会議やレビューで、つい「珍しい」とひと言で片づけてしまう。
便利だが温度感も根拠も薄まり、説得力が痩せる。
意味の幅を分解し、文脈ごとに上品で的確な語へ置換することが報告と交渉の質を左右する。
本稿では「珍しい」の具体的な言い換えと使い分けを体系的に示す。
目次
1.ついひとつ覚えで使ってしまう『珍しい』の口ぐせ
「珍しいの一語に頼ると、希少なのか、価値が高いのか、単に目新しいのかが判然としなくなる。
意味の幅が混ざり合い、説明の輪郭がぼやけてしまう。
そうした“言い回しの依存”が表れる典型例を挙げてみよう。
口ぐせで使われがちな例
- それは珍しいケースですね。
- 珍しいご縁をいただきました。
- 今回のデータは珍しい傾向を示しました。
- 市場では珍しい事例です。
- ここまで条件が揃うのは珍しいです。
一語に依存すると説明の厚みを失う。
次章で文脈別に精査し、品位ある言い換えを提示する。
2.『珍しい』を品よく言い換える表現集
「珍しい」を置き換える語は多様にあるが、本稿ではビジネスの場で自然に響き、知的で品位ある印象を与えるものを厳選する。
文脈ごとに活用できる表現を整理する。
数量的な少なさを示す
- まれ
- 発生頻度の低さを端的に示す。報告・説明に適合。
- 例:この条件が同時に揃うことはまれで、成功要因となった。
- 発生頻度の低さを端的に示す。報告・説明に適合。
- 希少
- 数量的な少なさをフォーマルに伝える。資料・提案に自然。
- 例:希少なデータを市場分析の基盤として活用している。
- 数量的な少なさをフォーマルに伝える。資料・提案に自然。
- 稀有(けう)
- めったにない度合いを格調高く表す。スピーチや論文に適合。
- 例:同規模での成功は稀有で、全社の好例となった。
- めったにない度合いを格調高く表す。スピーチや論文に適合。
- 数少ない
- 限られた数を冷静に示す。企画・選考で説得力を持つ。
- 例:条件を満たす候補は数少ないため、優先的に対応したい。
- 限られた数を冷静に示す。企画・選考で説得力を持つ。
- ほとんどない
- 実務的なニュアンスで稀少さを強調。レポートに自然。
- 例:この属性の組み合わせは社内でもほとんどないと判明した。
- 実務的なニュアンスで稀少さを強調。レポートに自然。
- 希少価値が高い
- 少なさと価値を同時に強調。研究報告や成果評価に適合。
- 例:この成果は希少価値が高いと評価されている。
- 少なさと価値を同時に強調。研究報告や成果評価に適合。
- 限定的
- 中立的に少なさを伝える。データ分析や調査報告に有効。
- 例:該当する事例は限定的で、追加調査が必要だ。
- 中立的に少なさを伝える。データ分析や調査報告に有効。
慣例からの逸脱を示す
- 異例
- 慣行から外れる状況を穏当に表す。方針説明に自然。
- 例:今回は異例のスピードで進め、早期決着を図っている。
- 慣行から外れる状況を穏当に表す。方針説明に自然。
- 例外的
- 標準から外れた特別な措置を中立的に記述。
- 例:今回の例外的対応は、顧客ロイヤルティ向上を目的とした措置である。
- 標準から外れた特別な措置を中立的に記述。
- 異色
- 系統や経路の違いを穏やかに示す。経歴・企画紹介に有効。
- 例:彼は社内でも異色の経歴を持ち、横断的視点を提供した。
- 系統や経路の違いを穏やかに示す。経歴・企画紹介に有効。
- 異常値
- データ文脈限定で外れ値を淡々と示す。
- 例:当月の成長率は異常値に近く、要因分析を進めた。
- データ文脈限定で外れ値を淡々と示す。
- 越権(えっけん)
- 通例の範囲を超えた動きを簡潔に示す。限定的に使用。
- 例:今回の決裁は越権に近く、慎重な説明が求められる。
- 通例の範囲を超えた動きを簡潔に示す。限定的に使用。
価値・尊さを示す
- 貴重
- 大切で価値が高いことを丁寧に示す。お礼・報告で万能。
- 例:頂いた貴重なご意見は、即座にプロジェクトへ反映した。
- 大切で価値が高いことを丁寧に示す。お礼・報告で万能。
- 得難い
- 入手困難さと価値の高さを同時に伝える格調ある語。
- 例:この得難い機会を活かすため、体制を適切に整えた。
- 入手困難さと価値の高さを同時に伝える格調ある語。
- 意義深い
- 成果の重みを知的に評価する語。総括・発表で有効。
- 例:横断分析の蓄積は意義深い成果で、次期計画の基盤となった。
- 成果の重みを知的に評価する語。総括・発表で有効。
- 千金に値する
- 金銭に換え難い価値を比喩的に強調。助言・インサイトに最適。
- 例:顧客の生の声は、まさに千金に値する情報源である。
- 金銭に換え難い価値を比喩的に強調。助言・インサイトに最適。
- かけがえのない
- 代替不能な唯一性を穏やかに示す。人材・関係性に自然。
- 例:この人材はかけがえのない存在として、重要案件を担った。
