解釈レベル理論 消費者行動の解明にどう役立つのか?

解釈レベル理論 
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解釈レベル理論とは心理的に遠いと感じる対象は抽象的に捉え、近いと感じる対象は具体的に捉えることをいう。

心理的距離の遠近によって解釈レベルがシフトするのだ。

心理的距離の遠近は主に時間や空間上の距離などによって決まり、たとえば1年先の予定は抽象的にとらえ、明日に迫れば具体的なことに意識が向かう。

社会心理学で提唱された理論であるが、マーケティング、とりわけ消費者行動のモデルブランド構築のフレーム(機能的・心理的便益など)とも相性がよい。

たとえば、ブランドの遠い未来を語って共感を得る一方で、現時点の生活にどう役立つかなど具体的なメリットを伝えて購買を誘う。

ブランドパーパスの発信やCGM(消費者投稿型メディア)の同時併用は、実は解釈レベル理論に照らせば理にかなっていたのだ。

目次

解釈レベル理論とは?

今回の記事では「解釈レベル理論」(Construal Level Theory)を取り上げてみたい。

一言でいえば対象が心理的に遠いと感じるか、近いと感じるかによって捉え方が違ってくることをいう。

心理的に遠いと感じると抽象的に捉え、近いと感じると具体的な捉え方をする。

たとえば、ある人に旅行の予定があるとしよう。

その予定がまだ遠い先のことなら(心理的に遠い)、旅先のようすなどを漠然と思い浮かべる。

抽象的で森を見るような視点となる。

予定がまだ遠い先の旅行
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出発日が近づいた旅行
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ところが、いよいよ出発日が近づく(心理的に近い)、詳細なスケジュールや観光情報などに目線が移る。

具体的で木を見るような視点となるのだ。

解釈レベル理論では高次の解釈レベル、低次の解釈レベルという言い方をするが、心理的な距離の遠近によって、その解釈レベルに高低が生じるのである。

もともとは社会心理学の理論であるが、マーケティング研究、とりわけ消費者行動論で一世を風靡(ふうび)した理論でもある。

解釈レベル理論というと何やら難しく感じるが、冒頭の旅行の捉え方のように、とても身近で日常的に「あるある」な事象を説明する理論といっていい。

マーケターの中にも、理論の名まえは知らなかったにせよ、その手のことは意識して普段から実践していたという人も多いかもしれない。

心理的距離とは?

解釈レベル理論でいう心理的距離の遠近とは、旅の予定のようにもっぱら時間的距離(例:遠い将来vs.近い将来)によって起こるとされていた。

しかし、次第に別の角度からも研究が進められ、時間的距離以外の要因にも焦点が当てられていく。

以下の3つもまた、心理的距離の遠近に影響を与えることが指摘されている。

  • 空間的距離(例:遠くの場所vs.近くの場所)
  • 社会的距離(例:友人vs.知らない人)
  • 仮説的/確率的距離(例:起こる可能性が高い出来事vs.低い出来事)

マリッジブルー&内定ブルー

解釈レベル理論でよく引き合いに出される例が、結婚直前に不安に襲われる「マリッジブルー」だ。

結婚を決めた時点では愛する人との幸せな結婚生活を思い描いて夢ごごちだった。

ところが挙式の日取りが近づくにつれやたらと不安が大きくなる。

こまごまとした式の準備や結婚相手の親族との関わりなどがストレスとなり、憂うつになるのだ。

結婚決意後であっても、結婚がまだ先、遠くにあると感じているときには「伴侶との幸せ」「安定した生活」など高次のレベルの解釈となる。

マリッジブルー 男性

しかし、結婚の日取りが間近に迫ってくると、その解釈が低次レベルに移行し、より具体的で仔細なことが気になり始める。

そこからマリッジブルーが引き起こされるのだ。

同様に、就活に励んだ末、希望がかなって得た内定であっても、その受諾後にあれこれ思い悩む「内定ブルー」もあるだろう。

あるいは憧れの新天地に赴(おもむ)くはずなのに、いざ引っ越し日前後となると強い不安にかられる「引っ越しブルー」もよく聞く話しだ。

それらもやはり解釈レベル理論で説明可能だろう。

心理的距離で解釈レベルが変わる

心理的距離によって解釈レベルに高低が生じる局面はそのほかにもたくさんある。

たとえば大学の新入生であれば、自分の将来像を見据えた履修科目の選択を模索するが、4年生ともなれば卒業を控え確実に単位がとれる科目を選択するといったことも起こり得るだろう。

大学の新入生
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空間的な距離によって捉え方が変わることもある。

