楽天ラクマ メリカリと似て非なるビジネスモデル 

楽天ラクマ リブランディング
URLをコピーする
URLをコピーしました!
目次

楽天ラクマ リブランディングを敢行

楽天のラクマが事業の在り方を大きく変えようとしている。

いわゆるリブランディング(ブランドの再構築)に舵を切ったのだ。

ラクマといえば、メルカリやヤフーのPayPayフリマとともに、日本を代表するフリマ(フリーマーケット)アプリの一つ。

個人と個人の取引き、CtoCをビジネスの土俵としていることは言うまでもない。

そのラクマが、今度は企業と個人の取引き、BtoCのビジネスも同じアプリ内で並走させるという。

その根幹のビジネスモデル自体にメスを入れたのだ。

その新たなBtoCビジネスモデルの柱が、リユース事業者や並行輸入事業者から出店を募る「ラクマ公式ショップ」である。

リユース事業者は主に中古のブランド品やスマートフォンなどを扱い、もう既に「ラグタグ」や「ブランディア」、「アリュー」など130以上の専門店がラクマに出店している。

並行輸入事業者は、事業者自らが海外で買い付けたファッションアイテムを扱い、こちらも既に40以上が出店しているという。

ラクマ・ユーザーの視点に立てば、これまで中古のブランド品はもっぱら個人が出品した商品から選んでいたが、そのラインアップに事業者の出品商品も加わることになる。

さらにそこに、中古品ではない海外輸入品も加わる格好だ。

品揃えの幅が広がるのはユーザーにとっても歓迎すべきことだろう。

サイトでの検索の際には、ラクマ公式ショップの商品には、個人の出品商品と見分けがつくよう「公式マーク」が表示されるという。

安全性の担保に向けてビジネスモデルを刷新

「ラクマ公式ショップ」は選択肢が増えるだけではない。

ラクマの公式サイトによれば、リユース事業者が扱う中古のブランド品やスマートフォンは専門の知識を持ったスタッフが検品した上で出品しているという。

個人間取引きにつきまとう、「偽物や粗悪品が届いたらどうしよう?」という不安が払拭されるのもユーザーには大きなメリットだろう。

さらに公式ショップへの出店においては、厳正な審査が行われ、その審査に合格した事業者のみが出店できるしくみのようだ。

フリマアプリはメルカリがトップを独走し、ラクマやPayPayフリマが後を追う構図だが、アプリの操作や商品の出品、梱包・発送など、ユーザーの使い勝手は3大アプリで大きな差はなくなりつつある。

差別化を図るとすれば、いかに「安心・安全」を提供できるかだろう。

個人間取引きに伴う一抹の不安からフリマアプリの利用をためらう人は未だ多いためだ。

ラクマは「ラクマ公式ショップ」の提供によって、その安全性の担保に向けて一歩前進したことになる。

たとえば慎重派の人たちなら、比較的単価が安く、リスクの少ない生活必需品の類(たぐい)は個人出品者から購入する。

一方、高単価のブランド品は「公式マーク」のついたリユース事業者から購入するという使い分けも可能だろう。

その認知が広がることで、メルカリすら使っていなかった、生粋の「フリマエントリー層」の新規獲得にもつなげられる。

事業者 vs. 個人の出品者

一方で、個人の出品者たちは「ラクマ公式ショップ」の出現をどう思うだろう? 

従来の個人間の競争だけではなく、中古のブランド品などジャンルは限られるが、専門的なノウハウを持った事業者がライバルとして参戦する。

割を食う個人出品者も出てくるだろう。

しかし、長い目でみれば、「ラクマ公式ショップ」を目当てに新規顧客の流入が起こり、結果的にラクマを利用する層の厚みが増せば、自ら出品した商品の取引きチャンスが高まる効果も期待できる。

