「ギャツビー ザ デザイナー」 なぜ、どこで売ってるかを探すのか?

ギャツビー ザ デザイナー 
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マンダムの「ギャツビー」に新ライン、メンズメイク市場に本格参入

マンダムの「ギャツビー」に新ラインが加わっている。その名も「ギャツビー ザ デザイナー(gatsby THE DESIGNER)」

2021年の秋の発売時には「メイクアップ」「スキンケア」「ヘアスタイリング」の3シリーズ18アイテムであったが、その後、「ヘアカラーリング」「ネイル」も揃え、より多彩なラインアップとなっている。

「ギャツビー」といえば日本を代表する男性用化粧品のブランドであり、ヘアケアやスキンケアを中心に売れ筋商品を揃え、マンダムの屋台骨を支える。

しかし、新ラインはそうした従来の「ギャツビー」とは一線を画す。

ブランドのコンセプトやターゲット、販売チャネルを大きく変えているのだ。

そのため、「ギャツビー」と一括りにはせず、「ザ デザイナー」というサブブランドを挟んでの展開となった。

多彩なラインの中で注目すべきは「メイクアップ」のシリーズだろう。

マンダムにとってはメンズメイクの市場を本格的に開拓する契機にもなる。

長時間カバーやナチュラルな仕上がりを実現するBBクリームを始め、肌悩みを徹底カバーするコンシーラー、眉を自然にデザインするアイブロウなど、多彩なアイテムで、より自然で鮮やかに、思い描いた自分を表現できるようにしたという(PR TIMES2021.10.7)

「ザ デザイナー」のコンセプトに「多様性」と「自己表現」

その「ザ デザイナー」のコンセプトは「多様性」と「自己表現」

2021年に新たに制定されたマンダムのブランドスローガン「BE ANYTHING, BE EVERYTHING.(なりたい自分に、全部なろう)」をそのまま引き継いでいる。

PR TIMESの2021年5月12日付の記事には、マンダムの新スローガン「BE ANYTHING, BE EVERYTHING.」には、人それぞれが持つ「本来の自分らしさ」だけでなく、人々が願う「ありたい自分らしさ」の実現をマンダムなりに応援したいとの想いを込めたとある。

「何かを目指すためには、何かを犠牲にしなければならないというあきらめ」や「当たり前と思っている思い込み」を打ち破るサポートをすることがマンダムが目下取り組む使命らしい。

そして、そのマンダムのコンセプトを体現するのが新ラインの「ザ デザイナー」だ。

メイクアップからネイルまで多彩のラインアップとしたのも、それらを単品で使うのではなく、ユーザーが思い思いに組み合わせて、自由に楽しみながら“なりたい自分”に近づいていくことを想定したためだという(国際商業 2021.10.07)

コンセプトの「多様性」と「自己表現」が息づいているといえる。

「ギャツビー」とは一線 アンチ・マスブランドへの挑戦

「ギャツビー」といえば、1978年の発売で、40年以上もの歴史を刻むロングセラーブランド

その時々の時代を代表するイケメン俳優をCMに起用し、話題を振りまいてきた。

俳優の本木雅弘、木村拓哉や松田翔太が登場したCMを覚えている人もいるだろう。直近では俳優の佐藤健が「ギャツビー」のイメージキャラクターを務めている。

その大衆性を帯びた「ギャツビー」に対し、アンチ・マスブランドの路線を走るのが「ザ デザイナー」だ。

テレビCMなどを通して最大公約数的な「カッコいい像」を一方的に提示することはせず、あくまでユーザー自身が描く「なりたい像」に主眼を置く。

その実現を後押しするトリガーとしてブランドを位置付けているようだ。

ターゲット設定もかなり絞り込んでいる。

積極的にメンズコスメの情報収集やトライアルする10~20代の男性(国際商業 2021.10.07)、既に女性向けの化粧品などを使ってメイクを楽しむなど、新しいことへの挑戦に意欲的に取り組む人たちなのだという(日経クロストレンド 2022.2.7)

さらにアンチ・マスブランドに挑むマンダムの覚悟がうかがえるのが、その販売チャネルである。

バラエティショップの「ロフト(一部店舗を除く)」と一部の通販サイトに限定したのだ。

通常の「ギャツビー」なら全国のスーパーやコンビニ、ドラッグストアなどで手に入る。

それだけの流通支配力を有しながら、あえて「ロフト」というバラエティチャネルに白羽の矢を立てたのだ。

情報感度の高い10~20歳代男性がよく行く店のため、効率的にターゲット層にリーチしやすいからだという(NIKKEI STYLE 2021.12.4)

