ネガティビティ・バイアス 具体例と対策 トラウマからサジェスト汚染まで

ネガティビティ・バイアス サジェスト汚染
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ネガティビティ・バイアスとはネガティブな情報や経験に対して人がより強く反応する傾向をいう。

このバイアスの日常生活や社会への影響は小さくはない。

職業選択やキャリア形成、配偶者選択など一生を左右するような意思決定にも影を落とす。

SNSのアルゴリズムとも好相性で、炎上やサジェスト汚染、インプレゾンビなる現象ともかかわる。

時には大きなうねりをつくり出し、社会の対立や分断も引き起こす。

本記事ではネガティビティ・バイアスの具体例を網羅的に取り上げ、さらにSNSとの相乗効果のメカニズムを解説する。

その上で取り得る対策についても考察を加える。

目次

ネガティビティ・バイアスとは?

ネガティビティ・バイアスとはポジティブな情報に比べて、ネガティブな情報に対して人がより強く反応し、記憶や行動に大きな影響を与える傾向いう。

たった1つの否定的なコメント

SNSの投稿にたくさんの「いいね」や好意的なコメントがついても、たった1つの否定的なコメントが気になって頭から離れない。

そんな状況に陥ったら、ネガティビティ・バイアスを疑ったほうがいい。

人の脳はネガティブな情報に敏感に反応するように進化の過程でプログラムされている。

リスクや危険を察知しやすくなり、生存に有利に働くためだ。

ネガティビティ・バイアスはそんな脳の習性から派生した認知バイアス(思考のゆがみや偏り)の1つだという。

広く知られてはいないが、人々の生活への影響は決して小さくない。

日常の細々した判断や意思決定に影響を与え続け、さらには職業選択やキャリア形成、配偶者選択など一生を左右するような意思決定にもネガティビティ・バイアスが働くこともあるのだ。

もっと一般的な知識になるべき認知バイアスの1つだろう。

ネガティビティ・バイアスの具体例

ではネガティビティ・バイアスが実際に人々にどんな影響を与えているのだろう?

いくつかシチュエーションごとにバイアスが働く典型的な例を挙げてみよう。

買い物のレビュー

ネガティビティ・バイアスのもっとも身近な例の1つに、何かを購入する際に参照する口コミやレビューがある。

昨今は様々なジャンルの口コミサイトやレビューサイトがあり、さらにアマゾンや楽天市場などECサイトに併設されたレビュー機能もある。

ちょっと検索をかければ、お目当ての商品やサービス、コンテンツのレビューがたちどころに見つかるだろう。

酷評するレビュー

仮に10件のレビューが高評価でも、そこに酷評するレビューが1~2件混じっていたとしたら、人はどんな反応となるだろう?

