今回は『分かりにくい』を文脈に応じて品よく言い換える方法を整理する。
目次
1.『分かりにくい』——万能だが抽象に傾きやすい説明語
会議後の振り返りや資料へのコメントで、「ここ、ちょっと分かりにくいですね」と口にした経験は少なくないだろう。
業務の現場で「分かりにくい」は、違和感や不満を手早く伝えられる便利な評価語である。
一方で、この一語に頼りすぎると、構成なのか情報量なのか論点整理なのか、理解を妨げている原因が曖昧なまま処理されてしまう。
まずは、「分かりにくい」という定番表現に評価を委ねてしまっている用例を確認してみよう。
口ぐせで使われがちな例
- 会議の進行が分かりにくいため、議論がまとまらなかった。
- 提出された資料の構成が分かりにくいため、比較が難しくなっている。
- 契約交渉で、相手側の主張が分かりにくい形で散らばり、方向性が見えにくい。
- 発言が分かりにくい形で飛び交い、議事録の整理に時間がかかった。
- 期限対応で、担当者の動きが分かりにくいため、全体の進捗が遅れている。
こうして並べてみると、いずれも状況は伝わるものの、「どこに問題があるのか」「何を改善すべきなのか」が、「分かりにくい」という便利な言葉の中に埋もれてしまっていることが見えてくる。
次章では、こうした違和感をより具体的に言語化できる、文脈別の品位ある言い換え表現を紹介する。
2.『分かりにくい』を品よく言い換える表現集
ここからは『分かりにくい』を5つのニュアンスに整理し、文脈ごとの適切な言い換えを提示する。
2-1. 視覚的・レイアウトの問題(見た目の問題)
- 読みにくい
- 文書や資料の文字や構成が直感的に理解しづらい状態を指す。
- 例:報告書が読みにくいため、確認に時間がかかります。
- 文書や資料の文字や構成が直感的に理解しづらい状態を指す。
- 可読性が低い
- 専門的な文脈で、文章や資料の読みやすさが不足していることを客観的に示す。
- 例:画面の可読性が低いため、表示設定を見直します。
- 専門的な文脈で、文章や資料の読みやすさが不足していることを客観的に示す。
2-2. 説明・表現の問題(伝え方の問題)
- 説明が整理されていない
- 情報の順序や構成に問題がある状態を指す。
- 例:説明が整理されていないため、理解に時間がかかります。
- 情報の順序や構成に問題がある状態を指す。
- 明確性に欠ける部分がある
- 内容がはっきりせず、曖昧さが残ることを丁寧に指摘する表現。
- 例:契約条件に明確性に欠ける部分があるため、内容を確認します。
- 内容がはっきりせず、曖昧さが残ることを丁寧に指摘する表現。
- 言葉足らずである
- 説明が不十分で、相手に十分な情報が伝わらない状態を指す。
- 例:説明が言葉足らずであるため、誤解が生じています。
- 説明が不十分で、相手に十分な情報が伝わらない状態を指す。
- 焦点がぼやけている
- 何を強調したいのか不明確な時に用いる比喩的な表現。
- 例:資料の焦点がややぼやけているため、要点を整理します。
- 何を強調したいのか不明確な時に用いる比喩的な表現。
2-3. 構造・論理の不明瞭さ(組み立ての問題)
- 複雑で理解しづらい
- 情報や構造が入り組み、把握に時間を要する状態を表す。
- 例:新制度の手続きが複雑で理解しづらく、混乱が生じています。
- 情報や構造が入り組み、把握に時間を要する状態を表す。
- 全体像を把握しにくい
- 部分的には理解できても、全体の流れや構造が見えない時に使う。
- 例:工程が断片的で、全体像を把握しにくい状況です。
- 部分的には理解できても、全体の流れや構造が見えない時に使う。
- 論理の飛躍がある
- 前提と結論のつながりが不自然で、理解を妨げる状態を指す。
- 例:文中の主張に論理の飛躍があるため、補足説明が必要です。
- 前提と結論のつながりが不自然で、理解を妨げる状態を指す。
- 構造が込み入っている
- 要素が多く絡み合い、整理が難しい状態を知的に表現する。
- 例:契約条項の構造が込み入っており、理解に時間がかかります。
- 要素が多く絡み合い、整理が難しい状態を知的に表現する。
- 一貫性に欠ける
- 話や方針が前後してまとまりを欠く状態を指す。
- 例:方針に一貫性に欠ける点があり、見直しが必要です。
- 話や方針が前後してまとまりを欠く状態を指す。
2-4. 意味・意図の不明確さ(本質・目的の問題)
- 意味が明確でない
- 内容の定義や解釈が曖昧で、理解が困難な状態を指す。
- 例:規定の文言の意味が明確でないため、運用に影響が出ています。
- 内容の定義や解釈が曖昧で、理解が困難な状態を指す。
- 真意を汲み取りにくい
- 発言や文章の目的や狙いが相手に届かない時に使う。
- 例:説明が不足し、真意を汲み取りにくい状況です。
- 発言や文章の目的や狙いが相手に届かない時に使う。
- 核心がつかみにくい
- 要点が分かりにくいことを知的に表現。長文や複雑な議論に適す。
- 例:議論が長引き、核心がつかみにくい状況です。
- 要点が分かりにくいことを知的に表現。長文や複雑な議論に適す。
- 判然(はんぜん)としない
- 「はっきりしない」を硬質に表す表現。状況把握が不十分な時に適す。
- 例:現時点では事実関係が判然としないため、調査を続けます。
- 「はっきりしない」を硬質に表す表現。状況把握が不十分な時に適す。
2-5. 専門性・抽象度の高さ(難易度の問題)
- 抽象度が高い
- 具体性に欠け、理解に時間を要する状態を知的に表す。
- 例:抽象度が高いため、現場への落とし込みが難しいです。
- 具体性に欠け、理解に時間を要する状態を知的に表す。
- 前提知識を要する
- 専門的な知識がないと理解が困難な場面で使う。
- 例:この資料は前提知識を要するため、初見では理解が難しい部分があります。
- 専門的な知識がないと理解が困難な場面で使う。
3.まとめ:「分かりにくい」を言い換える力が理解を支える
『分かりにくい』という一語に依存すると、説明の厚みや評価の具体性が失われ、説得力が弱まる。
適切な言い換えを選ぶことで、説明の透明性が高まり、理解の広がりを編み上げていく。
語彙の精度が説明の芯を強め、組織の対話を支えることを改めて意識したい。

