今回は『とりわけ』を文脈に応じて品よく言い換える方法を整理する。
目次
1.『とりわけ』とはどんな性質の言葉か?
「とりわけ」は、物事の中で注目すべき対象や特徴を際立たせる際に用いられる言葉である。
一方で、話の焦点を示す場面で自然に使われるため、その役割はあらためて意識されにくい。
まずは、この語の輪郭を大づかみに整理しておきたい。
意味のコア
「とりわけ」は、複数の対象の中から特定のものを選び出し、特に重要であることや目立つことを示す言葉である。
単に対象を挙げるだけでなく、比較の中で際立たせたり、意識して焦点を当てたりする含みを持つ点に特徴がある。
実務では、対象を選び出しているのか、評価の高さを強調しているのかなど、認識のずれが生じることもある。
こうした性質を踏まえ、次章では「とりわけ」を言い換える際に使える表現を整理する。
2.『とりわけ』を品よく言い換える表現集
ここからは「とりわけ」を、文脈に応じて品よく・知的に言い換える方法を整理する。
2-1. 多くの中から選び出すとき(選別)
『とりわけ重要だ』『とりわけ注目される』など、数ある対象の中から特定のものを抜き出して示す際の言い換え。
- 中でも
- 複数の選択肢を提示した直後、特定の1点へスムーズに読者の視線を誘導できる実用性の高いナビゲーション語。
- 例:今期の注力分野をいくつか挙げた。中でもアジア市場への展開は最優先事項である。
- 複数の選択肢を提示した直後、特定の1点へスムーズに読者の視線を誘導できる実用性の高いナビゲーション語。
- なかんずく
- 数ある中で特に、を意味する最高峰の知的語彙。論文や改まった報告書で圧倒的な説得力を持つ。
- 例:諸外国との連携を深める。なかんずく近隣諸国との経済協定は早期に締結を要する。
- 数ある中で特に、を意味する最高峰の知的語彙。論文や改まった報告書で圧倒的な説得力を持つ。
- わけても
- 多数の選択肢から1つを際立たせる表現。少し柔らかく、しかし品格を保ったまま強調できる。
- 例:本件は多角的な検証を行った。わけても費用対効果の算出には細心の注意を払った。
- 多数の選択肢から1つを際立たせる表現。少し柔らかく、しかし品格を保ったまま強調できる。
- 殊(こと)に
- とりわけ、を硬質にした表現。ビジネス文書や改まった挨拶状の文頭などで状況を際立たせる。
- 例:本年の冬は寒冷な日が続いた。殊に一月下旬の降雪は物流網に大きな影響を及ぼした。
- とりわけ、を硬質にした表現。ビジネス文書や改まった挨拶状の文頭などで状況を際立たせる。
- 別して
- 他のものと区別して特別に扱う様子。古風ながら、感謝や配慮を伝える場面で格調高く響く。
- 例:皆様には日頃よりご厚情をいただいた。別して佐藤様には格別のご指導を賜った。
- 他のものと区別して特別に扱う様子。古風ながら、感謝や配慮を伝える場面で格調高く響く。
2-2. 他より程度が上と示すとき(卓越)
『とりわけ優れている』『とりわけ差が大きい』など、比較対象と比べて水準が際立っている際の言い換え。
- ひときわ
- 他と比べて目立って優れている様子。文脈を問わず美しく馴染む、ビジネスでの王道の品位語。
- 例:今期の新製品はどれも完成度が高い。本機種の操作性は、その中でもひときわ洗練されている。
- 他と比べて目立って優れている様子。文脈を問わず美しく馴染む、ビジネスでの王道の品位語。
- 格段に
- 比較対象との間に明らかな格式や程度の差があることを、客観的かつスマートに伝える語。
- 例:業務プロセスを見直した。その結果、データ入力に要する時間は格段に短縮された。
- 比較対象との間に明らかな格式や程度の差があることを、客観的かつスマートに伝える語。
- 格別に
- 他とは明確に違う優れた扱いを指す。お礼状や顧客対応で、感謝や待遇の深さを表す際に重宝する。
- 例:長年にわたりご支援を賜った。格別に深いご厚情へ心より感謝申し上げる。
- 他とは明確に違う優れた扱いを指す。お礼状や顧客対応で、感謝や待遇の深さを表す際に重宝する。
- 一段と
- 従来の状態や他者と比較して、さらにレベルや強度が上がる様子をクリアに示す実用語。
- 例:市場の競争は激化している。今後は品質管理の徹底に向け、一段と厳しい基準を設ける。
- 従来の状態や他者と比較して、さらにレベルや強度が上がる様子をクリアに示す実用語。
- 一入(ひとしお)
- これまでの経緯があるからこそ、さらに思いや敬意が強まるという、心情の深まりを品よく添える表現。
- 例:長年の開発プロジェクトが完了した。それだけに、今回の製品化の喜びは一入である。
- これまでの経緯があるからこそ、さらに思いや敬意が強まるという、心情の深まりを品よく添える表現。
- 殊の外(ことのほか)
- 予想していた程度を大きく超えて状態が際立っていることを、知性を保ちながら強調できる言葉。
- 例:新システムの導入準備を進めた。現場からの評価は殊の外高く、定着も順調に進んだ。
- 予想していた程度を大きく超えて状態が際立っていることを、知性を保ちながら強調できる言葉。
2-3. 意識して一点に絞るとき(焦点)
『とりわけ注目したい』『とりわけ重要なのは』など、意図的に特定の論点や重要事項へ焦点を当てる際の言い換え。
- ことさらに
- 意識的に、わざわざそれを選んで、という意味を含み、意図や強調の根拠を明確にしたい場面で活きる。
- 例:現行の方針を維持する。今回、その理由をことさらに説明を設けて共有した。
- 意識的に、わざわざそれを選んで、という意味を含み、意図や強調の根拠を明確にしたい場面で活きる。
- 特段に
- 特定の事情を他と区別して明確に扱い、実務上の例外を定義する際に重宝する表現。
- 例:全体の予算枠は据え置く。特段に経費を要する案件のみ個別で申請を認める。
- 特定の事情を他と区別して明確に扱い、実務上の例外を定義する際に重宝する表現。
- なにより
- 他のどの事項よりも優先すべき最重要点であることを、理性的かつストレートに提示する語。
- 例:新たな事業を展開する。その際、現場の安全性を確保することがなにより重要だ。
- 他のどの事項よりも優先すべき最重要点であることを、理性的かつストレートに提示する語。
- とりたてて
- 主に否定文脈を伴い、他と区別して取り上げるほどのことはない、と知的に一線を画す際に機能する。
- 例:現在の運用状況を確認した。とりたてて問題はなく、現行体制で継続可能と判断した。
- 主に否定文脈を伴い、他と区別して取り上げるほどのことはない、と知的に一線を画す際に機能する。
3.まとめ:『とりわけ』が映し出す着眼点の違い
「とりわけ」は、多くの対象の中から特定のものを際立たせ、注目点を明確に示すための言葉である。
場面に応じて言葉を置き換えることで、何に価値を見いだしているのかまで、より的確に伝えられるようになるだろう。