ネガティビティ・バイアスが働いて、多くの人は購入をためらう。

とりわけ、ネガティブなレビューが具体的で詳細なものである場合、数の上では凌駕(りょうが)する高評価レビューよりもはるかに説得力があるように感じられる。

自分に不利益をもたらすリスクはできるだけ避けたいという心理が働くのだ。

ニュースの受け取り方

ニュース番組や報道記事では、ポジティブなニュースよりもネガティブなニュースのほうが人々に強い印象を残す。

人はネガティブな出来事(危険、損失など)を回避することで生存率を高めてきたという進化的経緯がある。

それゆえ、ネガティビティ・バイアスのスイッチが自然と入るのだ。

ネガティブなニュースに注意が引きつけられ、記憶にも保存されやすい。

さらには恐怖や不安といった強い感情が引き起こされるため、その記憶の定着も促される。

ネガティビティ・バイアスは報道や発信する側にとっても都合がいい。

それだけ視聴者や読者の注目を集められるからだ。

そのため、ネガティブな事件や事故、災害などの情報はとりわけ大きく、センセーショナルに取り上げられることになる。

口コミ 3対33の法則

ネガティビティ・バイアスは口コミの広がり方にも影響を与える。

そのことを端的に示すのが「3対33の法則」だろう。

3対33の法則とは、商品やサービスに対して満足した人は平均3人に、不満に感じた人は平均33人にその経験を伝えるという法則のこと。

つまり、ネガティブな口コミはポジティブな口コミに比べて、約10倍のスピードで広まってしまうことになる。

「3対33」の比率自体には科学的な裏付けはなく観察や経験則に過ぎないが、不満やネガティブな経験はより人に話したくなるのは事実だろう。

その経験自体がネガティビティ・バイアスによって強く印象に残り、記憶されやすくなる。

それを人に伝えることで相手からも強い反応が得られ、共感してもらえるのだ。

口コミすることによって一種のカタルシス(浄化)が得られるのだ。

結果的に商品やサービスの不満はより多くの人に広まることになる。

食べ物の好き嫌い

ネガティビティ・バイアスは食べ物の好き嫌いにも影響を与える。

たとえば、幼少期に食べた魚が生臭く感じた経験があると、大人になってからも魚全般を嫌いになるといったことがその例だ。

特定の香りや食感が一度不快だと感じると、その感覚が脳に強く残り、嫌悪感が強化される(味覚嫌悪学習という)。

また、実際に試したことがないものにも嫌悪感は生じる。

味覚嫌悪学習
Image by jcomp on Freepik

外見や匂いなどから「これはまずそう」「不快な味かもしれない」といった感情を抱いたり、友人や家族が「この食べ物はまずい」「食べたらお腹を壊した」と漏らすのを聞いたりする。

その途端(とたん)に食べる前に強い拒否反応が生じてしまうのだ。

「食わず嫌い」が始まる瞬間といえる。

大学の入学審査

ネガティビティ・バイアスは大学の入学審査にも忍び寄ってくる(思考の穴、2023)

たとえば、オールAに近い成績の生徒が一部の科目だけCだったとしよう。

全体として高い成績にもかかわらず、そのCが目立ってしまい、評価を下げてしまうこともあり得るのだ。

一方で、すべての科目でBを取っている生徒は、一貫した成績を持っているため、安定性やバランスが評価され、ポジティブに捉えられる可能性がある。

審査官が生徒のパフォーマンスにおけるリスクや不安定さを回避しようとするためだ。

ネガティビティ・バイアスによって、一部の低評価(C)が過度に大きく感じられ、「この生徒は特定の科目で問題を抱えているのではないか?」といった不安に駆られてしまう。

