フォン・レストルフ効果(孤立/アイソレーション効果)とは?

フォン・レストルフ効果
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「フォン・レストルフ効果」(アイソレーション効果/孤立効果)とは似ているモノが多く並ぶなか、一つだけ異質なモノがあると、その刺激がひときわ目立ち、強い印象を与え、記憶にも残りやすくなることを指す。

至極当然のことのようだが、その効果は絶大だ。

消費者からコンマ数秒の注目を獲得できるか否かが命運を握るブランド戦略においては、実践で生かしたい概念の一つといえる。

目次

注意を惹きつけ、記憶に残りやすくする「フォン・レストルフ効果」

マーケティングの世界ではよく「差別化」という言い方をする。

商品・サービス開発、ブランド構築、事業戦略や流通戦略など、使われる文脈も幅広い。

他には似た意味で「差異化」という言葉もよく使われる。優劣の尺度も加わるが、広義の意味では「高付加価値化」も同類といっていいだろう。

今回取り上げるのは「フォン・レストルフ効果」と呼ばれる概念で、この「差別化」とも無縁ではない。

ファンやリピーターを引き寄せる本質的な差別化には直結するとは限らないが、表層的な差異をつくり出し、新規顧客を振り向かせる呼び水として軽視できない効果を生む。

フォン・レストルフ効果
フォン・レストルフ効果
フォン・レストルフ効果

この「フォン・レストルフ効果」とは、似ているモノが多く並ぶなか、一つだけ異質なモノがあると、その刺激がひときわ目立ち、強い印象を与え、記憶にも残りやすくなることを指す。

この概念を提唱したドイツの精神科医・小児科医であったヘドヴィッヒ・フォン・レストルフ氏の名にちなんでそう呼ばれている。

また、その異質性が他から孤立して見えることから「孤立効果」「アイソレーション効果」という別名もあるようだ。

「フォン・レストルフ効果」の起源にはヒトの生存欲求

英語版のウィキペディアの記事に書かれた例を一つ挙げよう。

机、椅子、ベッド、テーブル、シマリス、ドレッサー、スツール、ソファーといった単語リストのうち、「シマリス」は注意を引きやすく記憶にも残りやすい。

他の単語とはジャンルが異なり、意味の上で際立っているためである。これが「フォン・レストルフ効果」だ。

また、米国の研究者が行った実験では、実験参加者に複数の動物の写真を見せ、シマウマやトカゲを探すように指示した。

ところが参加者の目の動きを観察したところ、ライオンとヘビに視線をより長くとどめていたという。

シマウマ
ライオン

自分たちにとって危険で脅威となり得る、それだけ際立った特徴を持つ動物には、半ば自動的に注意を向けてしまうようだ。

この「フォン・レストルフ効果」が生じる根底には、生存への強い欲求があるという。

ヒトは元来、自分に危険が及ぶことがないかを常に見定めながら生きており、その手がかりとして、ひときわ目立つ色や形、動き、音などの感覚的な刺激には敏感に反応する。

注意を集中させ「戦うか、逃げるか(fight or flight)」を瞬時に決められるよう、片時も休むことなくアンテナを張る。

そう脳が設計されているらしい。

そのため、より目立つ、特異な刺激には自動的に注意を振り分け、記憶にとどめるようになるのだ。

WEBデザインの随所に「フォン・レストルフ効果」

「フォン・レストルフ効果」を実証した実験は数々あるが、我々の日常生活でも、この効果を実感することはよくある。

男性の中に女性がただ一人という「紅一点」や、その逆の「白一点」であれば、そのたった一人の女性や男性は注意を引きやすいだろうし、記憶にも残りやすい。

日本人の中に人種の異なる外国人がいても同様だろう。

突出したボタン

生活の中に溶け込んだあらゆるモノのデザインもまた、「フォン・レストルフ効果」の宝庫となる。

色や形、大きさ、あるいは位置や向き、明るさなど、統一感があってひとまとまりにデザインされたものがあるとしよう。

その中に一つだけ異質なものがあるとすれば、目を奪われずにはいられない。

動きや奥行きなど空間認識も巻き込む3次元の世界でもそうだろう。

あるいは視覚以外にも音や感触、匂いであっても、画一的なパターンを崩す異質な刺激であれば、人は否応なしに注意を向けてしまう。

この「フォン・レストルフ効果」が半ば常識的に活用されているのがWEBデザインの世界だ。

デザイナーたちにとっては、UI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)の向上に欠かせない必須の概念らしい。

