スズキ・ジムニー なぜジムニストたちの口コミは熱いのか?

スズキ ジムニー
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軽自動車で四輪駆動、スズキ・ジムニーの販売好調が続いている。

ユーザーの支持は熱く、その多くが他の車種を一切検討せず「ジムニー一択」で購入しているという。

そのカルト的な人気を後押ししたのが2018年のフルモデルチェンジだ。

“本格派オフローダー”というブランドの原点に立ち返り「プロの道具」に振り切った刷新が熱い支持につながったという。

目次

ジムニーがカルト的な人気に

スズキ・ジムニーの販売好調が続いている。軽自動車で四輪駆動、生粋のオフローダーとして既に不動の地位にあったが、ここへ来てその人気がカルト的になりつつある。

きっかけは2018年7月、20年ぶりのフルモデルチェンジだ。待ち望んでいたファンから堰を切ったように注文が殺到し、受注台数が最初の1週間で年間目標を上回るまでになったという。

その後3年が経過するが、その人気は一向に衰えない。旧型からの買い替えのみならず、これまでジムニーとは無縁だった若者から女性、子育てを終えた中高年など新規ユーザーも多く惹きつけている。1年以上も納車待ちになる状況が続くのだ。

東洋経済オンラインの2020年11月22日付の記事にジムニー購入者のプロフィール分析が紹介されている。

市場調査会社のインテージによるものだが、さながらアップル信者のように、ジムニー購入者の多くが「ジムニー一択」で購入している様子がうかがえる。

8割以上の購入者がジムニーをどうあっても購入したかったと答え、他に検討した車はなかったという。

販売台数では決してメジャーではないが、これだけ熱く支持されるブランドを擁することはスズキにとっても大きな資産だろう。

ライバル不在・唯一無二のブランド、ジムニー

では、なぜジムニーにこれほどの支持が集まるのか?

それはひとえに「軽自動車」で「四輪駆動」という特異なポジショニングの勝利だろう。

どう見渡してもライバルがいない。その唯一無二性に人々は否応なしに惹き込まれるのだ

初代のジムニーが産声を上げたのが1970年。

当時は軽自動車で唯一の四輪駆動車であり、コンパクトながら力強い走破性を備えていたことで、農林業や土木、建設の作業現場や山間部、積雪地の交通手段として重宝されたという。

ジムニーの名前は軍用車の「ジープ」と「ミニ」の組み合わせから来ているが、まさに大型の四輪駆動車では通れない日本の狭い道も走れるとあって、消防や警察、郵便などの公用車として採用された実績を持つ(レピオマガジン2018年6月15日)

その後は1981年と1998年にフルモデルチェンジを経験し、ブランドは今や50年の歴史を刻む。

その間アウトドアや街乗り需要も開拓したが、コンパクトながら本格派のオフローダーというポジションは大きく変えずに現在に至っている。

4代目となる2018年のフルモデルチェンジでは、やや街乗りにシフトした3代目に比べ、機能性をより追求し仕事で使うプロたちを満足させるという原点に回帰している。

デザインもスクエア懐かしさを感じさせるやや武骨な印象を残す。

一方で丸型のヘッドランプのせいだろうか? その顔つきはどこか愛嬌も帯びている。

「プロの道具」としてのジムニー

NEWSポストセブンの2018年7月15日付の記事には、4代目のフルモデルチェンジでジムニーは3層の想定ユーザーを設定したとある。

まずは「プロユーザー」で、現場作業の実務車としてジムニーを必要とする人たちや、本格オフロード走行やアウトドアレジャーなど、ジムニーを趣味の相棒として活用する人たち。

2層目が「日常ユーザー」で、山岳地帯や寒冷地域に住み、生活車両としてジムニーが欠かせない人たち。

最後が「一般ユーザー」だ。街乗りがメインながらプロの仕様や本物感に憧れを感じ、ジムニーに食指が動く人たちである。

そして、ジムニーがもっとも照準を合わせたのが「プロユーザー」だ。走破性を始め、プロたちも認める性能に仕上げることを目標に置いたという。

文藝春秋digitalの2021年1月16日付の記事によれば、林業の現場や降雪地域でジムニーを使う人たちにヒアリングをしたところ、「コンパクトなオフロード性能」に対する切実なニーズが改めて浮かび上がった。スズキが創業当時から「仕事に役立つクルマ」を追求してきたこともあり、プロユースに耐え得る本格性能はジムニーにとって譲れない価値との確信に至ったという。

