「妥協効果」とは複数の選択肢、たとえば「松」「竹」「梅」があった場合、人はだいたい真ん中あたりを妥協的に選ぶ傾向があることをさす。
消費者がモノを選ぶ際にあらわれやすい堅牢な傾向で、マーケターが押さえておきたい概念の1つだ。
とりわけ妥協効果が発揮されやすいのが価格によって複数の選択肢がわかりやすくランキングされているときである。
記事では多くの事例を取り上げるが、最低ランクの価格に選択が偏り過ぎないよう、現役のマーケターたちが妥協効果を見越して、上手に値付けしている様子がうかがえる。
妥協効果とは?
「妥協効果」という心理学や行動経済学でよく使われる用語がある(英語はcompromise effect)。
複数の選択肢、たとえば「松」「竹」「梅」があった場合、人はだいたい真ん中あたりを妥協的に選ぶ傾向があることをさす。
誰もが日常生活でよく経験することで、用語も「妥協」に「効果」をつけただけでひねりはない。
しかし、これから説明していくが、消費者がモノを選ぶ、その意思決定の際に強固にあらわれやすい傾向の1つであり、マーケターにとっては決して侮れない概念といってよい。
念頭においておくだけで結果に雲泥の差が出るかもしれない。
シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス教授のアイエレット・フィッシュバック氏が書いた「科学的に証明された自分を動かす方法」(東洋経済新報、2023年)では妥協効果を以下のように定義している。
適度な選択を好み、極端に走ることを嫌う。
ほどほどの、すなわち「中間」の選択肢は、複数の目標を部分的に満たすが、どの目標も完全に満たさない。
そこそこの値段のコーヒーや平均的な価格のスマートフォンを買うのは節約と品質の間での妥協だ。
軽めの距離のハイキングコースを選ぶのは景観と体力的な楽さを天秤にかけたうえでの妥協だ。
なぜ、妥協効果は生じるのか?
ではなぜ、妥協効果が生じるか?
端的に言えば、真ん中ぐらいのほうが欠点が少なく感じられるからなのだそうだ。
節約と品質であれば、品質を犠牲にして節約を選ぶより、逆に節約を犠牲にして品質で選ぶより、中庸な選択のほうが無難で当たり障りなく思える。
であれば、マーケターが売ろうとするブランドは、ほどほどのまん中に持っていくというのも方策の1つだろう。
必ずしも低価格だからいい、プレミアム価格だからいいというものではない。
中庸の線を狙ったほうが、消費者から妥協の産物として選んでもらいやすくなることもあるのだ。
もし、仮に売ろうとするブランドが既にハイエンドにある場合はどうだろう?
さらにうえの超高級のブランドを見せ筋としてラインアップに加える。
するとハイエンドに思えた当該ブランドもまずまずの価格帯となり、消費者の目には妥協的な選択肢に映り、選ばれやすくなる。
なお、妥協効果は行動経済学の「極端回避性」(極端を嫌い無難な選択肢を求める傾向)や「アンカリング効果」(最初に与えられた数字や事物が後の判断に影響を与えること、例:高い価格を見た後の低価格はより安く感じる)から来ているという。
また、本ブログでも以下の記事に書いた「ゴルディロックス効果」(日本語では「松竹梅の法則」などという)とも関係の深い概念となる。
妥協効果に関する心理実験
妥協効果がうかがえる心理学の実験結果にも触れておこう。
カメラの品質と価格とを天秤にかけて選ぶことを疑似的に再現した実験だ(認知バイアス大全)。
最初は実験参加者に以下の2台からほしいものを選んでもう。
- A 低品質・低価格のカメラ 166ドル
- B 中品質・中価格のカメラ 239ドル
この2つの選択肢ではAを選んだ人とBを選んだ人が50%ずつになったという。
次に同じ実験参加者に以下の3択から選んでもらう。
- A 低品質・低価格のカメラ 166ドル
- B 中品質・中価格のカメラ 239ドル
- C 高品質・高価格のカメラ 466ドル
するとAが22%、Bが57%、Cが21%になったという。選択肢が3つに増えても、6割弱が239ドルのBを選んでおり、やはり真ん中に位置することの影響は大きいといえる。
妥協効果を模式図で示す
ここで妥協効果をあらわすのによく使われる模式図を紹介しておこう(「マーケティングと行動経済学」から引用)。
以下の図は、2つの属性1と2において、選択肢aと選択肢bがトレードオフ(相反/一得一失)の関係になっていることをさす。
属性1を重視すれば選択肢b、属性2を重視するなら選択肢aにそれぞれ軍配が上がる。
消費者ならどちらを選ぶだろうか?
