ゴルディロックス効果:人はなぜ、真ん中を選んでしまうのか?

ゴルディロックス効果 ゴルディロックスの原理
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「ゴルディロックス効果」とは3つのランクのうち、中ぐらいを選ぶ傾向をいう。

日本語では「松竹梅の法則」と言ったりもする。

大抵は価格が段階的に異なる3つランクを設け、一番売りたい商品を真ん中に置くのがマーケターがとる価格戦略の常道といえる。

なお、本記事の後半でくわしく解説するが、「ゴルディロックス効果」は一方で、ブランドのポジショニング戦略にも有効となる。

競争相手と比較し、スタンダードな、ほどほどの選択肢としてブランドを位置付ける

そんな中庸のポジションを選ぶことで、安定的なシェアを得るというやり方もあるのだ。

目次

3つのランクなら真ん中に引き寄せられる「ゴルディロックス効果」

お寿司屋さんの握り盛り合わせで「特上」「上」「並」とメニューにあるのをよく見かけないだろうか? 

見かけるだけではなく、お昼時などはあまり迷うことなく、真ん中のランクの「上にぎり」を注文したことのある人も少なくないだろう。

「並」とは何となく声に出して頼みずらいし、「特上」だと身の丈を超えた出費になりそうだ。真ん中の「上にぎり」ぐらいならちょうどいい。

3つのランクの寿司種や巻きものの取り合わせを詳しく比較したわけでもないのに、なぜかしっくり来てしまう。

握り盛り合わせで「特上」「上」「並」

お寿司に限らず、うな重、定食、ステーキのランクでもそうだし、呼び名も「松」「竹」「梅」などほかにもあるだろう。

大抵は段階的に価格の異なる3つのランクから選ぶ格好になっていて、多くの人が真ん中に引き寄せられる。

この3つのうち真ん中をなんとなく選んでしまう傾向が、今回取り上げる「ゴルディロックス効果(Goldilocks Effect)」だ。

ほかに「ゴルディロックスの原理(Goldilocks Principle)」という言い方もある。

また、日本語では「松竹梅の法則」と言ったりもするようだ。

「ゴルディロックス効果」は広く活用されており、飲食店のメニューの例はほんの一部でしかない。

消費市場を見渡せば、多くの商品・サービスのグレード設定や料金プランなどで3つのランクが用意されている。「ベーシック、スタンダード、プレミアム」などの呼称がその典型だ。

消費者はその真ん中のランクを自ら選んでいると思っていて、マーケターの「ゴルディロックス効果」を狙った設計によって誘導されているとは露ほども頭にはない。

そのぐらい真ん中のランクを選ぶことが消費者にとって自然なことなのだ。

この「ゴルディロックス効果」の背景には「極端回避性」の心理がある。

人は損をしたくない、ハズレを引きたくないという気持ちが強く、極端に値段の高い商品や安い商品を避け、ほどほどの真ん中のランクを選んでしまうのだ。

値段の高い上のランクの商品なら本当にその出費に見合う価値があるのか? 逆に値段の安い下のランクの商品なら「安物買いの銭失い」になってしまわないか? 

いずれも不安や疑問が残るため、結局は無難に思える真ん中のランクを選んでしまうらしい。

「ゴルディロックス効果」の本質は買い控えを防ぎ即決を促すこと

「ゴルディロックス効果」は単純でありきたりに思えるが、マーケティング戦略上、その効果は絶大だ。

なにより実需に直結する。購買行動を喚起しているのだ。

仮に3つの選択肢になっていなかったらどうだろう? その需要が消滅してしまいかねない。

消費者は選びあぐね、一時的な様子見や買い控えが起こったり、廉価品や競合ブランドへの流出を招いたりする可能性だってある。

たとえば、もし、選択肢が3つではなく、高いランクと低いランクの2択のみだったとしよう。

他に参考となる情報が少なければ、人は一般的に安いほうを選ぶ傾向にある

価格戦略について解説した「価格の心理学」によれば、実証実験でも70%の人が安いほうを選ぶという結果が得られているという(リー・コールドウェル著、武田 玲子訳「価格の心理学」日本実業出版社 2013年)