もしはるか遠い街で起きた凶悪な犯罪に対しては、その事件を対象化し、背景や犯人の動機などに関心が向かう。

しかし、もしすぐ近所で起きたとなれば、にわかにわがことになり、自分の身を守ろうと警戒を強めることになるだろう。

空間的距離の遠近によっても解釈レベルがシフトする一例といえる。

この解釈レベル理論は様々な消費者行動の事象を説明するのにも有効だ。

その1つに気まぐれで移り気な消費者の購買行動がある。

たとえば、ある消費者がデジタルカメラを購入するとしよう。

デジタルカメラ

検討の初期段階では高次レベルの解釈が活性化し、画素数や解像度といったより本質的な製品属性に着目する。

その一方で購入直前になると、低次レベルの解釈へ切り替わり、デザインやカラーといった副次的な属性が気になり始める(外川 ・矢島 2014)

それゆえ、本命だった製品から他社製品へ目移りしてしまう。

こうした購入直前での逆転劇が頻繁に起こるからこそ、王道のトップブランドとはいえ、店頭プロモーションに手が抜けないのだ。

高次解釈レベルvs. 低次解釈レベル

ここで、解釈レベル理論では高次レベルと低次レベルでどう事象の捉え方が変わるのか?

類型化したものを紹介しておこう(外川 2018)

高次の解釈レベル低次の解釈レベル
抽象的具体的
単純複雑
構造的、一貫的非構造的、非一貫的
脱文脈的文脈依存的
本質的副次的
上位的下位的
目標関連的目標非関連的
Whyの視点Howの視点
望ましさ実現可能性
外川拓(2018)「解釈レベル理論の体系と消費者行動研究への応用」

高次の解釈レベルでは対象をより抽象化し、細部を剃り落とした本質的なことに意識が向かう。

一過性の状況にとらわれず(脱文脈依存的)、長期的な目標に合っているかどうか(目標関連的)、何のためにそれを行うのか(Whyの視点)、望ましい結果をもたらすのか(望ましさ)を問うのだ。

一方で低次の解釈レベルでは、対象をより具体的に捉え、目標に沿っているかどうかより(目標非関連的)、刻一刻と変わる状況に気をとられ(文脈依存的)、どうやって行うか(Howの視点)、本当にやり遂げられるのか(実現可能性)などに意識が向かうのだ。

心理的距離で変わる製品評価

ここで外川・矢島の論文(2014)から、マーケティングに関連の深い心理実験の概要をいくつか紹介しておこう。

いずれも心理的距離の遠近が製品やサービスの評価や利用意向に影響を与える結果になっている。

まずはMP3の音楽プレイヤーを用いた心理実験だ。

MP3の音楽プレイヤー
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MP3プレイヤーをPC画面越しに見た実験参加者実際に実物を手にとった実験参加者とでは製品評価の視点が違ったという。

PC画面を通して間接的に経験した参加者(心理的に遠い)はMP3プレイヤーをなぜ使うのかなど「Whyの視点」で捉え、保存可能な曲数の多いプレイヤーを高く評価する傾向にあった。

一方、直接的に経験した参加者(心理的に近い)はMP3プレイヤーをどう使うのかなどの「Howの視点」で捉え、操作性の高いプレイヤーを高く評価する傾向にあった。

画面越しなのか、眼前にあって手にとれる実物なのか、その距離感の違いによって製品評価に影響を与えることを示している。

架空のホテルの口コミレビューを読ませた心理実験でも、その心理的な距離感がホテルの利用意向に影響を与えることがわかったという。

たとえば、ホテルの利用予定の時期が一年後で、口コミのレビュアーが外国人の場合(時間的距離、社会的距離がともに遠い)、高次の解釈レベルが採用され、ルームサービスといった本質的な価値で評価されているホテルの利用意向が高かったという。

また、大学生を対象に行った他者からの推奨効果を測った実験結果もマーケターには興味深い。

身近な人からの口コミ効果が見てとれるのだ。

実験結果の一例を挙げると、2日後に迫った重要イベントで使う(時間的距離が近い)デジタルカメラであれば、自分と同じ大学の人からの推奨(社会的距離が近い)のほうが、他大学の人からの推奨(社会的距離が遠い)よりも有効だったのだ。

時間的距離、社会的距離の近さが推奨内容の評価に影響を与えたといえる。

マーケティングにどう生かすか?

これら3つの実験はいずれも架空のシナリオのもとで行われているが、マーケターであれば腑に落ちる結果だろう。

とりわけ、購入まで長い検討期間を要する耐久消費財のマーケターなら身につまされる結果かもしれない。

たとえばマンションの購入プロセスを想定してみよう。

マンションの購入プロセス

SUUMO(スーモ)リサーチセンターでは購入プロセスを「意向自覚期」「ニーズ形成期」「物件探索期」「比較検討期」「選択・決定期」の5つのステージに分類している(CGM時代のマンション購入行動に関する研究 2007)

このうち、マンションを買いたいが、具体的な情報収集や検討はしていない「意向自覚期」の人たちであれば、そもそもマンションを買うべきか、戸建てとどっちがいいのかなど根本的なところで未決定の状態にあるという。