結果的にオールBの生徒のほうが「安定していて安全」という印象につながる。

デート相手の見定め

デート相手を見定める際にもネガティビティ・バイアスは絡んでくる。

相手のネガティブな印象ほうが心に残りやすくなるのだ。

デート相手の見定め
Image by drobotdean on Freepik

たとえば、相手に多くの魅力的な面があっても、ちょっとしたマナー違反の言動など、わずかに垣間見えたネガティブな特徴や行動が目立ってしまう。

それによって相手の全体的な評価を下げることになる。

デートの相手となれば、長期的に信頼できるかどうかを見極めようとするため、よけいにネガティブな側面が気になってしまうのだ。

ひょっとしたら将来の配偶者になる相手かもしれないのに、全体的な良い側面を十分に評価せずに、ネガティブな側面に大きく引っ張られることになる。

職場でのフィードバック

働く人であれば、誰しも上司や同僚からフィードバックをもらう機会はある。

そのフィードバックの受けとめ方にもネガティビティ・バイアスの影響は免れない。

10回ほどポジティブなフィードバックをもらっていたとしても、1回のネガティブなフィードバックが鮮明な印象を残す

どんなに上司や同僚から褒められても、たったひと言「〇〇の改善が必要だ」などと指摘されると、そのことばかりが気になってしまう。

自己肯定感が低下し、仕事に対する意欲やモチベーションが減衰したり、人間関係にひびが入ったりするきっかけにもなりかねない。

おそらく本人の成長のためだったはずのフィードバックがネガティビティ・バイアスによって思わぬ逆効果となってしまうのだ。

子育て

長期的なネガティビティ・バイアスが親子の関係や子どもの成長にマイナスの影響を与えることもある。

子どもへの否定的な言葉かけや叱責

たとえば、子どものちょっとしたミスや問題行動に過度に注目し、否定的な言葉かけや叱責が増えがちとなる。

子どもは常に親の反応をうかがいながら、自己認識を深めていく。

その過程でネガティブな評価ばかりを受けると、自己肯定感の低い子に育ってしまう。

ネガティビティ・バイアスが発端となって親子の信頼関係が損なわれてしまう可能性も否定できないのだ。

人格形成

ここまで人生のさまざまなフェーズでネガティビティ・バイアスが働くことを見てきた。

それらが長期的なスパンで積み重なると、人格形成にも影を落とすことになる。

ネガティブな経験やフィードバックに強く反応し続けることで、自己評価を著しく低めてしまうのだ。

それなりの成功を収めてきたとしても、失敗や周囲からの批判のほうが記憶に残り、自分は「失敗しやすい」「価値がない」などと自分自身にレッテルを貼ることになる。

自己のネガティブな側面だけに意識が向かい、自分を肯定的に見ることなどできなくなってしまうのだ。

また、他者との関係においても自己防衛的な態度を取り、ぎくしゃくしてしまうことすらある。

重度の精神的ストレスやバーンアウトのリスクが高まることにもなるだろう。

トラウマ

過去のトラウマ体験とネガティビティ・バイアスとの関係も見過ごせない。

トラウマとは極度のストレスや恐怖、無力感を伴う出来事や経験が原因で心に深い傷を負った状態を指す。

その後も続くことになる心理的、感情的な反応によって日常生活や人間関係にも悪影響を及ぼすこともあるという。

フラッシュバック

さしあたって深刻なのが、トラウマ体験に似た場所や状況に偶然直面し、突然つらい記憶がよみがえる「フラッシュバック」だろう。

過去のトラウマ体験がまるで今起こっているかのように鮮明に再現されるのだ。

このときもネガティビティ・バイアスが働く。

トラウマ体験に関連するあらゆる刺激に対して過敏に反応し、注意を集中させてしまう。

それゆえ、フラッシュバックが誘発されやすくなる。

脳が危険やリスクを過敏に察知しようとする一種の防衛反応がそうさせるらしい。

たとえば、客観的に見ればトラウマ体験とはほど遠いような、友人やパートナーの些細な失言に対してフラッシュバックが引き起こされてしまうのだ。

ホーン効果との関係は?

ネガティビティ・バイアスと密接に絡む認知バイアスとして知っておきたいのが「ホーン効果(horn effect)」である。

ホーン効果とは他人の一つのネガティブな特徴や行動が、その人全体の評価に悪影響を及ぼす心理現象をいう。

ポジティブな特徴によって他の面が好意的に評価される「ハロー効果」の逆の現象といっていい。

ホーン効果

「ホーン」は「角」の意味があり、ホーン効果という名は悪魔や邪悪な存在が角を持つことから来ている。

角は鋭く目立つために危険や攻撃性を象徴となることから、「ネガティブな特徴が一度見えてしまうと、それが相手全体に悪い影響を与える」という意味に転じたのだ。

ネガティビティ・バイアスによってネガティブな出来事や特徴に意識が向かい、その結果としてホーン効果が生じる。

たとえば、職場の同僚が一度ミスを犯すと、たったそれだけのネガティブな出来事がホーン効果を通じて、「不器用だ」「信頼できない」との人格的な評価に結びつく。

友人やパートナーが一度だけ非礼な態度を取ったり、約束を守らなかったりしても同様だ。

その行動が過度に重要視され、ホーン効果によって「無責任な性格」というレッテルが貼られることになる。

それ以降、その人がとったポジティブな行動には目が行きにくくなる。

SNSや検索エンジンとの密なる関係

そして昨今、よくも悪くも大きな話題を集めるのがネガティビティ・バイアスとSNSとの関係である。

ここからはその関係性を解き明かしてみたい。

SNSアルゴリズムとの相乗効果

SNSを運営するプラットフォーマー(例:Facebook、Twitter、Instagramなど)は、膨大な量のコンテンツから各ユーザーにとって「最も関心を引く」投稿を優先的に表示する。