さらに、選択肢がもっと増えると、情報処理の負荷が一気に増え、選べなくなってしまう。

行動経済学でいう「決定回避」の心理に襲われるのだ。

目移りもするだろうし、もうちょっと詳しく調べてみようといったん購入を見合わせることになりかねない。

検討を重ねた上でまた戻ってきてくれればいいが、いったん購買を見送るとよほどの必需品でもない限り、購入すること自体が忘れさられることもある。

こうした潜在的な需要をとりこぼす機会損失を抑える力がマーケターにとって「ゴルディロックス効果」の本質だろう。

選択肢を3つにとどめ、段階的なランクを設けてこそ、消費者は真ん中をすっと選んでくれる。

ひとしきり湧いた衝動を直ちに購買行動に換えられるのだ。

由来は英国の童話「三匹のクマ」、金色の髪の少女

「ゴルディロックス効果」の呼び名は英国の童話「三匹のクマ(The Three Bears)」から来ているという。そこに登場する金色の髪の少女が名前の由来らしい。

ゴルディロックスのゴルディはgold(金)、ロックスはlocks(髪の房)のことで、さしずめグリム童話の「赤ずきんちゃん」の赤い頭巾のように、少女の金色の髪、ゴルディロックスがこの物語のアイコンになっているのだ。

この童話は森の中にある3匹の熊の親子が住む家が舞台となる。その熊たちが留守の間に、金色の髪の少女が家の中に入り込み、テーブルの上に大中小の3つの皿に入ったスープを見つける。

とてもおいしそうだが、大きな皿のスープは熱すぎて飲めない。

中ぐらいの皿のスープは逆にすっかり冷めてしまっている。

しかし、小さい皿のスープは熱すぎず冷たすぎずほどよい熱さで、少女はその皿のスープを全部平らげてしまうのだ。

物語はここから3つの選択肢のうち、ほどよい真ん中のモノを少女が選ぶようすが繰り返される。

3つの椅子のうち「ちょうどいい」大きさの椅子に座り、3つのベッドのうち「ちょうどいい」硬さのベッドで寝てしまう。

熊たちが留守なのをいいことに好き勝手にふるまう少女だったが、最後は帰って来た熊たちと鉢合わせになり、驚いた少女があわてて逃げ出すというのが結末だ。

この物語で少女が「ちょうどいい」モノを選ぶようすが人々に強い印象を残したことから、真ん中のランクを人々が選びがちな心理傾向を「ゴルディロックス効果」と呼ぶようになったらしい。

「妥協効果」 破格のおとり商品で主力商品の手ごろ感を演出

この「ゴルディロックス効果」には応用編がある。

ただ単に3つのランクを用意するだけでも十分な効果はあるが、その応用編を使えば消費者の選択をより強力に誘導できる。それが「おとり(Decoy)効果」といわれるものだ。

マーケターが特に売りたい商品があるなら、その商品と一緒に上のランクの商品と下のランクの商品を用意する。

真ん中が選ばれやすくなるのはここまで述べてきた通りだが、さらに一歩進めて、その値付けの仕方を微妙に調整するのだ。

妥協効果

先に触れた「価格の心理学」に書かれていた例を挙げよう。

仮にローエンドの11万円とハイエンドの18万円の商品があるとしよう。

そしてマーケターは18万円の商品をより売りたいとする。そんなときは、もう一つ破格の値段のプレミアム商品を「おとり」として用意するのだ。

仮にハイエンドの20%増なら、そのプレミアム商品は26万4000円となるだろう。

そうすることで18万円のハイエンド商品でも比較的手ごろに見え、比べる対象がローエンドの商品しかなかったときに比べ、18万円のハイエンド商品がずっと購入されやすくなるのだ。

より高い商品を「おとり」として使うことで生まれる効果をマーケティングの世界では「妥協効果」と呼ぶ。

ここで商品に値付けをするとき、3つの選択肢の理想の価格差は「3:4:6」ぐらいだという。

仮に一番安いものが6万円なら、中間の価格は8万円、最高価格は12万円となる。

中間価格の商品がより手が届きやすく思えるよう、下の価格のちょい上ぐらいに価格を設定し、中間価格と最高価格の開きをより大きくする。それゆえ、「3:4:5ではなく、「3:4:がちょうどいいのだ。

