第三者効果の心理学 メディアに踊らさる度合い 自分 vs. 他者

第三者効果 
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第三者効果(third person effect)とは「自分より他者のほうがメディアの影響を受けやすい」と考える傾向をいう。

社会心理学の用語の1つだ。

自分以外の人たちは常に情報弱者メディアに踊られされる存在だと思い込んでしまう。

とりわけ、エリート層や専門家といわれる人たちがそう思いがちだ。

(性描写や暴力描写など)社会的に望ましくない情報真偽が不確かな情報から人々を守ろうとメディアに自主規制を強く求めることもある。

専制国家ともなれば、時の指導者がメディアやネット空間を厳しく統制するのはお約束の展開だろう。

ここにも第三者効果が絡んでおり、「市民=情報弱者」というレッテルを貼っているのだ。

目次

第三者効果とは?

自分以外はメディアに踊らされる

第三者効果(third person effect)とは「自分より他者のほうがメディアの影響を受けやすい」と考える傾向をいう。

社会心理学でよく取り上げられる用語の1である。

メディアが報じることに自分は滅多に影響を受けないが、自分以外の人たちは大半が影響を受けると認識しがちとなるのだ。

そう認識するだけにとどまらない。

自分と他者ではメディアの影響力に差があるとの前提に立ち、それを見越した対処行動をとってしまうことすらある。

買いだめ騒動はなぜ起きたのか?

記憶に新しいのは、2020年の春、コロナ禍で起きたトイレットペーパーの買いだめ騒動だろう。

「トイレットペーパーが不足する」という誤った情報がネット上に駆け巡り、実際に全国各地でトイレットペーパーが品切れ・品薄となったのだ。

誤情報だと知っていた人も無関係ではいられなかった。

自分以外の他の人たちは鵜呑みにして買いだめするかもしれない。

結果的にトイレットペーパーが店頭から消えてしまうかもしれない。

そんな懸念から自分もまた買いだめに走ってしまったのだ。

この買いだめ騒動に関しては「放送研究と調査」(2020.7)で詳しい検証が行われている。

その調査結果によれば、「トイレットペーパーが不足する」などのうわさを見聞きした人は全体の61%に達した。

実際に買いだめをした、あるいはしようとした人にその理由を聞くと、半数近くが「自分はうわさはデマだと分かっていたが、『うわさを信じた人が多めに買えば、結果的に不足してしまう』と思ったから」と答えていた。

第三者効果が生じ、対処行動への強い衝動を掻き立てたといえよう。

第三者効果は誰がどう唱えたか?

発端は W. P. Davison の論文

この第三者効果は米国の社会学者であるW. P. Davisonが1983年に発表した論文「The third person effect in communication」に端を発している。

その論文には第三者効果の提唱に至った、その根拠となる調査の分析結果がいくつか報告されている(正木 2020)

たとえば、ある調査ではニューヨーク州知事選挙の直後、コロンビア大学の大学院生に選挙中のイベントやデモが「自分」「一般的なニューヨーク市民」にどの程度影響を与えたかを尋ねている。

選挙中のイベントやデモ
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知事選投票
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すると自分よりも一般的なニューヨーク市民のほうが影響を受けたと答えた比率が高かったという。

また、別の調査では、やはり大学院生を対象に「子どもの頃の自分」「他の子ども」とでは、テレビCMを見て宣伝されている商品を両親にねだる可能性はどちらが高いかを尋ねた。

その結果、子どもの頃の自分よりも、他の子どものほうがテレビCMに影響され、商品の購入を両親にねだると答えたのだ。

いずれも、自分より他者のほうがメディアの影響を受けやすいという第三者効果を裏付ける結果となっている。

大統領の不倫問題への関心度

実際の米国の有力メディアが行った世論調査にも第三者効果を垣間見ることができる。

たとえば、1998年のCBSニュースの世論調査では、当時大きく報じられていたクリントン元大統領とホワイトハウス実習生との不倫問題に関心があると答えた人は7%に過ぎなかった。

ところが「ほとんどの人が関心を寄せていただろう」と答えた人は25%、「ほとんどの人がある程度関心を寄せていただろう」と答えた人は49%に上ったという(田中洋 2007.1)