フリマアプリのビジネスは、出品する側にせよ、購入する側にせよ、突き詰めればユーザー数がものを言う世界だ。

たとえばトイレットペーパーの芯や牛乳パックなどがフリマで取引されるのも、工作などの用途でそれらを必要とする人がそこに居合わせるからだ。

偶然

こうした偶然の出遭いは十分なユーザー数が出揃うからこそ起こり得る。

「一瞬で売れる」「掘り出し物が見つかる」といったフリマアプリへの評価は、結局はユーザーの母数の大きさが決め手となるのだ。

「ラクマ公式ショップ」によってアプリの賑わいが増せば、個人の出品者もやがてその恩恵を実感することになるだろう。

ユーザー数が使用価値を決める「ネットワーク効果」

このフリマアプリのように、ユーザー数が増えれば増えるほどユーザーの使用価値が高まること「ネットワーク効果(もしくはネットワーク外部性)」という。

電話線

もちろんフリマアプリだけではない。

他にも電話やファックス、電子メールなど通信ネットワークはこの原理が働く典型的な領域だろう。

電話であれば、その使用価値は電話機自体の性能を超えた、電話網の加入者数に大きく左右されることになる。

言語の使用価値も同様だ。「英語」の使用価値が高いのは世界共通語として広く使われているからである。

さらにより今日的な例を挙げるなら、動画共有サイトのユーチューブがそうだ。

動画をアップする人が多くいるため、豊富なバリエーションが生まれ、見たいと思える動画が見つかるのだ。

そして見てくれる視聴者がいるからこそ、ユーチューバーたちは競うように知恵を絞って投稿を続ける。

なぜ、メルカリに引き離されたのか?

実はこの「ネットワーク効果」がフリマアプリにおいて、メルカリが独走を果たした大きな要因となっている。

今やメルカリのアプリダウンロード数は国内だけで8,000万を超えるが、一方のラクマは3,000万程度にとどまる(OTONA LIFE 2022.2.13)

その差は圧倒的だ。

日本で最初にフリマアプリを世に送り出したのは、ラクマの前身となる「フリル」(2012年に楽天のフリマアプリ「(旧)ラクマ」と統合)であった。

ところが後発のメルカリがアプリの使い勝手を日進月歩で改善し、同時に巧みな広告戦略でその知名度を高め、ユーザー数を飛躍的に伸ばしていった。

人だかりの多い方へいったん人流が生れると、人が人を呼ぶ形で地滑り的にユーザー数が増える。

そしてラクマは大きく引き離されていく。

商品が売れたときの「販売手数料」では、実はラクマの方が低く抑えられている。

メルカリが販売した商品価格の10%に対し、ラクマは6%+税(1万円で売れたら660円)だ。

しかし、この金銭的なインセンティブを持ってしても、ネットワーク効果には太刀打ちできず、その差が縮まることはなかった。

メルカリのように圧倒的勝ち組が生れる現象はフリマアプリ以外にも珍しくない。

GAFAに代表されるデジタルプラットフォームなど、「ネットワーク効果」が強く働く領域では大抵、「勝者総取り(Winner takes all)」の傾向が顕著となるのだ。

ラクマへの流入チャネルをより多彩に

ドミノ 勝者総取りの阻止に挑む

そこでラクマは開いてしまった差を少しでも縮めようと、取引き実績豊富な事業者の参画を募ることに舵を斬ったのだ。

CtoC一辺倒からBtoCとの並走のしくみを導入し、選択肢を増やし、フリマ業界のアキレス腱でもあった安全性の向上にも努める

そうすることでフリマアプリには距離を置いていた層の新規取り込みも狙ったのであろう。

ラクマでは「ラクマ公式ショップ」以外にも、農産物や水産物などの取引きに特化した「産直・こだわり食品」の提供も開始する。

食品ジャンルの生産者や加工業者、卸業者などから出店を募り、ラクマのサイトから新鮮な食材やこだわり食品が購入できるようにした。

応援消費の一環で各産地から特産品の購入も可能となる。

また、アパレルブランドと連携したアウトレットやセール品の取り扱いも2022年半ばごろを目途に開始するという。

それぞれの買物ニーズに応え、ラクマへの流入チャネルはより多彩になるのだ。

楽天傘下の他のサービスとのクロスユースを促す

楽天グループのプレスリリース(2022.4.5)によれば、今回の新たな取り組みを通し、ラクマと「楽天市場」など楽天グループ傘下のサービスとのクロスユースを一層加速させていくという。

そして、楽天エコシステム(経済圏)の拡大を通じて、楽天グループは国内EC流通総額(取扱高)10兆円の目標達成を目指すとある。

このEC流通総額とは、楽天市場や楽天トラベル、楽天ブックスなど楽天グループ傘下のサービス全体の流通額合計を指し、2021年には5兆円を突破したところである(楽天グループプレスリリース 2022.1.4)

