会議やメールで「取るに足りない」と片づけてしまうことは少なくない。
便利な一語だが、使い続けると説明の厚みが削がれ、論点の温度感まで平板になりがちだ。
場面に応じて語を選び直すことが、説得力と信頼を積み重ねる鍵となる。
本稿では「取るに足りない」のニュアンスを整理し、文脈ごとに適切な言い換え語を提示する。
目次
1.『取るに足りない』——便利だが単調になりがちな口ぐせ
一語に頼りすぎると、説明の粒度が粗くなり、数量や影響度の精度が損なわれる。
結果として、分析や議論の焦点がぼやけ、理解を決定づける力を失う。
口ぐせで使われがちな例
- これは取るに足りない誤差です。
- 取るに足りない問題なので放置しました。
- 取るに足りない話題ですので割愛します。
- 今回の不備は取るに足りない程度です。
一語に過度に頼ると、報告や議論の説得力は薄れる。
次章で文脈別に、品位ある言い換えを示す。
2.『取るに足りない』を品よく言い換える表現集
「取るに足りない」を置き換える語は多様にあるが、本稿ではビジネスの場で自然に響き、知的で品位ある印象を与えるものを厳選する。
文脈ごとに活用できる表現を整理する。
状況に応じて言葉を選び直すことで、説明や議論は一段と説得力を増し、信頼を積み重ねる力となる。
核心から外れていることを示す
- 本質的ではない
- 論点や要因が主要テーマから外れていることを冷静に示す。
- 例:今回の指摘は本質的ではないため、主論点にはなりません。
- 論点や要因が主要テーマから外れていることを冷静に示す。
- 二次的
- 主問題に付随する派生的な要素を表す。会議資料で自然。
- 例:コスト増は二次的な問題であり、品質確保が優先されます。
- 主問題に付随する派生的な要素を表す。会議資料で自然。
- 副次的
- メインではない位置づけを端正に示す。文書調に適する。
- 例:影響は副次的であり、判断を左右するものではありません。
- メインではない位置づけを端正に示す。文書調に適する。
- 補助的
- 「副次的」より柔らかく、価値否定を避けられる。
- 例:この要因は補助的で、主な原因は別にあります。
- 「副次的」より柔らかく、価値否定を避けられる。
- 辺縁的な
- 物事の中心から外れた、周辺的な性質であることを示す学術的でも品位のある表現。
- 例:これは辺縁的な事象で、本質的な論点ではありません。
- 物事の中心から外れた、周辺的な性質であることを示す学術的でも品位のある表現。
規模・程度の小ささを示す
- 軽微
- 問題や影響の程度が小さいことを端的に示す。
- 例:今回の変更による影響は軽微です。
- 問題や影響の程度が小さいことを端的に示す。
- 僅少(きんしょう)
- 数量が非常に少ないことを示す。財務や調査報告に適する。
- 例:誤差は僅少であり、実用上は問題ありません。
- 数量が非常に少ないことを示す。財務や調査報告に適する。
- 微小
- 技術的・研究的な文脈で用いられる精密な表現。
- 例:測定値の差は微小であり、結果への影響は生じません。
- 技術的・研究的な文脈で用いられる精密な表現。
- 小規模
- 定量性を伴う影響範囲の小ささを示す。
- 例:不具合は小規模にとどまり、全体への影響は小さいです。
- 定量性を伴う影響範囲の小ささを示す。
- 軽度
- 「軽微」よりやや柔らかく、会議でも自然
- 例:影響は軽度で、特別な対応は不要です。
- 「軽微」よりやや柔らかく、会議でも自然
- 限定的な
- 影響や範囲が特定の部分に限定されていることを示す、客観的で評価的な表現。
- 例:不具合の影響は限定的なもので、評価全体には影響しません。
- 影響や範囲が特定の部分に限定されていることを示す、客観的で評価的な表現。
優先度の低さを示す
- 優先度は低い
- 実務的で誤解が少ない表現。タスク管理に最適。
- 例:この課題は優先度は低いため、次の段階で対応します。
- 実務的で誤解が少ない表現。タスク管理に最適。
- 主要ではない
- 議論や検討の中心から外れていることを穏やかに示す。
- 例:この論点は主要ではないため、参考情報とします。
- 議論や検討の中心から外れていることを穏やかに示す。
- 急を要さない
- 「後回しでよい」を婉曲に伝える。会議やメールで自然。
- 例:この対応は急を要さないため、次回以降に検討します。
- 「後回しでよい」を婉曲に伝える。会議やメールで自然。
- 差し迫った課題ではない
- 角を立てず、穏やかに優先度の低さを伝える
- 例:これは差し迫った課題ではないため、次期に回します。
- 角を立てず、穏やかに優先度の低さを伝える
- 先送り可能な
- 緊急性がなく、延期できることを率直かつ建設的に示す実務的な表現。
- 例:この検討事項は先送り可能なため、主要課題を先に進めます。
- 緊急性がなく、延期できることを率直かつ建設的に示す実務的な表現。
意義・価値の乏しさを示す
- 意義は乏しい
- 目的との整合性が弱いことを品よく伝える。
- 例:この比較を深掘りすることに意義は乏しいでしょう。
- 目的との整合性が弱いことを品よく伝える。
- 成果への寄与は限定的
- 成果や効果への影響が小さいことを専門的に示す。
- 例:本施策の成果への寄与は限定的と見込まれます。
- 成果や効果への影響が小さいことを専門的に示す。
- 判断材料としては弱い
- データや情報の信頼性が低いことを冷静に示す。
- 例:この数値は判断材料としては弱いため、参考値として扱います。
- データや情報の信頼性が低いことを冷静に示す。
- 検討価値は高くない
- 「検討に値しない」より柔らかく、角が立たない。
- 例:この案は検討価値は高くないと判断します。
- 「検討に値しない」より柔らかく、角が立たない。
批評的ニュアンス(限定使用)
- 瑣末(さまつ)
- 文語的で知的。論点整理に限定して使う。
- 例:瑣末な点にとらわれすぎると、本質を見失います。
- 文語的で知的。論点整理に限定して使う。
- 些事(さじ)
- 「些細」より文章的で上品。レポートや論考に適する。
- 例:些事に惑わされず、主要な課題に集中すべきです。
- 「些細」より文章的で上品。レポートや論考に適する。
- 枝葉末節(しようまっせつ)
- 物事の本筋から外れた、取るに足らない細かい事柄を指す、教養を感じさせる表現。
- 例:それは枝葉末節の議論です。まずは主要論点を整理しましょう。
- 物事の本筋から外れた、取るに足らない細かい事柄を指す、教養を感じさせる表現。
3.まとめ:『取るに足りない』を的確に伝える語彙術
「取るに足りない」を上品に言い換えるだけで、説明の輪郭は鮮明になり、議論や報告の説得力は大きく変わる。
語彙の選択が成果を左右し、日々の仕事を確かなものへ導く力となる。

