ブランディングと聞くと、ロゴや広告、SNSなどの施策を思い浮かべるかもしれない。しかし、それらはブランドづくりの一部にすぎない。
ブランディングは、「なぜ存在するのか」から始まり、「どのようなブランドでありたいか」を定め、それを商品やサービス、顧客体験、コミュニケーションに反映し、顧客からどう認識されているかを確認しながら磨いていく活動である。
この全体像を9つの要素に分けて捉えると、実務で用いられる様々なブランディング用語や概念がどこに位置し、どのようにつながっているのかが見えやすくなる。
1. まず押さえたい「9つの流れ」
ブランドづくりは一連の流れである
ブランディングの全体像は、大きく次の9つの要素で捉えることができる。
- ブランドの目的・存在意義
- ブランド戦略
- ブランドポジショニング
- ブランドアイデンティティ
- ブランド価値・提供価値
- 顧客接点・ブランド体験
- コミュニケーション
- ブランド認知・イメージ
- ブランド評価・改善
この流れは、単なる用語の並びではない。
「何者として存在するのか」を決め、それを「どのような価値として届けるのか」に落とし込み、顧客との接点を通じて体験してもらい、実際にどう受け取られたかを確認して改善するという、一連のプロセスを表している。
2. 9つの要素は何を意味するのか
① ブランドの目的・存在意義
「なぜ、このブランドが存在するのか」を定める段階である。
ブランドパーパスなどがここに位置する。売上や市場シェアといった事業上の目標だけではなく、ブランドが社会や顧客に対してどのような意味を持つのかを明確にする。以降のブランド戦略や判断の土台となる部分である。
ブランドパーパス、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)、ブランドフィロソフィー、創業者精神(ファウンダーズ・ストーリー)
② ブランド戦略
ブランドの存在意義を踏まえ、どこで、誰に、どのような価値を届けるのかという方向性を決める。
市場やターゲット、競争環境などを捉えながら、ブランドとしてどの領域で価値を発揮するのかを考える。ブランドの目的を、具体的な事業や市場で実現するための道筋を描く段階である。
ブランドアーキテクチャ、ブランドポートフォリオ、ブランド拡張、インナーブランディング、アウターブランディング
③ ブランドポジショニング
競合との関係の中で、顧客から「どのような存在として選ばれるのか」を定める。
同じ市場に存在する競合と比べて、どのような違いや独自の価値を持つブランドなのかを明確にする。単に「競合と違う」だけではなく、顧客にとって選ぶ理由になる立ち位置をつくることが重要になる。
ポジショニングマップ、差別化点(POD)、同等点(POP)、考慮集合(Evoked Set)、カテゴリーエントリーポイント(CEP)
④ ブランドアイデンティティ
「このブランドは何者でありたいのか」を具体化する。
ブランドとして大切にする価値観や個性、顧客との関係性などを整理し、「このブランドらしさ」を明確にする。ブランドに関わるさまざまな判断を一貫させるための基準となる。
ブランドパーソナリティ、ブランドプロミス、ビジュアル・アイデンティティ(V.I)、ブランドタグライン、ブランドステートメント
⑤ ブランド価値・提供価値
ブランドとして顧客にどのような価値を約束し、何を提供するのかを整理する。
機能的なメリットだけでなく、安心感や楽しさ、自己表現などの情緒的・心理的な価値も含めて考える。ブランドアイデンティティを、顧客が実際に受け取れる価値へとつなげる段階である。
機能的価値、情緒的価値、自己表現的価値、ジョブ(Jobs to be Done)、ブランドプロポジション
⑥ 顧客接点・ブランド体験
商品やサービス、店舗、Webサイト、接客などを通じて、ブランドの価値を実際に体験してもらう。
顧客がブランドと接する場面は、広告だけではない。購入前の情報収集から購入、利用、問い合わせまで、さまざまな接点でブランドらしさが感じられるかどうかが、ブランド体験を左右する。
カスタマージャーニー、ブランドタッチポイント、CX(カスタマーエクスペリエンス)、サービスデザイン、ブランドモーメント
⑦ コミュニケーション
広告、PR、SNS、コンテンツなどを通じて、ブランドが持つ意味や価値を顧客に伝える。
何を伝えるかだけでなく、どのような言葉や表現、トーンで伝えるかも重要になる。商品や顧客体験とコミュニケーションの方向性をそろえることで、ブランドとしての一貫した認識を形成しやすくなる。
トーン&マナー、メッセージング、ブランドアクティベーション、PR・広報、コンテンツマーケティング
⑧ ブランド認知・イメージ
ブランドの活動を通じて、顧客がブランドを知り、どのような印象や意味を持つようになったのかを捉える。
ここでは、企業が「こう見られたい」と考えた姿ではなく、顧客の中に実際に形成された認識を見る。ブランド認知の広がりやブランドイメージの内容を捉えることで、意図したブランドの姿とのズレも見えてくる。
純粋想起・助成想起、ブランドアソシエーション(ブランド連想)、ブランド認知(Brand Awareness)、知覚品質、ブランドイメージ
⑨ ブランド評価・改善
意図したブランドの姿と、顧客から実際にどう認識されているかを確認し、必要に応じて戦略や施策を見直す。
ブランド認知やイメージ、顧客の反応、事業成果などをもとに、何が機能していて何を改善すべきかを判断する。ここで得た気づきを再びブランド戦略や施策に反映することで、ブランディングは一度きりではなく継続的な活動になる。
ブランドエクイティ、NPS(ネットプロモータースコア)、ブランドヘルストラッキング、ブランド監査、ブランドバリュー(ブランド資産価値)
3. なぜ9つの要素がつながっているのか
「決める→届ける→受け取られる→見直す」で考える
9つの要素をさらに大きくまとめると、ブランディングの流れは4段階で捉えられる。
①ブランドの目的・存在意義
②ブランド戦略
③ブランドポジショニング
④ブランドアイデンティティ
⑤ブランド価値・提供価値
⑥顧客接点・ブランド体験
⑦コミュニケーション
⑧ブランド認知・イメージ
⑨ブランド評価・改善
つまり、ブランディングとは「ブランドをつくって終わり」という活動ではない。
ブランドとしてどうありたいかを定め、それを顧客との接点で届け、実際にどう受け取られたかを確認しながら磨いていく活動である。
4. 個々の用語は「全体のどこにあるか」で理解する
用語の役割は位置づけると見えやすい
ブランディングの用語や概念は、一つひとつの意味を個別に覚えても、互いの関係性が分からなければ実務の思考には活かしにくい。
例えば、世の中でよく語られる「ブランドアイデンティティ」は④の要素にあたる。①〜③で定めた存在意義や方向性、市場での立ち位置を受けて、「このブランドは何者でありたいのか」を具体化する役割を持つ。
一方で「ブランドイメージ」は⑧の要素に位置する。企業が「こうありたい」と意図する側ではなく、実際に顧客の中に形成された印象を捉える概念だ。
このように、9つの要素のどこに該当するのかを捉えることで、乱立する用語の役割や違いがすっきりと整理できるようになる。
5. 9つの流れを知ると、ブランド用語がつながる
ブランドを「点」ではなく「線」で捉える
様々なブランド用語を単体で暗記しようとしても、実務で使える「ブランドを考える視点」は身につきにくい。
しかし、9つの要素が描く全体の流れの中で捉え直せば、一見複雑に見える専門用語も前後の概念と綺麗につながり、それぞれの果たすべき機能が見えてくる。
「ブランディング思考辞典」では、この9つの全体構造を思考の土台に置きながら、実務で役立つ一つひとつの概念を掘り下げていく。