属性1も属性2も双方が大事で譲れないとすれば決着がつかない。
購入自体を見送ってしまうかもしれない。
そんなときだ。
選択肢cが追加されたとしよう。
この新たな選択肢は属性1に極端に寄っていて、属性2はわずかなレベルでした満たしていない。
しかし、俯瞰的にみれば、選択肢cが加わったことで、選択肢aと選択肢bの均衡が崩れ、選択肢bはほどよい真ん中の選択肢となる。
選択肢bが選ばれる割合がぐっと高くなるのだ。
一長一短が極端だった選択肢aや選択肢cに比べ、欠点が少なく安心感が得られるため、中ぐらいあたりで手を打つのが妥当だと思えるようになる。
おとりによる魅力効果とは?
同じ図を使って、妥協効果と対(つい)をなす概念としてよく取り上げられる「魅力効果」についても触れておこう。
再び消費者が選択肢aと選択肢bで選びあぐねているとしよう。
しかし、マーケターはなんとか選択肢bを選んでもらいたい。
そんなときはおとり(デコイともいう)を登場させるのだ。
属性1においても属性2においても選択肢bより確実に劣る、選択肢b’を追加する。
すると、おとりである選択肢b’が引き立て役となり、選択肢bがずっと選ばれやすくなる。
選択肢aと選択肢bの2者間だけで比較しているときよりも、選択肢bが魅力的に思えるのだ。なお、この似てはいるものの、確実劣るという意味で「醜い兄弟(ugly brother)と呼ばれることもある。
なお、本ブログの「ゴルディロックス効果」の記事ではもう少し詳しくこの魅力効果について説明している。
妥協効果とマーケティングのリアル
妥協効果の話しに戻ろう。
妥協効果はどんなときに生じるのだろうか?
既に触れたように、効果が出やすいのはもっぱら選択肢aと選択肢bにそれぞれ一長一短があって迷いあぐねたときだ。
仮に選択肢aがアップルやナイキのような強い愛着を感じさせるブランドであれば、選択肢cが加わって、選択肢bが中庸の位置取りに移行しても、選択には何ら影響を及ぼさないだろう。
そして、マーケターが心得るべきは、実際に消費者が小売店やECサイトでブランドを選ぶとき、選択肢aと選択肢b、属性1と2といった単純な比較検討ではすまないことだ。
現実はもっと複雑になる。
妥協効果に関する実験ではたいてい3つの選択肢を用意し、真ん中が選ばれやすいというシナリオになるが、実際は選択肢がもっと多いことだってある。
たとえば家電や家具といった買い回り品を思い浮かべてみよう。
候補となる対象の数は増え、機能性やらデザイン性やら、比較検討する属性の数が増え、その選択には熟慮が伴う。
妥協的な選択などするだろうか?
