「hold」という英単語、意味は知っているのに使い方で迷う——そんな経験はないだろうか。
「持つ」「保つ」「開催する」など、訳語は多いが、実際の使い分けは意外と難しい。
本記事では、「hold」の中心にある“保持する”という感覚を出発点に、意味の広がりや類義語との違いを整理。
辞書ではつかみにくいニュアンスを、日常・ビジネスの両文脈から解きほぐし、英語の「感覚」を身につけるヒントを提供する。
0.今回の単語はコレ!
【意味】
- (手などで)〜を持っている、握る
- 〜を(ある状態に)保つ、維持する
- 〜を収容できる、含む
- 〜を開催する、行う
- 〜を一時的に保留する、遅らせる
- (信念などを)抱く、持つ
1.なぜ「hold」はわかりづらい?
「hold」は「持つ」「保つ」「開催する」など、日本語訳が多岐にわたる動詞。
たとえば:
- hold a pen(ペンを持つ)
- hold a meeting(会議を開く)
- hold your breath(息を止める)
- hold true(当てはまる)
これらは一見バラバラだが、実はすべて「ある感覚」でつながっている。
その感覚こそが、「hold」を使いこなすための鍵となる。
次章では、そのコアイメージをひも解いていく。
2.コアイメージ:何かを“その場にとどめる”
「hold」の中心にあるのは、「対象を自分の領域に留めておく」感覚である。
物理的に手で持つだけでなく、状態・感情・情報などを「保持する」「維持する」ことにも使われる。
「対象を動かさず、関与し続ける」=「手放さない」「維持する」

たとえば、何かを手に持っている場面を思い浮かべてほしい。
その対象が落ちないように、逃げないように、一定の力加減で支え続ける——それが「hold」の本質である。
単なる接触ではなく、「自分の影響下に置き、状態を保つ」ことに意味がある。
対象が物理的なものであれ、抽象的なものであれ、「自分の影響下に置き、維持する」という意識が根底にある。
この感覚を押さえることで、「hold」が持つ多義的な意味の広がりを、単なる暗記ではなく、直感的に理解することが可能となる。
3.意味の広がり:コアイメージから派生する用法
「hold」が持つ「保持する・留める」というコアイメージは、文脈に応じて多様な意味へと広がる。
以下の表はその代表的な用法を整理したものである。
用法カテゴリ | 例文 | コアイメージとのつながり |
---|---|---|
物理的に持つ | hold a baby | 手で支えて、落ちないように保持する |
状態を保つ | hold your breath | 呼吸を止めて、その状態を維持する |
感情・意見を抱く | hold a grudge | 恨みを心に留めておく |
イベントを開催する | hold a conference | 会議という「場」を設定し、維持する |
真実であり続ける | hold true | 状況が変わっても、当てはまり続ける |
日常文脈での「hold」使用例
① 物理的に持つ・支える
- She held the baby in her arms.
- 彼女は赤ちゃんを腕に抱いた。
- 「赤ちゃんを腕の中に留めておく」=物理的な保持。
- 彼女は赤ちゃんを腕に抱いた。
- Hold this bag for me.
- このバッグを持っていて。
- 一時的に保持する依頼。
- このバッグを持っていて。
② 状態・地位を保つ
- He holds a high position in the company.
- 彼は会社で高い地位を保持している。
- 役職という「状態」を維持している。
- 彼は会社で高い地位を保持している。
- She holds the record.
- 彼女は記録を保持している。
- 記録という成果を「手放さずに維持」している。
- 彼女は記録を保持している。
③ イベント・活動を開催する
- We’ll hold a meeting tomorrow.
- 明日会議を開催します。
- 会議という「場」を設定し、実行状態に保つ。
- 明日会議を開催します。
- The concert was held at the stadium.
- コンサートはスタジアムで行われた。
- イベントを「開催状態」に置く。
- コンサートはスタジアムで行われた。
④ 感情・行動を抑える・制御する
- Hold your breath.
- 息を止めて。
- 呼吸という動作を「一時的に留める」。
- 息を止めて。
- Hold your anger.
- 怒りを抑えて。
- 感情を「外に出さず、内に留める」。
- 怒りを抑えて。
- Please hold on.
