メルカリの成功要因 カギは「感謝の輪」広げるビジネスモデル

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日本を代表するフリマアプリ、メルカリ

メルカリが日本を代表するフリーマーケットアプリであることに異論を唱える人はいないだろう。

今や国内人口の7人に1人に利用され、中古品を扱う二次流通の市場をぐっと身近に引き寄せた。

さながらアマゾンやLINEのように生活インフラの一部となっている人も少なくない。

そのメルカリのインパクトは新品を扱う一次流通市場にも及ぶ。

フリマアプリによる「洋服」の取引経験者を対象に、メルカリと三菱総合研究所が共同で行った調査によれば、新品の洋服を買うにしても、半数以上の人が将来フリマアプリで売却することを意識するという(メルカリ・プレスリリース、2019.02.26)

後で売れるのを見越して、より高価格帯の洋服を選ぶ人もいるようだ。

フリマアプリの普及が一次流通の市場をも活性化させているといえる。

メルカリ一強とはいえ、競合するフリマアプリも数多い。

楽天の「ラクマ」、ヤフーの「ペイペイフリマ」などバックに巨大な経済圏が控える競合アプリがその後を追う。

さらに昨今はハンドメイド品やオタク系アイテムなど特定のジャンルに特化したフリマアプリが人気を集めている。

たしかに顧客を奪い合うことにはなるが、メルカリにとっては二次流通市場を個人間取引(CtoC)の側面から盛り立てる同志たちでもある。

メルカリの足元の業績もすこぶる好調だ。

2021年には月間利用者数(MAU/Monthly Active Users)が2,000万人を超え、利用者による出品数も2013年のサービス開始から累計で25億品を突破した(メルカリ・プレスリリース 2021.10. 5/2021.12.8)

2021年6月期(20年7月~21年6月)は大幅な増収増益を記録し、2018年の上場以来初めて黒字化を果たしている(日刊SPA!2021.9.27)

コロナ禍で在宅時間が増え、出品数が伸びたことがプラスに働いたという。

シニア層の取り込みを狙った「メルカリ教室」

一般にECモールやフリマアプリではGMV(グロス・マーチャンダイズ・ボリューム/流通取引総額)が重要な成果指標となるが、メルカリのGMVに大きく貢献した取り組みがある。

オフラインのタッチポイントを介したシニア層の利用拡大だ。

もともとメルカリは20~30代の女性から人気を呼び、売り買いの対象もかつてはアパレルが中心だった。

その後「コスメ」や「おもちゃ・ホビー・グッズ」「スポーツ・レジャー」「自動車用品」など幅広いジャンルに対象が広がり、それに伴って男性やファミリーなど多様な層の利用が増えていった。

シニア層の取り込みはメルカリにとって残された重要課題の一つだったのだ。

スマホ一つで手軽にモノの売り買いができるフリマアプリだが、一方で売り手には商品の出品や梱包、発送などけっこうな作業負担が生じる。

それゆえ、メルカリの利用意向はあっても実際には利用に至らない人がシニア層に限らず大勢いるのだ。

ましてシニア層にはスマホアプリ自体に不慣れな人もいるため、二重のハードルとなる。

オンラインでの個人間取引に対する根強い不安もあるだろう。

そこでメルカリはNTTドコモに協力を仰ぎ、ドコモショップでフリマアプリについて学べる「メルカリ教室」の開催に踏み切る。

ドコモショップが主催するスマホ講座は既に累計で900万人以上が受講しており、参加者のうち60歳以上が9割を占める(総務省 2021.3.23)

メルカリにとってはオフラインでシニア層にアプローチする格好のチャネルとなる。

「メルカリ教室」では商品の登録や販売価格の設定など基本的な操作に加え、商品写真の撮影の仕方や検索にひっかかりやすくなるキーワードの選び方なども学べる。

身近なドコモショップでの受講はフリマアプリへの安心感にもつながるだろう。

そのドコモショップで、メルカリは梱包や発送の簡便化にも手を打つ。

売れた商品を非対面で発送できる投函(とうかん)ボックス「メルカリポスト」を設置し、メルカリのオリジナル梱包資材もショップ内で購入できるようにしたのだ。

さらにメルカリは同様のサポート体制を全国各地のコンビニエンスストアやドラッグストア、金融機関などでも展開する。

このシニア層攻略の取り組みは早速結果となってあらわれた。

年間2020年4月~2021年3月の60代以上の利用者数は前年に比べ1.4倍に伸びたのだ。

60代以上の出品する商品数は20代の約2倍にもなっている(メルカリ・プレスリリース 2021.3.30)

