都心の高級住宅街、麻布の名を冠したオーダースーツの専門店「麻布テーラー」。
インポートの高級生地から手の届きやすい価格の生地まで3,000種以上が取りそろえられており、ユーザーは予算や好みに合わせて納得のゆくスーツが仕立てられる。
フィット感と着心地のよさに定評があるが、それを支えるのが店舗スタッフの親身な接客と採寸技術、そして同じ企業グループ内にある老舗の縫製工場だ。
ユーザーの満足度の高さは口コミからもうかがえ、リピート率は7割を超えるという。
本記事ではユーザーの口コミを一通り分析し、店舗に足を運んだユーザーのオーダー体験に焦点を当て、高いリピート率の要因を紐解いてみたい。
麻布テーラーとは?
「麻布」を冠するブランド
「麻布」と聞いてどんなイメージが浮かぶだろうか?
閑静な高級住宅街で緑が多く、落ち着いた雰囲気が漂う。
一方で外国の大使館も多く国際色豊か。
そんな中に高級ブランド店やおしゃれなカフェが点在している。
メインストリートから少し入った路地裏に隠れ家的なレストランやバーも多い。
おそらく少なからずの人にはそんなイメージが頭をよぎるだろう。
その麻布を名に冠したオーダースーツ専門店がある。
麻布テーラーだ。
紳士服販売を手掛ける老舗企業、メルボメンズウェアーが1999年に1号店を開業する。
その後、東京や大阪など全国主要都市に出店を重ね、今では27店舗(2024.10時点)を展開するまでになった。
オーダーの民主化をけん引
麻布テーラーの偉業の1つがオーダースーツをより身近なものにしたこと。
裕福な中高年が着るイメージの強かったオーダースーツを4万円前後という、当時としては破格の安さで提供し始める。
スーツをオーダーするなど高嶺の花だった20~30代の若者層を一気に市場に引き込んだのだ。
今でこそ、オーダースーツは紳士服量販店やユニクロ、ワークマンまでが扱い、広く市民権を得ている。
しかし、麻布テーラーの開業当時は、その販路といえば百貨店や個人経営の老舗テーラーなどに限られていた。
しかも価格も10万円は軽く超えていたのである。
麻布テーラーはオーダースーツの大衆化をけん引したブランドの1つなのだ。
高い知名度、高いリピート率
麻布という名まえを冠し、オーダースーツ市場で先駆的な役割を果たしたことが奏功したのだろう。
スーツ保有者の男女を対象にした調査では、知っているオーダースーツブランドとして、1位の知名度を獲得している(PR TIMES 2023.1.12)。
しかも、2位のKASHIYAMA(カシヤマ)や3位の銀座山形屋を大きく引き離す。
人はなんとなく知っているというだけで対象に一目を置くところがある。
この知名度の高さは今後も麻布テーラーが客層を広げる上で大きな武器となるだろう。
さらに麻布テーラーはユーザーのリピート率が7割を超える。
10人の購入者がいたら、そのうち7人が再購入するということだ。
2度目はシャツやネクタイを買ったということもあるだろうが、いずれにせよユーザーの満足度は高いのだろう。
一体、麻布テーラーの何がリピート率を高めるのか?
その要因についても、本記事でできる限り迫ってみたい。
口コミの評価は?
