企画書で「好評嘖々と評判になり、サービスが拡大した」と述べ、トラブルの際には「流言蜚語が飛び交い、対応に追われた」と報告する。
どちらも同じ「広まる」を意味する言葉だが、その言葉が伝える情報の性質や影響力の質は異なる。
本稿では、ビジネスパーソンが差をつける言葉の選び方に焦点を当て、6つの四字熟語が持つそれぞれのニュアンスを解説する。
1.「知れ渡る」を表す四字熟語6選──その違い、使い分け
本章では、情報や評判の広がり、そしてその影響力を表す6つの四字熟語を詳しく解説していく。
これらの言葉の使い分けを理解することで、より的確な表現が可能になるだろう。
今回の四字熟語はコレ
今回は、情報や評判の広がり、そしてその影響力を表す、以下の6つの四字熟語を取り上げる。
- 悪事千里(あくじせんり)
- 好評嘖々(こうひょうさくさく)
- 天下御免(てんかごめん)
- 流言蜚語(りゅうげんひご)
- 衆口鑠金(しゅうこうさっきん)
- 膾炙人口(かいしゃじんこう)
これらの四字熟語は、単に情報が広まることを意味するだけでなく、それがどのような形で、なぜ広まるのかという背景を表現できる。
状況に応じて適切に使い分けることで、言葉に説得力と深みが生まれるだろう。
(1) 悪事千里(あくじせんり)
- 意味と成り立ち
- 「千里」は非常に遠い道のりを意味する。悪い噂や秘密は、たとえ隠そうとしても、すぐに遠くまで広まってしまうという意味だ。情報の拡散スピードが速いことを強調する際に用いられる。
- 用例
- 競合の不祥事がSNSで瞬く間に広がり、まさに悪事千里を地で行く結果となった。
- 社内の些細な揉め事が外部に漏れてしまい、悪事千里、取引先にまで知れ渡ってしまった。
- 隠蔽しようとした不正は、悪事千里、あっという間に世間に知られ、会社は信用を失った。
- 使い分けのヒント
- 「悪事千里」は、ネガティブな情報が素早く広まることを強調したい場合に適している。単に「広まった」だけでなく、「悪い情報が」というニュアンスを加えたいときに効果的だ。
(2) 好評嘖々(こうひょうさくさく)
- 意味と成り立ち
- 「嘖々」は多くの人が褒める声や感嘆する声が入り乱れる様子を表す。商品やサービス、人物などが多くの人から高く評価され、その評判が広まることを意味する。
- 用例
- 新製品のユーザー評価が好評嘖々で、販売数が予測を大きく上回った。
- 彼のリーダーシップは社員から好評嘖々で、社内の雰囲気が一変した。
- 先日開催したウェビナーは、参加者から好評嘖々で、次回開催を望む声が多く寄せられている。
- 使い分けのヒント
- 「好評嘖々」は、良い評判が人々の間で広まる様子を表現する。似た言葉に「名声嘖々(めいせいさくさく)」があるが、こちらは「名誉ある評価や世間からの高い評判」を指し、より公的で権威的なニュアンスが強い。「好評嘖々」は、もう少し個人的な感想や意見が交わされる場面でも使うことができる。
(3) 天下御免(てんかごめん)
- 意味と成り立ち
- 「天下」は世の中全体、「御免」は許可や承認を意味する。世の中全体から公に認められること、また、堂々と振る舞えることを表す。
- 用例
- 当社の新技術は、天下御免の品質を誇り、業界標準となるだろう。
- 天下御免の腕を持つ職人に依頼することで、最高の仕上がりを実現した。
- このプロジェクトは、天下御免の正当性を持っており、反対意見を押し切って進めることができる。
- 使い分けのヒント
- 「天下御免」は、単に広まるだけでなく、公的に認められ、正当性が保証されているというニュアンスを強調したい場合に適している。ビジネスシーンでは、自社の技術や製品の優位性、プロジェクトの正当性を示す際に有効だ。
(4) 流言蜚語(りゅうげんひご)
- 意味と成り立ち
- 「流言」も「蜚語」も、根拠のない噂やデマを意味する。特に、真偽が不明な情報や悪意のある情報が、人々の間で広まっていく様子を表す。
- 用例
- SNSで流言蜚語が飛び交い、会社の株価に悪影響を及ぼした。
- 根拠のない流言蜚語に惑わされず、正確な情報に基づいて行動すべきだ。
- デマを広めた人物が特定され、流言蜚語の拡散が収束に向かった。
- 使い分けのヒント
- 「流言蜚語」は、真偽不明な情報やデマが広まることを表現する。特に、その情報が社会的な混乱や誤解を招く可能性を指摘したい場合に使う。
(5) 衆口鑠金(しゅうこうさっきん)
- 意味と成り立ち
- 「衆口」は多くの人の口、「鑠金」は金を溶かすことを意味する。多くの人が口々に言うと、事実無根のことであっても、まるで真実であるかのように信用されてしまう、という意味だ。
- 用例
- 一度、誤った情報が衆口鑠金、事実のように扱われると、訂正するのは極めて困難だ。
- 彼が辞職に追い込まれたのは、衆口鑠金による事実無根の噂が原因だった。
- その会社の経営危機は、衆口鑠金で噂が広まった結果、現実のものとなってしまった。
- 使い分けのヒント
- 「衆口鑠金」は、多くの人々の噂が持つ力を強調する。単に情報が広まるだけでなく、それが社会的な影響力を持ち、事実をねじ曲げたり、現実を動かす力を持つことを示したい場合に適している。
(6) 膾炙人口(かいしゃじんこう)
- 意味と成り立ち
