マクレランドの欲求理論とは? 人間を動機づける3つの欲求

欲求理論
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「欲求理論」とは人の行動を動機づけるもととなる社会的欲求を言い当てたもの。

「達成欲求(動機)」「権力欲求(動機」「親和欲求(動機の3つがあるという。

もともと働く人を研究対象に生まれた理論だが、たった3つの欲求で人の行動を説明する枠組みがわかりやすく、マーケティングに十分有効である。

ヒット商品やロングセラーブランドでは、3つの欲求のいずれか一つに焦点を当て、巧みに働きかけることで購買行動を引き出している例は数多い。

目次

マクレランドの「欲求理論」

マーケティングの世界では「購入動機」「来店動機」「利用動機」など「動機」という言葉はよく使う。

一方で、その「動機」と似た文脈で「欲求」という言葉も使うだろう。

「承認欲求」「自己表現欲求」といういい方がその例だ。

「自己顕示欲」「所有欲」「金銭欲」といういい方も同類と見ていい。

広辞苑によれば「欲求」とは「行動に駆り立てる『もと』となる緊張状態。心理的・身体的・社会的なものがある。」とある。

どうやら「動機」が起こるもと、その源泉が「欲求」という位置づけのようだ。

そして、今回取り上げるのは「欲求理論」

ハーバード大学の心理学教授であったデイビッド・C・マクレランドが提唱したもので、モチベーション心理学の界隈でかなり知られた理論らしい。

もともと働く従業員を研究対象とした理論だが、「社会的欲求」と呼ばれる社会生活を営む上で欠かせない人の根源的な欲求を言い当てており、マーケティングにも十分に有益な理論と思われる。

マクレランドによれば、人は程度の差はあれ「達成欲求」「権力欲求」「親和欲求」の3つの社会的欲求を併せ持っているという。

欲求理論
  • 達成欲求(need for achievement)
    • 困難な課題を成し遂げ、成功の喜びを味わうために努力したいとする欲求
  • 権力欲求(need for power)
    • 他者に対して影響力を用いてコントロールしたいとする欲求
  • 親和欲求(need for affiliation)
    • 人々と友好的かつ密接な人間関係を結んでいたいという欲求

ここで「権力欲求」は「支配欲求」といういい方もするようだ。

また「欲求理論」という名称ではあるものの、「働く」という行動に直結する動機に関わる研究であったことから、「達成動機」「権力動機」「親和動機」といういい方も一般的である。

マクレランドの「欲求理論」で、何が画期的かといえば、たった3つの欲求で「働く」という普遍的な営みのモチベーションを説明したことである。

たった3つ

初期の欲求研究として知られる「マレーの欲求リスト」には社会的欲求だけも28種類もある(例:保身欲求・攻撃欲求・遊戯欲求など)。

たった3つであれば、人事管理や消費者行動分析のフレームワークとしても極めてシンプルで実務家にも扱いやすいだろう。

それゆえ「欲求理論」は広く浸透し、働く人のモチベーション研究の金字塔に位置付けられるようになった。

ここから3つの欲求を一つずつ掘り下げて見ていこう。

達成欲求(動機)とは?

この欲求が強い人とは「これは」と思った物事をできるだけ自分の力で成し遂げようとする。

その達成のために努力を惜しまない

それゆえ、「日々どれだけ成功に向かっているか?」に強い関心を示し、その進捗に対するフィードバックを歓迎する。

達成欲求

やや難易度の高い、中程度のリスクが伴う課題に取り組むのを好む傾向にあるようだ。

ローリスクな課題ではそもそも挑戦のしがいがなく、達成欲求を満たす標的にはなり得ない。

一方、ハイリスクな課題では自分の実力や努力より運に左右されてしまうことから敬遠してしまうらしい。

達成欲求と大谷翔平選手

この達成欲求の代名詞的な人物を一人挙げるとすれば、大谷翔平選手だろう。

「絶対無理」と言われた投打の「二刀流」で目覚ましい活躍をする。

彼の座右の銘は「先入観は可能を不可能にする」だそうだ。

常識にとらわれず挑戦を続けたといえる。もちろん、努力も惜しまない。

また、彼はウエラブルデバイスを活用し、そのフィードバックを通じてパフォーマンス向上やけがの防止にも努めている。

チェスの指し手か? コマか?

