今回は『良くない』を文脈に応じて品よく言い換える方法を整理する。
目次
1.『良くない』——万能だが単調になりがちな評価語
『良くない』という一語に頼りすぎると、「どこが問題なのか」が曖昧になり、評価の具体性や説明の厚みが削がれてしまう。
“同じ言葉への依存”が浮かび上がる用例を確認してみたい。
口ぐせで使われがちな例
- この進め方は良くないから、別案を考えよう。
- 提出された資料の構成は良くないので、修正が必要だ。
- 契約条件の提示方法が良くないと先方に受け止められた。
- 会議での発言の仕方が良くないと感じられる場面があった。
- 納期対応の進め方が良くないため、信頼を損ねかねない。
例を重ねると、言葉の幅よりも口ぐせの反射が先に立ち、説明の厚みが削がれていたことが浮かび上がる。
次章で文脈ごとの品位ある言い換えを紹介する。
2.『良くない』を品よく言い換える表現集
ここからは『良くない』を6つのニュアンスに整理し、文脈ごとの適切な言い換えを提示する。
2-1. 判断・方針|意思決定や論理の不備
- 適切とは言えない
- 判断や対応が状況に合っていないことを婉曲に示す。最も汎用的。
- 例:顧客への説明方法は適切とは言えないと評価された。
- 判断や対応が状況に合っていないことを婉曲に示す。最も汎用的。
- 妥当性に欠ける
- 根拠や前提が弱いことを指摘。論理的な批評に適する。
- 例:提案された戦略は市場環境を踏まえると妥当性に欠ける。
- 根拠や前提が弱いことを指摘。論理的な批評に適する。
- 再考の余地がある
- 改善提案を含む前向きな表現。会議や議論で自然。
- 例:新制度の導入計画には再考の余地があるとされた。
- 改善提案を含む前向きな表現。会議や議論で自然。
- 疑問が残る
- 柔らかい否定で、納得感が弱いことを示す。
- 例:新しい方針の妥当性については疑問が残る。
- 柔らかい否定で、納得感が弱いことを示す。
- 説得力に欠ける
- プレゼンや提案の評価に用いる。論理的裏付け不足を示す。
- 例:提示されたデータが少なく、説明は説得力に欠ける。
- プレゼンや提案の評価に用いる。論理的裏付け不足を示す。
- 論拠が弱い
- 論理的批判の核心。やや専門的で硬質。
- 例:この提案は論拠が弱いとの指摘を受けた。
- 論理的批判の核心。やや専門的で硬質。
2-2. 事業・状況の見通し|進捗や将来性の停滞
- 厳しい状況にある
- 現在の困難を表す定番表現。ビジネスや経済分析に頻用。
- 例:国内市場は競争激化により厳しい状況にある。
- 現在の困難を表す定番表現。ビジネスや経済分析に頻用。
- 先行きが不透明である
- 将来予測に関する不確実性を示す。硬質で客観的。
- 例:為替相場の変動により、企業収益は先行きが不透明である。
- 将来予測に関する不確実性を示す。硬質で客観的。
- 停滞している
- 成長や進展が止まった状態を具体的に描写。
- 例:新規顧客の獲得がここ数か月停滞している。
- 成長や進展が止まった状態を具体的に描写。
- 苦戦している
- 努力しているが成果が出ていない状況を表す。やや口語的。
- 例:新規市場への参入において営業は苦戦している。
- 努力しているが成果が出ていない状況を表す。やや口語的。
- 逼迫(ひっぱく)している
- 緊迫感を伴う硬質な表現。資金や時間の不足を示す。
- 例:資金繰りが逼迫しているため、経費削減が急務だ。
- 緊迫感を伴う硬質な表現。資金や時間の不足を示す。
2-3. 成果物・パフォーマンスの質|出来栄えや水準の不足
- 不十分である
- 中立的で汎用性が高い表現。成果物や報告の不足を指摘する際に自然。
- 例:調査レポートの分析は不十分であるため、再提出を求めます。
- 中立的で汎用性が高い表現。成果物や報告の不足を指摘する際に自然。
- 満足できる水準ではない
- 品質評価の定番フレーズ。基準や期待値に照らして不足を示す。
