丸亀製麺の新商品「丸亀うどん弁当」が好スタートを切っている。
発売からわずか4か月で1,000万食を突破したという。
ヒットの要因は「うどん」と「お弁当」という “ありそうでなかった” 意外な組み合わせの妙。
意外性はあるものの、わかりやすい商品コンセプトが新たな需要を掘り起こした。
そんな丸亀製麺の快進撃には消費者の心をつかむ黄金律が隠されていた。
「丸亀うどん弁当」がたちまち大ヒット!
讃岐うどん専門店の丸亀製麺が2021年の4月に発売した「丸亀うどん弁当」が売行き好調だという。
PR TIMESが報じた同社2021年8月26日のプレスリリースには発売からわずか4ヵ月で1,000万食を突破したとある。
多くのネットニュースがその快挙を報じ、中には大ヒットと称える記事もある。
熱く飛び交う報道記事の背景には丸亀製麺の広報活動も効いているだろうが、少なくとも「丸亀うどん弁当」が同社の想定を超え、好発進を切ったことは確かなようだ。
その人気を受けて子ども向けのうどん弁当も追加発売されている。
冒頭で触れたリリース記事には、新商品のうどん弁当のうどんは粉からつくる打ち立て・茹でたてで、手づくりの天ぷらとおかず2種をお弁当のひと箱に詰め込んだとある。
全国に800店以上もの店舗を構える丸亀製麵だが、その全店で麺を粉からつくっており、「打ち立て・茹でたて」は同社の真骨頂だ。そのこだわりをうどん弁当も受け継いだのだろう。
さらにうどん弁当には定番の天ぷら以外にも、お弁当ならではのおかずも入っている。
これは卵焼きやきんぴらごぼうなどで、ぐっとお弁当の体に歩み寄っており、食べ応えもありそうだ。
このあたりはコンビニエンスストアのお弁当コーナーで見かける、つゆやちょっとした具材とセットになったうどん類とは十分に差別化されているようだ。
「うどん」と「お弁当」の意外な組み合わせ
丸亀製麺は2020年の5月から既にテイクアウトサービスをスタートさせ好評を博していたが、新商品のうどん弁当の購入者は、既存のテイクアウトの利用者と大きく食い合いこともなく、新規の顧客が多かったという。
丸亀製麺では、テイクアウトであっても通常の店内飲食と同様、複数のうどんメニューや天ぷらなどの具材から自分で選ぶスタイルだ。
初心者にはややハードルが高い。
その点、うどん弁当なら予めセットされたものをサクッと選べばよい。
この簡便さが既存のテイクアウトユーザーではなく、うどん弁当ならではの新規顧客の開拓につながったようだ。
そしてほどよい大きさのお弁当仕様に寄せた容器が実に絶妙だった。
テイクアウトは自宅などに持ち帰って食べることが前提となるが、うどん弁当は運びやすく、片手で持って食べられる。
それゆえ、外出先や職場、学校など場所を選ばない。
この手軽さは初回の試し買いのみならず、繰り返し買うリピーターの獲得にも大きく貢献したはずだ。
うどん弁当がこれほど好発進となった背景には、「うどん」に「お弁当」という組み合わせにちょっとした意外性があり、消費者の目には新鮮に映ったことがある。
コンビエンスストアのうどん類や従来のテイクアウトとは異なる新ジャンルと捉えられたのだろう。
詳細は後述するが、実はこの「意外な組み合わせ」は、多くのヒット商品に共通する黄金律の一つといってよい。
認識の枠組み「スキーマ」とは?