モチベーション心理学の枠組みの一つに「オリジン(指し手)」「ポーン(コマ)」というのがある。

自分が主体的に取り組んでいるのか、あるいは他の誰かからやらされているのかをチェスの「指し手」と「コマ」にたとえて言いあらわしたものだ。

達成欲求が満たされるのは、あくまで自分の裁量で、自分の実力で、自ら選んだ課題に取り組める状況に限られる。

すなわち自分が「指し手」であると感じたときだ。

職場環境においても、その条件が満たされ、さらに自分の進捗に対し、迅速なフィードバックが得られたときに達成欲求の強い人は優れたパフォーマンスを発揮する。

そしていったん目標を達成しても、さらなる高みへと邁進するのだ。

以前「内発的動機づけ」の記事でもふれたが、自己成長を求めてモチベーションが沸々と湧いてくる状態にあるといえる。

権力欲求(動機)とは?

地位や名声にこだわる

この欲求が強い人はとにもかくにも他者に影響を与えたいという願望を持つ。

人気ドラマ「半沢直樹」に登場する権力者や特撮ヒーロー作品の悪役をイメージするとわかりやすいだろう。

地位や名声に常にこだわるが、それはそれだけ周囲から一目を置かれ影響力を行使できるからだ。

権力欲求

もちろん、権力欲求が強くても健全で善良な人はおおぜいいる。

周囲の人がしり込みするような責任の重い仕事もすすんで引き受けるのもこのタイプだ。

優れた業績をあげる企業経営者や管理職には権力欲求が旺盛な人が多いらしい。

また、ウィキペディアによれば、権力欲求が優勢の人たちは、一方が権力を握ればもう一方が敗北となるゼロサムの競争状態を好むという。

当然自分が勝つシナリオしか考えず、そんな競争下でモチベーションはいっそう高まることになる。

意外に身近な権力を巡る争い

ただし、権力欲求を満たせるのは富める者や組織の長など一握りの人たちだけとは限らない。

世の中を広く見渡せば、実は権力欲求が発端となる競争は身近なところで起きている。

たとえば、スクールカースト(教室内の身分格差・優劣付け)マウンティング(優位性の誇示)などもそんな権力を巡る争いの一環だろう。

ドラえもんのジャイアンやスネ夫は、それぞれ腕力や財力にものを言わせて、権力を得ようとしているのがその例だろう。

また、SNSでフォロワーを多く持ち、影響力を放つインフルエンサーたちも、この権力欲求に突き動かさているといえる。

後述するが、消費者の購買行動もまた、周囲の上に立ち、羨望を集めようとする心理に後押しされるのだ。

親和欲求(動機)とは?