スズキのニュースリリース(2018年7月5日)には新型ジムニーが「プロユースにも応える使い勝手」に特長を持たせたとあるが、それらはこの時のユーザーたちの声に端を発していたのだ。

そんなジムニーのこだわりを示す例を一つ挙げるなら、車両の骨格として採用する「ラダーフレーム」があるだろう。

新型ジムニーではそのはしご状のフレームを継承することはもちろん、設計も新たにし直している。悪路走破性や耐久性をより補強するためだ。

「ラダーフレーム」はメルセデス・ベンツのGクラスやトヨタのランドクルーザーなど本格派のオフロード車が採用するが、スズキでは唯一ジムニーだけとなる。部品は他の車種と共通化し、できるだけコストを抑えるというメーカーの慣行からあえて外れた選択を行ったのだ。

このラダーフレーム以外にも、エクステリアやインテリアの細部に至るまで「プロの道具」に足る機能性を徹底的に追求している。

追加したボディーカラーは吹雪や濃霧などでも目立つ「キネティックイエロー」と深い森の中で隠れる「ジャングルグリーン」。やはり機能性に徹していることが見て取れる。

ジムニーに宿る奥深いストーリー

もう少し街乗りに寄せるという選択肢もあった中で、このプロユースに振り切るという決断はジムニーのブランド戦略にとって極めて重要だった。ブランドのポジショニングに決定的な違いを生んだのだ。

「軽自動車」で「四輪駆動」というジャンル上の特異な立ち位置に加え、そこに「プロの道具」という奥行きと深みのある文脈が与えられたことになる。

「軽自動車」で「四輪駆動」だけならメルセデス・ベンツのGクラスやトヨタのランドクルーザーをコンパクトにした廉価版に過ぎない。ジムニーはヒエラルキーの最下層に位置し、それ以上ではなくなる。

ところが「プロの道具」となれば、大型車では到底不可能な日本の狭い山道や林道にも適したジムニーならではの特長が際立ち、背負う使命の重みに、一般ユーザーであっても興味が掻き立てられるのだ。

20世紀前半に活躍した英国の小説家がかつて「王が死んで、それから女王が死んだ」では単なる事実の羅列でしかないが、「王が死んで、それから女王が悲しみのあまり死んだ」となれば筋書きとなると言った。

当然ながら後者の方がより強い納得感と共感を呼び起こす。「プロの道具」としてのジムニーにもストーリーが与えられ。同様の効果が発揮されたのだ。

オーバースペックゆえのジムニーの愉しみ方

そんなジムニーを愛しんだのが、3つ目の想定ユーザー、「一般ユーザー」たちである。アウトドア利用も視野には入るものの、普段は街乗りがメインの人たちだ。

用途から言えばオーバースペックではあるが、実はそこが愉しさの源泉だったりする。

メーカーが意図したことに反する使い方をしている自分も頼もしいし、何より遊び心が刺激される。スペックのディテールもわかる人にはわかる暗号のようにも思えてくる。

だからこそ、SNSで話題にする題材にもことかかないのだ。およそ汎用性の低いスペックであってもジムニーの愛好家だけで通じ合える。

若者たちが仲間内だけで通用する「若者言葉」を使って連帯感を確かめ合う感覚に近いだろう。

軽自動車でありながら四輪駆動、そして「プロの道具」に足る機能性によって唯一無二性を際立たせたジムニー。

そのことをジムニーのテレビCMは端的に表現している。

キャッチコピーは「Nobody but Jimny」。やはり余人をもって代えがたい、存在の唯一無二性を言っている。

公式サイトによれば、「ジムニーでなければたどり着けない場所や走れない道が世界中にあるとし、映像では山を越え、ぬかるみを越え、岩場を越え、突き進む孤高のジムニーが力強く描かれる。

スノッブ効果、ジムニー熱のもう一つの要因

ここまで人々がいかにジムニーの唯一無二性に惹かれたかを見てきた。それゆえ、何ものにも代え難く、どうあっても購入したかったのだ。

しかし、一歩引いて俯瞰(ふかん)的にみると、もう一つジムニー熱のブースターとなった要因が考えられる。

ジムニーは世間一般の見方でいえば、SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)という大きなくくりに分類される。

