今回は『図る』を文脈に応じて品よく言い換える方法を整理する。
1.『図る』とはどんな性質の言葉か?
「図る」はビジネス文書で頻繁に用いられる一方、何をどの程度まで行うのかが文脈に委ねられやすい語である。
まずは、この語の性質を整理しておきたい。
「図る」は、ある目的の実現や状態の変化を意図し、その方向へ働きかける姿勢を示す語である。
そこには計画・配慮・試みといった複数の要素が重なり、実行段階や結果責任の所在までを明示するものではないという特徴を含む。
なぜ、人は「図る」の言い換えを探すのか?
「改善を図る」「連携を図る」と書けば体裁は整うが、具体的な行動や到達点が読み手にくっきりとは映らないことがある。
意図を示すには便利である反面、主体性や実効性がやや後景に退き、文章全体が無難に見えるおそれもある。
さらに、同音異義語との混同や意味の重なりに違和感を覚える場面も少なくない。
こうした曖昧さを整理する視点を、次章で示していく。
2.『図る』を品よく言い換える表現集
ここからは「図る」を、文脈に応じて品よく・知的に言い換える方法を整理する。
2-1. 目標に向かって進めるとき(推進)
目標を掲げ、実現に向け物事を力強く動かす側面(例:解決を図る)。
- 取り組む
- 課題に対し、当事者意識を持って解決へ動く姿勢を示す場面に適する。
- 例:開発チームは操作性の向上に取り組み、ユーザーの離脱率を大幅に下げた。
- 課題に対し、当事者意識を持って解決へ動く姿勢を示す場面に適する。
- 推進する
- 組織的な施策やプロジェクトを、強い意志で前へ進める表現に向く。
- 例:事務局はペーパーレス化を推進し、年間で数万枚のコスト削減に繋げた。
- 組織的な施策やプロジェクトを、強い意志で前へ進める表現に向く。
- 遂行する
- 与えられた任務や業務を、責任を持って最後までやり抜く際に使われる。
- 例:担当者は不測の事態にも動じず、当初の計画通りに契約実務を遂行した。
- 与えられた任務や業務を、責任を持って最後までやり抜く際に使われる。
- 企図(きと)する
- 目的達成のために具体的な計画を企てる、やや硬い文脈で選ばれる。
- 例:新規事業部は物流網の再編を企図し、競合他社との差別化を鮮明にした。
- 目的達成のために具体的な計画を企てる、やや硬い文脈で選ばれる。
- 邁進(まいしん)する
- 脇目を振らず目的へ突き進む、強い決意表明や抱負を述べるシーンに向く。
- 例:新体制のもとで全社員が一丸となり、世界シェアの拡大に邁進している。
- 脇目を振らず目的へ突き進む、強い決意表明や抱負を述べるシーンに向く。
2-2. 質や状態を高めるとき(向上)
現状に満足せず、価値や効率をプラスへ引き上げる側面(例:効率化を図る)。
- 高める
- 品質や精度、意識など、抽象的な価値を一段上の水準にする際に使われる。
- 例:工場長は検品基準を厳格化して製品の精度を高め、不良品率を半減させた。
- 品質や精度、意識など、抽象的な価値を一段上の水準にする際に使われる。
- 向上させる
- 能力や利便性など、既存の状態をさらに発展させる場面に適する。
- 例:カスタマー部門は応対品質を向上させ、顧客満足度の指標を改善した。
- 能力や利便性など、既存の状態をさらに発展させる場面に適する。
- 強化する
- セキュリティや体制など、基盤をより強固で盤石なものにする表現。
- 例:情シス部門は外部攻撃への防御を強化し、情報漏洩リスクを最小化した。
- セキュリティや体制など、基盤をより強固で盤石なものにする表現。
- 刷新する
- 制度や仕組みを古いものから新しいものへ、大胆に変革する際に向く。
- 例:人事部は年功序列の賃金体系を刷新し、若手社員の意欲向上を促している。
- 制度や仕組みを古いものから新しいものへ、大胆に変革する際に向く。
- 最適化する
- 無駄を省き、状況に合わせ最も効率的な状態へ整える場面で選ばれる。
- 例:広告運用チームは配信設定を最適化して、投資対効果を最大まで引き出した。
- 無駄を省き、状況に合わせ最も効率的な状態へ整える場面で選ばれる。
- 拡充する
- サービスや制度の内容を広げ、より充実した形に整える際に向く。
- 例:総務部は福利厚生メニューを拡充し、多様な働き方を支える環境を整えた。
- サービスや制度の内容を広げ、より充実した形に整える際に向く。
2-3. 方法を考え実行するとき(策定)
漠然とした意図を、具体的な手順や公的な計画へ落とし込む側面(例:再編を図る)。
- 講じる
- 問題に対し、有効な対策や手段を選び取って実行に移す場面に適する。
- 例:経営陣は市場の急変に対し、即座に在庫削減の措置を講じた。
- 問題に対し、有効な対策や手段を選び取って実行に移す場面に適する。
- 策定する
- 組織の指針や公的な計画を、論理的に組み上げる際に向く。