競争より協調を重視

この欲求が強い人は周囲の人々との友好的な関係を築くことを常に望んでいる。

競争より協調を重んじるタイプだ。

人からよく思われ、好かれようとあれこれ気を配る。

人の役に立ちたいという思いも人一倍強い。

また、緊張や不安を強いられる環境では、他者が寄り添ってくれることを渇望する。

そして、親和欲求が強い人たちにとって、モチベーションのスイッチが入るのは、仲間意識が十分に醸成され、自分も一翼を担っていると実感できたときだ。

達成欲求が旺盛な大谷翔平選手も、時折、茶目っ気たっぷりの一面をのぞかせ、チームメンバーと自然に融け込む。

愛されキャラでもあるのだ。達成欲求と親和欲求の二刀流といえる。

心理的安全性

昨今、欧米を中心に注目されている「心理的安全性」がもっとも功を奏するのが親和欲求の強い人たちだろう。

「心理的安全性」とは「組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態」をいう。

心理的安全性

たしかに、もともと親和欲求が強く組織内の一体感に喜びを覚える人が、上司や同僚の提案に対し、ネガティブな感想や反対意見を述べたりするのは難しい。

そこで「このチームなら何を言っても大丈夫」と思えるような雰囲気づくりが大切になる。

組織の上長が自らあえて弱みをさらけ出すこともひとつの方法らしい。

たとえ失敗しても周囲は自分を拒絶することはないという実感が、このタイプの人たちをもう一歩先の行動へと駆り立てる助けになるようだ。

欲求理論と2つのターゲットの捉え方

ここまで3つの欲求について見てきたが、では3つの欲求をどう刺激して消費者の購買行動を引き出せるのだろうか? 