オーダースーツ市場で先駆的な役割を果たしたブランドだけに、ネット上には数多くの口コミが寄せられている。
俯瞰で見てみると、その評価は主に以下の3つに集約されるようだ。
仕立ての品質が良さ
オーダーメイドならではのフィット感やしっくりくる着心地。
細部までこだわった仕立ての技術への口コミの評価は相当に高い。
スーツは生身の身体の寸法にピタッと合っていればいいというわけでない。
動きやすさや快適さを考慮して、部位ごとに適度なゆとりを持たせる必要がある。
採寸を行うフィッターたちはそうしたゆとり分を瞬時に判断しているのだ。
その技術の高さやしっかりした縫製に関しても多くの好意的な口コミが寄せられている。
生地の種類が豊富さ
生地バリェーションの豊富さも口コミでよく言及されるネタの1つだ。
オーダースーツでは、あれこれと比較しながら、好みにあった生地を選べることが醍醐味となる。
その選択の幅は既製スーツの比ではない。
麻布テーラーではインポートの高級生地やリーズナブルな価格の生地までバリェーション豊かに取りそろえられており、予算や好みに合わせて納得のゆく選択ができるのだ。
口コミから察するに、そのことの満足度はかなり高いようだ。
検討はしたものの、最終的には選択から外れた生地も記憶には残る。
未練が断ち切れず、また麻布テーラーに足を運んでしまうということもあるかもしれない。
リピート率を高めるのにも貢献しているだろう。
プロフェッショナルな接客
親身な接客も口コミでは高く評価されている。
知識や経験が豊富で自分に合ったスーツ選びを全面的にサポートしてくれる。
そんなスタッフたちの存在は心強いものだ。
オーダースーツは選択の連続で、生地の選択は言うに及ばず、裏地やボタン、ポケットの仕様など1つひとつに決めていく必要がある。
口コミからうかがえるのは、単に接客が丁寧というだけではない。
迷い所にしっかり寄り添ってくれ、随所でスタッフから的を射た提案を受けられるのだという。
何かと不案内なことの多いオーダースーツ入門者には有り難いことこの上ないだろう。
中にはスタッフの個人名を挙げて感謝の念を吐露する投稿もある。
口コミ評価で気になる点
口コミでは総じて高評価の麻布テーラーだが、その一方で、読み進めていくと気になる点も浮上する。
価格の手ごろさへの評価が意外なほど控えめなことと、これは麻布テーラーに限らずだが、ネガティブな書き込みも少なからずあることなどだ。
値ごろ感への評価は控えめ
オーダースーツをいち早く手ごろな価格で提供し、閉鎖的な市場に風穴を開けた麻布テーラー。
しかし、その割には価格の手ごろさを評価する口コミは控えめといえる。
今でも麻布テーラーでは税込4万4000円からオーダーできるにもかかわらずだ。
もっとも、より低価格で買えるオーダースーツブランドはほかにいくつもあり、さらに麻布テーラーでは2着以上の同時購入で割引きになるセットプライスも実施していない。
報道記事によれば、客単価(1回の買い物で支払う金額)の平均が7万円を超えるという。
高級生地の取りそろえが多いことも一因なのだろう。
麻布テーラーの評価軸は生地のクオリティや仕立てのよさ、納得のいく接客に移っており、そのことが口コミからもうかがえる。
もはや値ごろ感でいの一番に評価されるブランドではないようだ。
とはいえ、麻布テーラーの主流の価格に引っ張られ、予算を大幅にオーバーして後悔することは避けたい。
予算の上限やこだわりポイントの優先順位は圧程度は決めておいたほうがいいだろう。
接客へのネガティブな評価
麻布テーラーといえどもネガティブな評価も皆無ではない。
とりわけ目立つのが接客についてだ。
迷ったときのアドバイスやフィット感に直結するであろう採寸が期待外れに終わったというユーザーの声も散見される。
途中で買わずに帰ってきたという書き込みもあったりするのだ。
接客を絶賛する口コミが多いだけに不思議な気もするが、やはり人との人との関係ゆえ、ケミストリーの合う・合わないがあるのだろう。
スタッフ間の練度の違いもある。
ありていにいえば、当たり外れがあるということである。
麻布テーラーの口コミには店舗名や担当スタッフの個人名が書かれていることが多い。
そこを狙い撃ちしてネット検索する人もいるようだ。
評判などをピンポイントで下調べして少しでも割のいい思いをしたいということなのだろう。
オーダーの流れ
ではここから、麻布テーラーに具体的にどんな特徴があるかのを見ていこう。
まずはオーダーの流れを一通り見ていく。
麻布テーラーでスーツをオーダーする際には、以下のステップを踏むことになる。
1.来店予約
麻布テーラーでは来店予約をすることが推奨されている。
とはいえ、完全予約制ではない。
空いた時間にふらっとオーダーしたいときでも、ある程度待たされることを覚悟すれば対応してもらえるようだ。
スーツはシーズンによって需要の波があり、やたらと混み合う時期もある。
使いやすいWEB予約システムも整っており、事前予約をしておくのが無難だろう。
2.カウンセリング
かなりの時間がこのカウンセリングのステップに費やされることになる。
1着のスーツをオーダーすることとは1つのプロジェクトを立ち上げる感覚に近い。
担当するスタッフはそのプロジェクトパートナーである。
着用シーンや好み、予算などを聞き取った上で、十分に対話を重ねながら、仕立てるスーツのゴールイメージを固めていくのだ。
このゴールイメージがこの後のステップの円滑さやスーツの出来上がりを大きく左右する。
イメージの共有のためにも十分なカウンセリングは必須のステップとなる。
3.生地選択
麻布テーラーでは「バンチブック」と呼ばれる生地見本帳を使って好みの生地を選んでいく。
3,000種以上の取りそろえがあり、オーダー経験を何度か積んだリピーターであっても迷ってしまいそうだ。
いったいどうやって選べばいいのか?