「魅力効果」 確実に見劣りする商品で主力商品の魅力をアップ

この「妥協効果」に対し、もう一つ、「魅力効果」というものもある。

ちょっと複雑になるが「価格の心理学」にはこんな例も紹介されている。著者の友人が経験した実話だそうだ。

近所のカメラ店で、友人がニコンとソニーのデジタルカメラのどちらを買おうか検討していた。

ニコンのカメラはバッテリーの持続時間は10時間、光学20倍ズーム、重さは600gで厚さは5cm。価格は4万6000円だ。

一方のソニーは持続時間は5時間、光学16倍ズーム、重さは350gで厚さは2cm。価格は価格は3万9800円である。

スペック的にはニコンのデジタルカメラが上だが、その分価格も高い。ソニーはスペックでは劣るが、価格は割安でしかも軽量だ。

高スペックで高価格のニコンをとるか、割安価格で軽量のソニーをとるか、その友人は迷ってしまい、判断をつきかねていたという。

スペックの点ではニコンが勝っていたものの、そのスペックがどの程度自分にとって必要なのか、出費が増えても選ぶべき価値があるのかを即座に判断するのは難しい。

かといって割安で軽量のソニーがいいという決め手もない。

割安で軽量だからといって、本当に肝心のスペックを諦めてしまっていいのか?

すると店側は、迷っている友人に対し、店の奥にしまってあったニコンの別のカメラを持ってきて見せたという。

ニコンのカメラの前年モデルで、バッテリーの持続時間は9時間、光学18倍ズーム、価格は4万7400円だ。

既に店頭で見ていたニコンの4万6000円の新モデルに比べ、スペックでは劣るうえ、型落ちモデルなのに価格が高い。

同じニコンのカメラを買うならあえて前年モデルを選ぶ理由はないだろう。

ニコンの新旧2つのモデルとソニーの3台のカメラを改めて比較し、友人は最終的にどの商品を買ったのか? 

ニコンの新モデル、すなわち価格が4万6000円のカメラに軍配を上げたという。

スペックで劣り価格が高いという明らかに買うに値しないニコンの前年モデルが「おとり」となり、ニコンの新モデルの優位性が際立って見えたのだ。

そして選ぶ決め手に欠けていたソニーを振るい落とすことに迷いがなくなったのである。

捨て駒

ニコンの前年モデルのような「捨て駒」的な商品に引き立てられ、商品の魅力が高まり、最終的に消費者から選ばれることをマーケティングの世界では「魅力効果」という。

ニコンとソニーの例は、この「魅力効果」が引き出された好例だろう。

絶妙なタイミングでニコンの前年モデルを「おとり」として見せたカメラ店側の作戦勝ちといえる。

3つのランクの選択肢のうち真ん中に意識を向かせる「ゴルディロックス効果」だが、その3つのランクの設定の仕方に、価格やスペック面で細やかなさじ加減を加えることで、いっそう効果的となる。

「妥協効果」や「魅力効果」が発揮され、マーケターが望む選択肢へとより強力に誘導することができるのだ。

「ゴルディロックス効果」を狙ったブランドのポジショニング戦略

マーケティングの世界で並々ならぬ威力を生む「ゴルディロックス効果」だが、ここまでの説明であれば、その効果の恩恵にあずかれるのは、自社ブランド内に複数のラインを持ち、段階的に価格やグレード設定ができるマーケターだけになってしまう。

しかし、消費者の極端な選択肢を避け、真ん中をこよなく好む傾向は価格戦略以外にも十分な使い手がある。

消費者心理を熟知したマーケターは、商品開発やブランドのポジショニング(消費者の頭の中での位置取り)戦略に「ゴルディロックス効果」を存分に生かしている。

比較対象となる競合品との関係において、ちょうど真ん中、「過剰」も「不足」もない、ほどほどのバランスを保った「中庸」のポジショニングを狙うのはマーケターの勝ちパターンの一つである。

自社ブランドの位置取りを工夫し、競合するブランドがあたかも「過剰」か「不足」の両極端に位置するように仕立ててしまうのだ。

その「中庸」狙いの意図がわかりやすく訴求されている例を挙げるなら、ホンダの「フリード(FREED)」がある。

「This isサイコーにちょうどいいHonda!」のキャッチコピーで市場に登場し、今でも「毎日の暮らしにも、特別な日にも『ちょうどいい』クルマ」など、一貫して「ちょうどいい」を訴求してきたブランドだ。

「フリード」は5ナンバー(軽自動車よりちょっと大きめ)規格の小型乗用車ながら、大人7人が乗れる広い室内空間を実現した小型ミニバンだ。

多彩なシートアレンジや狭い道での取り回しのしやすさなど使い勝手の良さが支持され、コアのターゲットとした子育て世代のみならず、幅広い客層を惹きつけることに成功している。

