バーダー・マインホフ現象:気になるクルマはなぜ、街中でやたらと見かけるのか?

バーダー・マインホフ現象
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知ったとたん、やたらと目に飛び込んでくる「バーダー・マインホフ現象」

青い蝶があちらこちらに飛んでいる

「バーダー・マインホフ現象」とは、興味深いことを新たに知ると、そのことが自分の周囲で急に目につきやすくなることをいう。

その事象がやたらと目に飛び込んでくるように感じるのだ。

たとえば、「へぇ~、こういうのがあったんだ!」とある商品に興味が湧いたとしよう。

すると、その商品をスーパーやコンビニでふと目にするようになったり、テレビCMまで目に入るようになる。

そんな経験を多くの人がしているのでないだろうか? 

実際には、商品の存在に気づいていなかっただけで、とっくに店の棚には並んでいたり、CMはだいぶ前から放映されていたりする。

クルマもそうだ。特定のクルマが気になり始めると、そのクルマを街中でよく見かけるようになる。

そのうち、興味が確信に変わり、ますます所有意欲が湧いてしまうこともあるのだ。

商品やサービスだけではない。新しい言葉や概念もそうだろう。

あるビジネスのバズワードを知ると、とたんに新聞や雑誌で見かける。

職場の上司や同僚が実際に使っているのを耳にすることもある。

英語学習者が新しく覚えた単語もしかりだ。

これはヒトの脳が新しいことを学び、刺激を受けることで、一種の興奮状態に陥り、その情報を脳が無意識のうちに探し始めるためだという。

どうやらこの「バーダー・マインホフ現象」には、脳内の神経伝達物質の一つで「脳内麻薬」と異名をとるドーパミンが絡んでいるらしい。

「バーダー・マインホフ」の名前の由来や類似の概念

「バーダー・マインホフ」という聞き慣れない名前は、後に「ドイツ赤軍」と呼ばれる極左テロ組織の名前から来ている。

ある新聞記者が友人にその「バーダー・マインホフ」の話しをしたところ、その翌日、同じ友人から「バーダー・マインホフのことをニュースで見た」という連絡が入って驚いたという。

その体験談を新聞に投稿したところ、同じような体験を自分もしたという投稿が多く寄せられたらしい。

このことから、認識したとたんによく見聞きするようになることを「バーダー・マインホフ現象」と呼ぶようになった。

「バーダー・マインホフ現象」は、思い込みや状況によって無意識に非合理な判断をしてしまう「認知バイアス」の一つで、よく似た概念に「フリクエンシー・イリュージョン(frequency illusion、「頻度錯覚」もしくは「頻度錯誤」と訳される)」がある。

スタンフォード大学の言語学者、アーノルド・ツウィッキー教授が命名したもので、興味深い情報を見つけると、脳が勝手にアンテナを張ってしまい、急に見かけることが増えたと錯覚することをいう。

すなわちその頻度を過大に見積もってしまうのだ。

「バーダー・マインホフ現象」に絡む2つの認知バイアス

「バーダー・マインホフ現象」はさらに2つの認知バイアスが積み重なって引き起こされる。

一つは「選択的注意」だ。多くの情報が存在するなかで、いくつかの特定の情報のみを意識することを指す。

その分かりやすい例として、別名「地獄耳効果」とも言われる「カクテルパーティ効果」がある。

大勢が話をしているにぎやかな場所でも、自分の名前や興味のある内容なら不思議と聞き取れてしまう現象のことだ。

無意識のうちに脳が、自分に関わりのある情報をふるいにかけているゆえんである。

もう一つの認知バイアスが「確証バイアス」である。

自分にとって都合のよい情報だけに注目してしまい、その一方で自分の信念に反する情報には目もくれなくなることをいう。

それゆえ、その好都合の情報ばかりがそこかしこで見聞きすると感じられるようになるのだ。

この「選択的注意」と「確証バイアス」の連携プレーで、興味を満たす情報に急に接する頻度が増えたと錯覚してしまうのである。

「バーダー・マインホフ現象」は脳の興奮状態が決める

「バーダー・マインホフ現象」はあくまで個人が内面で経験する現象だが、これが時に多くの人々の中で同時多発的に起こることもある。

その集積が大きくなると、早耳のメディアが「ブーム」や「トレンド」の前兆として取り上げたりもする。

おそらく記事を書く記者や編集者たちの脳内にも「バーダー・マインホフ現象」が起きているのだろう。

新商品に関連することなら、「人気商品」「好発進」や「好調な滑り出し」などと表現されるだろうか? 