他者へのメディアの影響が過大評価されやすいことが見てとれる。

原因に自己奉仕バイアス

メディア影響度の4パターン

正木の論文(2020)によれば、仮にテレビから自分や他者が影響を受ける度合いの見積もり(推定や予測の意)を図にすると以下のような4つのパターンが考えられるという。

縦軸は他者がテレビから受ける影響の見積りでざっくりと「高」「低」とし、横軸は自分がテレビから受ける影響の見積りでやはり「高」「低」とする。

メディアから受ける影響の見積りのパターン
正木誠子「第三者効果とメディア影響の推定がメディアに対する態度や行動に与える影響に関する考察」

この4象限で考えると、第三者効果はもっぱらは「A」の事象を指し、自分が受ける影響は低く、他者が受ける影響は高いと判断しているということになる。

ある調査によれば全体の6割がこの「A」に該当したという。

テレビといえばマスメディアの代表格で、新聞や雑誌、ラジオに比べても広く、遍(あまね)く、到達するメディアである。

自分も他者も同程度に影響を受けると認識する「B」がもっといてもいいはずだ。

うがった見方をすれば、「A」の人たちは自分は世間一般の人たちとは違ってメディアリテラシー(メディアを主体的に読み解く力)を磨いているとの自負があるとの捉え方もできそうだ。

自分に都合よく解釈する心理

実は、第三者効果が生じる背景には一種の認知バイアスが絡んでいるという(鈴木 2020)。

それが「自己奉仕バイアス」self-serving bias)だ。

自己奉仕バイアスとはあくまで自分本位で自分の都合のよいように解釈しがちなことを指す。

たとえばもし投資で成功したなら自分の能力の高さ(内的要因)によるもので、失敗に終わればたまたま運を悪かった(外的要因)などと都合よく考えてしまう。

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第三者効果でいえば、あくまで自分にはメディアの発する情報を見極める力があるが、自分以外の人たちはその能力が乏しく踊らさる人もいるだろうと推し量ってしまうのだ。

いけ好かないうぬぼれ屋さんだけに起こることではない。

ごくふつうの善良な人でもそう捉えてしまう。

自分に都合のよい幻想に浸っていたほうが自尊心を高く保てるということがあるらしい(稲増 2022)

第三者効果と対処行動

善意のツィートが仇(あだ)に

第三者効果が少しやっかいなのは、他者に対するメディアの影響を大きく見積もったことで、自分もまた、それに対処しようとすることである。

結果的に自分にもメディアの影響が跳ね返ってきて、他者の行動を追随してしまうのだ。

冒頭のトイレットペーパーの買いだめ騒動に話しを戻そう。

「トイレットペーパーが不足する」というSNS上の書き込みが誤情報と認識していたにもかかわらず、実際に買いだめをした人たちがいた。

これもメディアの影響を受ける、すなわち誤情報に振り回される人たちが一定数いることを見越した対処行動といえるだろう。

日本経済新聞の記事(2020. 4.5)によれば、発端となったX(旧ツイッター)の誤情報の投稿自体はほとんど拡散されることはなかったらしい。

ところが、その誤情報を(おそらく善意から)打ち消す投稿が急増し、わずか半日で累計9万を超えたという。

Xのトレンド入りも果たし、たちまちテレビのニュース番組でこぞって報じられるようになる。

リツィートの回数もその後35.7万回に達したという(朝日新聞 2022.5.14)

ほとんど拡散されずにいた誤情報が図らずも広く知れわたることになり、人々の不安を掻き立て、買いだめ騒動に至ったのだ。

ありていにいえば、誤情報と知っていた人たちの親切心や利他心がかえって仇(あだ)になってしまった。

第三者効果の「行動仮説」とは?

