「commit」という英単語、意味は知っているのに使い方で戸惑う——そんな経験はないだろうか。
「約束する」「専念する」「罪を犯す」など、訳語は多岐にわたるが、実際の使い分けは意外と難しい。
ときに前向きな覚悟を示し、ときに後戻りできない責任を背負わせる——その両義的な性質が、理解を曖昧にさせる原因となっている。
本記事では、「commit」の中心にある“逃げ場のない状況に自らを投げ入れる”という感覚を出発点に、意味の広がりや類義語との違いを体系的に整理する。
辞書ではつかみにくいニュアンスを、日常・ビジネス・法的文脈からひも解き、英語の「覚悟の感覚」を身につけるヒントを提供する。
0.今回の単語はコレ!
【意味】
- (責任・義務に)身を委ねる、専念する
- (罪などを)犯す
- (人・資源を)投入する、割り当てる
- (約束・契約に)コミットする
- (人を施設などに)収容する
「commit」は、ビジネス・法律・日常会話など、幅広い文脈で登場する動詞である。
「約束する」「専念する」「罪を犯す」など、日本語訳は多岐にわたるが、いずれも「ある状況に自らを投げ入れる」という共通の感覚に根ざしている。
本記事では、「commit」のコアイメージを起点に、多義的な意味の広がりと類義語との違いを体系的に整理する。
辞書的な意味の暗記ではなく、英語の“感覚”として「commit」を理解することを目指す。
1.なぜ「commit」はわかりづらい?
「commit」が難解に感じられる理由は、主に以下の3点に集約される。
① 意味の幅が広く、文脈によって訳語が大きく変化する
たとえば以下のような用例がある:
- commit to a project(プロジェクトに専念する)
- commit a crime(犯罪を犯す)
- commit resources(資源を投入する)
- commit oneself to a cause(ある理念に身を捧げる)
- be committed to prison(刑務所に収容される)
これらは一見すると無関係に見えるが、いずれも「自らをある状況に投げ入れ、逃げられない状態にする」という感覚でつながっている。
② ポジティブとネガティブの両極に意味が分布している
「commit」は、ビジネス文脈では「責任を持って取り組む」「リソースを投入する」といった前向きな意味で使われる一方、法的文脈では「罪を犯す」「強制的に収容される」といった否定的な意味も持つ。

この両義性が、単語の印象を曖昧にし、使い分けを難しくしている。
③ 類義語との違いが直感的に捉えづらい
「promise」「dedicate」「engage」など、似たような文脈で使われる単語との違いが明確でないため、誤用が起こりやすい。
たとえば:
- promise:意図を言語化するが、実行の保証は弱い
- dedicate:時間や労力を捧げるが、拘束力は低い
- engage:関与するが、必ずしも不可逆ではない
- commit:自らを拘束し、後戻りできない状況に身を置く
このように、「commit」は意味の広がりが大きく、文脈によってニュアンスが激しく変化するため、辞書的な理解だけでは不十分である。
次章では、「commit」のコアイメージ——“自らを逃げられない状況に投げ入れる”——について詳しく解説する。
2.コアイメージ:自らを“逃げられない状況に投げ入れる”
「commit」の中心にあるのは、「自らをある状況に投げ入れ、逃げられない状態にする」感覚である。
単なる参加や関与ではなく、「後戻りできない覚悟を伴う決断」が含意されている。

この感覚は、責任・義務・信念・制度・罪など、外部の枠組みに自分を預ける行為として現れる。
「自らの意思で、不可逆的な状況に身を置く」=「逃げ場のない覚悟」「拘束された関与」
たとえば、あるプロジェクトに「commitする」とは、単に参加することではない。
その成功・失敗に自分の責任が直結し、途中で投げ出すことが許されない状態に身を置くことを意味する。

また、「commit a crime(罪を犯す)」という表現にも、同様の構造が見られる。
一線を越えた行為によって、法的・社会的な拘束を受ける状況に自らを置く——それが「commit」の本質である。
この動詞には、「自発性」と「拘束性」が同居している。

自らの意思で踏み出すが、その先には自由の制限や責任の重さが待っている。
だからこそ、「commit」はポジティブにもネガティブにも働く、両義的な力を持つ。
対象がプロジェクトであれ、理念であれ、罪であれ、「自分を逃げられない状況に投げ入れる」という意識が根底にある。
この感覚を押さえることで、「commit」が持つ多義的な意味の広がりを、単なる暗記ではなく、直感的に理解することが可能となる。