- 少しお待ちください。
- 行動を「一時停止して維持する」ニュアンス。
- 少しお待ちください。
⑤ 意見・信念を保持する
- I hold the view that…
- 私は…という見解を持っている。
- 考えを「心の中に留めている」。
- 私は…という見解を持っている。
- He holds strong beliefs.
- 彼は強い信念を持っている。
- 信念を「揺るがずに維持している」。
- 彼は強い信念を持っている。
このように、「hold」は単なる「持つ」ではなく、「対象を自分の影響下に置き、状態を保つ」という感覚から、物理・抽象を問わず多様な意味へと展開している。
ビジネス文脈での「hold」使用例
① 責任・役割を保持する
- She holds responsibility for client relations.
- 彼女は顧客対応の責任を担っている。
- 業務上の責任を「保持している」状態。
- 彼女は顧客対応の責任を担っている。
- He holds the role of project lead.
- 彼はプロジェクトリーダーの役割を務めている。
- 役割を「維持し、遂行している」ニュアンス。
- 彼はプロジェクトリーダーの役割を務めている。
② 資産・株式を保有する
- The company holds a majority stake in the subsidiary.
- その企業は子会社の過半数株式を保有している。
- 株式という資産を「所有し、影響力を持っている」状態。
- その企業は子会社の過半数株式を保有している。
- She holds shares in several tech firms.
- 彼女は複数のテック企業の株式を保有している。
- 投資対象を「保持している」ことを表す。
- 彼女は複数のテック企業の株式を保有している。
③ 会議・交渉・契約を開催・維持する
- We will hold negotiations with the supplier next week.
- 来週、サプライヤーと交渉を行う予定である。
- 交渉という「場」を設定し、維持する。
- 来週、サプライヤーと交渉を行う予定である。
- The board will hold a vote on the proposal.
- 取締役会はその提案について投票を行う予定である。
- 意思決定のプロセスを「開催状態」に置く。
- 取締役会はその提案について投票を行う予定である。
④ 意見・方針を維持する
- The CEO holds a firm stance on data privacy.
- CEOはデータプライバシーに関して強い立場を維持している。
- 方針や信念を「揺るがずに保っている」状態。
- CEOはデータプライバシーに関して強い立場を維持している。
- We still hold the view that remote work improves productivity.
- リモートワークが生産性を高めるという見解は今も変わらない。
- 見解を「維持し続けている」ことを示す。
- リモートワークが生産性を高めるという見解は今も変わらない。
これらの例はすべて、「hold」が単なる動作ではなく、状態・関係・影響力を“保持する”という感覚に基づいていることを示している。
ビジネスの現場では、責任・資産・方針など、目に見えない抽象的な対象を「hold」する場面が多く、コアイメージの理解が運用精度に直結する。
次章では、こうした意味の広がりを踏まえたうえで、類義語との違いを明確にしていく。
4.類義語との比較:似ているけど違う単語たち
「hold」は「持つ」と訳されることが多いが、同じく「持つ」と訳される have や keep、carry、grip などとはニュアンスが異なる。
以下の表は、それぞれのコアイメージと違いを整理したものである。
単語 | コアイメージ | 違いのポイント |
---|---|---|
keep | 継続的に持ち続ける | 「持っている」ことに焦点。変化しない状態を保つ |
carry | 運ぶ・移動する | 「保持しながら移動する」ニュアンスが強い |
grip | 強く握る | 「力を込めて離さない」物理的な接触が中心 |
have | 単なる所有・存在 | 状態として「持っている」だけ |
hold | 一時的・能動的に状態を保つ | 自分の影響下に置いて「維持する」感覚 |
ここから、類義語との違いを英文と和訳のセットで紹介する。
文脈ごとのニュアンスの違いを直感的に理解してほしい。
① hold vs have:所有と保持の違い
- I have a pen.
- 私はペンを持っている。
- 単なる所有。ペンが手元にある状態。
- 私はペンを持っている。
- I’m holding a pen.
- 私はペンを手に握っている。
- 物理的に「保持している」動作を強調。
- 私はペンを手に握っている。
② hold vs keep:一時的な保持と継続的な維持
- Please hold the line.
- 電話を切らずにそのままお待ちください。
- 一時的に「状態を保つ」ニュアンス。
- We need to keep the system stable.
- システムを安定した状態に保ち続ける必要がある。
- 長期的・継続的な維持を表す。
- システムを安定した状態に保ち続ける必要がある。
この違いを理解していないと、以下のような誤用が起こりやすい。
- 「電話を保管しておいて」のようなニュアンスになり、不自然。
Keep the phone for me.