サイトの画面上では、消費者がシームレスに迷うことなく欲しい情報にたどり着けることが必要条件となるが、そのための視線誘導に「フォン・レストルフ効果」を生む感覚刺激が随所でデザインされている。

購入ボタン

たとえば消費者がサイト上の商品に興味をもったとしよう。

ところが、問い合わせや資料請求、カートボタン、購入ボタンなどいわゆるCTA(call to action、行動を喚起する)ボタンになかなかたどり着けないとする。思わず買い控えしたくなる瞬間だ。

サイトを運営する側にとって、その一瞬の戸惑いがコンバージョンの機会ロスにつながりかねない。

そこでCTAボタンには、消費者の注意を引くために、それらの情報が掲載されたページのトーンとは真逆ともいえるデザインが施される。

サイトのページ全体が寒色や無彩色系なら暖色系のボタン、ページがスクエアなラインで構成されているなら、丸みを帯びたボタン、全体的に平面的な印象のページなら、立体的なボタンにすることもある。

こうしたデザインはショッピングサイトなどでは見慣れた光景で特筆には値しないように思えるが、消費者から購買行動を引き出すには欠かせない要素なのだ。

「フォン・レストルフ効果」が“ダークパターン” の一翼を担うことも

この「フォン・レストルフ効果」を逆手にとり、消費者にアクションを控えさせることもできる。

たとえば、サイトの運営側が消費者にログアウトをさせたくない場合は、ログアウトの行為や、そもそもログイン中であることを意識させないような控えめなデザインにし、他の要素をより目立たせ注意を引きつける。

「今すぐログアウトしますか?」と画面に表示されるにしても、ログアウトよりもキャンセルボタンを目立たせるやり方もある。

キャンセルボタン

消費者は目立つ色のボタンを押すことに馴れてしまっていることもあり、「パブロフの犬」的な条件反射でとっさにキャンセルボタンを押してしまったりするのだ。

さらに有料会員サービスから解約を試みようとしても、「会員情報の設定・変更」ボタンまでの道筋が目立たないようにデザインされていることもある。消費者はたどり着くのが億劫(おっくう)に感じてしまい、解約を先延ばしてしまいたくなるのだ。

「フォン・レストルフ効果」を狙って、CTAボタンなどを目立たせたり、気づきにくくしたりして消費者から特定のアクションを引き出すことはWEBデザインでは常態化しているといえる。

しかし、それが仮に消費者の意図に著しく反していることなら、「ダークパターン(消費者を不利な決定に誘導する手法)」の一環だと昨今は消費者保護の観点から問題視されてもいる。

逆に言えば、それほど「フォン・レストルフ効果」には消費者行動に影響を与える力が伴うのだといえよう。

ティファニーブルーによる「フォン・レストルフ効果」

ではマーケティングの世界で「フォン・レストルフ効果」はどう発揮されているのだろうか?

