パナソニックの「セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NS10K」が市場で勢いに乗っている。
ゴミが目についたらサッと掃除する「ちょこちょこ掃除」スタイルに対応し、従来の掃除機にまつわる困りごと(ペイントポイント)を根こそぎ解消。
最大の特徴は、ゴミを吸ったあとに掃除機を充電スタンドに戻すと、そのゴミがスタンドに備えられたダストボックスに自動で収集されるのだ。
そのため、掃除機本体は手間いらずでいつでもキレイに保てる。
スタンドのゴミは紙パックに溜まるしくみだが、交換は1ヵ月に1回程度で済むという。
コンセプトは「掃除の始まりから終わりまでラクに使えて、しっかりキレイ。」
パナソニックがいったい何を考え、何をねらったのか?
パナソニックブランド全体の資産形成にも貢献し得る、同社のユーザー体験創出の核心に迫ってみたい。
「ちょこちょこ掃除」の新潮流
コーヒー飲料に「ちびだら飲み」
ペットボトル入りのコーヒーをデスクにおいて長時間かけて少しずつ飲む。
そんな「ちびだら飲み」が広く定着して久しい。
もちろん外回りや現場仕事の合間にショート缶入りのコーヒーを一気に飲むスタイルも健在ではある。
しかし、コンビニのコーヒー飲料の棚を見ればわかるが、「再栓」ができて大容量のペットボトル入りコーヒーが今や市場を席捲しているのだ。
容器や容量を変えただけではない。
本ブログの以下の記事でも触れたが、中身も「ちびだら飲み」に合うよう、軽い飲み口のすっきりとした味わいに仕上げられているという。
「ちょこちょこ掃除」広がる
実はそんな「ちびだら飲み」に似た潮流が掃除機市場にも起きている。
まとまった時間をとって一気に掃除機をかけるのではない。
ゴミが気になったらその都度ササッと吸い取る、ちょこちょこっと掃除機をかけるスタイルが広がりつつあるのだ。
パナソニックの調査によれば、2011年~2019年にかけての掃除スタイルは、1回の掃除時間が減少する一方で、掃除する頻度は増加する傾向にあったという(PR TIMES 2021.9.21)。
そこにコロナ禍で在宅時間が増えたことが拍車をかけた。
ゴミが目につきやすくなり、「ちょこちょこ掃除」のニーズが膨らんだのだ。
リモートワークしているなら、気分をリフレッシュするのに掃除機をかけるというのあるだろう。
さらにルンバのようなロボット掃除機が普及したことも「ちょこちょこ掃除」を後押ししたと考えられる。
自分でするなら「面」の掃除より、気になったところをスポット的に掃除したいというニーズが高まったのだ。
パナソニックが「ちょこちょこ掃除」に照準
台頭するコードレススティック掃除機
今や掃除機市場といえば、コードレスのスティック掃除機が全体の6割を占め(電波新聞 2023.2.7)、昭和の時代からあったキャニスター型掃除機から主役の座を奪っている。
スティック掃除機の買い増し・買い替え需要をつかもうと、メーカーの開発競争も活発化している。
軽量化はもとより、バッテリーの充電性能や静音性も格段に進み、スティックタイプとはいえ、キャニスター型に負けず劣らずの吸引力を発揮する。
デザインも洗練され、空間に違和感なく溶け込む。
いつでも掃除機を手に出動できるように部屋に出しっぱなしにしておくのも許容の範囲となった。
「MC-NS10K」がヒット商品に
そして今、「ちょこちょこ掃除」のスタイルに照準を絞った、新たなコードレススティック掃除機が市場で勢いに乗っている。
パナソニックの「セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NS10K」(以下、MC-NS10K)がそれだ。
2021年10月の発売以来、想定以上の売れ行きとなり、一時は品薄で買いたくても変えない状態が続いたという。
2022年には小学館 DIMEトレンド大賞の家電部門賞を受賞している。
今や百花繚乱で使い勝手もよくなったコードレスのスティック掃除機だが、「ちょこちょこ掃除」に前提を置くと、いくつものペインポイント(困りごと)が浮上する。
パナソニックのMC-NS10Kは、ユーザーが自然に「ちょこちょこ掃除」がしたくなるよう、掃除の始まりから終わりまでのプロセスを「ユーザージャーニー」と見立て、ペインポイントをひとつひとつ解消していったのだ。
掃除の始まりから終わりまでラクに使えて、しっかりキレイ。
紙パックをすてるだけのカンタン&清潔ゴミすて
MC-NS10Kはそんなコンセプトを掲げている。
いったい何をペインポイントと考え、どう解消していったのか? 早速見ていこう。
ダストボックスを切り離す英断
ダストボックスは充電スタンドへ
ペインポイントの解消に向けて、まずパナソニックが大鉈(おおなた)を振るったのが、掃除機のダストボックスだ。
通常は本体側に搭載されるダストボックスを切り離し、充電スタンドに移したのである。
ネーミングの「セパレート」はここから来ている。
ダストボックスを充電スタンド側にあるすると、掃除機本体で吸ったゴミをどうなるのだろう?