競合としてトヨタ自動車「シエンタ」も存在しているが、2008年の発売から安定的な売行きを維持できたのも、「ちょうどいいクルマ」として広告訴求し、「中庸」のポジショニングを際立たせてきたことが一役買っているだろう。

「ミニバンでは大き過ぎるし、かといって小型車では物足りない」という「過剰」も「不足」も避けようとする顧客心理を巧みに突いたのだ。

「ゴルディロックス効果」を引き出した例には日産のコンパクトカー「ノート」もある。

「ノート」の人気を不動にしたのが、ひとえにハイブリッド技術「e-POWER(イー・パワー)」を搭載したことだ。

その「e-POWER」は1200ccのエンジンを発電専用に使い、その電気で前輪をモーター駆動するしくみなのだという。

電気モーターカーならではの力強い加速が体験できる一方で、従来通りガソリンを給油すればよく充電は不要となる。

電気自動車の課題の一つでもある「航続距離」の心配もいらない。

広告では「電気自動車のまったく新しいカタチ。」と訴求し、電気自動車に関心はあるものの、踏み切るには至らない慎重派の層を惹きつけたのだ。

あまり先に行き過ぎず、さりとて従来の型にとらわれすぎてもいない。ほどほどの先進性を打ち出したことが「ゴルディロックス効果」につながり、消費者からの支持を集めたのだ。

ホンダの「Freed(フリード)」や日産「ノート」のようにわかりやすくはないが、実は販売台数の上位に安定的に食い込むようなクルマは大抵、スタンダードでオールラウンドな特性を備えている。

「ゴルディロックス効果」がここかしこで発揮されているといえよう。

ほどほどのエッジを効かせるにせよ、極端な位置にはつかず、無難な選択肢を好む人たちの受け皿になれることが、ことクルマでは安定的な人気を得る鉄則なのだろう。

両極端を避けるのではなく、むしろ双方を肯定するやり方も

紳士服の業界でも、確信犯的に「ゴルディロックス効果」を狙ったブランドがある。青山商事が2016年に起ち上げた「モアレス(MORLES)」だ。

ブランド名の由来が既に「MOREでもLESSでもない、着こなしやすい服」から来ており、「中庸」をど真ん中から狙っているといえる。

ビジネスシーンにもカジュアルシーンにも使える「ビジネスカジュアル(ビジカジ)」のスタイルを提唱し、ジャケットやコート、シャツ、パンツなどを揃える。

「飾り過ぎずシンプル過ぎず」がコンセプトで、企業との協業で商品開発に取り組む「ビームスデザイン(BEAMS DESIGN)」が企画監修しているという。

「モアレス」は青山商事の主力店舗の「洋服の青山」や同社の若者向け店舗「ネクストブルー」などで扱っており、若い世代の新規顧客の取り込みに成功しているという。

仕事着のカジュアル化で進む「スーツ離れ」に、一定の歯止めをかけたといえる。

もっとも、ここまで例に挙げてきた「フリード」や「ノート」、「モアレス」は、飲食店のメニューの「松」「竹」「梅」の「竹」のように極端を避けて無難な選択肢を選ばせることはニュアンスがやや異なるようにも思える。

両極の領域のよさをそれなりに知っている消費者が、双方の垣根を超えたところに積極的な価値を見い出しているのだ。

両極を避けるのではなく、むしろともに肯定し、その両立を望んだといえる。

こうしたほどほどの「いいとこ取り」を望む消費者の期待に応えることは、マーケターにとっては「ゴルディロックス効果」に乗じた市場創造の試みにほかならないだろう。

本ブログで取り上げたAOKIのテレワーク用スーツ「パジャマスーツ」もまた、軌を一にしているといえる。

スーツとパジャマという両極端にある価値を両立させ、自宅でリラックスした格好で仕事をしつつも、オンライン会議にはきちんと見せるというニーズに正面から応えて、紳士服業界では異例のヒットとなった。

また、同じく本ブランドで取り上げた「ザ・ノース・フェイス」も同様だろう。

アウトドアとカジュアルのウエアを融合させ、その両者を超越した境地に消費者は心地よさを覚えたのだ。

両極端を避けるにせよ、超越するにせよ、その克服の先には消費者を動かすとてつもない力があるようだ

「ゴルディロックス効果」が生かせるチャンスを見逃すのはあまりにもったいない。

マーケターなら、その原理を頭の片隅に入れて置くのがいいだろう。

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