セグメンテーション vs. モーメント

まず、ターゲットの捉え方には2通りあるだろう。

1つは3つの欲求のうち、どれか1つが恒常的に強い人を想定することだ。

たとえばふだんから達成欲求が顕著で、その欲求がパーソナリティの一翼を担うような人たちをひとつのセグメントとしてターゲットに据えるのである。

もう一つのターゲットの捉え方は、3つの欲求のうち、どれか一つの欲求が高まるモーメントをピンポイントでねらうという考え方だ。

1人の消費者であっても、ある瞬間には達成欲求が、別の瞬間には権力欲求が高まるタイミングがあると想定するのである。

もともとマクレランドは、人は3つの欲求を「併せ持つ」としているので、このターゲット設定に矛盾はないだろう。

買回り品と最寄り品

大まかな目安でしかないが、耐久消費財や趣味品などの「買回り品」なら前者の捉え方、食料品や日用雑貨などの「最寄り品」であれば後者の捉え方と相性がいいだろう。

「買回り品」は時間をかけて価格や品質を比較検討することになるため、人はより本質的な欲求から来る内なる声に耳を傾けようとする。

ターゲットをたった一つの欲求で代表させたとしても大きくははずれないはずだ。

一方、「最寄り品」は衝動買いも多く、バラエティシーキングの度合いも高いため、人はその瞬間で一時的に高まった欲求に素直に従おうとする。

1つの欲求がピークを迎えるモーメントにフォーカスするほうがより購買行動に直結しやすい。

欲求理論をマーケティングに活かす

ではここから達成欲求、権力欲求、親和欲求を満たそうとするブランドの事例をいくつか挙げてみよう。

達成欲求(動機)の事例

達成欲求に働きかけるには、ブランドが個人が目標とするパフォーマンスやスキルの向上に役立つことを強く印象づけるべきだろう。

直接的でもなくともかまわない。

そのパフォーマンス向上の助けとなる環境がつくれるよう、周辺的な仕事や作業を迅速化・効率化することでもいい。

森永製菓「inゼリー」

本ブログで取り上げた森永製菓「inゼリー」はその最たる例だろう。

ワンハンドで吸って飲むゼリー飲料で、「栄養バランス」、「スポーツ」「本番で力を発揮したいとき」などオケージョン別にラインアップを取り揃えている。

「10秒チャージ」というキャッチコピーも、もともと達成欲求が旺盛な人にせよ、たまたまそいうモーメントに直面している人にせよ、耳に心地よく響くはずだ。

洋服の青山「PT-9」

「洋服の青山」のストレッチスーツ「PT-9(ピーティーナイン)」もそうだろう。

「外見はスーツ、中身はスポーツ」というコンセプトの下、体の動きにしなやかに寄り添うストレッチ性に徹底的にこだわったという。

「カッチリした見た目」を保ちつつも、「圧倒的な動きやすさ」を実現している。

自由度が格段に増し、気分も上がるため、目標達成に向けた動機づけのよき促進剤となりそうだ。

コクヨ「ing(イング)」

またコクヨのオフィスチェア「ing(イング)」も資格十分だろう。

「ing」の最大の特徴は椅子の座面が360°自由にグライディングすることにある。

座っている人の、前傾、後傾、左右のひねりなど、上半身のどんな動きにも座面が追随してくるという。

この常に座面が動くことが、上半身の負荷を軽減するばかりか、脳の活性化も促す。

コンセプトは「座るを解放する」

たかが椅子、されど椅子だ。

オフィスやリモートワークにおいて達成欲求を刺激するギアになり得そうだ。

大谷翔平選手をロールモデルに

また、達成欲求にスイッチを入れるのに、ロールモデルの存在も極めて有効という。

「こういう人を目指したい」というイメージが描けることでますますモチベーションが高まるのだ。

大谷翔平選手が数々のブランドの広告キャラクターに起用されているのもそのせいだろう。

日本コカ・コーラのスポーツ飲料「アクエリアス」や明治のプロテインブランド「ザバス」、興和の消炎鎮痛剤「バンテリン」シリーズ、西川のコンディショニングマットレス「エアー」などがその例だ。

達成欲求が刺激され、注意が惹きつけられるばかりか、購入意向も高まりやすい。

セイコーウオッチ「プロスペックス」

セイコーウオッチのスポーツ向け腕時計ブランド「プロスペックス」も同じく広告に大谷選手を起用しているが、その新聞広告はまさに達成欲求のど真ん中を突く。

「無理だと言われることしか、やるな。Keep Going Forward」のコピーを掲げ、紙面上のレイアウトも工夫され、大谷選手が圧倒的な存在感を放つ広告になっている。

さらに達成欲求を刺激するのに、進捗に対するフィードバックが随時得られるしくみも有効だ。

スリープテック(「Sleep」と「Technology」の造語)のようにセンサーやアプリを通してフィードバックが得られ、睡眠改善につながるといったサービスなどはその例だろう。

権力欲求(動機)の事例

では次に権力欲求に働きかけているブランドにはどんな例があるだろうか? 

自分の社会的地位を高め、羨望(せんぼう)を集めるのに、手っ取り早いのは高級品やブランド品を所有することだろう。

密かに隠し持つのではない。

顕示的消費(見せびらかしの消費)が実現されるよう、ファッションや宝飾品、クルマなどであればなおよい。

人目に触れやすく権力欲求を満たすのには特に有効だからだ。

一方で、何らかの付加価値や希少性があり、SNS映えするなら高額品でなくてもいいだろう。

SNSにアップし、「いいね」数やコメント数が増えるのは自分のステータスを高めることにほかならない。

三井住友カード プラチナプリファード

ここでひとつ、権力欲求を巧みに触発した「三井住友カード プラチナプリファード」の例を挙げよう。

クレジットカードにはもともとゴールドカードやプラチナカードなどいくつかのランクがある。

年会費は高くなるものの、世界の空港にある専用ラウンジが無料で使えるなど付帯する会員特典サービスが魅力となる。

プラチナカードはとりわけ、会社経営者や役員医師・弁護士といった「士業」の人にふさわしいとされ、ステータスカードと呼ばれることもある。

一方、そんなプラチナカードの中でも異色の存在が「三井住友カード プラチナプリファード」だ。

従来のプラチナカードのステータスは保ちつつも、普段の買い物での圧倒的な「ポイント還元」を最大のメリットとしてうたう。

使うか使わないか分からない手厚い付帯サービスよりも、より実質的なメリットである「ポイント還元」に特化したプラチナカードという位置づけだ。

俳優の小栗旬を起用したこのカードのテレビCMが秀逸だった。

映像ではエグゼクティブなビジネスマン役の小栗旬がひとり芝居風に視聴者にこう語りかける。

ステータスなんて言葉に執着する気はないが、立場上若手と同じというワケにもいかない

とはいえ、古いどこかのお偉いさんのように、地位に鎮座したいワケじゃない。

私はあくまでも、現役のプレイヤーだ。

強いて言えば、プラチナで最前線。

そんな気分でいたい。

ステータスに執着しないといいつつ、若手とはワンランク上でいたいというセリフで、潜在ターゲット層のステータス志向を十分に刺激している。

しかもそこに新しさも加わったことを「最前線」という言葉でさりげなくアピールしている。

ステータスとなる「エシカル消費」

ここでもう一つ、権力欲求に働きかける別のやり口も紹介したい(ダイヤモンドオンライン 2022.10.6)