ブランド構築が伴うマーケティングとなると、WEBデザインのように、今ここ、この瞬間で注意の振り分け先を変えさせ、CTAボタンを押させるといった次元でとどまる話しではない。

時間軸はより長い。

まずはブランド固有の突出した感覚刺激をつくり出し、注目を集めることが先決だ。

同時にその強烈な感覚刺激が出現したせいで、競争相手となる他のブランドの選択肢が意識からいったん消えることが肝要となる。

似たり寄ったりに見えてしまって、背景に引っ込んでしまうようにするのだ。

まさにブランドは孤立(「フォン・レストルフ効果」の別名)し、他のブランドからの干渉を免れるため、記憶にしっかりと刻まれ、楽々と思い出せるようになる。

結果的に購入時点で多くの消費者の想起集合(購入を検討してもよいと思えるブランド群)に入り込むことができるのだ。

具体的なブランドの例を挙げてみよう。

ティファニー 指輪

分かりやすい例がティファニーだ。

「『欲しい! 』はこうしてつくられる 脳科学者とマーケターが教える『買い物』の心理」(白揚社 2022)によれば、女性向けのブランドの多くは「ピンク」を女性らしさの象徴として使ってきた歴史がある。その中で突出して目立つにはどうすればよいか? 

宝飾品ブランドのティファニーはブルーを選んだのだ。

同ブランドは一貫してブランドのキーカラーを、それまでなかった「ティファニーブルー」に統一し、その存在感を高めていく。

異質な感覚刺激によって「フォン・レストルフ効果」が発揮され、ブランドに注意を引きつけた好例といえるだろう。

もちろん、ティファニーがその後に世界的なブランドに育つまでには他のマーケティング要因が絡んでいただろうが、「ティファニーブルー」による「フォン・レストルフ効果」は、少なくともブランドが名を馳せるきっかけにはなったはずだ。

ボタニストのパッケージデザインが放った「フォン・レストルフ効果」

日本のシャンプー市場でも、「フォン・レストルフ効果」によって注目を浴びたブランドがある。

美容家電などを扱う新興企業の「I-ne(アイエヌイー)」が2015年に発売したボタニカル・シャンプー「ボタニスト」だ。

植物由来のシャンプー自体は珍しくはなかったが、異彩を放ったのがそのパッケージデザインだ。

透明なボトルにシンプルなモノクロデザインのロゴ。一見すると薬品のガラス瓶のようなイメージだ。

ドラッグストアで見かけるヘアケア商品の棚といえば、カラフルなパッケージデザインで個性を競い合う。

まさにレッドオーシャン(赤い海、激烈な競争市場の意)の印象があるが、シンプル&ミニマルなコンセプトを体現した「ボタニスト」のデザインはかえって目立つことになる。

否応なしに視線を引きつけたのだ。

競争相手の比較的少ない1,500円前後の中価格帯に位置づけ、マス広告に頼らずSNS中心のプロモーションに努めたことで従来ブランドとの差異がいっそう際立った。

やがて花王や資生堂、ユニリーバ、P&Gなどのマスブランドを脅かす存在に駆け上がったのである。

写真や絵画で、主題となる人物や風景を「前景」その後方に見えるものを「後景」という。

前景 後景

「フォン・レストルフ効果」を発揮する上で重要なのは、焦点のあたる「前景」が光り輝き、「後景」はほの暗く沈み隠れるようにして、そのコントラストをはっきりとさせることだ。

消費者から見たブランドの光景もしかりである。

自社ブランドの存在は確かに際立つが、競合ブランドもそこそこ目立っているという中途半端な状況では十分な「フォン・レストルフ効果」は見込めない。売上げを伸ばすこともないだろう。

成熟市場においては、多くのブランドが新商品の投入やリニューアルの実施、個性的な広告キャンペーンの展開など趣向を凝らして差別化を試みている。

しかし、並み居る競合ブランドを一網打尽にし、「後景」に沈ませるほどのコントラストを実現するのはかなり難しいというのが昨今の実情だ。

「ボタニスト」のようなブランドはむしろレアケースと言っていい。

緑茶飲料「伊右衛門」も「フォン・レストルフ効果」で鮮やかな復活

その「ボタニスト」に並び立つ金字塔ともいえるほど「フォン・レストルフ効果」を発揮したのが、本ブログでも取り上げたサントリー食品インターナショナルの緑茶飲料「伊右衛門」だ。