- 例:委員会は次年度の経営方針を策定し、全社的なリソース配分を決定した。
- 組織の指針や公的な計画を、論理的に組み上げる際に向く。
- 立案する
- 新しい企画や案を、ゼロから具体的な形に構成するフェーズで使われる。
- 例:企画担当者は地域活性化のイベントを立案し、自治体へ予算承認を求めた。
- 新しい企画や案を、ゼロから具体的な形に構成するフェーズで使われる。
2-4. 関係や流れを整えるとき(調整)
他者が介在する物事について、折り合いをつけて整える側面(例:連携を図る)。
- 調整する
- 異なる意見や予定をすり合わせ、過不足のない状態にする表現に向く。
- 例:事務局は各国の利害関係を調整し、年度内の合意形成に漕ぎ着けた。
- 異なる意見や予定をすり合わせ、過不足のない状態にする表現に向く。
- 促進する
- 物事の流れを速めたり、円滑な進行を後押ししたりする場面に適する。
- 例:管理職は部門間の情報共有を促進し、意思決定のスピードを改善させた。
- 物事の流れを速めたり、円滑な進行を後押ししたりする場面に適する。
- 円滑化する
- 摩擦や障害を取り除き、物事がスムーズに流れるように整える際に使われる。
- 例:新システムの導入は、多忙な現場のルーチンワークを円滑化した。
- 摩擦や障害を取り除き、物事がスムーズに流れるように整える際に使われる。
2-5. リスクを抑え備えるとき(予防)
負の結果を招かないよう、あらかじめ手立てを考え防御する側面(例:再発防止を図る)。
- 防止する
- 事故やミスなど、不都合な事態が起きないよう未然に食い止める際に向く。
- 例:作業現場では指差し呼称を徹底し、重大な人為的ミスの発生を防止した。
- 事故やミスなど、不都合な事態が起きないよう未然に食い止める際に向く。
- 回避する
- リスクを予測し、衝突や損失を巧みに避ける戦略的な姿勢を示す。
- 例:法務部は契約条項の見直しにより、将来的な訴訟リスクを回避している。
- リスクを予測し、衝突や損失を巧みに避ける戦略的な姿勢を示す。
- 抑止する
- 相手に心理的圧力をかけ、望ましくない行動を思いとどまらせる場面に向く。
- 例:新たな罰則規定の導入は、社内における不正行為の発生を抑止した。
- 相手に心理的圧力をかけ、望ましくない行動を思いとどまらせる場面に向く。
2-6. 成果を実際に得るとき(実現)
図った結果として、目的を成し遂げ、何かを確立させた側面(例:再起を図る)。
- 実現する
- 構想を現実に形にし、期待されていた結果を生み出す際に使われる。
- 例:研究チームは長年の課題だった低コスト化を実現し、量産体制を整えた。
- 構想を現実に形にし、期待されていた結果を生み出す際に使われる。
- 達成する
- 数値目標やノルマなど、目指すべき地点に到達したことを示す表現。
- 例:営業部は全支店が売上目標を達成し、過去最高益の更新に貢献した。
- 数値目標やノルマなど、目指すべき地点に到達したことを示す表現。
- 確立する
- 制度や手法などを、揺るぎない確固たるものにする場面に適する。
- 例:独自の品質管理モデルを確立し、業界内での優位性を確かなものにした。
- 制度や手法などを、揺るぎない確固たるものにする場面に適する。
- 成し遂げる
- 困難な壁を突破し、大きな事業を最後までやり切った際に向く。
- 例:創業者は一代でグローバル企業への成長を成し遂げ、業界に変革を与えた。
- 困難な壁を突破し、大きな事業を最後までやり切った際に向く。
2-7. 真摯に向き合い力を尽くすとき(尽力)
図ろうとする誠実さや、懸命に努力する姿勢に焦点を当てた側面(例:便宜を図る)。
- 努める
- 自身の能力の限りを尽くし、あるべき状態を目指して励む姿勢を示す。
- 例:広報担当者は正確な情報発信に努め、ブランドの信頼維持に貢献している。
- 自身の能力の限りを尽くし、あるべき状態を目指して励む姿勢を示す。
- 尽力する
- 相手や目的のために、骨を折って力を尽くす丁寧な表現に向く。
- 例:不採算部門の再建に尽力し、わずか一年で黒字化を達成させた。
- 相手や目的のために、骨を折って力を尽くす丁寧な表現に向く。
- 傾注(けいちゅう)する
- 集中力を一点に注ぎ、わき目も振らずに没頭する専門的な場面に向く。
- 例:設計者は新素材の開発に全精力を傾注し、従来比で三倍の強度を確保した。
- 集中力を一点に注ぎ、わき目も振らずに没頭する専門的な場面に向く。
3.まとめ:『図る』の働きを分解する
『図る』は、目的の実現や状態の変化を志向する際に選ばれる語である。
その働きは意図・行為・結果の境界をまたぐため、文脈によって指す範囲が揺れやすい。
2章で整理した観点に沿って語を選び直せば、説明の輪郭が整い、意志の強さや責任の所在も自然に明確になっていく。