いや、それでも敏腕のマーケターたちは高い確率で妥協効果が発揮されることをよく知っている。
消費者がカタログや口コミなどの情報を吟味しつつ、難しい選択を乗り切ろうとしていても、集中力はそう長くは続かず、途中でへこたれてしてしまうことがある。
これは「自我消耗」という現象だ。
そんなとき、人は易きに流れ、無難な中庸の選択肢に手が伸びてしまうものなのだ。
経験を積んだマーケターそうなることを見越して選択肢のプランを練る。
さらにマーケターは価格戦略が妥協効果の痛烈なブースターになることも心得ている。
本ブログの「強いブランドはいかにポジショニングされるのか?」でも触れたが、買い回り品であれ、最寄り品であれ、価格はブランドをポジショニングするうえで強力なシグナルとなる。
他の購入選択にかかわる属性をかすませてしまうほどだ。
そのため、マーケターは売りたいブランドを上手に値付けして中庸の選択肢に位置づけようとするのである。
妥協効果の成功事例
ではここからいくつかの事例を見ながらマーケターたちが実際にいかに妥協効果を狙い澄ましているかを見ていこう。
スシロー
まずは人気回転すしチェーンのスシローを見てみよう。
スシローに限らず回転すし店では皿の色で価格帯が異なるのは誰もが知るところだろう。
スシローでは郊外店舗など多くの店舗では、黄皿120円、赤皿180円、黒皿260円で展開している。
このうちもっともポピュラーなのがの黄皿120円となる。
メニューも80種類以上と薄利多売で顧客数を増やそうとするスシローのビジネスモデルにも合致する。
しかし、それでも客単価を高めるためにも、上の価格帯にも手を伸ばしてもらいたい。
そのための赤皿180円、黒皿260円だ。
260円の上位価格の皿が目に入れば、妥協効果が働いて、180円の赤皿に食指が動くことにもなるだろう。
ところがスシローは一方で、値段を固定しない白皿というのもメニューに加えている。
いゆわる高級寿司店でいう「時価」というような、そのときどきで価格の決まる類いの皿だ。
ネタの美味しさやボリュームが楽しめる逸品で、390円のものもあれば、600円を超えるものもある。
おそらく、この白皿が脳裏をよぎることで、黒皿260円は最上位価格という意識が薄まり、260円がより手ごろな選択肢に見えてくるかもしれない。
こうした価格によるランクづけによって、スシローは客単価が少しでも高まるのを期待しているのだ。
パナソニックのシステムキッチン
次にパナソニック ハウジングソリューションズが展開するシステムキッチンを取り上げよう。
松竹梅のグレード展開をしている典型的な例だ。
公式サイト(2024.1時点)を見ると、同社の代表的な商品シリーズには「Lクラス」「ラクシーナ」「リビングステーションV-style」の3つがある。
価格はそれぞれLクラスはそれぞれ136万円~、ラクシーナは116万円~、リビングステーションV-styleは95万円~となっている。
様々なオプションも用意されているため、上限価格には幅があるようだ。
それぞれ顧客のニーズやライフスタイルに合わせた特徴を打ち出しており、ターゲットもそれぞれ異なっている。
価格帯だけで選ばれることを想定はしていないのは明らかだろう。
しかし、タイプの違う3つのシリーズを見比べると、価格帯から来るグレード感の違いは浮き立って見えるだろう。
3つのなかでは中価格帯の「ラクシーナ」は、調理時間を短縮するための工夫が随所に施されている。
「料理をもっとラクに、もっと楽しく」がネーミングの由来だそうだ。
決して安くはないが、他のランクのシリーズに比べると価格帯も中ぐらいで、最大公約数的なニーズを突いており、納得の選択肢に思える。
「リビングステーションV-style」ではちょっとものたりないと思った人たちには絶妙な価格帯だといえる。
ここで得られる納得感が高ければ、LIXIL、タカラスタンダート、クリナップなど競合ブランドへの流出を抑える効果も期待できるだろう。
ソニーのサウンドバー
ソニーのサウンドバーも見てみよう。
サウンドバーとはサウンドバーとは主に薄型テレビの前に設置して使用するスピーカーで、形がスペースの取らない棒状のことからそう呼ばれている。
ただし、前述のパナソニックのシステムキッチンよりはグレードが細かく分かれており、松竹梅とはいかない。
最上級は20万円近くのものもある。
そして、このソニーのサウンドバーを一躍知らしめたのがエントリーモデルの「HT-S100F」だ。
競合他社も含めたサウンドバー全体の平均単価が3万円を超えるなか、1万円を切る価格の手ごろさが市場を切り開く役目を担った。