3.意味の広がり:コアイメージから派生する用法
「commit」が持つ「自らを逃げられない状況に投げ入れる」というコアイメージは、文脈に応じて多様な意味へと広がる。
以下の表は、その代表的な用法を整理したものである。
用法カテゴリ | 例文 | コアイメージとのつながり |
---|---|---|
専念・関与する | commit to a project | プロジェクトに自らを投げ入れ、逃げ場をなくす |
資源・人材を投入する | commit resources to development | 資源を特定の目的に拘束し、他に使えない状態にする |
犯罪を犯す | commit a crime | 一線を越え、法的拘束を受ける状況に身を置く |
約束・契約を結ぶ | commit to a deadline | 期限に対して責任を負う覚悟を示す |
施設などに収容する | be committed to a hospital | 自分の意思または制度により、拘束された状態になる |
このように、「commit」は単なる「約束」や「参加」ではなく、「自らを拘束する」行為として機能する。 以下では、日常・ビジネス・法的文脈に分けて具体的な使用例を確認する。
日常文脈での「commit」使用例
① 専念・関与する
- She committed to learning French this year.
- 彼女は今年フランス語の習得に専念することを決めた。
- =学習に逃げ場のない覚悟で取り組む。
- 彼女は今年フランス語の習得に専念することを決めた。
- I’m not ready to commit to a relationship.
- 私はまだ恋愛関係に踏み込む準備ができていない。
- =関係性に自分を投げ入れることへのためらい。
- 私はまだ恋愛関係に踏み込む準備ができていない。
② 約束・責任を負う
- He committed to finishing the report by Friday.
- 彼は金曜までにレポートを仕上げると約束した。
- =期限に対して責任を負う覚悟を示す。
- 彼は金曜までにレポートを仕上げると約束した。
③ 過ち・罪を犯す
- The suspect committed a serious offense.
- 容疑者は重大な犯罪を犯した。
- =法的拘束を受ける行為に踏み込んだ。
- 容疑者は重大な犯罪を犯した。
ビジネス文脈での「commit」使用例
① リソース・人材を投入する
- The company committed significant resources to R&D.
- その企業は研究開発に多くの資源を投入した。
- =他の用途に使えないよう拘束した状態。
- その企業は研究開発に多くの資源を投入した。
- We’ve committed our best engineers to this project.
- このプロジェクトには最優秀の技術者を投入している。
- =人的資源を逃げられない形で割り当てた。
- このプロジェクトには最優秀の技術者を投入している。
② 方針・目標に専念する
- Our team is fully committed to sustainability.
- 我々のチームは持続可能性に完全に専念している。
- =理念に対して逃げ場のない覚悟を持って取り組む。
- 我々のチームは持続可能性に完全に専念している。
- The CEO committed to improving transparency.
- CEOは透明性の向上に取り組むことを約束した。
- =方針に対して責任を負う姿勢。
- CEOは透明性の向上に取り組むことを約束した。
③ 契約・期限に拘束される
- Once signed, the vendor is committed to the terms.
- 署名後、ベンダーは契約条件に拘束される。
- =契約によって逃げ場のない義務が発生する。
- 署名後、ベンダーは契約条件に拘束される。
- We’re committed to delivering by Q3.
- 第3四半期までの納品を約束している。
- =納期に対して拘束された状態。
- 第3四半期までの納品を約束している。
法的・制度的文脈での「commit」使用例
① 犯罪を犯す
- He was arrested for committing fraud.
- 彼は詐欺を働いた罪で逮捕された。
- =法的な一線を越えた行為。
- 彼は詐欺を働いた罪で逮捕された。
② 施設への収容
- She was committed to a psychiatric hospital.