エンゲージメント
人気度・タイムリー性

そのため、そのユーザーがどんな投稿にエンゲージメント(「いいね」やコメント、リツィート、シェア、フォローなどを行うこと)を示したかが観察されている。

そのエンゲージメントの履歴に情報自体の人気度・タイムリー性などが加味され、ユーザーに表示されるコンテンツが間断なく選別されているのだ。

そうすることでユーザーの滞在時間を引き延ばし、SNSプラットフォーマーは収益源である広告の表示機会を増やことができる。

そして、その高度なアルゴリズム(表示方法を決める計算手順のこと)に忍びよるのがネガティビティ・バイアスだ。

ネガティブな情報を含んだコンテンツが強い反応を獲得し、より多くのエンゲージメントを引き出すことになる。

するとSNSプラットフォーマーのアルゴリズムはそれらネガティブコンテンツを「価値が高い」と判定し、ユーザーに優先的に表示するようになる。

たとえば、政治的対立や社会問題に関する過激な意見や批判的なコメントなどはユーザーの関心を引きやすい。

結果として、こうしたコンテンツはエンゲージメントを効率よく獲得し、さらにそのことを学習したアルゴリズムによってより多くのユーザーに拡散されることになる。

コンテンツを提供する側も、このSNSのアルゴリズムをよく知っており、センセーショナルなタイトルや内容を優先的に扱おうとする。

炎上

実は特定の人物や企業に対する批判が集中する「炎上」の現象もSNSのアルゴリズムとネガティビティ・バイアスの掛け合わせによって引き起こされるのだ。

インプレゾンビ

ネガティビティ・バイアスとSNSのアルゴリズム。

その相乗効果がネガティブな情報の拡散のスピードを速めることを見てきた。

さらに実は、そこに人の意図的な(場合によっては悪質な)行為が絡むこともある。

それが「インプレゾンビ(impression zombie)」だ。

インプレゾンビ

インプレゾンビはSNSの「X」(旧Twitter)において、広告収益を得ることを目的として、特定の投稿に大量の無意味なリプライや引用リツイートを繰り返すアカウントを指す。

リプライを自動化するツールが使われることも多い。

まるでゾンビのように執拗に特定の投稿に絡みつくことからその名がついている。

「X」(旧Twitter)が閲覧数に応じて報酬を支払う仕組みを導入したことが発端になったらしい。

インプレゾンビはあくまで広告やコンテンツがユーザーの目に触れた回数を増やす「インプレ稼ぎ」が目的のため、そのリプライは、多くの場合、元の投稿の内容とは脈略のない、無意味な言葉の羅列となる。

しかし、それでもネガティビティ・バイアスとは無関係ではない。

ネガティブな批判を受けている企業や個人の投稿を狙い撃ちし、インプレゾンビが大量のリプライや引用リツイートを繰り返す例は少なくないのだ。

ネガティビティ・バイアスの増幅効果でネガティブな感情を煽られ、大規模な炎上へと発展することもある。

また、虚偽の情報を含む投稿であっても、インプレゾンビによってあたかもそれが真実であるかのように拡散されることもあるのだ。

同じ情報を反復して聞くことで、その情報が真実であると錯覚する「真実性の錯覚」が働いてしまうらしい。

コロナ禍にも実際に起こったが、虚偽の内容によって人々の不安が煽れ、パニック状態を引き起こされる可能性もある。

サジェスト汚染

ネガティビティ・バイアスはグーグルやヤフーなどの検索エンジンにもSNSと同様の現象を引き起こす。

それが「サジェスト汚染」である。

検索エンジンの「サジェスト

検索エンジンの「サジェスト」とは検索窓に文字を入力し始めた際、その文字列に関連するキーワードが自動的に表示してくれる機能のこと。

「東京」と入力すると、「東京タワー」「東京ディズニーランド」「東京駅」など、東京に関連するキーワードが候補として表示される。

サジェスト汚染とはこの候補として表示されるキーワードが汚染されてしまう現象をいう。

検索エンジンのみならず、SNSのおすすめ機能(サジェスト機能)でも発生することもある。

よくあるサジェスト汚染が以下のような例だ。

  • 有名人の名前 +「逮捕
    • 「〇〇(有名人の名前)」と入力すると「〇〇 逮捕」や「〇〇 スキャンダル」といったネガティブな検索候補が自動表示される。
  • 医療関連の検索 +「危険
    • 「ワクチン」と入力すると「ワクチン 危険」「ワクチン 副作用」といった検索候補が出現し、科学的な裏付けのない不安を煽る情報に誘導される。
  • 特定の企業 +「ブラック
    • 「〇〇(企業名)」と入力すると「〇〇 ブラック企業」や「〇〇 長時間労働」といったネガティブな候補が表示される。
  • 健康法 +「
    • 「ダイエット方法」と入力すると「ダイエット方法 」や「ダイエット方法 危険」といったネガティブな検索候補が表示され、誤解や不安を煽る。
  • 商品名 +「失敗
    • 「〇〇(商品名)」と入力すると「〇〇 失敗」「〇〇 後悔」といったネガティブな口コミやレビューがサジェストされる。
  • 新作映画やドラマ +「つまらない
    • 「〇〇(作品名)」と入力すると「〇〇 つまらない」「〇〇 低評価」「〇〇 パクリ」などがサジェストされる。話題性を煽るために過剰な批判や炎上が強調され、作品の内容に対するバランスのとれた評価が見えにくくなる。
サジェスト汚染
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サジェスト機能によって表示される関連ワードは検索の頻度やその表示結果のクリック数、あるいは一定期間内にどれほど人気や関心が高まったかなどが加味されて決められる。

