「世の中」の意味とは?
世の中はもちつもたれずだ。
世の中は一寸先は闇。
世の中は捨てたもんじゃない。
私たちが何気なく使う「世の中」という言葉。
辞書には「人々が互いにかかわり合って生きて暮らしていく場」とある。
同類語は「社会」「世間」「世界」など。
しかし、「世の中」なる言葉はそんな通り一遍の定義文や言い換え語では言い尽くせないほど多義性をはらんでいる。
様々な文脈で八面六臂(はちめんろっぴ)の働きをするのだ。
まずはどんな多彩な意味があるかのか、その全容を確認しておこう。
以下、その意味合いを8つに分類し、例文とともに示す。
1.社会全体の状態や状況
最も基本的な意味で社会全体の状況や時代の流れなどを指す。
- 「世の中が急速にデジタル化している。」
- 「戦後の世の中は復興と成長の時代だった。」
- 「世の中の景気が回復してきたようだ。」
2.人間関係や社会的つながり
人々の関係性や社会の中でのつながりを指す。
- 「世の中は狭いと言うけど、本当にその通りだ。」
- 「彼とは世の中のどこかで繋がっている気がする。」
- 「世の中の人々と上手に付き合うことが大事だ。」
3.人生の無常や不確実性
人生の予測不可能な側面や無常さを指す。
- 「世の中は思い通りにはいかないものだ。」
- 「世の中の移り変わりを感じる。」
- 「世の中の風は気まぐれだ。」
4.社会的な評価や常識
社会全体の常識や他人からの評価を指す。
- 「世の中の目を気にしすぎる必要はない。」
- 「そんな行動をしたら、世の中の笑い者になるよ。」
- 「世の中の常識にとらわれずに生きる。」
5.日常生活や現実社会
自分たちが身を置く日常生活や現実の社会を指す。
- 「世の中にはいろんな人がいる。」
- 「世の中の厳しさを知る。」
- 「世の中で生き抜くためには強さが必要だ。」
6.時代や流行
特定の時代やその時々の流行、風潮を指す。
- 「この世の中では、スマートフォンが欠かせない。」
- 「世の中の流行に敏感な人だ。」
- 「世の中のトレンドを常にチェックしている。」
7.広い世界や未知の領域
物理的・地理的な広さに加え、未知の領域を含めた経験し得る範囲の広さを指す。
- 「世の中にはまだ知らないことがたくさんある。」
- 「世の中の広さに驚かされる。」
- 「世の中には自分の知らない世界がある。」
8.社会的な課題や問題点
社会全体が抱える問題や課題を指す。
- 「世の中の不平等を感じる。」
- 「世の中の環境問題は深刻だ。」
- 「世の中の格差が広がっている。」
「世の中」の言い換え
「世の中」はその多義性ゆえに様々な言葉に言い換えが効く。
前述した8つの分類に即して、代表的な言い換えの言葉を例文とともに見ていこう。
1. 社会全体の状態や状況
言い換え: 社会、世間、世相、世局、世情、情勢
- [世の中/社会]は多様性を尊重する方向に進んでいる。
- [世の中/世間]は彼のことを英雄視している。
- [世の中/世相]は変化が激しい。
- [世の中/政局]は不安定だ。
- [世の中/世情]は厳しさを増している。
- [世の中/情勢]は今のところ落ち着いている。
2. 人間関係や社会的つながり
言い換え: 人間関係、社会関係、コミュニティ、人間社会
- [世の中/人間関係]は複雑だ。
- [世の中/社会関係]は良好な状態にある。
- [世の中/コミュニティ]の人たちは温かい。
- [世の中/人間社会]は競争が激しい。
3. 人生の無常や不確実性
言い換え: 人生、現実、世事
- [世の中/人生]は無常だ。
- [世の中/現実]は厳しい。
- [世の中/世事]は思い通りにならない。
4. 社会的な評価や常識
言い換え: 世間、世論、世評、常識、風習
- [世の中/世間]の目は厳しい。
- [世の中/世論]は二分されている。
- [世の中(的には)/世評]は良いとは言えない。
- [世の中/常識]を知ることは大切だ。
- [世の中/風習]を劇的に変えるのは難しい。
5. 日常生活や現実社会
言い換え: 生活、現実、日常、社会
- [世の中/生活]は忙しい。
- [世の中/現実]から逃避したい。
- [世の中/日常]は繰り返しの連続だ。
- [世の中/社会]で生きていくのは大変だ。
6. 時代や流行
言い換え: 時代、流行、風潮、トレンド
- [世の中/時代]は大きく変わった。
- [世の中/流行]はすぐに変わる。
- [世の中/風潮]は健康的とは言えない。
- [世の中/トレンド]に敏感であることは重要だ。
7. 広い世界や未知の領域
言い換え: 世界、社会、万物
- [世の中/世界]の広さに驚く。
- [世の中/社会]はまだまだ知らないことがたくさんある。
- [世の中/万物]は神秘に満ちている。
8. 社会的な課題や問題点
言い換え: 社会問題、社会課題
- [世の中の問題/社会問題]は山積している。
- [世の中の課題/社会課題]を解決するためには協力が必要だ。
「世の中」のニュアンス
では「世の中」がここで挙げた数々の言い換え語で代用できるかのだろうか?
そう単純な話しではない。
「世の中」の言葉は文脈によって表情を変える微妙なニュアンスや深みを備えているのだ。
たとえば「物騒な世の中」を「物騒な社会」としてしまっては、自分の身に差し迫ってくるようなリアリティは薄れてしまうだろう。
すべては言い尽くせないが、そのニュアンスをいくつか挙げておこう。
1.多様性と変化
様々な人々が様々な価値観を持って生きている。
そして常に変化し続けている。
- 「世の中は今、国境を越えて、様々な文化が混ざり合い、日々変化している。」
- 「昔と比べて世の中の価値観は多様化し、一つの答えがない時代になった。」
- 「AIの発展により、私たちの生活や働き方は大きく変わり、世の中は急速に進化している。」
2.人間のリアルな営み
人間の生活、社会、文化など、あらゆる人間の営みが織りなしている。
- 「世の中という大きな舞台で人は成長し、愛し、そして別れを経験する。」
- 「世の中は、人々の営みによって紡がれる物語の集合体である。」
- 「芸術や音楽は世の中を映し出す鏡であり、人々の心を豊かにする。」
3.生き生きとした力
人間は生きており、社会は動いている。
静的な状態にあるのではないのだ。
その生き生きとした力強さや躍動感を含意する言葉といえる。
- 「世の中は静止したものではない。常に動き、変化し、新しいものを生み出す力を持っている。」
- 「若者たちは、未来の世の中を担う力強い存在だ。」
- 「自然の力と人間の創造性が織りなす世の中は本当に美しい。」
「世の中」はこうした多面的なニュアンスを持つ。
複雑さや矛盾、対立、不確実性をはらむ文脈には替えがきかない言葉だったのだ。
そのことを頭の片隅に入れて置くと、「世の中」なる言葉をここぞというときに上手に使えるようになるだろう。