- 彼女は精神科病院に収容された。
- =制度的に拘束された状態に置かれる。
- 彼女は精神科病院に収容された。
このように、「commit」は物理的な動作ではなく、心理的・制度的・社会的な“拘束”を伴う動詞である。
自らの意思で踏み込むが、その先には責任・義務・制限が待っている。
この感覚を理解することで、「commit」が持つ多義的な意味の広がりを、文脈に応じて自然に使い分けることが可能となる。
次章では、こうした意味の広がりを踏まえたうえで、「promise」「dedicate」「engage」などの類義語との違いを明確にしていく。
4.類義語との徹底比較
「commit」は「約束する」「専念する」「罪を犯す」などと訳されることが多いが、同じような文脈で使われる promise、dedicate、engage、undertake などとはニュアンスが異なる。
以下の表は、それぞれのコアイメージと違いを整理したものである。
単語 | コアイメージ | 違いのポイント |
---|---|---|
promise | 意図を言語化する | 実行の保証は弱く、拘束力が低い |
dedicate | 時間・労力を捧げる | 感情的な熱意が中心で、制度的拘束は伴わない |
engage | 活動に関与する | 双方向性や参加のニュアンスが強く、覚悟は限定的 |
undertake | 任務・責任を引き受ける | 実行の意思はあるが、拘束性や不可逆性は限定的 |
commit | 自らを拘束する | 意志と不可逆性がセットになった、逃げ場のない覚悟 |
ここから、類義語との違いを英文と和訳のセットで紹介する。
文脈ごとのニュアンスの違いを直感的に理解してほしい。
「commit」が難解に感じられる理由は、主に以下の3点に集約される。
① commit vs promise:覚悟の深さの違い
約束という行為にも、軽い意図表明から重い責任の引き受けまで幅がある。ここでは「promise」と「commit」の違いを見てみよう。
- I promise to help you with the task.
- その作業を手伝うと約束するよ。
- =言葉による意図表明。実行の保証は弱い。
- その作業を手伝うと約束するよ。
- I’m committed to helping you complete the task.
- その作業を完了させるために全力で取り組む覚悟がある。
- =逃げ場のない責任を負う姿勢。
- その作業を完了させるために全力で取り組む覚悟がある。
▶︎「promise」は言葉の約束、「commit」は行動の覚悟——その違いは責任の重さにある。
② commit vs dedicate:制度的拘束の有無
献身的な姿勢を表す「dedicate」と、制度的な責任を伴う「commit」。両者の違いは、拘束力の有無にある。
- She dedicated her life to education.
- 彼女は教育に人生を捧げた。
- =情熱的な献身。拘束力は弱い。
- 彼女は教育に人生を捧げた。
- She committed herself to reforming the school system.
- 彼女は学校制度改革に身を投じた。
- =制度的・社会的な責任を負う覚悟。
- 彼女は学校制度改革に身を投じた。
▶︎「dedicate」は熱意の表明、「commit」は制度に身を預ける覚悟——対象との関係性が異なる。
③ commit vs engage:関与の深度の違い
活動に関与する「engage」と、逃げ場のない覚悟を伴う「commit」。関与の“深さ”に注目してみよう。
- He is engaged in volunteer work.
- 彼はボランティア活動に関与している。
- =活動に参加しているが、拘束性は限定的。
- 彼はボランティア活動に関与している。
- He is committed to supporting underprivileged children.
- 彼は恵まれない子どもたちの支援に専念している。
- =継続的かつ不可逆的な覚悟を伴う関与。
▶︎「engage」は参加、「commit」は専念——関与の深度が違うことで、責任の質も変わる。
④ commit vs undertake:実行意志と拘束性の違い
業務を引き受ける「undertake」と、理念に身を投じる「commit」。実行意志と拘束性のバランスに注目したい。
- I’ll undertake the redesign of the website.
- ウェブサイトの再設計を引き受けます。
- =業務的な意思表明。拘束性は限定的。
- I’m committed to delivering a fully accessible website.
- アクセシビリティを完全に確保したサイトを納品する覚悟がある。
- =理念と成果に対する責任を負う姿勢。
- アクセシビリティを完全に確保したサイトを納品する覚悟がある。
▶︎「undertake」は業務の遂行、「commit」は理念への覚悟——目的の性質が異なる。
⑤ commit vs promise vs dedicate:ビジネス文脈での使い分け
ビジネスの現場では、約束・献身・覚悟のニュアンスをどう使い分けるかが重要になる。以下の例で整理してみよう。
- We promise to respond within 24 hours.
- 24時間以内に対応することを約束します。
- =顧客向けの表明。実行保証は弱い。
- 24時間以内に対応することを約束します。
- We dedicate our team to improving customer experience.