この検索エンジンのアルゴリズムにもネガティビティ・バイアスが色濃く反映されるのだ。

スキャンダルやトラブル、批判といったネガティブな情報がより注目され、クリックもされやすくなり、高いエンゲージメントを獲得することになる。

するとアルゴリズムはますますその情報を「重要」「今日的」とみなし、他のユーザーが検索をかけた際にもより上位に表示されるようになるのだ。

やがて社会の分断へ

連鎖的な悪循環

ネガティビティ・バイアスが働くことで、ユーザーはネガティブな情報に強く反応し、SNSプラットフォーマーや検索エンジンのアルゴリズムがさらにネガティブなコンテンツを優先して表示する。

連鎖的な悪循環が一気に進行するのだ。

そして時にはそのスパイラルにインプレゾンビも加担する。

こうしたうねりの影響力は計り知れないだろう。

ネガティブな情報ばかりが目立つ

ネガティブな情報ばかりが目立つことになり、日常的にSNSに接している人であれば、現実世界をより悲観的に捉えがちとなる。

「物騒な時代になった」「今の世の中は危険だ」との認識に至ってしまうのだ。

SNS上の政治的な見解や社会問題に関する議論もネガティブな要素に引っ張られ、攻撃的な発言や極端な意見が量産されることになる。

エコーチェンバーと分極化

ネガティブな情報に興味を持つユーザーは、ますますネガティブな情報に囲まれる。

自分の意見を裏付ける情報ばかりを見聞きするになるのだ。

やがて異なる意見を受け入れることができなくなってしまう。

エコーチェンバー現象

この状態を「エコーチェンバー現象」(「エコー(echo/反響)」+「チェンバー(chamber/部屋)」=「反響室」)という。

このエコーチェンバー現象には、SNSのアルゴリズムがユーザーを特定のグループに分類し、そのグループに属するユーザーに合わせた情報を提供しようとすることも深く関わっている。

ネガティビティ・バイアスによって人々の分極化が進み、異なる意見を持つ人々との交流が少なくなり、お互いの意見の違いを理解できなくなる。

建設的な対話の機会は極端に減り、相容れない意見の人たちとの対立がますます深まっていくのだ。

ミーンワールド症候群

ここで「ミーンワールド症候群(意地悪世界症候群)」という現象にも触れておこう。

主に暴力的なコンテンツを多く視聴することによって、人々が世界を過度に危険で暴力的だと感じるようになる心理現象をいう。

ネガティビティ・バイアスとは相互に高め合う関係にある。

暴力や犯罪を取り上げるニュースやドラマなどのネガティブなコンテンツにネガティビティ・バイアスが働くことでその印象が強化され、それが「日常的な現実」だと錯覚してしまう。

ミーンワールド症候群

その結果、世界が実際よりも危険であると感じ、ミーンワールド症候群が促され、自分が身を置く世界に対する不安や恐怖が増幅する。

かつては主にマスメディアの影響が取沙汰されていたミーンワールド症候群だが、近年はSNSが新たな要因として注目されている。

SNS上にネガティブなニュースや犯罪、災害に関する情報が頻繁にユーザーに表示されるため、世界はより危険で、暴力的で、不安定であると結論づけられてしまう。

そこにフェイクニュースや誤情報も加わる。

また、SNSは匿名空間であることから攻撃的なコメントや批判が容赦なく飛び交うことになる。

今や世界は過酷で攻撃的だと思い込むミーンワールド症候群は悪化の一途をたどることになるのだ。

ネガティビティ・バイアスの対策

ネガティビティ・バイアスを完全に取り除くのは難しい。

人間の生存に大きく貢献してきた本能的な認識の癖(くせ)であり、危険を回避し、環境のリスクを敏感に察知するのにネガティビティ・バイアスが重要な役割を果たしてきたのも事実なのだ。