本体内の小さなフィルターケースに一時的には溜められる。
しかし、掃除機を使い終えて充電スタンドに戻した際に、そのゴミがダストボックスに収集されるのだ。
しかも自動だ。待ち構えたていたかのように作動し、吸引が始まる。
それゆえ、本体は常に清潔に保てるという。
毎回ゴミのない状態から掃除機を使える。
一種の「禊(みそぎ)」の感覚にも似て気分は上がるだろう。
パナソニックはダストボックスと一体となった充電スタンドをクリーンドックと呼んでいる(ドックは船を建造、修理、係留するための施設の意)。
紙パック式を採用しており、そこにそっくりゴミが移されるため、ユーザーはゴミを目にすることも、手を汚すこともないのだ。
ゴミ処理に伴うわずらわしさ
従来のスティック掃除機はこの点がネックだった。
本体のダストボックスからこまめにゴミを処理する必要があったのだ。
溜めたままでもしばらくは使えるが、目に見えて吸引力が下がってしまう。
しかも、ゴミを取り出すときにほこりが舞うのは気持ちのいいことではない。
このペインポイントの解消にMC-NS10Kは努めたのである。
実はMC-NS10Kのアイデアの発端は、パナソニック社員の1人が自宅で猫を飼っていて「ゴミを捨てる時に、猫の毛とかが舞い散るのがすごく嫌だ」と発言したことにあったらしい(DIME 2022.10.7)。
そこからダストボックスを充電スタンドに移す構想を思い至ったという。
クリーンドックに数々の工夫
ゴミを残さず紙パックへ
クリーンドックに本体を戻すたびに、本体のフィルターケースのゴミが自動で吸引されるのだが、実は技術的に難しい側面もあった。
強い力で吸引したとしても、フィルターのゴミが引っかかって残ってしまうのだ。
そこで緩急をつけて吸い込む方法を思いつく。
すなわち、強く吸い取った後に一度吸引力を弱めて、引っかかったゴミをふわっとさせてから、その間隙を突いてもう一度吸い込むようにしたのである。
これは釣りをする際に生じる「根掛かり」という現象からヒントを得たという。
「根掛かり」とは釣り針が何らかの障害物に引っかかってしまうことをいうが、無理に引こうとせず、いったんテンションを緩めるとスッと外れることもあるらしい。
紙パック交換は月に1回
いつでも手軽に掃除機を作動でき、従来のように手間のかかるゴミ処理にわずらわされることもない。
ゴミが目についたらサッと掃除する、そんなストレスフリーな「ちょこちょこ掃除」のスタイルにMC-NS10Kは格段に近づいたわけだ。
クリーンドック内の紙パックの交換は1ヵ月に1回程度でよいという。
ランニングコスト(10枚入りで946円)はかかるものの、その交換頻度なら年間を通しても重い負担にはならない。
何より、ほこりが舞い散ったり、ダストボックスを水洗いするなどの手間が要らないのだ。
コストを補って余りあるメリットだろう。
ニオイを抑える「ナノイーX」も搭載
しかもパナソニック独自の「ナノイーX」が搭載されており、除菌や脱臭をするため、気になるゴミのニオイを抑えられるという。
クリーンドックと銘打つだけのことはある。
ただし、このクリーンドック、まめに働き過ぎてさすがに阿吽の呼吸とまではいかないらしい。
ほんの少しゴミを吸っただけも、本体を戻すと夜間でもかなりの音を立てて、懸命に吸引を始めてしまうという。
とはいえ、さほど心配はいらない。
クリーンドックのボタンを長押しすれば、掃除後の吸引は一時的に休止することはできるのだ。
本体は一本の棒をめざす
片手でスイスイ動かせる
さて、パナソニックのペインポイント解消の進撃はここで止まらない。
ダストボックスを脱ぎ捨て、身軽になった本体にも及ぶのだ。
まずはその形状に注目すべきだろう。