- 顧客体験の向上にチームを捧げています。
- =熱意ある姿勢。制度的拘束はない。
- 顧客体験の向上にチームを捧げています。
- We are committed to delivering measurable results.
- 定量的な成果を出すことに専念しています。
- =成果に対して逃げ場のない責任を負っている。
- 定量的な成果を出すことに専念しています。
▶︎「promise」は表明、「dedicate」は姿勢、「commit」は成果への責任——ビジネスではこの違いが信頼に直結する。
このように、同じ「約束する」「関与する」と訳される単語でも、英語では「意図の表明」「情熱的な献身」「活動への参加」「業務的な引き受け」「拘束された覚悟」など、細かなニュアンスの違いが存在する。
「commit」はその中でも、「自らの意思で不可逆的な状況に身を置く」という覚悟と拘束性を伴う点が特徴的である。
次章では、こうした違いを踏まえたうえで、実践的な使い方を確認していく。
5.実践:文脈で使い分ける
以下の文の空欄に、適切な語句(commit / promise / dedicate / engage / undertake)を入れること。
文脈に応じたニュアンスの違いを意識することで、単語の選択精度が高まる。
- We need someone who can truly ___ to this long-term initiative.
- (この長期的な取り組みに本気で取り組める人材が必要だ)
- 答え:commit ※逃げ場のない覚悟を持って関与するニュアンス。
- I ___ to send you the final draft by Monday.
- (月曜までに最終稿を送ると約束します)
- 答え:promise ※意図の表明。実行の保証は弱いが、言語的な約束。
- She has ___ her career to supporting women in tech.
- (彼女はキャリアを女性のテック支援に捧げてきた)
- 答え:dedicated ※情熱的な献身。制度的拘束は伴わない。
- The team will ___ the redesign of the internal portal.
- (チームは社内ポータルの再設計を引き受ける予定だ)
- 答え:undertake ※業務的な引き受け。拘束性は限定的。
- He is actively ___ in community outreach programs.
- (彼は地域支援プログラムに積極的に関与している)
- 答え:engaged ※活動への参加。双方向性が強く、覚悟は限定的。
- Before signing, make sure you’re ready to fully ___ to the terms.
- (署名前に、その条件に完全にコミットする覚悟があるか確認せよ)
- 答え:commit ※契約条件に対して逃げ場のない拘束を受けるニュアンス。
このように、同じ「約束する」「関与する」と訳される行為でも、文脈によって選ぶべき単語は異なる。
- commit:不可逆的な覚悟と拘束性を伴う関与
- promise:言語的な意図表明
- dedicate:情熱的な献身
- engage:活動への参加・関与
- undertake:業務的な引き受け
それぞれのコアイメージを理解することで、自然な使い分けが可能になる。
次章では、記事全体のまとめと「commit」の理解がもたらす応用力について整理する。
6.まとめ:覚悟の感覚でつかむ「commit」
「commit」は、単なる「約束」や「参加」ではなく、「自らを逃げられない状況に投げ入れる」という感覚に根ざした動詞である。
その本質は、意志と不可逆性のセットにある。 自分の選択によって、責任・義務・制度・理念など、外部の枠組みに身を預ける——それが「commit」の持つ力である。
前章で見たように、「promise」「dedicate」「engage」「undertake」などの類義語は、それぞれ異なるニュアンスを持つ。
だが「commit」だけが、“逃げ場のない覚悟”を言語化する動詞であり、単なる意図や参加を超えて、自分自身を拘束する行為を表す。
この違いを頭で「記憶」するのではなく、身体感覚として「覚悟の重さ」をイメージすることが重要である。
たとえば「commit to a project」と聞いたとき、 「そのプロジェクトに途中離脱できない責任を負っている」 「成果に対して自分の信用や立場がかかっている」 ——そんな状況を思い浮かべることができれば、単語の意味は自然と定着する。
プロジェクトでも、契約でも、理念でも、「自分の意思で一線を越え、後戻りできない場所に立つ」——それが“commit”の感覚である。
英語を使いこなすとは、単語の意味を思い出すことではなく、その言葉が持つ「状況のリアリティ」を感じ取ること。
「commit」を見たら、覚悟の重さを思い浮かべる——それが、実践的な理解への第一歩となる。