パナソニック ビストロトースター 口コミがなぜ熱いのか?

オーブントースター ビストロ パナソニック
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高級オーブントースター、形勢逆転の一手

パナソニックのオーブントースター「ビストロ」が人気を博している。

2021年2月の発売から約4カ月の売上げが旧モデルの2倍にもなり、一時は品薄状態にもなったという。

実勢価格2万7,000円前後で、パナソニックはこの「ビストロ」でバルミューダやアラジンなどが先行する高級トースターの仲間入りを果たす。

この「ビストロ」の旧モデル、パナソニックの「コンパクトオーブン」も根強い人気があった。

自動で火加減や調理時間を調整する機能があり、トースト、ピザ、焼き芋などがワンタッチの操作で焼き上がる。

失敗知らずで使い勝手がよく購入者から高い評価を得ていたのだ。

しかし、2015年にバルミューダの「 ザ・トースター」が高級トースターの先陣を切ると、市場の空気は一変する。

2万9,000円という破格の値段だったにもかかわらず、「 ザ・トースター」は想定を超えたヒットとなったのだ。

その後はアラジンの「グラファイト グリル&トースター」三菱電機の「ブレッドオーブン」などが追随し、そこに高級食パンブームやコロナ禍の巣ごもり需要という追い風が吹いた。

高級トースターは調理家電の中でも注目ジャンルとなったが、一方のパナソニックの「コンパクトオーブン」は脇に押しやられてしまう。

次第にその影を薄め、真っ先に指名買いされる商品ではなくなっていったのだ。

そこでパナソニックは旧モデルを刷新し、形勢逆転の一手を打つ。

それがオーブントースター「ビストロ」である。

「ビストロ」という名称も実はこの新モデルからだ。

「ビストロ」はもともとパナソニックのスチームオーブンレンジや電子レンジのブランドで、既に一定の定評がある。

最上位機種であれば価格は15万円を下らない。

高級トースターという新市場に挑むにあたって、パナソニックは「ビストロ」のブランドを改めてオーブントースターにも冠したのである。

モノトーン&シンプル、大胆なデザイン戦略

新モデルで大きく変わったのが商品デザインだ。もはや生まれ変わったといっていい。

「ビストロ」の公式サイトには「キッチンに溶け込むモノトーン&シンプルデザイン」とあるが、たしかに黒が基調でデザインに無駄がない。スタイリッシュな風貌だ。

操作ボタンやダイヤル、扉ハンドル、さらには背面までデザインされ尽くされ、すべての要素が渾然一体化している。

扉も黒のスモークガラスが使われ庫内は見えない。調理中だけ穏やかな明かりが灯る格好だ。

旧モデルは「トースト」「ピザ」「焼き芋」「パック餅」など調理モードのボタンが7つも並びゴタゴタ感が否めなかったが、新モデルはそのデザイン哲学からしてまったく違う。

主張を極力抑え、キッチンや食卓に溶け込ませることを狙ったのだろう。

その潔さはかえって消費者の目を引く。

昨今、ファッションやインテリアなどでは装飾を省いたミニマルなデザインが主流だが、トースターがいよいよそのトレンドをまとい始めた感がある。

この新モデルのデザインはバルミューダやアラジンに競り勝つ上で大きな武器だろう。

こんなトースターなら自分の暮らしの中に置いておきたいと心躍った消費者もいたはずだ。

なぜ、訴求内容をトーストに絞ったか?