- 代替不能な唯一性を穏やかに示す。人材・関係性に自然。
- 珍重(ちんちょう)すべき
- 大切に扱うべき価値を上品に伝える。挨拶・講評で有効。
- 例:長期的な信頼は珍重すべき資産として、丁寧に継承してきた。
- 大切に扱うべき価値を上品に伝える。挨拶・講評で有効。
- 尊い
- 価値の高さを品格を保って簡潔に示す。
- 例:この示唆は尊い学びとして、今後の方針に生かされる。
- 価値の高さを品格を保って簡潔に示す。
独自性・差別化を示す
- 類(たぐい)まれ
- 同類の中で際立って優れていることを上品に称する。
- 例:彼の類まれな分析力が、戦略の質を引き上げている。
- 同類の中で際立って優れていることを上品に称する。
- 比類ない
- 比較対象がないほど優れていることを端的に示す。
- 例:当社の比類ない技術が、他社との差別化要因となっている。
- 比較対象がないほど優れていることを端的に示す。
- 独自性の高い
- 競合との差異を柔らかく強調。企画・提案の定番。
- 例:本施策は独自性の高い設計で、差別化を確実にしてきた。
- 競合との差異を柔らかく強調。企画・提案の定番。
- 独特
- 固有の特徴を穏やかに伝える。プロダクト紹介に適合。
- 例:このサービスは独特の体験設計で、継続率を押し上げている。
- 固有の特徴を穏やかに伝える。プロダクト紹介に適合。
- ユニーク
- 広く通用するカタカナ語。人材・文化紹介で自然。
- 例:チームはユニークな視点を活かし、提案の幅を広げた。
- 広く通用するカタカナ語。人材・文化紹介で自然。
- 非凡
- 平均を超える才覚を端的に称賛。評価コメントに有効。
- 例:彼女の非凡な着眼点が、意思決定の盲点を補ってきた。
- 平均を超える才覚を端的に称賛。評価コメントに有効。
- 卓抜(たくばつ)
- 抜きん出た独自性を上品に言い表す語。
- 例:彼の分析は卓抜しており、議論を大きく前進させた。
- 抜きん出た独自性を上品に言い表す語。
新奇性・意外性を示す
- 斬新
- 新しさの質を評価する語。企画・デザインに最適。
- 例:この斬新なデザインが、新規ユーザー獲得に寄与した。
- 新しさの質を評価する語。企画・デザインに最適。
- 新鮮
- さわやかな新しさ。アイデア・視点の評価で使いやすい。
- 例:今回の提案は新鮮で、議論の起点となった。
- さわやかな新しさ。アイデア・視点の評価で使いやすい。
- 目新しい
- 見慣れない新要素を淡々と表す。開発・商品説明で自然。
- 例:目新しい仕様が、初期の関心を喚起した。
- 見慣れない新要素を淡々と表す。開発・商品説明で自然。
- 意外性がある
- 予想外の魅力や効果を知的に伝える。PR・見出しで扱いやすい。
- 例:両社の提携は意外性があるとして、大きく報じられた。
- 予想外の魅力や効果を知的に伝える。PR・見出しで扱いやすい。
- 耳目を集める
- 注目を浴びる効果に焦点。マーケティングで有用。
- 例:この耳目を集める企画が、ブランド認知を高めた。
- 注目を浴びる効果に焦点。マーケティングで有用。
- 新奇
- 新しく奇抜であることを端的に示す。議論や企画の方向転換に有効。
- 例:この案は新奇で、議論を新たな展開へ導いた。
- 例:この案は新奇で、議論を新たな展開へ導いた。
- 新しく奇抜であることを端的に示す。議論や企画の方向転換に有効。
歴史的稀少性を示す(限定的)
- 空前
- これまでにない規模・成果を格調高く述べる。誇張は控えめに。
- 例:この空前の受注を機に、生産体制の拡充を決めた。
- これまでにない規模・成果を格調高く述べる。誇張は控えめに。
- 前代未聞
- 過去に例のない事態を強調。記録・発表でインパクトを与える。
- 例:同業界では前代未聞の水準で、評価軸の見直しを促している。
- 過去に例のない事態を強調。記録・発表でインパクトを与える。
- 希代(きだい)
- 時代に稀な価値を称する文語調。顕彰・講演に限定的。
- 例:彼を我が社の希代の戦略家として、新事業の責任者に起用する。
- 時代に稀な価値を称する文語調。顕彰・講演に限定的。
- 不世出(ふせしゅつ)
- 世にまれな逸材を称える古風な語。表彰・周年誌でのみ使用。
- 例:創業期を支えた彼女は、不世出の人材として社史に刻まれている。
- 世にまれな逸材を称える古風な語。表彰・周年誌でのみ使用。
- 空前絶後
- 誇張語だが、公式発表など格式の高い文章では有効。
- 例:この成果は空前絶後で、業界の基準を塗り替えた。
- 誇張語だが、公式発表など格式の高い文章では有効。
3.まとめ:「珍しい」を的確に伝える表現力
「珍しい」を文脈に応じて言い換えることで、説明は数量の少なさから価値の高さ、独自性や新奇性、さらには歴史的稀少性まで広がりを持つ。
語彙の精査が報告や交渉の説得力を支え、言葉の積み重ねが未来の説明を形づける。