ここでのキーワードは「クロスユース」だろう。

ラクマはこれまでにも、楽天グループの他のサービスとの併用を後押しする仕掛けをいくつも講じてきた。

たとえば、ラクマの利用を始めるにはニックネームやメールアドレスなどの入力が必要となるが、既に楽天会員であれば楽天IDで簡単にログインができる。

傾斜

ささやかなことのように思えるが、楽天の他のサービスからラクマへ、ラクマから楽天の他のサービスへユーザーを併用に向かわせる一押しにはなるだろう。

そのログインは楽天シンパへと傾斜が始まる瞬間でもある。

ラクマにも楽天ポイントの出番

そして楽天といえば真骨頂はポイント制度だ。

ラクマで購入するとラクマでの買物に使えるラクマポイントが貯まるが、実は楽天ポイントの出番もある。

楽天のEコマースや楽天のクレジットカードによる加盟店の買物などで貯めたポイントをラクマの商品を購入するのに使えるのだ。

貯まった楽天ポイントが使えるなら、「ラクマ公式ショップ」で中古のブランド品や海外のレアアイテムを買ってみようという気持ちにもなる。

ここでもまた、ラクマを利用し始めるインセンティブが働く。

さらにラクマに出品した商品が売れた場合、その売上金を楽天のオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」にチャージすることもできる。

通常は売上金を現金にするには210円ほど振り込み手数料がかかるが、「楽天キャッシュ」にチャージするなら手数料はかからない。

節約できる手数料はさほど大きな額ではないが、そのチャンスをみすみす手放すのも忍びない。

であれば「楽天キャッシュ」を使い始めようとする人もいるだろう。

するとチャージするのに必要な楽天ペイアプリや楽天ポイントカードアプリにも食指が動く。

このようにラクマと他の楽天サービスとの「クロスユース」を促す誘引装置(インセンティブ)がいたるところに潜在する。

ユーザーがその装置に気づいて、衝動が湧き起こるタイミングをラクマ側は今か今かと待っているのだ。

もちろん個人差はあり、百発百中とはいかないが、ふと気つけば、楽天ポイントを貯める「ポイ活」からちょっとした充実感を味わい、楽天のポイント経済圏の一翼を担っていたりする。

このユーザーをじわじわと感化させ、アクティブな楽天会員に育てる力こそ、楽天グループの大きな武器だ。

ラクマを楽天コングロマリット活性化の一助に

楽天グループの公式サイトによれば、同社はフィンテック(金融)サービスや携帯キャリア事業などのモバイルサービス、プロスポーツにも足場を広げ、今では70以上の分野でサービスを提供し、国内だけでも1億以上の会員数を誇る。

また、楽天会員が楽天グループのいずれか2つ以上のサービスを併用するクロスユース率も74%に達しているという。

もはや一大コングロマリット(複合企業)だが、その楽天グループの目線に立てば、ラクマはその会員数を増やす入口の一つなのだろう。

ラクマは20~30代のユーザーが比較的多いため(マナミナ 2022.2.4)、楽天グループ全体の客層を補うにも好都合だ。

楽天グループが「楽天モバイル」で携帯電話事業にも参入し、低廉な料金プランを提供するのも、そこを入り口に楽天グループ内での回遊を促せるメリットも大きいからだ。

今回のラクマの事業改変にも同様の狙いもあるはずだ。必ずしもメルカリとの差を縮めるだけが目的ではないだろう。

リユース市場けん引 「循環型社会」の実現へ

前述した楽天グループのプレスリリース(2022.4.5)には、ラクマはサービス開始から10年目を迎え、フリマアプリの枠を超えた新しいECプラットフォームを構築し、「循環型社会」への貢献を目指すとある。

「循環型社会」とは限りある資源を有効活用する社会を指し、とりわけ廃棄物の排出の抑制や再利用の徹底を重視する。

ラクマはもともと「不用になったものを、次に必要とする人へつなぐ」をコンセプトに創業しており、それゆえリユース市場をけん引し、「循環型社会」実現の一翼を担ってきた。

しかし、個人と個人の取引き(CtoC)が占めるのはリユース市場の半分でしかない。

残りの半分はリユース事業者による企業と個人の取引き(BtoC)が占める。

今回はまさにその半分を射程に収め、さらに大きな循環の環を生み出す取り組みなのだ。

このラクマの新たな一歩が、楽天グループのエコシステム(経済圏)にどんな相乗効果をもたらすのか?

一人勝ちを続けるメルカリとの差を縮められるのか? 

人と人との巨大なネットワークが絡む土俵では、ちょっとした変化が起爆剤にもなり得る。

ラクマが閾値を超えて大化けすることを期待したいものだ。

よかったらシェアしてください!
URLをコピーする
URLをコピーしました!
目次
閉じる