認知心理学の領域に「スキーマ」という概念がある。
飛び込んでくる情報を認識するのに人が無意識に使う「枠組み的な知識」のことを指す。
本来は図式や図解の意味だが、汎用性や柔軟性に富み、認識の枠組みとしてテンプレートのように繰り返し使えるのが特長だ。
「スキーマ」と似た言葉に計画や体系、仕組みを表す「スキーム(scheme)」があるが、「スキーム」は極めて意識的な産物なのに対し、「スキーマ」は意識されることはない。
人はこの「スキーマ」を様々な経験を通して自然に頭の中に記憶として蓄えていく。うどんとはこういうもの、お弁当とはこういうものというように。
「スキーマ」があるからこそ、人はモノや事象を時間をかけずに直感的に判別できるのだ。
たとえば、総2階建ての世界最大の旅客機を「空飛ぶホテル」と呼んだり、ブラジルの大統領を「熱帯のトランプ(前米大統領)」と呼んだりする。
そう耳にするだけで、よく知らないことでも何となく分かった気になれる。これも「スキーマ」のなせるわざである。
「スキーマ」は事物・事象の認識に役立つだけではない。迫りくる状況で何が起こるかを予測するのにも役に立つ。
たとえば「お誕生日会スキーマ」であれば、小さいな子どもでも、誕生日に親しい人が集まり、プレゼントが渡され、誕生日ケーキのロウソクの火を消すといった一連の出来事を時系列的に予測するだろう。
スキーマ同士の異種交配が生んだ大ヒット
「丸亀うどん弁当」もしかりだ。
その名を耳にするだけで頭の中では「うどんスキーマ」と「お弁当スキーマ」が勝手に起動し、なんとなく商品の輪郭が頭に思い浮かぶ。
そこには丸亀製麺のブランドスキーマも加わる。
もし四角い容器に入っていると知れば、通常のお弁当のように場所を選ばず食べられると期待するだろう。
ひょっとしたら条件反射的にお弁当のフタを開けるときのワクワク感すら思い出すかもしれない。
それは従来のテイクアウトに関するスキーマとは似て非なるものだ。
「うどん」と「お弁当」、それぞれの「スキーマ」は既に馴染み深いものだが、その2つの取り合わせにはちょっとした意外性がある。
今までなかった「スキーマ」同士の結びつきは人々の興味を引き、印象を強め記憶に残りやすくなる。
そのため、「丸亀うどん弁当」は人々の衆目をいち早く集めたのだ。
一般の人々だけではない。メディアも注目し、物珍しさから積極的に報じるようになる。
こうした「スキーマ」同士のいわば “異種交配” はヒット商品の黄金律の一つである。
「国産米を使ったハンバーガー」や「透明なペットボトルに入ったコーヒー」、「乳酸菌の入ったチョコレート」などその意外な組み合わせから人気を呼んだ商品はほかにもたくさんある。
最近ではリモートワーク需要を狙ってヒットした紳士服のAOKIが放った「パジャマスーツ」もそうだろう。
「意外性」と「馴染みやすさ」の両立
しかし、人々に広く速やかに受け入れられるためには、異質の「スキーマ」を組み合わせるにしても、その意外性が “適度” でなければならない。
強い違和感がなくその組み合わせにわかりやすさも同時に伴う、「ありそうでなかった」レベルに的中させることが肝要だ。
たとえば、サントリービールはかつて「オールフリー オールタイム」をノンアルコールビールテイスト飲料として発売した。
透明なペットボトル入りで、さらに斬新だったのはビール自体も透明だったことだ。いつでもどこでも(たとえ昼間のオフィスでも)ビールを楽しんでもらおうと、オールタイムと名付けられたのであろう。
たしかに「ビール」と「透明」の取り合わせは意外性があったが、強い違和感の方が先に立ってしまったのではなかろうか?
なんとなく腹落ちせず、多くの人々の口の端にのぼることはなかったのだろう。
その後ほどなく、「オールフリー オールタイム」は製造終了になっている。
ヒット商品の黄金律
一方、「丸亀うどん弁当」はその組み合わせに意外性はあったものの、強い違和感を覚えるほどではなかった。
あくまで「ありそうでなかった」レベルに留まっていたのだ。
意外性は驚きを生み、我々の脳はちょっとした緊張を経験する。
しかし、その後すぐに納得感が伴えば、緊張から解放へ、ちょうど遊園地のジェットコースターのような心地よさも感じる。
この微細な感情の起伏が「丸亀うどん弁当」に大きなヒットを呼び込んだのだ。
脳科学者の茂木健一郎氏は、予想できることと不確実なことが入れ子になった状態を脳がもっとも喜ぶと説いた。
完全に想定内のこと、逆に全く想定できないことに脳が快感を得ることはないらしい。
「意外性」と「馴染みやすさ」が両立するすれすれの位置、そこにこそ真のヒット商品の黄金律がある。
「丸亀うどん弁当」はまさにそのゾーンを掘り当てたといえる。