『ややこしい』を品よく言い換えると? メールやビジネス文書に!|プロの語彙力

『ややこしい』を品よく言い換えると? メールやビジネス文書に!|プロの語彙力

今回は『ややこしい』を文脈に応じて品よく言い換える方法を整理する。

目次

1.『ややこしい』——便利だが単調になりがちな口ぐせ

『ややこしい』ばかりに頼ると、状況の複雑さが一括りにされ、文脈ごとの違いが伝わりにくくなる。

以下、“一語への依存”が顕著になる場面を示してみたい。

口ぐせで使われがちな例

  • 会議の進行がややこしいため、議題整理に時間がかかっています。
  • 提出資料の形式がややこしいので、確認作業が滞っています。
  • 契約条件がややこしいため、合意形成に時間を要しました。
  • 一部の発言が議論をややこしくしました。
  • ややこしく考えすぎた結果、判断が遅れてしまいました。

いくつか例を並べてみると、“ややこしい”という定番フレーズが先に出てしまい、説明の奥行きが薄れていることが分かる。

次章で文脈ごとの品位ある言い換えを紹介する。

2.『ややこしい』を品よく言い換える表現集

ここからは『ややこしい』を5つのニュアンスに整理し、文脈ごとの適切な言い換えを提示する。

2-1. 構造・内容が複雑(理解の難しさ)

  • 複雑
    • 最も中立的で汎用性が高い表現。契約や制度説明など幅広い場面で自然。
      • 例:この複雑な契約条件について、順を追って説明します。
  • 込み入った
    • 事情や要素が絡み合う印象を与える。会話や調整場面に適する。
      • 例:部門間の事情が込み入っており、調整に時間を要しています。
  • 入り組んだ
    • 構造的・視覚的な複雑さを示す。組織図や制度設計に適する。
      • 例:新制度の入り組んだ仕組みは、理解に時間がかかります。
  • 難解
    • 理解に専門性を要する硬質な表現。学術的・技術的文脈に適する。
      • 例:この条文は難解なため、専門家の解説が必要です。
  • 錯綜(さくそう)している
    • 複数の要素が絡み合い、整理されていない状態を示す知的な表現。状況説明に適する。
      • 例:情報が錯綜しており、事実関係を確認しています。
  • 容易ならざる
    • 「容易でない」の文語的・硬質な表現。報告書や公式な場で重みがある。
      • 例:この課題の解決は容易ならざるもので、長期的な視点が必要です。
  • 迂遠(うえん)な
    • 回りくどく、直接的な結論に至りにくい様子。プロセスや説明の複雑さを批判的に表現できる。
      • 例:現行の迂遠な手続きを見直し、工程を簡素化します。
  • 整理が必要な
    • 複雑さを認めつつ改善余地を示す表現。業務改善やプロセス見直しに適する。
      • 例:現行フローは整理が必要な状態です。

2-2. 手続き・作業が面倒(手間の多さ)

  • 面倒
    • 最も直感的で日常的な言い換え。社内会話に自然。
      • 例:この申請手続きは面倒で、担当者の負担になっています。
  • 手間がかかる
    • 客観的に労力を示す表現。業務説明に適する。
      • 例:この手間がかかる工程を、効率化する必要があります。
  • 煩雑
    • 事務的・公式文書に適する硬質な表現。
      • 例:手続きが煩雑なため、処理に時間がかかっています。
  • 厄介
    • 問題解決の難しさを強調。やや口語的だが社内で自然。
      • 例:この厄介な案件には、複数部門の連携が不可欠です。
  • 手数が多い
    • 工程や手順の多さを客観的に示す表現。業務説明に適する。
      • 例:手数が多い承認プロセスを、簡素化すべく検討しています。
  • 労力を要する
    • 必要な労力を強調する硬質な表現。正式な文書に適する。
      • 例:この作業は労力を要するため、人員増強が必要です。
  • やや手強い
    • 社内向け限定。課題の難しさを柔らかく伝える。
      • 例:この課題はやや手強いですね。

2-3. 状況が混乱している

  • 混乱
    • 最も基本的で明快な表現。現場や会議の状況描写に適する。
      • 例:現場が混乱しており、指示系統の見直しが急務です。
  • 紛糾
    • 議論や交渉がもつれている状態を示す硬質な表現。
      • 例:会議が紛糾し、結論は先送りとなりました。
  • 収拾がつかない
    • 深刻な混乱を示す。強いニュアンスを持つため限定的に使用。
      • 例:議論が拡散し、収拾がつかない状態です。
  • 混迷している
    • 「混乱」より深刻で長期的な状態を示す表現。
      • 例:プロジェクトが混迷しており、方針の再検討を急いでいます。

2-4. 扱いが難しい・対処に困る

  • 対応が困難
    • 硬質でフォーマル。公式報告や外部説明に適する。
      • 例:現状での対応は困難であり、代替案の検討を進めています。
  • 取り扱いが難しい
    • 具体的な対象に対して用いる。製品や案件説明に適する。
      • 例:取り扱いが難しいこのデータは、専門部署に引き継ぎました。
  • 対処しづらい
    • 「対応が困難」より柔らかく自然な表現。会話でも使いやすい。
      • 例:この問題は対処しづらい性質があり、専門家の助言が必要です。
  • 悩ましい
    • 柔らかく人間的なニュアンス。調整や判断場面に適する。
      • 例:予算配分は悩ましい問題で、合意形成に時間がかかりました。
  • 一筋縄ではいかない
    • 慣用句。解決の難しさを強調する表現。やや口語的だが知的。
      • 例:この案件は一筋縄ではいかない内容です。
  • 困難を伴う
    • 「困難」を名詞的に使い、それが付随する事態であることを示す格式ある表現。
      • 例:システム移行には困難を伴うことが想定されます。

2-5. 人間関係・利害が絡む(デリケート)

  • センシティブ
    • 外部説明にも安全なカタカナ語。人間関係や感情に配慮が必要な場面に適する。
      • 例:この件はセンシティブな問題であり、慎重な対応が必要です。
  • デリケート
    • 繊細さを強調する表現。調整や交渉場面に適する。
      • 例:利害が絡むデリケートな案件で、慎重な配慮が必要です。
  • 調整が難しい
    • 複数部門や関係者の利害が絡む場面に自然。
      • 例:部門間の役割分担は、調整が難しい局面を迎えています。
  • 配慮を要する
    • デリケートさを直接的に示す硬質な表現。公式文書に適する。
      • 例:この案件は配慮を要する内容であり、関係者への説明が必要です。
  • 微妙な立場
    • 人間関係の繊細さを示す自然な表現。配慮が必要な場面に適する。
      • 例:各部門が微妙な立場にあるため、調整には慎重を期します。

3.まとめ:『ややこしい』を状況別に言い換える表現術

『ややこしい』という一語に寄りかかれば、状況の込み入った違いが一括りにされ、説明の厚みが削がれてしまう。

だが文脈に応じて言い換えれば、複雑さの輪郭が明確になり、伝え方の説得力を高める。

語彙の工夫が表現の透明性を示し、組織の対話を支える。

適切な表現が説得力を補い、理解の広がりを編み上げていくことを改めて胸に留めたい。

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