もちろん、魅力はデザインだけではない。

パナソニックは機能や使い勝手のアピールにも余念がない。

公式サイトのページを開くと目に入るのが「厚切りも冷凍もおまかせ サクッと、ふんわり黄金比トースト」のコピー。

焼くのが難しいとされる厚切りや冷凍の食パンも、外は「こんがり」、中は「あつあつ」に、しかも「おまかせ」で簡単に焼き上がるとある。

それを可能にする機能の一つが「遠近トリプルヒーター」だ。

庫内上下の2本の「遠赤外線」ヒーターで表面をこんがりサクッと焼き上げ、さらに上部についたパナソニック独自の「近赤外線」ヒーターで中まであつあつに加熱するという。

そこにもう一つの機能「インテリジェント制御」が加わる。

7,200通りのトーストプログラムで、厚切りであれ、冷凍であれ自動調節し、食パンを最適に焼き上げる。

面倒な火力の調整や時間設定も一切いらない

実はこの2つの機能は旧モデルにも既にあったという。

公式サイトで旧モデルのスペックを見ると、「遠近赤外線ダブル加熱」を採用し、自動的に温度と時間を調整するため失敗知らずとある。

伝え方は異なるが、基本性能に新・旧モデルに大きな差はない。

新モデルでは「遠近トリプルヒーター」「インテリジェント制御」という機能呼称を与え、消費者の注意を向かわせ、引っ掛かりを持たせるようにしたのだろう。

黄金比

その両エースの機能を引き立たせるために、パナソニックは「厚切りも冷凍もおまかせ サクッと、ふんわり黄金比トーストと訴求ポイントをトーストに絞り込んでいる。

「ビストロ」はトースト以外にもピザや焼き芋、お餅などを焼くのもお手の物だが、そこを前衛に立たせることはあえてしなかった。

ITmedia ビジネスオンラインの2021年3月10日付の記事によれば、約5割の消費者が厚切りにしてトーストを食べており、約7割がパンを冷凍保存をしていることがパナソニックの調査で分かったという。

しかも冷凍パンを上手に焼くのは意外に難しく、外が焦げたり、中は生焼けだったりと多くの人が苦い経験をしている。

そんな失敗を避けたい消費者には「ビストロ」に後光が射して見えるだろう。

遠近やトリプル、インテリジェント、制御といった字面を追うだけだだといまひとつ判然としなくとも、厚切り・冷凍の食パンというフィルターを通すと2つの機能の働きにも合点がいく。

「なるほど、だから厚切りも冷凍もイケるんだ!」と得心がいき、その有難みが伝わってくる。

多くの人がそう感じたとすれば、新たに機能呼称を設け、文脈をトーストに絞り込んで理解を促したパナソニックの一本勝ちといえよう。

定評のあるブランド名を冠し、デザインはキッチンや食卓に凛とした雰囲気を醸し出す。

切実なニーズにも応え得る希少な機能も併せ持つ

「ビストロ」は同じ土俵で先行するライバルたちに対抗するため、次々に絶妙なカードを切っていく。

前面に打ち出してはいないが、「ビストロ」は出自がオーブンでもあり、クロワッサン、焼き芋、チルドピザなどの多彩なメニューがワンタッチで調理できる。

トーストを極めることに機能を絞った競合ブランドに比べ、そこにアドバンテージを見いだす人もいるだろう。

「ビストロ」の先にある憧れのくらし、パナソニックのInstagramから

大半の調理家電がそうであるように、「ビストロ」もまたテレビCMを打ってはいない。

主たる認知経路は店頭やネット検索、SNSの投稿、対面での口コミとなる。

そんなチャネルを通して「ビストロ」認知者を増やすのに一役買ったのがInstagramの告知施策だ。

パナソニックはInstagramに「Panasonic Cooking(パナソニッククッキング)」という公式アカウントを持ち、電子レンジや圧力鍋などパナソニックの多彩な調理家電で作るレシピを画像とともに紹介している。

MarkeZineの2021年05月24日付の記事によれば、 投稿画像は常に憧れを感じさせる世界観で統一し、ちょっと真似してみたくなるようなキッチン空間を提案しているという。

公式アカウントのフォロワー数は12万人を超えており、関心層への告知媒体としては決して小さくない。

パナソニックは同アカウントに「ビストロ」によるレシピを加え、おいしそうに調理されたビジュアルイメージを次々に投稿した。

さりげなく動画広告も織り込み、「サクッと、ふんわり黄金比トースト」「おまかせで簡単においしく」との訴求も行っている。

Instagramは画像がメインのコンテンツのため、「ビストロ」のその先に「どんな暮らしが待ち構えているのか」を視覚的に訴えやすい。

想像力を掻き立て閲覧者が勝手に行間を埋めてくれる効果もある。

そのため、単なる認知向上にとどまらず、「ビストロ」への適度な期待感醸成にもつながったと、パナソニックもInstagramの施策には手ごたえを感じているようだ。

技あり! 「ビストロ」の期待感マーケティング

期待感

デザインのドラスティックな刷新や工夫を凝らした機能訴求、視覚に訴えたInstagramでの施策。

パナソニックは万全の布陣で先行するライバルたちに挑んで、好スタートを切った。

これは一種の「期待感」マーケティングと言っていいだろう。

「期待」は単なる未来予想ではなく、そこにポジティブな感情が伴う。

「ビストロ」のある暮らしを想像するだけで望ましい未来の足音が聞こえてきそうになるのだ。

そのワクワク感が「ビストロ」自体にも転移し、ちょっとひいき目で見てしまうようになる。

ライバルブランドも人気があるだけに「ビストロ」一択にさせるのがなかなか難しいが、「まぁ、こんなものだろう」と「ビストロ」で潔く手を打ってくれた消費者は確実にいたはずだ。

手を尽くして消費者の期待感を紡いだパナソニックの戦略勝ちといえるだろう。

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