パナソニックは掃除のしやすさを突き詰めるとほうきのような、細い一本の棒状が理想だという結論に達したという。
従来のスティック掃除機の多くは手元の操作部分にモーターやダストボックスが集中し、その分手元が重くなってしまう。
では床下近くに移して低重心にすればいいかというと、今度はその重みで取り回しが悪くなってしまう。
高い場所やソファーの下などを掃除するのにはやや不便だ。
ほうきのような一本の棒、あるいは花王のクイックルワイパーのような形状を思い浮かべてもいい。
そんな棒状の形であれば、手元にかかる負担も少なく取り回しにも優れ、いいとこどりが叶う。
MC-NS10Kはその実現に努めたのだ。
凹凸を極力減らし、どこを持って握りやすい。
そもそも軽いので片手でスイスイ動かせる。
空間に溶け込むデザイン
そして、そのミニマルなデザインも一興だろう。
見た目はゴツゴツしておらず、インテリアとしても溶け込みやすい。
ボディカラーもパナソニック掃除機の定番カラーである「白」一色の展開。
そのカラーは「ちょこちょこ掃除」に振り切った「潔さ」にも通じる。
普段は空気のようで、必要になって注意を向けたときに初めてその存在に気づく。
さりげなくも絶妙な存在感が実現されている。
クリーンセンサーがゴミを検知
MC-NS10K は3時間の充電で、連続で運転できる時間は約10~15分程度だという(HIGHモードなら約6分)。
少人数世帯で「ちょこちょこ掃除」が前提なら十分だろう。
さらにクリーンセンサーなる機能が搭載されており、ゴミが多いと吸引力が自動でアップし、LEDライトが赤く点灯して知らせる。
そのフィードバックを受け、ユーザー側もその箇所ではヘッドをゆっくりと動かすなどの対応がとれるのだ。
キレイになると青い点灯に変わるという。
家具の下など見えない場所を掃除するときには重宝しそうである。
パナソニック独自の「からまないブラシ」
また、掃除機のお約束のペインポイントに、ヘッドのブラシの部分に髪やペットの毛などがからまってしまうことがある。
なかなか除去できず、かなりのストレスを味わう。
MC-NS10Kはそこにもメスを入れた。
パナソニックの掃除機の独自機能である「からまないブラシ」をMC-NS10Kにも採用しているのだ。
「からまないブラシ」は、円すい形の2つのブラシが角突き合わせるように向き合う構造になっている。
ブラシのどの位置で髪や毛がからまろうとも、先端の細いほうへと移動し、中央のすきまから自然に除去され、吸い込まれるようになっている。
掃除は始めが肝心
さっと取り出せる
前述したようにMC-NS10Kのコンセプトは「掃除の始まりから終わりまでラクに使えて、しっかりキレイ」。
このコンセプトの具現化に向けて、パナソニックはもう一つ、重要な工夫を加えている。
パナソニックの公式サイトでは「さっと取り出し手軽に掃除」とうたうが、クリーンボックスからの本体の取り出しがとてもスムーズなのだ。
通常のスティック掃除機であれば、充電スタンドから取り出すのに少し力を入れて持ち上げるなど負荷がかかる。
MC-NS10Kは、この小さなステップにもメスを入れ、ほうきをパッと手にするような感覚で取り出せるようにしている。
初動時のストレスは大敵
ダストボックスを切り離したことや、本体の形状を一本の棒に近づけたことに比べれば、ささやかな改良にも思える。
しかし、「ちょこちょこ掃除」のスタイルを習慣として生活になじませる上では、初動時のちょっとしたストレスは大敵となる。
たとえばウェットティッシュをケースから取り出そうとするとき、つながってしまい一枚ずつ取り出すのにイラッとすることがよくある。