たとえば、フェアトレードやオーガニックの商品を購入するケースだ。

実はこうした表面上は利他的、社会貢献的に見えることであっても、その根底では、そのことで評判を獲得し、自分の社会的地位を高めようとする動機が働いていることがある。

これは「競争的利他主義」といって真の利他主義とは区別される。

中身が伴わない「意識高い系」などと揶揄されることもようだ。

しかし、昨今注目されている「エシカル消費」はこうした「競争的利他主義」の意識にけん引されている側面もある。

アディダス

スポーツブランドのアディダスでは、海洋プラスチックゴミをリサイクルした素材を使用したウエアやシューズを販売している。

海洋環境保護に取り組む団体「パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ」とコラボしているらしい。

売行きは好調というが、こうした商品に消費者の関心が向かうのにも、「競争的利他主義」が絡むのだ。

自分の善意や倫理観の表明を通してステータスを得る、すなわち権力欲求を満たそうとする意識に後押しされている。

ZARA「プレオウンド(Pre-Owned)」

また、ファストファッションのZARAは「プレオウンド(Pre-Owned)」と称するプログラムを英国でスタートしている(WWD 2022.11. 1)

サーキュラー・エコノミー(廃棄物は出さずに資源を循環させることで経済を回すしくみ)実現への取り組みの一環という。

利用者はZARAの商品であれば、有料でボタンやファスナーの交換などリペアサービスを受けられるほか、リセールプラットフォームを介して、利用者間でZARAの中古品の売買ができるという。

まだのパイロット版で端緒についたばかりだが、こうしたサービスをいち早く利用するのも、ステータスの獲得、ひいては権力欲求の密やかな充足につながるはずだ。

親和欲求(動機)の事例

3つ目の親和欲求にはどんな事例があるだろう? 

もとより人と人との関係を育む消費財は多い。

通信サービスや旅行・レジャー、外食サービス、食品・飲料などのブランド広告では、ひっきりなしに「つながり」「絆」「ぬくもり」などがテーマとされている。

アサヒ生ビール(通称マルエフ)

最近の親和欲求路線のブランドのヒットを一つ挙げれば、アサヒビールの「アサヒ生ビール」(通称マルエフ)があるだろう。

俳優の新垣結衣や松下洸平らを起用したテレビCMでは「おつかれ生です」のコピーに、シンガー・ソングライターの竹内まりやの楽曲「元気を出して」。

人と人とのぬくもりある関係をイメージさせたことが「癒し」の感覚を呼び起こし、ブランドにヒットをもたらしたのだ。

ポッキー

江崎グリコの「ポッキー」も長らく親和欲求に働きかけてきた。

「ポッキー」はチョコレート菓子であり、本来なら自己完結的な消費にとどまっていてもおかしくない。

ところが「ポッキー」は「Share happiness!(シェアハピネス)」をスローガンに掲げ、「幸せを分かち合えるチョコスティック」をコンセプトに据えたのだ。

ブランドを「会話を弾ませるコミュニケーションツール」として位置づけているのだ。

ポッキー1本分を会話する時間の単位に変換し、「明日は、ポッキー何本分話そうかな。」を提唱したこともあったという。

本ブログでも過去に、親和欲求を叶えようと試みるブランドの事例をいくつか取り上げている。

たべっ子どうぶつ

その1つが老舗菓子メーカー、ギンビスの薄焼きビスケット「たべっ子どうぶつ」だ。

ビスケット一枚一枚がかわいい動物の形をしており、さらに「BEAR(くま)」「DOG(いぬ)」「ELEPHANT(ゾウ)」というように動物の英語名が印字されている。