そうであれば高次レベルの解釈を促す情報提供が有効だろう。

マンションの本質的な価値なぜマンションなのか、そこにはどんな望ましい生活が待っているのかなどを訴求する。

テレビ広告であれば、良い意味で心理的距離を感じさせる有名人に代弁させるのもいい。

「Whyの視点」や「望ましさ」に焦点を当てるのだ。

実際、昨今の分譲マンションでは、テレビ広告などを通して、独自のブランドネームやコンセプトをもとにブランドコミュニケーションを展開している例も多い。

野村不動産なら「PROUD(プラウド)」、東急不動産なら「BRANZ(ブランズ)」などがそれにあたるだろう。

一方で候補となる物件が既にあり、詳細を検討している「比較検討期」ともなると、低次レベルの解釈がすすんで行われる。

検討物件は本当に暮らしやすいのか、資産価値はいくらぐらいになるかなど、Howの視点や実現可能性に目線が移行するのだ。

「検討物件に対する他人の評価」も気になり、盛んにネット上の口コミ情報もチェックされるという。

自分と近しい状況にある人たちの意見が頼りにされるのだろう。

手段―目的連鎖レベル

マーケティングの分析フレームの1つに「手段―目的連鎖レベル」(means-end chain)というのがある。

「手段―目的連鎖モデル」とは、人は何らかの望ましい状態を目標として持ち、その目標実現のための手段として特定の行動をとる。

そんな対応関係をいう。

たとえば「健康であること」という目標に対し、その手段として「減量」という行動を選ぶ。

健康であること
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エクササイズ
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そして、今度はその「減量」が目標となって、より具体的な「エクササイズ」や「ダイエット」が手段として選ばれる。

この目標と手段が連鎖的につながりを保つことが「連鎖」モデルといわれるゆえんだ。

そして、その連鎖が極めて妥当だと思える事象に人はコミットしていく。

ブランドの価値設計にもよく使われ、「製品属性」から「機能的便益」、「機能的便益」から「心理的便益」、「心理的便益」から「価値意識」とちょうどはしごを登るようにブランドの価値を規定していく。

この「手段―目的連鎖レベル」と解釈レベル理論は相性がいい。

高次解釈レベルの「目標関連的」「Why の視点」「望ましさ」などは連鎖モデルでいう上位目標に、低次解釈レベルの「目標非関連的」「Howの視点」「実現可能性」などは同モデルの下位目標に即すだろう。

小野らの論文(2012年★★★★)には解釈レベル理論と「手段―目的連鎖レベル」を結びつけた心理実験が報告されている。

架空のデジタルカメラの広告を用いたその実験によれば、製品購入の予定がまだ先で時間的に遠いと感じる消費者はより抽象的な便益を訴求する広告に惹かれる傾向にあった。

一方、今すぐに購入が必要で時間的に近いと感じる消費者はより具体的な物理的属性を訴求する広告に惹かれたという。

まさに解釈レベル理論の想定と合致した結果となった。

当該製品が心理的に遠いと感じるときには高次の解釈レベルとなって「目標」や「望ましさ」を言い当てた抽象的な便益に意識が向かう。

購入の機会が差し迫り、その心理的な距離が縮まると、低次の解釈レベルとなって「手段」や「実現可能性」を指し示す具体的な製品属性に意識が向かったのだ。

ブランドパーパスとCGM

こうした結果からもブランディングに携わるマーケターがブランドコミュニケーションをどう行えばいいのかの示唆が得られる。

ブランドの目指す未来を語り(心理的距離が遠い)、それがいかに人や社会に沿って望ましいかを語って共感を得ることができる。

その一方で、ブランドの最新の情報をユーザー目線で伝え(心理的距離が近い)、具体的なメリットで購買を誘うこともできるだろう。

昨今、マーケティングの世界ではブランドパーパス(存在意義)の設定と、CGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア/消費者投稿型メディア)施策はトレンドになっている。

ブランドパーパス
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CGM コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア 消費者投稿型メディア)
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両者は一見遠いことのように見えるが、消費者が心理的距離によって解釈レベルを自在にシフトさせるとすれば、それらを同時並行的に行うことは理にかなっているといえる。

ブランドパーパスではブランドの根本的な存在意義や社会課題への貢献を発信する。

高次レベルの解釈を促し、一般消費者を含めたステークホルダーたちとの共有を図るのだ。

その一方でCGMの活性化施策にも挑み、ブランドのいい面も悪い面も忌憚なく消費者たちに近い目線から語ってもらう。

こうしたマーケターたちのブランド構築の取り組みを裏付けることも、解釈レベル理論がマーケティング研究で注目を集めた要因なのだろう。

マーケターならぜひとも頭の片隅に入れて置きたい理論の1つといえる。

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