しかし、実はそれほど心配は要らない。
カウンセリングの成果が早速ここで発揮され、ニーズや好みを先読みするかのように担当スタッフが選択肢をいい塩梅(あんばい)に絞り込んでくれる。
4.オプション選択
麻布テーラーでは、無料・有料も含め豊富なオプションメニューが用意されている。
裏地やボタン、ポケットなど多岐に渡り、順送りに1つひとつ選んでいくのだ。
ちょっとしたディテールの違いがスーツ全体の印象を左右することもあり、「選ぶ」というより「デザイン」という感覚に近い。
まさに「神は細部に宿る」の世界である。
麻布テーラーではこのステップをオーダースーツのクライマックスと呼ぶが、たしかにジグゾーパズルのピースが段々と埋まり、いよいよ頭の中で完成形が思い描けるようになるのだ。
ワクワクするような高揚感もあり、オーダースーツの醍醐味となるステップだろう。
しかし、既製スーツを「あっ、これがいい!」と完成形をパッと見て決めていた人にとっては、やや煩雑なプロセスとなる。
けっこうなストレスを感じるかもしれない。
しかしここでもあまり心配はいらない。
AではなくBを選んだ場合、スーツの印象や着心地はどう変わるのか?
審美性や機能性の両面からスタッフが丁寧に手ほどきしてくれる。
このあたりが口コミで接客が高く評価されるゆえんなのだろう。
5.採寸
オーダースーツでは一般に「ヌード寸法+ゆとり分=仕上がり寸法」といわれる。
身体の正味のサイズ(ヌード寸法)に適度なゆとり分を加えることで、絶妙なフィット感や着心地が実現されるのだ。
麻布テーラーでは最初にメジャーで採寸し、そのデータをもとにスタッフが選んだゲージ服(サンプルスーツ)を着用する。
ゲージ服のおおまかなフィット感を確認した上で、どの部分に余裕があるか、どの部分がきついかを細かく見ていく。
そして、肩幅、袖丈、身幅など部位ごとにゲージ服のサイズに調整を加えていくのだ。
麻布テーラーでは様々なスタイルやサイズバリエーションのゲージ服が用意されており、そのゲージ服の段階で既にかなりのフィット感がある。
しかし、スタッフの嗅覚は鋭い。
肩がだぶついて見えないか、あるいは十分に動かしやすいか、袖丈においても腕を曲げたときにつっぱるようなことはないかなど細部にメスを入れていく。
ユーザーの感触も確かめながら、自然なシルエットや見た目のバランス、快適な着心地を担保するサイズが決めていくのだ。
6.受け取りとアフターケア
店舗でオーダーを済ませて待つこと約4週間。
いよいよ唯一無二のスーツが出来上がる。
約4週間というのはオーダースーツブランドの中では標準的な納期だろう。
店舗で受け取る際は、いったん試着し、スタッフとともに仕上がりを確認する。
アフターケアも充実しており、注文日から6ヵ月間は無料にて微調整をしてくれるという。
受け取りの試着の際に微調整を依頼することももちろんできる。
しかし、しばらく着用してからサイズの違和感に気づくことも多い。
6ヵ月間の無料期間はそのためのバッファーなのだ。
麻布テーラーの5つの特徴
一通り、来店予約から受け取りまでオーダーの流れを見てきた。
ではここから麻布テーラーならではの特徴や利点について、具体的なポイントを5つほど挙げておこう。
1.豊富な生地バリェーション