親が子どもにクイズを出すなどして、親子がともに楽しく学べる機会を提供したいとのねらいがある。

知育菓子としての側面をもつ「たべっ子どうぶつ」もまた、「ポッキー」同様にコミュニケーションツールの位置づけなのだろう。

マスターカード

また、「プライスレス…お金で買えない価値がある。買えるものはマスターカードで」という広告キャンペーンで知られる「マスターカード」も親和欲求に応えようとする。

大切な人と親密な関係を築く特別な体験を創出するカードとしてブランドを位置づけ、市場での確かなポジションの獲得に成功している。

カロリーメイト

大塚製薬の「カロリーメイト」も同様だ。

「カロリーメイト」は「バランス栄養食」であり、やはり本来は自己完結的な消費のはずである。

3つの欲求のうちであれば、達成欲求との相性がいいだろう。

しかし、TVやウェブのCMを中心とする「受験生応援シリーズ」を長らく続けたことで、親和欲求をも同時に満たす稀有なブランドへと変容を遂げたのだ。

同ブランドの「受験生応援シリーズ」では、「見せてやれ、底力」など受験生本人を鼓舞するメッセージを発する。

しかし、その一方で、受験生を陰から支える周囲の人たちにもそっと光をあてるのだ。

「なぜ『やる気』は長続きしないのか 心理学が教える感情と成功の意外な関係」(デイヴィッド・デステノ著、2021)に詳しく論じられているが、実は人と人との関係から生まれる社会的な感情は、自制心を高め、モチベーションを維持するのにとりわけ有効なのだという。

自分に尽くしてくれた相手に抱く自然な敬意や感謝の念、その恩にいつかは報いたいとの思いが、やる気につながるらしい。

受験生にとっては、目の前の課題である「受験」に粘り強く立ち向かうスイッチとなる。

「カロリーメイト」は受験生を懸命に支える人たちの姿を描き、モチベーションを高める心理戦を仕掛けていたといっていい。

「欲求理論」を購買行動のトリガーに

以上、今回の記事ではマクレランドの「欲求理論」を取り上げ、「達成欲求」「権力欲求」「親和欲求」の3つの社会的欲求が人々の行動を動機づける源泉になることを見てきた。

その3つというシンプルさゆえ、マーケターにも扱いやすく、購買行動を喚起するための枠組みとしても有益となる。

後に加わった「回避欲求(動機)」

なお、マクレランドは後に、3つの欲求にもう一つ「回避欲求(動機)」を加えている。

この「回避欲求」とは失敗や困難や状況を回避しようという欲求をさす。

「回避欲求」の強い人は周囲の人から批判されるのを極端に嫌い、何事にも無難に終えたいという思いが働く。

少しでも難易度の高いと感じた目標は回避してしまう。

それゆえ、安定したルーティンワークを着実にこなす仕事に向いているという。

コンピテンシー

また、マクレランドはとりわけ達成欲求がパフォーマンスの向上に大きく貢献するとの見解から、優れたパフォーマンスを発揮する人に共通する行動特性(コンピテンシー)を導き出している。

その行動特性は、働く人たちの「評価基準」として広く普及することになる。

「欲求理論」をポジショニングツールに

以前の「シュワルツの価値理論」の記事で人の普遍的な価値の体系がブランドのポジショニングツールとして使えると述べた。

おそらく3つの欲求もまた、ブランドのポジショニングを判断する枠組みとしては有効だろう。

仮にクレジットカードブランドのポジショニングを考えるとしよう。競合のAブランドが「権威欲求」に照準を当てステータス性を訴求している。

一方、競合のBブランドはマスターカードさながらに人と人との絆を醸成するカードとして親和欲求を満たそうとしている。

それなら、自社ブランドはどうポジショニングするか?

手つかずの達成欲求に的を絞り、利便性や効率性を徹底的に訴求しようといったアイデアが浮かぶ。

消費者の頭の中で空いたポジションを探すのに活用できるのだ。

もともとは働く従業員を研究対象に生まれた理論であるが、マーケターにとっては畑違いなどと思わないほうがいい。

消費者を動かす一つの枠組みとして頭の片隅に入れておいてもいいだろう。

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