- 例:レポートの完成度は、社内基準に照らすと満足できる水準ではない。
- 品質評価の定番フレーズ。基準や期待値に照らして不足を示す。
- 芳しくない
- 格式ある表現で、業績や成果の評価に用いられる。やや硬質。
- 例:今期の販売実績は予想に比べて芳しくない。
- 格式ある表現で、業績や成果の評価に用いられる。やや硬質。
- 期待値に届いていない
- 目標や基準との比較で不足を明示する。数値評価に適する。
- 例:新サービスの利用者数はKPIの期待値に届いていない。
- 目標や基準との比較で不足を明示する。数値評価に適する。
- 精度に難がある
- 技術的・専門的な文脈で限定的に使用。細部の正確性不足を指摘。
- 例:この統計データは精度に難があると指摘されている。
- 技術的・専門的な文脈で限定的に使用。細部の正確性不足を指摘。
2-4. 行動・振る舞い|マナーや倫理的な問題
- 望ましくない
- 行動全般に対する形式的な否認。最も汎用的。
- 例:会議中の私語は望ましくないとされている。
- 行動全般に対する形式的な否認。最も汎用的。
- 配慮に欠ける
- 対人関係で重要。思いやり不足を指摘する柔らかい表現。
- 例:会議での発言が配慮に欠けると受け止められた。
- 対人関係で重要。思いやり不足を指摘する柔らかい表現。
- 慎むべきである
- 強めの忠告や勧告のニュアンス。儀礼的で硬質。
- 例:公的な場での軽率な発言は慎むべきである。
- 強めの忠告や勧告のニュアンス。儀礼的で硬質。
- 礼を失する
- 格式高くマナー違反を指摘する表現。儀礼的で限定的。
- 例:公の場での軽率な発言は礼を失するとされた。
- 格式高くマナー違反を指摘する表現。儀礼的で限定的。
2-5. 体調・コンディション|健康や個人状態の不良
- 体調が優れない
- 最も自然で一般的な言い換え。挨拶や欠席理由に適する。
- 例:担当者は風邪気味で体調が優れないため、会議を欠席した。
- 最も自然で一般的な言い換え。挨拶や欠席理由に適する。
- 万全ではない
- 謙遜的で使いやすい。ビジネスで頻用。
- 例:発表内容は準備不足で万全ではない状態だった。
- 謙遜的で使いやすい。ビジネスで頻用。
- 本調子ではない
- コンディションの低下を控えめに表現。やや口語的。
- 例:選手は試合前から本調子ではないと語っていた。
- コンディションの低下を控えめに表現。やや口語的。
- 調子を崩している
- 病気や不調を具体的に示す。限定的な場面で使用。
- 例:彼は過労で調子を崩しているようだ。
- 病気や不調を具体的に示す。限定的な場面で使用。
2-6. 関係性・空気|組織や人間関係の不調和
- 円滑とは言えない
- 人間関係や業務進行全般の核心表現。婉曲で客観的。
- 例:部門間の情報共有は依然として円滑とは言えない。
- 人間関係や業務進行全般の核心表現。婉曲で客観的。
- ぎくしゃくしている
- 状況を描写する口語的表現。ややカジュアル。
- 例:取引先との折衝が最近ぎくしゃくしている。
- 状況を描写する口語的表現。ややカジュアル。
- 一体感に欠ける
- チームワークや結束力の不足を指摘。組織文脈で有効。
- 例:新プロジェクトでは一体感に欠ける状況が続いている。
- チームワークや結束力の不足を指摘。組織文脈で有効。
- 齟齬(そご)をきたしている
- 認識や意図の食い違いを知的に表現。硬質で限定的。
- 例:現場と本部の認識が齟齬をきたしているため、作業が遅延した。
- 認識や意図の食い違いを知的に表現。硬質で限定的。
3.まとめ:『良くない』の言い換えで評価を鮮明にする
『良くない』という一語に頼りすぎれば、評価の具体性や説明の厚みが失われる。
文脈に応じて適切な言い換えを選べば、意図が鮮明になり、説明の奥行きが広がる。
語彙の選択が説得力を補い、理解の広がりを編み上げていくことを改めて胸に留めたい。

