーヒーが「マスプレミアム」のポジショニングを確立するための取り組みを見てきた。
プレミアムと銘打つに恥じないクオリティの高さはもちろんのこと、価格設定やパッケージデザイン、広告、そして「マス(=手が届く)」を担保するためのマルチ・プラットフォーム戦略。
ブランド認知やユーザー数、販売実績などその成果が既に出始めつつあるが、コスタコーヒーブランドの今後の長い道のりを見据えれば、まだとば口に立ったばかりだといえよう。
本格的なカフェチェーンの展開やRTDラインの拡充、あるいはコンビニなどでの無人カフェマシンの「コスタエクスプレス」の本格導入など、トータルコーヒーブランドとしての本領が発揮されるのはこれからだ。
ヨーロッパの老舗カフェブランドの日本市場での進展に期待するとしよう。
- 「多彩なプラットフォームを通じて 『コスタコーヒー』ならではの価値を提供」 2023年05月01日 ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
- 「【高岡浩三】日本人のコーヒーの楽しみ方がまた変わりつつある」 2022年09月26日 NewsPicks
- 「新興勢のコスタコーヒー、ペットボトルも直営店も『大人気』のなぜ」 2021年11月08日 Forbes JAPAN
- 「新参『コスタコーヒー』が成熟市場に見出した勝機 マルチチャネルで、あらゆるシーンに溶け込む」 2022年12月09日 東洋経済オンライン
- 「『コスタコーヒー』人気で出荷停止 ジョージアとの棲み分けは?」 2021年05月25日 日経クロストレンド
- 「双日など、「コスタコーヒー」FCを日本で展開」 2023年03月16日 日本経済新聞