しかも高額品の取引が多いため、メルカリの業績全体を引き上げることにも貢献したという(読売新聞オンライン 2021.08.12)

コロナ禍で在宅時間が増え、断捨離にスイッチが入ったことも後押ししたようだ。

「メルカリ教室」に参加したシニアたちのパイはまだ小さいが、参加者たちはそれぞれが近隣社会のネットワークの中で暮らす人たちである。

「誰々さんの家でメルカリを始めた」という風聞が飛び交い、そんな口コミによってメルカリに目覚めた人もいたであろう。

断捨離ブームが続く昨今、フリマアプリが人々の口の端にのぼったとしても不思議ではない。

タモリ起用のCMも呼び水に

そして、そんなシニアたちの背中を押したのが、2020年4月から始まったタレントのタモリをイメージキャラクターに起用したテレビCMである。

タモリが管理人を務めるマンション「メゾンメルカリ」の住人たちがメルカリを使う様子をシリーズで次々に紹介していく。

「もっとみんなの、フリマアプリへ。」が共通のキャッチコピーだ。

幅広い世代を対象にしたCMではあるが、メルカリが多くの人に使われていること、意外に手軽に使えることをその都度伝えており、テレビに慣れ親しんだシニアたちにも大いにアピールしたであろう。

このCMシリーズは短い間隔で登場人物やエピソードが切り替わるが、常に「タモリ/メゾンメルカリ」というフレームの中で展開されている。

そのため記憶に残りやすく、メルカリというブランドの印象を強めるのに効果的といえる。

ネスレ日本は2012年から「ネスカフェアンバサダー」と称する世話役を一般人から募集し、抽出型コーヒーマシンを介してオフィス需要の開拓に成功している。

その際、やはりマス広告がアンバサダーの存在を既成の事実にし、オフィスで受け入れられやすい素地をつくっている。

メルカリ教室に参加した人たちとメゾンメルカリのCMシリーズもそんな関係なのだろう。

教室の参加者たちがフリマアプリについて周囲に話しやすい、あるいは周囲の人たちがその話題を受け入れやすい空気がCMによって醸成されたのだ。

実際に同シリーズでは、メゾンメルカリの住人であるタレントの草彅剛がメルカリ教室に参加するという設定のCMもある。

メルカリ教室に参加した人・しない人の間でメルカリの話題がこだまする一助にもなったはずだ。

メルカリのシニア層攻略は一定の成果を収めたが、フリマアプリの王者は歩みを止めることはない。

メルカリの推定によれば新規ユーザーになり得る層は3,600万人はいるという。

シニア層はその一角に過ぎない。

利用者が多いほど利便性が高まる個人間取引(CtoC)のプラットフォームだけに、月間利用者数(MAU)を3,000万人、4,000万人と増やして行きたいだろう。

もはや「ラクマ」や「ペイペイフリマ」を引き離すという次元ではない。

カテゴリー・リーダーとしてフリマアプリの利用人口そのものを増やしたいところだ。

「循環型社会」を実現するビジネスモデル

循環型社会 サーキュラ―エコノミー

そんなメルカリが昨今、「循環型社会」の実現を意識した発信に取り組んでいる。

オウンドメディアやニュースメディアを介して「循環型社会の実現に必要不可欠な存在を目指す」と明言している。

メルカリの「社会の公器」としての側面を知らしめ、その安心感から利用者を増やすことが狙いだ。

「循環型社会」をテーマに発信をする企業は数多いが、メルカリの発信はやや趣が異なる。

廃棄物の削減や自然エネルギーの活用が究極の目標であるかのように喧伝することはない。

「是が非でも達成しなければならない」といった力みがないのだ。

その一端を示すのが2021年に展開された見開き2ページの新聞広告である。

「メルカリは一番身近にできるサステイナブル」と説く内容だが、その主張に気負いがない。

「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」という問いかけにとどめ、新品にも中古品にもそれぞれの良さがあることを認めている。

その双方を大事にすることで無理なくサステイナブルに暮らせるとしている。

この新聞広告のメッセージは、メゾンメルカリのCMシリーズにも受け継がれている。

2021年9月から始まったCMでは、料理道具やキャンプ道具など「欲しいモノが高くて、ふんぎりがつかない」と悩むメゾンの住民たちが中古品という選択肢があったことにふと気づかされる。