先のオーダーの流れでも触れたが、3,000種を超える生地の取りそろえは数あるオーダースーツブランドの中でも屈指といえる。
麻布テーラーは国内外の多様な取引先から生地を仕入れているのだ。
公式サイトによれば、仕入れ先は主に以下の3つのタイプに分かれるという。
- ミル
- 糸の原料を糸の紡績から織り上げまでを一貫して行う工場
- ファブリックメーカー
- 糸の紡績はせず外部から糸を仕入れて織り上げる生地メーカー
- マーチャント
- 毛織物商社や生地問屋のことをいい、原毛を仕入れ、契約したミルに生産を委託している
それぞれのタイプに異なる強みがあり、麻布テーラーではそれらのベストミックスを探りつつ、仕入れ先を決めている。
そえゆえ、流行の先端を行く生地から、オーソドックスな定番生地まで選りすぐりが集結することになる。
ここにさらに、麻布テーラーが有名なインポートブランドなどに特別に依頼して作ったオリジナル生地もある。
業界では「別注生地」とも呼ばれるが、それらは麻布テーラーでしか買えない。
その企画性と希少性が相まって指名買いするファンもいるようだ。
2.機能性素材
昨今はワークスタイルの変化やドレスコードの緩和などにより、ビジネスウェアのニーズも多様化しつつある。
そんな中、人気を集めるのが快適さや手入れのしやすさに優れた機能性素材のスーツだ。
麻布テーラーというとウール100%の天然素材のイメージだが、実は伸縮性や防シワ性などを備えた生地も多く扱っている。
ワールドトラベラー
そんな機能性素材の代表格といえるのが「WORLD TRAVELLER®️ COLLECTION(ワールドトラベラー)」である。
伸縮性、防シワ性、撥水(はっすい)性、防汚性を高めた生地で、それでいてベースはウール100%の天然素材だという。
機能性スーツによくある「安見え」の心配がない。
ストレッチが効いて動きやすく長時間の着用でもストレスがない。
さらに移動のために折りたたんでもシワになりにくい。
突然の雨や汚れにも慌てずにすむのもうれしい。
「トラベラー」の名まえが示すように、もともとは出張や移動の多いビジネスパーソン向けに開発された生地だが、今では幅広い人たちに人気を集めているという。
ジャージーコレクション
また、麻布テーラーで昨今話題を呼んでいるのが、ジャージー素材のオーダースーツ「DRESS JERSEY COLLECTION(ドレスジャージーコレクション」だ。
公式サイトには以下のような説明がされている。
“ジャージー” という言葉からは想像もできないほどの品格と、毎日の通勤や出張時に快適な伸縮性を保持。
さらに、シワになりにくく着回しやすい一着に仕上げました。
ジャージー素材といえば「第二の皮膚」といわれるほどフィット感が高いが、やはりカジュアルなイメージが強いだろう。
しかし、麻布テーラーのそれは“ウールジャージー”という素材を使っているため、上品な風合いでエレガントな印象が漂う。
商談などビジネスの大事な場面でも十分に通用する。
むしろ身体にフィットした、ジャージー素材ならではの美しいシルエットが好印象を残すことになるだろう。
3.4つのハウスモデル
たいていのオーダースーツの専門店では、仕立てるスーツの雛形(ひながた)となるスーツモデルが用意されている。
全体のシルエットや襟、ポケットなどのデザインがどんな感じになるか?