- 一時的に「手に持っていてほしい」という自然な表現。
Hold the phone for me.
③ hold vs carry:保持と運搬の違い
- Hold the boxes steady while I tape them.
- 私がテープを貼る間、箱を安定して支えていて。
- その場で「保持する」動作。
- 私がテープを貼る間、箱を安定して支えていて。
- Carry the boxes to the storage room.
- 箱を保管室まで運んでください。
- 移動を伴う「運搬」のニュアンス。
- 箱を保管室まで運んでください。
抽象的な対象に「carry」を使うと不自然になる。
- 「電話を保管しておいて」のようなニュアンスになり、不自然。
Carry this position.
- 「役職を維持する」という自然な表現。
Hold this position.
④ hold vs grip:保持と強い接触の違い
- Hold the handle gently.
- 取っ手を優しく持ってください。
- 状態を保つことが目的。
- 取っ手を優しく持ってください。
- Grip the handle firmly.
- 取っ手をしっかり握ってください。
- 力を込めて「離さない」動作。
- 取っ手をしっかり握ってください。
⑤ hold vs keep vs have:ビジネス文脈での使い分け
- I have a meeting at 3.
- 3時に会議がある。
- 予定として「存在している」状態。
- 3時に会議がある。
- We’ll hold the meeting in Conference Room A.
- 会議はA会議室で開催する。
- 主催・進行する責任を伴う「保持」。
- 会議はA会議室で開催する。
- Let’s keep the meeting short.
- 会議は短く保ちましょう。
- 状態を「維持する」意図。
- 会議は短く保ちましょう。
このように、同じ「持つ」という訳語でも、英語では「所有」「保持」「維持」「運搬」「接触」など、細かなニュアンスの違いが存在する。
「hold」はその中でも、「自分の影響下に置いて、状態を保つ」という能動的な保持を表す点が特徴的である。
次章では、こうした違いを踏まえたうえで、実践的な使い方を確認していく。
5.実践練習(あなたならどれを使う?)
以下の文の空欄に、適切な語句(hold / keep / carry / grip)を入れること。
文脈に応じたニュアンスの違いを意識することで、単語の選択精度が高まる。
- Please ___ the door while I bring in the boxes.
- (私が箱を運び込む間、ドアを押さえていてください)
- 答え:hold ※ドアを開いた状態に「保持」するニュアンス。
- You should ___ your voice down during the call.
- (通話中は声のトーンを抑えるべきです)
- 答え:keep ※状態を「維持する」ニュアンス。
- She ___ed the suitcase up the stairs.
- (彼女はスーツケースを階段の上まで運んだ)
- 答え:carry ※移動を伴う「運搬」のニュアンス。
- He ___ the steering wheel tightly during the storm.
- (嵐の中、彼はハンドルをしっかり握っていた)
- 答え:grip ※力を込めて「離さない」物理的接触。
- Can you ___ this folder for a moment while I log in?
- (ログインする間、このフォルダーをちょっと持っていてくれる?)
- 答え:hold ※一時的に「保持する」ニュアンス。
このように、同じ「持つ」という行為でも、文脈によって選ぶべき単語は異なる。
「hold」は一時的な保持、「keep」は継続的な維持、「carry」は移動を伴う運搬、「grip」は力を込めた接触——それぞれのコアイメージを理解することで、自然な使い分けが可能になる。
次章では、記事全体のまとめと「hold」の理解がもたらす応用力について整理する。
6.まとめ:意味は「記憶」より「感覚」でつかむ
「hold」は、単なる「持つ」ではなく、「対象を自分の影響下に留めておく」という感覚に根ざした動詞である。
物理的な物体から、感情・意見・イベント・役職に至るまで、すべて「保持する」「維持する」というコアイメージでつながっている。
この感覚を理解することで、have・keep・carry・gripといった類義語との使い分けも自然にできるようになる。
意味を暗記するのではなく、「holdを見たら、自分が主導権を握って、しっかりコントロールしている場面を思い浮かべる」——それが、使いこなすための最も実践的な覚え方である。
物でも、イベントでも、感情でも、「自分の手の中にある」感覚を持つこと。 それが、英語の“hold”を感覚でつかむ第一歩となる。