マーケターにとって、「バーダー・マインホフ現象」は、商品やサービスに馴染みやすさを生み、時には購買意欲も刺激することになるため、歓迎すべきことだろう。

情報に微笑む女の子 脳の興奮状態

ただし、提供する情報が単に新しければいいわけではない。脳を興奮状態にする新鮮さやワクワク感が伴う必要があるのだ。

そうでなければ、最初の関門である「選択的注意」が起こらないだろう。

まずは市場の一握りの人たちでいい。その新たな情報が「強い興味をかき立てるか?」が分岐点となる。

そのアーリーステージの少数派の人たちが人気が人気を呼ぶ触媒になってくれることもあるからだ。

「バーダー・マインホフ現象」はヒットにつながるのか?

本ブログでも「バーダー・マインホフ現象」が生じたであろう新商品の事例をいくつも取り上げている。

たとえば、金鳥のゴキブリ駆除剤、「ゴキブリムエンダー」「煙の出ないくん煙剤」という商品特性が消費者の目には新鮮に映り、テレビCM効果と相まって大ヒットとなった。

アサヒビールの微アル「ビアリー」も、「微アル」という新ジャンルの打ち出しや、ビールをいったん醸造した後にアルコールを抜く独自製法に人々は興味をそそられたであろう。

その他、AOKIの「パジャマスーツ」や丸亀製麵の「丸亀うどん弁当」なら、それぞれ「パジャマ」と「スーツ」、「うどん」と「弁当」というちょっと意表を突く組み合わせが「バーダー・マインホフ現象」を惹起し、大ヒットの引き金を引いたといってよい。

ただし、「バーダー・マインホフ現象」が必ずしもヒット商品に直結するとは限らない。

興味をそそられて買って試してはみたものの、実際の商品パフォーマンスは期待に応えるものではなかったということもある。

「これだけ見聞きするからには、きっとよい商品なのだろう!」などと事前の期待値が膨らみ過ぎたために、その反動で辛口な評価になりかねないのだ。

やはり、複数のメディアから「ヒット商品」との称号を与えられるためには、入り口は「バーダー・マインホフ現象」でトライアル(初回購入)を喚起したとしても、商品が実際に高く評価され、ある程度リピート購入を稼ぎ、その風評が人づてに広がる必要があるだろう。

とりわけ、購入間隔の比較的短い加工食品やトイレタリー商品の場合はなおのことそうだろう。

リピートするか否かの判断の時期が早めにやって来るためだ。

その意味では本ブログでも取り上げた「イカゲーム」のような、その心理的な便益の大半が「一期一会」の臨場感から来るエンターテイメント作品は「バーダー・マインホフ現象」が大ヒットに直結しやすいといってよい。

なぜなら、そうした作品の興行収入やAV(映像・音楽)ソフト販売は、一回性のきらめきによるトライアル購入の比重が相対的に大きいためだ。

時には一部の売れ筋に人気が集中する(ロングテールとは対極の)「モンスターヘッド」なる現象が産み落とされることもある。

おそらく本ブログでも、「バーダー・マインホフ現象」が生じたであろうヒット商品事例を今後も取り上げていくだろう。

いったいどうすれば、この現象を意図的に引き起こせるのか? 

「法則」とはいかないまでも、どのあたりが「テコの支点」になるかを見極める着眼点ぐらいは本ブログで見いだしていきたいものだ。

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