そのバリェーションがひと目でわかるよう、いくつかにパターン分けされている。
頭の中で理想のスーツを思い描く際、もやっとしたイメージに輪郭を与えてくれるだろう。
麻布テーラーでは「ハウスモデル」と呼ばれるが、公式サイトには「個性豊か4つのハウスモデルがマイベストスーツへ導く羅針盤」とある。
その4つのハウスモデルは以下の通りとなる。
- CLASSICO ITALIA
- モダンクラシックをコンセプトのスタンダード
- フォーマル ◆◇◇◇◇ カジュアル
- CONTINENTAL
- 大人の落ち着きや威厳を感じさせる
- フォーマル ◇◆◇◇◇ カジュアル
- JET CRUISE
- 見た目はスリムながら着心地キープ
- フォーマル ◇◇◆◇◇ カジュアル
- CLASSY ADVANCE
- セットアップコンセプトのモード感を意識した
- フォーマル ◇◇◇◆◇ カジュアル
パターンが多すぎず、少なすぎず、しかもクラシックからモード寄りまでバランスよく網羅されている。
このパターンの分け方も麻布テーラー独自のもので、おそらく長年の経験値からこの4パターンに帰着したのだろう。
もちろん、あくまで羅針盤であって、ハウスモデルを起点に詳細な道筋はスタッフと詰めていくことになる。
4.ユーザーカルテ
麻布テーラーではユーザー1人ひとりの採寸データや購買履歴データはカルテに保存される。
ささやかなことのようだが、このカルテがユーザーに安心や信頼を生み、リピート率の向上を後押ししているのだ。
自分自身のカルテの存在を知るとユーザーは「気にかけてくれている」という気持ちになる。
採寸データがあれば2回目以降はオーダーに要する時間も短縮されることもあるという。
また、カルテは店舗間で共有されるため、異なる店舗でオーダーをしてもデータの参照は可能となる。
なお、他のオーダースーツブランドの中には、初回注文時の採寸データさえあれば、2着目以降はネットのみで注文できるしくみが整うところもある。
それゆえオンラインオーダーが盛んに推奨されるのだ。
しかし、麻布テーラーでは今のところそれはやっていない(2024.10時点)。
「一着一着を対話しながら仕立てたい」というのがその理由らしい。
5.縫製工場
同じ企業グループに縫製工場を持っていることも麻布テーラーの強みの1つだろう。
工場は広島と滋賀にあるが、縫製技術は確かで、かつては欧州の一流ブランドのスーツも手掛けていたほどだ。
1964年の東京五輪では日本選手団のブレザーも作っている。
麻布テーラーの工場はスーツの縫製の機械化を早くから進めたことで知られる。
しかし、その一方で「真心を込めた服作り」を信条としており、今でも手縫いの工程を大事にしている(繊研新聞 2020.9.13)。
時間はかかるものの、様々な部分を手縫いで仕上げることで機械では達し得ない着心地が実現されるという。
セレクトショップを目指す
スーツ以外の取りそろえ
ここまで麻布テーラーならでは特徴を5つほど見てきた。
①圧倒的な生地のバリェーション、②機能性素材の取りそろえ、③4つのハウスモデル、④顧客カルテ、⑤縫製工場。
いずれもユーザーに寄り添った一着のスーツを仕立てるための取り組みであり、それらが相まって高いブランド力が培われてきたのだ。
そして実はもう1つ、ブランドとしてずっとこだわってきたことがある。
それがビジネスウェア版の「セレクトショップ」というコンセプトだ。
セレクトショップとは特定のブランドに限定することはなく、バイヤーが自らの審美眼で厳選した様々なアイテムを取り揃える店のこと。
ユナイテッドアローズやビームスが代表格だろう。
麻布テーラーでは選りすぐりの生地が織り成すスーツはもちろんのこと、それ以外にも、シャツ、ネクタイ、コート、ベルト、鞄、靴、さらには財布や時計などの小物アイテムも扱う。
扱うアイテムも店舗ごとにちょっとずつ異なるらしい。
そのうち、ネクタイ、鞄や靴などレディメイドのアイテムなら公式オンラインストアでも購入できる。
また、コートとシャツはスーツと同様に採寸の上でオーダーができるようだ。
また、ベルトにおいては革とバックルが別売りになっており、自由な組み合わせが可能となる。
さらに長さも採寸の上で調整が効き、最終的には一点物のベルトを購入できる。
クールビスでジャケットを着用しないときはベルトがアクセントとなるため、ベルトにもちょっとこだわってみたいという人は多い。
今や麻布テーラーの「隠れた名品」として人気も高いという。
やがてファンになるしくみ
着目すべきはこうしたセレクトショップ的な取りそろえがユーザー心理に与える影響だろう。
スーツのみを扱う場合に比べ、麻布テーラーとの接点は格段に増える。
スーツを買わないまでも他のアイテムを求めて店舗に足を運んだり、オンラインストアをのぞいたりするようになる。
そのたびごとに麻布テーラーのおしゃれのセンスや逸品を選ぶ卓眼に触れることで、いつしかブランドのファンになってしまう。
その心躍る経験がスーツにも還流されることになるだろう。
高いリピート率を誇り、ファンレターにもとれる口コミが後を絶たない麻布テーラー。
それこそが、四半世紀の歴史の中で磨きをかけてきた取り組みが実を結んだ結果なのだろう。