2004年の発売以来の抜本的なリニューアルで、低迷していた売上げが見事に復調する。

その起爆剤となったのが、茶色味が強かった緑茶の液色を「鮮やかな緑色」に刷新したことである。

その色から急須で淹れ立ての味わいを改めて連想させたのだ。

ボトルのほぼ全体をおおっていたロールラベルの裾を短くし、鮮やかな液色が店頭で目立つにようにもしている。

「フォン・レストルフ効果」を狙って既存の競合ブランドとのコントラストを効かせたのだ。

同じ緑茶飲料であるキリンビバレッジの「キリン生茶」もかつてガラス瓶のように見えるスタイリッシュなボトルデザインに刷新してヒットしている。

「キリン生茶」で攻めたのに対し、「伊右衛門」で攻めたといえる。

緑茶飲料は他の清涼飲料に比べ購入頻度も少なく、いわゆるライトユーザーが多い。

総じてこだわりは強くなく、色のような感覚刺激にもなびきやすいことを見抜いたサントリーの鮮やかな作戦勝ちといえよう。

また、日本コカ・コーラの麦茶ブランド「やかんの麦茶 from 一(はじめ)」も同様といえる。

既存の麦茶飲料にはなかった、意表を突く色の選択によって「フォン・レストルフ効果」を発揮し、ヒットにつながっている。

日本の伝統色であるあさぎ色(薄い藍色)のパッケージデザインがひときわ目を引いたのだ。のれんをモチーフにしているという。

そこにやかんのアイコンでアクセントをつけ、昔ながらのやかんで煮出したような本格的な麦茶の味わいを連想させている(日経クロストレンド 2022.5.20)

ブルー系のパッケージは本来、食欲を減退させるイメージもあって、全面で使われることは既存ブランドではなかった。

使われていたとしても、せいぜい「さし色」程度である。

「やかんの麦茶」はそのパターンを破ったことで、ブランドに際立ちが生まれ、後発ブランドながら消費者の注意を引きつけることに成功したのだ。

発売から1年2ヵ月で累計出荷本数4億本を突破しており、これは過去10年間で発売されたコカ・コーラ社の新商品としては最速の速さだという。

「フォン・レストルフ効果」の源泉は感覚刺激だけにあらず

ここまで紹介してきたティファニー、ボタニスト、伊右衛門、やかんの麦茶はいずれも「色」が前面に立って「フォン・レストルフ効果」を生んでいる。

たしかに「色」にはブランドが競い合う市場の構図を反転させる力がある。

しかし、たとえば本ブログでも取り上げた森永製菓の「チョコモナカジャンボ」にように、「大きさ」で傑出したブランドになった例もある。

「色」以外の視覚的な手がかりも有効なのだ。

あるいは日本ハムの「シャウエッセン」が躍進するきっかけを掴んだ「パリッ!」という音のように、聴覚的な手がかりも「フォン・レストルフ効果」につながることもある。

また、「フォン・レストルフ効果」は物質的性質が生み出す感覚刺激だけが源泉となるわけではない。

それまで考えもしなかった異質の「概念」や「文脈」を既存市場に持ち込み、異質性を際立たせ、強い印象を残してヒットを手繰り寄せることも可能だ。

たとえば、すべての例文に「うんこ」という言葉を使用した「うんこ漢字ドリル」や、あえて動物の残念な側面に焦点をあてた「ざんねんないきもの事典」などはその好例だろう。

いずれも出版業界では異例の人気を集めた。

異質性が人々の注意を引き、記憶にとどめやすくする「フォン・レストルフ効果」。

至極当然でとるに足らないことに思えるが、実はその効果は絶大で、ブランドがスターダムの扉を開くきっかけを生む。

「こうしたら『フォン・レストルフ効果』がもっと発揮できるのでは?」とふとひらめくよう、マーケターならこの原理を頭の片隅に入れておいてもいいだろう。

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