実はサウンドバーではヤマハが先行していたが、ソニーが圧倒的な値ごろ感を打ち出したことから失速を余儀なくされたという。
その「HT-S100F」も生産終了となり、今や流通在庫のみでの展開だが、その人気は健在だ。
そして、ソニーのサウンドバーで次に人気のあるのが3万円台で買える「HT-X8500」だという。
価格.comの店頭参考価格は29,800円 ~ 44,000円とある(2024.1現在)。
「HT-X8500」の価格はサウンドバー全体の平均単価とも重なる。
さすがにエントリーモデルではもの足りないが、さりとてハイアマチュアの人たちが好む上位グレードには興味がない。
そんな人たちに妥協効果が働き、リーズナブルなグレードのモデルとして「HT-X8500」は売れ筋となったのだろう。
日清ヘルシーオフ
次に取り上げるのが日清オイリオの人気食用油「日清ヘルシーオフ」だ。
揚げ物のカロリーが気になる人向けの食用油で、てんぷらなどの揚げ物の吸油量を最大20%抑制するという。
そして、その値付けがまさに絶妙だった。
同社のロングセラーブランドで普及価格帯の「キャノーラ油」よりは割高となるが、同社のトクホ(特定保健用食品)「ヘルシーリセッタ」よりもずっと価格を抑えている。
同社の主力食用油のなかではちょうど中間にあたる価格帯だ。
体に脂肪がつきにくい「ヘルシーリセッタ」のトクホの効果は魅力的ではあるが、家族で大量に使うには金銭的な負担が大きい。
そう感じる人には同様の健康効果が期待できそうで価格もほどよい「日清ヘルシーオフ」が自然な選択肢として浮上するだろう。
イオンのトップバリュ
続いては総合スーパー「イオン」のプライベートブランド(PB)を見てみよう。
イオンのPBは現在3つのシリーズで展開されている。
「トップバリュ」「ベストプライスby TOPVLUE」、「トップバリュ グリーンアイ」の3つだ。
まずは主力のトップバリュ。
かつての最上級シリーズであった「トップバリュセレクト」を統合し、「おいしさ」「食のたのしさ」「驚き」「使い心地」「かっこよさ(クール)」といった価値を訴求していくという。
高付加価値を打ち出す商品もあり、それなりに値も張るが、ナショナルブランドに比べると割安感もある。
そこに妥協効果が働く余地があったのだろう。
物価高騰が続くなか、トップバリュは節約志向の人たちを取り込むのに成功し、売り上げは好調のようだ(日本経済新聞 2024. 1.12)。
このトップバリュの価値を引き立てているのが、より価格を抑えたベストプライスシリーズの存在だろう。
よそのスーパーのプライベートブランドがベストプライス相当だとすれば、トップバリュはワンランク上のPBに思えてくる。
しかも同ブランドからは有機食品などを扱うグリーンアイというラインも出ている。
自然とからだにやさしい持続可能な未来につながるという触れ込みでブランドとしてのこだわりがうかがえる。
イオンは3つのラインの総力戦でナショナルブランド(NB)との差別化を図ろうとしているのだ。
I-neのボタニスト
ここまで同一企業のブランド・ポートフォリオにおいて、価格帯の異なるラインアップをそろえ、妥協効果を引き出している例をいくつか見てきた。
しかし、同じカテゴリーに同一企業から異なる価格帯のラインを出せるとは限らない。
ここからは、むしろ競合ブランドとの直接的な対比から妥協効果を引き出している例を挙げてみよう。
競合ブランドを極端な選択肢に仕立て上げ、その間隙を縫って、自社ブランドに消費者をうまく誘導している事例である。
その1つが、I-ne(アイエヌイー)が販売するシャンプーやトリートメントなどのブランド「ボタニスト」である。
日本のシャンプー市場といえば、大手メーカーによる500円前後のブランドが主流で、多少値が張るものでも1,000円を超えることはまずなかった。
一方、サロン品と呼ばれる高価格帯ブランドは2,000円は下らない。
テレビCMでよくみかける、ECを主要販路とする男性用のスカルプシャンプーなどもこの価格帯に入る。
サロンブランドとマスブランド。
シャンプー市場全体がいびつな形で二極化していたといえる。
そこに中価格帯、1,500円前後のブランドとして割って入り、大ヒットしたのがボタニストだ。
その名が示すように植物由来、「ボタニカルシャンプー」(英語のbotanicalは植物性の意)という打ち出しのブランドである。
もちろん、中価格帯がすんなり受け入れられ、いきなりドラッグストアの棚に並んだわけではない。