SUVはここ10年、国内外でブームとも呼べるほど活況を呈しており、自動車メーカー各社がラインアップを充実させている。

たとえばトヨタであればRAV4、ヤリスクロス、ハリアー、そして最高峰のランドクルーザーなどがあり、最近は海外で先行していたカローラシリーズ初のSUV、カローラクロスの国内販売も始まった。

また、軽自動車の中にもSUVを謳うモデルは複数ある。同じスズキのハスラーやダイハツのタフトが代表格だ。

今の時代に新たにクルマを買おうとするなら、SUVが大きなうねりとなっていることは否応なしに耳目に届く。

セダンからSUVに乗り換える人も大勢いるだろう。

しかし一方で、世の中には右に倣えでブームに迎合することを潔しとしない人もいるのだ。この現象は「スノッブ効果」という用語で説明できる。

スノッブ効果

「スノッブ効果」とは米国の経済学者が提唱した概念で、市場で特定のモノやサービスの利用が増えると、それらを新たに利用しようとする人が減少することをいう。

人気があるもの、メジャーなものを避けようとする人が徐々に増えてくる現象だ。

本来なら自分が持つニーズや趣味嗜好に従って選べばよいのであり、他に多くの人が利用していようがいまいが関係ないはずである。

しかし、周囲と選択がかぶってしまうと没個性的で自分のアイデンティティが脅かされたような気持ちになってしまう。そう感じる人たちが一定数存在するのである。

ジムニーがフルモデルチェンジに打って出た頃は既にSUVは過当競争の状態にあり、「スノッブ効果」が発揮されやすいタイミングだったのだ。

一口にSUVブームといっても市場を席捲するのはクロスオーバーSUV、シティ派SUVと呼ばれるオンロードに適したモデルである。

そうした野性味薄れたモデルがひしめき合う状況に食傷気味になるという潜在的な不満分子たちが出てきてもおかしくはない。

そんなタイミングでSUVの端くれながら異彩を放つ、孤高の存在ジムニーが目に止まったのだろう。ランドクルーザーなどに比べれば価格も手が届きやすい。

「スノッブ効果」の見えざる手に背中を押され、ジムニーに目を向けてみると、そこには聞きしにまさる「プロの道具」としての勇姿があった。

面白そうなクルマではないか? 生涯に一度、こんなクルマを相棒にするのもよい。そんな風に惚れ込んだら最後、一年以上の納車を辛抱強く待ってもいいという気持ちにもなるのだろう。

あくまで当人たちは個人的なニーズや趣味嗜好に従ってジムニーを選んだのであり、そこに「スノッブ効果」が一枚噛んでいるとはつゆほども思っていない。

自分が大勢の人たちに小突かれるようにブランドを選んだとは思いたくもないはずだ。

しかし、マーケターなら市場の風向きをマクロ的に見据える必要がある。

「スノッブ効果」は合気道のように相手の力、すなわち市場の力学から生じるのであってブランドの自力では起こせない。

その「スノッブ効果」が自社のブランドに働く兆しを見逃さないことが大切だ。

ジムニーへの熱視線、別の道はあり得たのか?

前述した東洋経済オンラインの記事にあるインテージの調査によれば、ジムニーの購入者は「スタイルや外観」「駆動方式」を高く評価する一方で、「乗り心地」や「燃費の良さ」といった乗用車の基本的な性能では振るわなかったようだ。

オフロード寄りのSUVブームに乗じる形で新型ジムニーをもっと街乗りに寄せ、乗用車の基本性能を高めるというモデルチェンジのやり方もあったであろう。

熱を帯びることはなかったにせよ、ジムニーが培ってきたブランド力を持ってすれば、ロングスパンではより大きなマーケットが狙えたかもしれない。

パラレルワールドのごとく、異世界に全く同じ市場が再現できるのなら、別々の道を歩んだジムニーの行く末を比較したいものだ。

しかし、ジムニーはブランドの本質的な価値を守り抜く道を選んだのだ。自動車産業全体は大変革の時代を迎えつつあるが、今後ジムニーのような稀有な存在がどんな道を切り開くのか? 

「ジムニスト」と呼ばれるコアのファンならずとも、ジムニーらしいダイナミックな筋書きを期待したいところだろう。

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