些末なことのようで、その不快な感情が脳にインプットされると、ウェットティッシュから意識が遠ざかり、使用頻度が格段に下がってしまう。
ストレスを喜びに変える
パナソニックのねらいは明らかだ。
ふと掃除機をかけようと思った瞬間に、さっと取り出せるようにする。
マイクロストレスをマイクロプレジャー(小さな喜び)に変え、掃除という行為に弾みをつけようとしたのだ。
「始めが肝心」であることをパナソニックは熟知していたのである。
そして一本の棒のように軽くて取り回しのよい本体で掃除し、その掃除を終えたら、気持ちよくクリーンドックに戻す。
まるで掃除という一連のアクションチェーン(行為連鎖)が一筆書きを描くようにスムーズとなった。
いったんMC-NS10Kを使い始めたら、「ちょこちょこ掃除」が習慣として生活に根付くのにさほど時間はかからないだろう。
心地よいユーザー体験がブランド資産へ
MC-NS10Kが習慣化に貢献
実際のユーザーからは以下のような声が寄せられているという(DIME 2022.10.7)。
- ゴミを見つけたら後回しにせずにすぐに掃除するようになった
- 掃除機をかける頻度が増えた
- 自分だけじゃなくて、家族も掃除してくれるようになった
「モチベーションの心理学」によれば、習慣とはひとまとまりの「行為プログラム」のことであり、人の日常の行動の45%を占めているという。
そのプログラムがいったん発動すると、意志や思考が一切不要になり、一連の行動が最後までスムーズに完結する。
その間、自分は何かに取り組んでいるという意識すらしないこともあるらしい。
そのほうが邪念や雑念が生じることもなく効率的なのだ。
届いたユーザーの声は、MC-NS10Kが「ちょこちょこ掃除」の習慣化に成功していることの表れといえよう。
なぜ、習慣化するのか?
実際、習慣化するまでには「ゴミが気になったら、MC-NS10Kを手にして掃除する」というプロセスを何度も繰り返する必要がある。
そのうち、「ゴミ」「MC-NS10K」「掃除」が記憶の中で強く結びつき、次第に脳内に神経回路ネットワークが形成される。
ここから習慣化、すなわち行為の自動化・非意識化が進むのだ。
そのプロセスにおいて何らかのストレスが生じればブレーキになるし、逆に喜びが伴えばアクセルになる。
MC-NS10Kがペインポイントの解消に努めた意義はここにある。
「ゴミがきれいにとれた」「すっきりした」という喜びが優位に印象に残るようにしたのだ。
心地よくクセになるようなユーザー体験を目指したのである。
ユーザー体験はブランド資産へ
本ブログでも過去に取り上げているが、ウォールフィットテレビや「ビストロ」のオーブントースターなど、パナソニックはこのところ、斬新な視点の商品を次々と世に送り出している。
MC-NS10Kのユーザーも「いい買物をした」「パナソニックを選んでよかった」などと、パナソニックブランドへの愛着を深めることになる。
いったんブランドに愛着が湧くと、同じパナソニックブランドの次なる新商品にも自然に注意が向かうことになる。
高い確率でその商品を「ひいき目」で見ることにもなるだろう。
心地よいユーザー体験がブランド資産に還元され、そのブランド資産がまた新たなユーザー体験のきっかけにもなる。
MC-NS10Kはその正の循環が働き得ることを改めて気づかせてくれたのだ。
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- 「コードレススティック型が好調 掃除機特集」 2023年02月07日 電波新聞
- 鹿毛雅治著「モチべーションの心理学-『やる気』と『意欲』のメカニズム」 中央新書、2022年