EC市場から攻め入り、圧倒的な商品パフォーマンスで高いリピート率を獲得し、巧みなSNSプロモーションとも相まって、市場に風穴を開けたのだ。
ヘアケアへの関心が高い女性たちの間でサロンブランドの存在が周知されていたことも効いたのだろう。
そのレベルにはさすがにハードルが高いと感じる女性たちに妥協効果が働いたのだ。
I-neはその後、中価格帯の市場にシャンプー&トリートメント「YOLU」も投入し、ヒットさせている。
空前の大ヒット 本麒麟
サロンブランドとマスブランドの間隙を縫ってヒットしたI-neのボタニスト。
このボタニストとほどわかりやすくはないが、実は同様の間隙を縫うやり口で妥協効果を巧みに引き出し、空前の大ヒットとなったブランドがある。
キリンビールの「本麒麟」だ。
「本麒麟」はいわゆる通常のビールより割安な「第三のビール」。
その価格はビールと第三のビールの間(あいだ)をとったわけではなく、本麒麟自体は他の第三のビールとは大きく変わらない。
しかし、その味わいや飲みごたえをより通常のビールに近づけ、従来の第三のビールの枠を一歩抜け出す。
ビールとの境界すれすれのところにブランドを位置づけたのだ。
すなわち「ビール」「本麒麟」「第三のビール」という序列化、松竹梅化に成功したのである。
「麒麟」に「本」を冠したネーミング、麒麟の聖獣ロゴにパッケージに深みのある赤を用いて、キリンビールの本気度を感じさせるしつらいも後押ししたであろう。
実はキリンビールの調査によれば「第三のビール」に甘んじる消費者の6割以上が「本当はビールを飲みたい」と答えていたという(日本経済新聞 2019.1.9)。
そこに本麒麟がピタッとはまった。
第三のビールのトップ・オブ・トップといえる新しい選択肢に消費者は積極的な妥協点を見いだしたのだろう。
山崎製パンのパン菓子「マリトッツォ」
同様の妥協効果の引き出した方で成功した山崎製パンの事例もある。
「マリトッツォ」というイタリア・ローマの伝統的なパン菓子が、一時期、ブームとも呼べる人気を集めたことがある。
こんがりと焼けたふわふわのパンにたっぷりの生クリームを挟み、見た目だけでも幸福感が味わえるパン菓子。
大人気となったが洋菓子店などで買うとそこそこの値段がする。
そこで山崎製パンは同菓子をイメージした菓子パン「マリトッツォ」をチルド菓子として発売したのだ。
リッチでコクのある味わいのブリオッシュ生地に北海道産生クリームを使用したホイップクリームを挟み込んでいるという。
しかも洋菓子店のそれに比べると割安だ。
ここでも洋菓子店の「マリトッツォ」「山崎製パンのマリトッツォ」「その他のチルド菓子」と妥協効果が発揮されやすい序列が生まれた。
山崎製パンのマリトッツォは、スーパーやコンビニのチルド菓子コーナーで手軽に買える、いわゆる「プチぜいたく」のお菓子としてヒット商品となっていく。
アフォーダブル・ラグジュアリー
ファッションの世界にはもともと「アフォーダブル・ラグジュアリー(手の届くぜいたく品、英語はaffordable luxury、アクセシブル・ラグジュアリーともいう)」という用語がある。
「高級感を保ちながらも、ラグジュアリー・ブランドにくらべると安い価格帯のブランド」をさすのだという(ファーストリテイリング公式サイト)。
こうした路線も一種の妥協効果を狙っているといえる。
よく知られているのは米国の高級皮革の「コーチ」やイタリアのバッグブランド「フルラ」などのブランドだ。
やや意味合いは異なるが、手の届くプレミアム(マスプレミアム)という打ち出しをしているブランドもある。
本ブログで取り上げた「コスタコーヒー」やイタリアの家電ブランド「デロンギ」などがその例だろう。
ハッピー・ミディアムを生むポジショニング戦略
今回の記事では心理学や行動経済学でよくいわれる「妥協効果」を取り上げた。
お寿司屋のメニューで「松」「竹」「梅」があると、ネタの違いなどをさほど吟味することなく「竹」を選ぶ。
そんな心理傾向は堅牢で、グレードがより細かく分かれていたり、競合ブランドが入り乱れていたり、より複雑な選択を迫られる状況でも健在のようだ。
紹介した事例はいずれも価格戦略によって妥協効果を引き出しているが、たとえば耐久性や軽量性など価格以外の製品属性でトレードオフの関係にあり、迷うことは多々あるだろう。
消費者が求めているのは納得のいく妥協点であり、単に物理的な中間ということではない。
要は妥協効果とは消費者の目にブランドが「ハッピー・ミディアム(幸福な中庸)」と映ることである。
マーケターの思案のしどころは、そんなポジショニング戦略の立案にあるようだ。