上手に共存する方法を模索することが現実的だろう。

誤った選択をしないことぐらいなら望めるはずである。

そのアプローチをいくつか挙げておこう。

時間を置いて判断する

ネガティブな情報に接したとき、瞬間的な感情や判断に基づく決定を避け、時間を置いて冷静に考えることを心がける。

一呼吸おく
Image by benzoix on Freepik

必ず「一呼吸おく」ことを習慣とし、一時(いっとき)のネガティブな感情に流されないようにするのだ。

ネガティブなレビューを見た際、すぐに判断を下すのではなく、一晩考えることを自分ルールに定めておくといったことが考えられるだろう。

バイアス効果を意識化する

ネガティブな情報に接したとき、ネガティビティ・バイアスのことを意識的に思い出すというのもいい。

人の普遍的な傾向であり、考えや感情に影響を与えることを念頭に、目の前のネガティブ情報に慎重な姿勢で臨む。

「自分は今、これをどう感じているか?」「なぜネガティブな側面に注目しているのか?」と自問してみるのだ。

ふと我に返るようなエアポケット感を経験することで、バイアスの影響は少なからず緩和できるだろう。

複数の情報源にあたる

ネガティブな情報ばかり目につき始めたら、鵜呑みにせず、メディアの偏向やSNSのアルゴリズムの影響だと一度は疑ってみる。

そして異なる視点を持つメディアやポジティブなコンテンツに意識的に目を向けるようにする。

特定の視点や意見に偏らず、多様な視点を取り入れるように自らを仕向けるのだ。

建設的な解決法を考える

ネガティブな情報や問題に直面したとき、それをただ「悪い」と捉えるのではなく、「どうすればそれを改善できるか?」「ポジティブな面が隠れていないか?」などと意識的に考えてみる。

リフレーミング

いわゆる「リフレーミング(物事や状況の枠組み/フレームを変えて、別の視点から見るの意)」を試みるのだ。

思考実験的に思い浮かべるだけでも、ネガティブな感情の呪縛が解け、前向きなエネルギーが湧いてくるだろう。

よかった探し

ここまでの4つはネガティブな情報に接したときの“とっさの対処法”である。

一方で、普段からネガティビティ・バイアスに対する抵抗力を身につけるという対処の仕方もある。

その1つが「よかった探し」だ。

よかった探し
Image by benzoix on Freepik

「よかった探し」とは日常生活の中で見過ごしがちなポジティブな瞬間を意識的に見つけるようにすることをいう。

ポジティブな情報に対して敏感になり、ネガティブな出来事の影響を相殺できるようになる。

いわば耐性を獲得する方法といえる。

たとえば、家族や友人と「よかったこと」を話し合うことを日課とする。

あるいは小さな「よかったこと」があったときは、それをすかさず言葉にして感謝の気持ちを表すようにする。

「今日の日差しは気持ちいい。お天道様に感謝だ」と自分に伝えるだけでも、前向きな思考を育む一助となる。

「よかった探し」を通じて、ポジティブな側面にも目を向けることが習慣となり、ネガティブな情報や感情に過度に影響されることも少なくなる。

ミーンワールド症候群を未然に防ぐ十分な対処法となるのだろう。

ネガティビティ・バイアスの伝道師に

今回の記事ではネガティビティ・バイアスの定義や原理、様々な文脈ごとの典型的な事例、そしてその対策についても述べてきた。

ネガティビティ・バイアスは人々の心理や行動に及ぼす影響は小さくない。

自己肯定感の低下など人生全般にも悪影響を与える。

さらには社会の対立や分断を招くブースターにもなり得るのだ。

とりわけSNS全盛の時代、そのアルゴリズムとネガティビティ・バイアスとの相性がいい点には社会全体で注意を向ける必要があるだろう。

進化の過程で人の脳にプログラムされたバイアスであり、その対処は容易ではないが、まずはこのバイアスの存在を世の中的な知識にする。

自分だけがこっそり知っているのではなく、周囲にも伝えていく。

自ら伝道師になるのだ。

そのことがネガティビティ・バイアスと上手に共存するための最初の一歩だろう。

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