「新品でなくちゃ」という呪縛から解き放たれる瞬間だ。

そして、また一つ不要品の循環が進み、未来へとつながれていく。

不要品が買えたことで住人たちは新しいことを始める機会を得ることになり、結果的に地球にも優しいというストーリーだ。

「循環型社会」の実現に向けて「役に立ちたい」「貢献したい」という気持ちを自然な形で引き出し、フリマアプリへの利用拡大につなげる。

一連の新聞広告やテレビCMにはメルカリのそんな狙いがうかがえる。

フリマから広がる感謝の輪

ちょっとした親切心から人の役に立つと誰でも気分がいい。

一説には「思いやりホルモン」ともいわれるオキシトシンが脳内で分泌されるからだという。

フリマアプリは思いやりを育むしくみ

実はフリマアプリはそんな経験が日常的に味わえるツールでもあるのだ。

不要になったモノがそれを必要とする人に届けられ、その人の役に立つ。

さらに「情けは人のためならず」で、今度は自分が他の誰かの不要品から恩恵を受けることもある。

そんな助け合いの循環が環境負荷を下げることにもなる。

フリマアプリはそんな思いやりを育むしくみでもあったのだ。

その一例が「幸せバトン」にまつわる出品だろう。

自らが使用したウエディングドレスを次の人へ譲ることを指し、メルカリの利用者の間で自然発生的に広がった。

特にコロナ禍で「幸せバトン」をキーワードに含む出品は顕著に増えたようだ。

結婚式を断念した人たちを応援したいという気持ちがそこには込められている。

フリマアプリはモノだけではなく、人の思いも届け得ることを示す格好の例だろう。

メルカリのユーザー調査によれば、メルカリを利用する最大の理由は「出品した商品が売れると精神的に満たされる」ことにあるという(繊研新聞 2019.04.15)

金銭的なインセンティブやもったいない精神がいの一番ではなかったのだ。

ちょっといい気分になれる共助の環

声高に「メルカリをもっと使って」「廃棄物の削減に協力しよう」というのではなく、ちょっといい気分になれる共助の環に加わってみませんか? 

そんなアプローチで利用者を増やそうといのが目下のメルカリの戦略だ。

フリマアプリによる共助には気楽さがある。

顔の見える相手との売り買いと違って、全てが偶然性に依拠するしくみのため後腐れがないのだ。

恩を売ったり返したりがない。

仮に恩を返すならプラットフォーム上で偶然出会う別の相手となる。

そんな気楽さ、しがらみのなさは今の時代感覚にもフィットしている。

その上で「循環型社会」の一端も担える。

微力ではあるが無力ではなく、ユーザー調査が示すように精神的に満たされるのはたしかなはずだ。

利用者を「循環型社会」実現の担い手に

職場の新人研修などでよく使われるに「3人のレンガ職人」という寓話がある。

とある旅人がレンガを積む3人の職人たちに「何をしているのか?」と尋ねると、1番目の職人は「レンガを積んでいる」と答え、2番目の職人は「壁をつくっている」と答える。

そして最後、3番目の職人は「歴史に残る大聖堂を建てている」と答える。

たいていは自分の仕事に意義を見いだし、労働を誇りや喜びとしている3番目の職人があるべき姿だとされる。

しかし、メルカリはそこにあまりこだわらないだろう。

ちょっと気分がいいのが嬉してメルカリを使ってもらえればいいのだ。

端緒は売り買いに伴うお得感からでもいっこうにかまわない。

個人間取引(CtoC)のプラットフォーマーらしく人々の自然発生的な力学に委ねるのがメルカリの方針なのだ。

それゆえ、「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」という問いかけになのだろう。

「循環型社会」に関する発信の多くは、それが絶対善であることが前提でどうしても押し付けがましくなってしまう。

人々に選択の余地はなく、かえって反感を招いてしまう危うさもある。

一方、メルカリは人々の選択の自由を狭めることはしない。

選択肢を示すのみにとどめ、あえて自分で選んだという感覚が余熱として残るようにしている。

人は自らの選択には、主体的に関わろうする気になりやすいためだ。

「循環型社会」にまつわる発信によって、人々のフリマアプリへの向き合い方を変え、利用拡大を図ろうとするメルカリ。

小さな親切が次の親切を呼ぶように、どこまで共助の環が広がるのだろうか? 

潜在する3,600万人の行く末は「思いやりホルモン」であるオキシトシンの分泌次第といえそうだ。

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