『難しい』を品よく言い換えると? レポートや論文、ビジネス文書に!|プロの語彙力

『難しい』を品よく言い換えると? レポートや論文、ビジネス文書に!|プロの語彙力

今回は『難しい』を文脈に応じて品よく言い換える方法を整理する。

目次

1.『難しい』——便利だが単調になりがちな口ぐせ

『難しい』を多用すると、課題の性質や状況の違いが見えにくくなり、説明の精度が損なわれる。

そのような“難しさの一括り”が目立つ事例を挙げてみよう。

口ぐせで使われがちな例

  • 会議で新しい提案の実現は難しいとされた。
  • 資料を提出後、上層部で承認は難しいとの見解が示された。
  • 契約条件について双方の合意形成が難しい状況にある。
  • 発言の真意を理解するのは難しいと感じられている。
  • 納期対応について現行体制では難しいと判断された。

並べて確認すると、 一語に寄りかかることで表現の幅が狭まっていることが見えてくる。

次章で文脈ごとの品位ある言い換えを紹介する。

2.『難しい』を品よく言い換える表現集

ここからは『難しい』を9つの使用場面に整理し、文脈ごとの適切な言い換えを提示する。

『難しい』は多義性に富み、状況に応じた言い換えの幅も広いため、その多様さを整理して示すことが重要になる。

2-1. 解決・進行の困難

  • 困難
    • 課題や業務が容易に進まない状況を端的に示す、最も一般的でフォーマルな表現。
      • 例:予算面で新制度の導入が困難であることが判明した。
  • 難航
    • プロジェクトや交渉が進行中に停滞している様子を表す。報告文脈に自然。
      • 例:取引条件の調整が難航しており、合意形成に時間を要している。
  • 難題
    • 解決が容易でない課題そのものを指す。知的で重みのある響き。
      • 例:経営陣は人材確保という難題に直面している。
  • 容易ではない
    • 直接的な否定を避け、丁寧に困難さを伝える婉曲表現。
      • 例:現状のリソースでは、短期的な対応は容易ではない
  • 停滞している
    • 進行が止まっている状態を描写する。状況報告に適する。
      • 例:新規案件の承認プロセスが停滞している

2-2. 実現可能性の低さ

  • 至難
    • 極めて難しく、達成がほぼ不可能に近い状況を強調する。
      • 例:短期間での全社改革は至難と判断された。
  • 現実的ではない
    • 条件や環境を踏まえ、冷静に不可能性を示す。
      • 例:現行予算での海外拠点設置は現実的ではない
  • 実現性が低い
    • 可能性はあるが成功確率が低いことを示す。客観的な評価に適する。
      • 例:現状では、提案された施策の実現性は低いと評価されている。
  • ハードルが高い
    • 挑戦的だが障壁が多いことを示す。カジュアル寄りだがビジネスでも許容。
      • 例:新市場参入は規制面でハードルが高い
  • 見通しが立たない
    • 将来の展望が不明確であることを表す。冷静な報告に適する。
      • 例:資金調達の時期についてはまだ見通しが立たない

2-3. 理解・習得の困難

  • 難解
    • 専門的で理解が容易でない内容を指す。硬質で知的。
      • 例:この理論は専門家にとっても難解とされている。
  • 複雑
    • 要素が絡み合い、理解や処理が難しいことを示す。
      • 例:市場環境が複雑化しており、戦略立案に時間を要する。
  • 分かりづらい
    • 説明や情報が不十分で理解が難しいことを柔らかく表す。
      • 例:契約条項の記載が分かりづらいため、補足説明が必要だ。
  • 抽象的
    • 具体性がなく理解が難しいことを示す。原因説明に適する。
      • 例:提案内容が抽象的すぎて、具体的な行動計画に落とし込めない。

2-4. 作業負荷・煩雑さ

  • 煩雑
    • 工程や手続きが多く、処理が難しいことを示す。フォーマルで知的。
      • 例:申請手続きが煩雑で、担当者の負担が増している。
  • 込み入っている
    • 事情や要素が入り組み、理解や処理が難しいことを柔らかく表す。
      • 利害関係が込み入っているため、調整に時間を要する。
  • 手間がかかる
    • 作業量が多く、効率的でないことを示す。日常的に使いやすい。
      • 例:この確認作業は手間がかかる

2-5. 技能・水準の高さ

  • 高度な技術を要する
    • 専門的な技術力が必要であることを示す。
      • 例:このシステム開発は高度な技術を要する
  • 専門的
    • 特定分野の知識や技能が必要であることを示す。
      • 例:契約内容には専門的な法知識が求められる。
  • 熟練を要する
    • 経験や技能が不可欠であることを示す。
      • 例:この作業は熟練を要する

2-6. 対人・関係性の困難

  • 一筋縄ではいかない
    • 相手や状況が容易に対応できないことを示す。
      • 例:その案件は、相手との調整が一筋縄ではいかない
  • 繊細
    • 配慮が必要な状況を柔らかく表す。
      • 例:この問題は非常に繊細で、慎重な対応が求められる。
  • 慎重な配慮を要する
    • 相手や状況に対して特別な注意が必要であることを示す。
      • 例:顧客対応には慎重な配慮を要する場面が多い。
  • 手強い
    • 相手や課題が容易でないことを示す。ややカジュアル。
      • 例:競合他社は非常に手強い存在となっている。

2-7. 心理的ハードル

  • 気が重い
    • 取り組むことに心理的負担を感じる様子を表す。
      • 例:長時間の会議を前にすると気が重くなる
  • 悩ましい
    • 判断や対応に迷いが生じる状況を知的に表す。
      • 例:予算配分は非常に悩ましい問題だ。
  • 気が進まない
    • 心理的抵抗があり、行動に前向きになれない様子を表す。
      • 例:条件交渉には気が進まない部分がある。

2-8. 判断・見通しの困難

  • 見極めが難しい
    • 状況や結果を判断することが容易でないことを示す。
      • 例:新施策の効果は現時点では見極めが難しい
  • 不透明
    • 将来の展望や状況が不明確であることを示す。
      • 例:市場の動向は依然として不透明である。
  • 容易ではない判断
    • 影響が大きく、決断に慎重さが求められる状況を示す。
      • 例:この件は影響が大きく、容易ではない判断となる。

2-9. 状況・環境の厳しさ

  • 厳しい局面
    • 危機的または制約の強い状況を示す。フォーマルで知的。
      • 例:企業は資金繰りで厳しい局面に直面している。
  • 課題の多い
    • 外部条件や環境要因が複数重なり、対応が難しくなる状況の複雑さを示す表現。冷静な説明に適する。
      • 例:新規事業は規制や資金面など課題の多い環境で進められている。
  • 逼迫(ひっぱく)した
    • 時間や予算などの制約が切迫している状態を表す。限定的だが危機感を伝える。
      • 例:納期が迫り、プロジェクトは逼迫した状態にある。
  • 膠着(こうちゃく)状態にある
    • 全く動きが取れない深刻な停滞を示す。硬質で格式のある表現。
      • 例:労使交渉は条件面で膠着状態に陥っている

3.まとめ:『難しい』依存を避ける表現の工夫

『難しい』という一語に依存すれば、課題の性質や状況の違いが曖昧になりやすい。

だが文脈に応じて言い換えれば、分析の精緻さから交渉の過程、制度改訂の判断まで多彩な姿が立ち現れる。

語彙の工夫が説明の奥行きを広げ、対話の透明性を未来へと編み上げていく。

よかったらシェアしてください!
目次