第一線のトップスタイリストたちと共同開発

そして、もう一つ「ザ デザイナー」の新ラインにエッジを効かせることになるのが、若者たちから絶大な支持を集めるトップスタイリストたちとの共同開発だ。

「ザ デザイナー」の公式サイトには、有名サロンに所属する宇野文彦氏、Ryutaro氏、齋藤正太氏の3名のスタイリストが名を連ねている。

メイクアップのラインは斎藤氏、スキンケアはRyutaro氏、スタイリングは宇野氏、斎藤氏、Ryutaro氏の3人が個性を競う形で商品開発に務めたという。

その3人にネイルラインを担当するネイルアーティストの北村 亮氏も加わった。

たとえばスタイリストの宇野文彦氏であれば、表参道のヘアサロン「NAVY」に所属し、国内最大級のヘアスタイルアワードでもノミネートの常連だという。

現在のメンズヘアシーンをけん引するキーパーソンの1人らしい(「ザ デザイナー」公式サイト)

また、共同開発者たちはそれぞれSNSのアカウントを持っており、その発信力も抜群のようだ。

「ザ デザイナー」が3人を商品開発のパートナーに選んだのも、昨今はテレビや雑誌からではなく、身近で憧れの存在でもあるスタイリストたちが発信する情報をヒントに、自分のなりたい像を模索する若い男性が増えていることがある(国際商業 2021.10.07)

「アウト・オブ・ブランド」にしなかった理由とは?

「ザ デザイナー」の新ラインについて説明してきたが、一つ疑問に残ることがある。

なぜ、マンダムは明確にアンチ・マスブランドのポジションを狙いながら、「ギャツビー」のブランドを冠したのだろう?

世の中には「アウト・オブ・ブランド」といって、あえて大手企業が自社名を冠さずに展開するやり方も珍しくないのだ。

たとえば資生堂やコーセーなどはいくつも「アウト・オブ・ブランド」を抱えている。資生堂なら「クレ・ド・ポー ボーテ」「イプサ」、コーセーなら「アディクション」や「ジルスチュアート」といったブランドがその例だ。

大手ブランドのイメージを引きずることなく、独自のブランディングが叶う。

「ギャツビー」は企業ブランドではないが、マンダムの代名詞的なブランドである。手垢のついた、大手ブランドのイメージは拭えなくなるだろう。

しかし、種々の報道記事を読むと「ザ デザイナー」はあえてそれをよしとしたようだ。

ロフトの公式通販サイトをのぞくとわかるが、今や伸び盛りのメンズコスメの市場には、知る人ぞ知る存在の個性派ブランドが群雄割拠している。

そこにあえて「ギャツビー」のブランドで挑み、むしろ大手ブランドの安心感で差別化を図ろうとしたのだ

メンズコスメの市場にはその伸びしろに期待し、資生堂やコーセーなどものろしを上げてはいるが、「ギャツビー」は長年男性に特化し、男性の髪や肌を徹底的に研究してきたメンズブランドである。その意味での安心感もあるだろう。

高感度のターゲット男性たちは意外にも保守的だった

実はマンダムの調査によれば、ターゲットとなる男性たちは流行感度も高く、進取の気性に富んでいそうに見えるが、意外にも保守的な面もあるという(日経クロストレンド 2022.2.7)

商品の効能などをきっちり読み込み、理性を働かせ慎重に選んでいるというのだ。

おそらく、そんな彼らに取り入ろうとするなら、「ギャツビー」のブランドを冠したほうが、安心感もあり、かえって射抜きやすいとマンダムは踏んだのだろう。

国際商業の2021年10月7日付の記事によれば、メンズメイクにも積極的なターゲット男性でも、「ここまでやったら、やり過ぎ」と自分にブレーキをかけてしまう人も少なくないという。やはり人の目が気になってしまう。

そこで馴染みのある「ギャツビー」という出自を持ちながら、第一線で活躍するトップスタイリストたちが関わる「ザ デザイナー」という打ち出しが俄然意味を持つことになる。