- 「膾」はなます、「炙」はあぶり肉を意味し、どちらも美味しい食べ物のこと。多くの人に好まれる食べ物のように、詩歌や文章、評判が人々の間で広く知れ渡り、愛されることを表す。
- 用例
- 彼の代表作は、発表から数十年経った今でも膾炙人口の傑作だ。
- その企業の経営理念は、社内だけでなく、業界全体で膾炙人口となっている。
- 歴史に残る偉人の言葉は、今もなお膾炙人口で、多くの人々の心に響いている。
- 使い分けのヒント
- 「膾炙人口」は、優れた作品や思想、評判が人々に深く浸透し、長く語り継がれていることを表現する。一時的な流行ではなく、普遍的な価値を持つものが広まる場合に使うのが適切だ。
使い分け早見表
ここまで解説した6つの四字熟語が持つ「知れ渡る」の質を、一覧表で改めて確認してほしい。
四字熟語 | 知れ渡る「質」 | 適したシーン |
---|---|---|
悪事千里 | 悪い情報が広まる | 不祥事やネガティブな噂が拡散する様子を語るとき |
好評嘖々 | 良い評判が広まる | 新商品やサービスが好意的に評価される様子を表現するとき |
天下御免 | 公に認められる | 自社の技術や商品に正当性があることを主張するとき |
流言蜚語 | 根拠のない噂が広まる | デマやフェイクニュースが拡散し、混乱を招く様子を語るとき |
衆口鑠金 | 噂が事実になる | 多くの人の噂が社会的な影響力を持つ状況を表現するとき |
膾炙人口 | 優れたものが広く愛される | 良い作品や理念が人々に深く浸透し、長く語り継がれる様子を語るとき |
ここまで、6つの四字熟語が持つそれぞれの「知れ渡る」の質について解説した。
単に辞書的な意味を知るだけでなく、並べて比較することで、言葉が持つニュアンスをより深く体感できたはずだ。
次の章では、学んだ知識を「使える力」に変えるための実践クイズを用意している。
言葉選びのセンスを磨く機会として、ぜひ活用してほしい。
2.実践クイズ どちらが正しい?
学んだ知識を定着させるために、実践的なクイズに挑戦してみよう。
以下の文章を読んで、括弧内のAとBのどちらの四字熟語がより適切か考えてみてほしい。
Q1.
新サービスの使いやすさが(A. 好評嘖々 / B. 膾炙人口)で、口コミで新規ユーザーが増加した。
答え:A. 好評嘖々(こうひょうさくさく)
解説:
「口コミで増える」という、直近の評判の広まりを表現する文脈なので、「好評嘖々」が適切だ。
「膾炙人口」は、より普遍的で、長く人々に愛されるものに対して使われることが多い。
Q2.
根も葉もない(A. 悪事千里 / B. 流言蜚語)に惑わされて、取引先との関係が悪化してしまった。
答え:B. 流言蜚語(りゅうげんひご)
解説:
「根も葉もない」という表現から、真偽不明な噂やデマを意味する「流言蜚語」が最もふさわしい。
Q3.
世間に(A. 衆口鑠金 / B. 天下御免)と認められるほどの画期的なビジネスモデルを考案した。
答え:B. 天下御免(てんかごめん)
「世間に認められる」という文脈なので、「天下御免」が最も適切だ。
「衆口鑠金」は、多くの人々の噂が事実になるという、ネガティブなニュアンスも含むため、ここでは不自然である。
Q4.
新技術の不祥事が(A. 悪事千里 / B. 流言蜚語)で広まり、経営陣は対応に追われた。
答え:A. 悪事千里(あくじせんり)
解説:
「不祥事」という悪いこと**が素早く広まるという文脈なので、「悪事千里」が最も適切だ。
「流言蜚語」は真偽不明な噂を指すため、ここでは不適切である。
Q5.
その企業の経営理念は、今や業界全体に(A. 好評嘖々 / B. 膾炙人口)で知られている。
答え:B. 膾炙人口(かいしゃじんこう)
解説:
「業界全体に知られる」という、広く浸透し、多くの人に愛されるという文脈なので、「膾炙人口」が最も適切だ。
Q6.
一度、誤った情報が(A. 衆口鑠金 / B. 天下御免)、事実のように扱われると、訂正するのは極めて困難だ。
答え:A. 衆口鑠金(しゅうこうさっきん)
解説:
「誤った情報が事実のように扱われる」という文脈なので、「多くの人の噂が広まって事実となる」という意味を持つ「衆口鑠金」が最も適切だ。
クイズを終えて
さて、正解率はどうだっただろうか。
クイズを通して、それぞれの四字熟語が持つ微妙なニュアンスを肌で感じられたのではないだろうか。
この小さな気づきこそが、言葉選びの第一歩である。
3.たった一語で、ビジネスは加速する
「広まる」という一言で済ませていた状況も、今回学んだ四字熟語を使い分けることで、より具体的に、より豊かに表現することが可能となる。
悪事千里や流言蜚語がネガティブな情報の広がりを描写する一方、好評嘖々や膾炙人口はポジティブな評判の広がりを示す。
また、衆口鑠金は噂が持つ社会的な力を、天下御免は世間から公的に認められた状態を表している。
これらの四字熟語は、いずれも「広まる」という現象を語っているが、その言葉が切り取る情報の性質や広まり方のレイヤーは異なる。
この違いを理解し、場面に応じて適切な語を選ぶことは、伝えたい「広がり」の次元を見極める行為であり、思考の精度を映すものだ。
ビジネスシーンでは、的確な言葉選びが信頼を生み、説得力を高める。
今回紹介した四字熟語を、ぜひボキャブラリーに加え、次のプレゼンやメール、企画書で活用してほしい。
その言葉が、より多くの人々の心を動かすきっかけとなるはずだ。