人はセーフティネットがあるほうが、チャンレンジがしやすくなるものだ。

セーフティネットと冒険

人にどう見えるかに囚われず、自らの感性にしたがって、「ザ デザイナー」で思いっきり自己表現を楽しんでもらう。

そんなマインドセット(ものの見方や態度)をターゲットとする男性たちに持ってもらうことを念頭に「ザ デザイナー」はつくられたのだ。

そもそも「ザ デザイナー」のネーミングは「デザイナーがデザインするように、もっと自由に自分をデザインしてほしい。」という意図に由来している(PR TIMES 2022.10.7)

「ザ デザイナー」が発売後の1年間で多数の賞を受賞したことを知らせる記事(PR TIMES 2022.10.7)には以下のようなブランドの想いが吐露されている。

世の中の常識や他人の目、自分の中にある固定観念に囚われることなく、理想のなりたい自分を追求する。

そんな男性のお手伝いができるよう、今後もgatsby THE DESIGNERは自由な自己表現を提案し続けます。

中心か、周縁か。「 ザ デザイナー」の特異な立ち位置

文化人類学者の山口昌男氏が著書「文化と両義性」の中で、「中心と周縁」という二項対立的な考え方の枠組みを提唱した。

私たちの社会ではあらゆるレベルで「中心」と「周縁」があって、「中心」は社会の秩序を維持する根幹を担い、そこからは逸脱し、秩序だってはいない領域は「周縁」とされる。

「周縁」は排除の対象にもなり得るのだ。この二項対立の構図に見立てれば、メンズコスメ、とりわけメンズメイクはコスメ市場においてまだまだ「周縁」的な位置づけといえる。

中心と周縁

しかし、山口昌男氏はこの「周縁」に積極的な意味を与える。

OpenSquareJP(九州産業大学 芸術学部 情報デザイン研究室)の記事によれば、秩序を保とうとする力学ゆえ硬直化しがちな「中心」に対し、「周縁」はゆさぶりや組み替えを促す存在なのだという。

たしかに、テレビに登場する俳優や歌手、タレントなどを見ていても、最初はほんの脇役だった人たちがやがて注目され、主役級の扱いに上り詰めることはよくある。

中心を担っていた人たちのお株を奪う存在は常に「周縁」からやってくるのだ。

その「周縁」の特徴には、バリエーションが豊富で独自の世界に棲むことを好み、差異に価値を見出すことなどがあるという。

思考回路が柔軟で新規性のあるアイデアを生みやすいのも「周縁」らしい。

まさにこの特徴を備えているのが「ザ デザイナー」なのだろう。

しかも、今はまだ「周縁」のものとして振舞ってはいるが、一方で「ギャツビー」という大衆的なブランド名を冠し、中心的な価値にも通じている。

「ギャツビー」と「ザ デザイナー」というブランドの二階建て構造ゆえ、今後のメンズコスメの「中心」を担うのに、案外一番近い位置につけているのかもしれない。

「カッコいいとは、誰かが変わろうとするチカラ」

「ザ デザイナー」が発売される半年も前、「ギャツビー」は俳優の佐藤健を起用し、ブランドムービーをリリースしている。

そのムービーのコンセプトは「『変化の肯定』 ~カッコいいを作ってきたのは“誰かの変わりたいという想い”」だそうだ。

映像の中では以下のような文言が語られる。

「運命は、ベートーベンがつくった」「悲劇は、シェイクスピアがつくった」「じゃあ、『カッコいい』をつくったのは、誰?」

「雑誌のモデル? 映画のスター? 有名なファッションデザイナー?……いや、それだけじゃない。作業着だったジーンズを、はじめて街ではいた人が、自分を主張したくて、はじめて髪を尖(とが)らせた人が、カッコいいをつくってきたんだ」

カッコいいとは、誰かが変わろうとするチカラだ。変わりたいという想いが、行動が、次のカッコいいをつくっていく」

半年後に発売される「ザ デザイナー」のティーザー(小出しにして前評判を高める広告手法の一種、「じらし」広告)的な位置づけのメッセージといえそうだ。

「多様性」と「自己表現」のコンセプトを巧くインパクトのある形で言い当てている。

果たして「ザ デザイナー」は思惑通り、進取性と保守性を併せ持つターゲット男性たちに「変わろうとするチカラ」を湧かせられるだろうか? 今後の展開が注目されるところだろう。

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