ウィキペディア(Wikipedia)には、第三者効果の知覚仮説と行動仮説として以下が挙げられている。

  • 知覚仮説
    • マスメディアで説得的なコミュニケーションにさらされた人物は、自分自身よりも、同じコミュニケーションを受けた他人の方が大きな影響を受けると考える
  • 行動仮説
    • マスメディアの視聴者は、自分以外の第三者はメディアに悪しき影響を受けやすいと考え、マスメディアへの規制を支持しやすくなる

ここで注目するのは「マスメディアへの規制を支持」という行動仮説だ。

社会的に望ましくないメッセージや公平性を欠いたメッセージに(児童や青少年など)影響を受けやすい人たちもいると考え、メディアが発する情報に検閲や規制を望むのだ。

その対象は性描写や暴力描写、タバコやアルコール飲料の広告、あるいは過激なラップの歌詞などに及ぶという。

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フェイクニュース
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最近ならフェイクニュースもやり玉に上るだろう。

BPOに届くテレビ番組批判

そうした声の受け皿となる組織の1つに放送への苦情や放送倫理上の問題に対処する「放送倫理・番組向上機構(BPO)」がある。

斎藤(2016)の論文にはBPOに届いた視聴者からの意見を包括的に分析した結果が報告されている。

たとえば、テレビの報道番組(ニュース番組やワイドショーなど)に対しては「偏向報道や情報操作に感じる」「一面的、興味本位に感じる」などの意見が多く寄せられていたという。

一面的、興味本位に感じる報道 偏向報道
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その後、第三者効果の関連を調べた調査(斎藤、2018)では、第三者効果の傾向が強い人テレビの報道番組に批判的になりやすいことがわかった。

なお、調査対象者の第三者効果傾向の強さは以下の3つの尺度で測定している。

それぞれどれぐらい影響を受ける可能性があるかを自分と他者にわけて尋ねて、スコア化することで導き出したという。

  • 虚偽報道の影響を受ける
  • 真偽がわからない情報に振り回される
  • 犯罪の手口を詳細に報じるニュースをみて模倣する

エリート層や専門家に顕著な効果

常にメディアが標的となるワケ

ここまで第三者効果の説明では、あくまで一般の人たちを想定してきた。

しかし、第三者効果の傾向が顕著な人たちといえば、実はエリート層や専門家といわれる人たちらしい(安野 1996)

エリート層や専門家
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こうした社会的地位の高い人たちは一般の人たちを「情報弱者」とみなし、メディアが発信する情報に踊らされると認識しやすいのだ。

やがてオピニオンリーダーとなって、メディアの悪しき影響が人々に及ばないようにメディア側に自主規制を促したりすることもある。

その1つの例が映画業界の自主的な審査機関である「映倫(映画倫理機構)」による「PG12」「R15+」などのレーティング区分(年齢制限)だろう。

もちろん、専制主義的な国家など、国よっては市民がメディアに扇動されやすいことを見越し、厳しい情報統制を社会の隅々まで敷くといったケースも考えられるだろう。

たいては治安維持が名目となる。

一方、行政や企業が災害や不祥事などで危機対応を迫られた際にも第三者効果が発露されやすいという。

吉川(2007)によれば、組織を束ねるトップや専門家が記者会見を開く際メディアへの対応がことのほか重視されるという。

不祥事などで危機対応 謝罪会見

その先にいる本来の当事者である顧客や住民が見えなくなってしまうことも珍しくない。

この現象もやはり、自分の以外の人たちはメディアの影響を受けやすいという第三者効果が痛烈に効いている。

それゆえ、メディアのコントロールが最優先という発想に立ってしまうのだ。

米軍を撤退させた日本軍のプロパガンダ

この第三者効果の提唱者であるW. P. Davisonも、第三者効果の一例として第二次世界大戦中の歴史的事実を挙げている(安野 1996)

硫黄島で日本軍が米軍のある連隊の黒人兵に「日本兵は同じ有色人種である黒人兵とは戦わないから降伏するように」というビラを配ったという。

いわゆるプロパガンダ(宣伝工作)に打って出たのだ。

するとこの連隊を統率していた白人の司令官が撤退の決断をする。

この一件では、ビラの内容が黒人兵に直接的な影響を与えたは考えにくいらしく、白人の司令官が黒人兵たちがプロパガンダに影響を受けると過大に見積もったためだとの解釈がなされている。

もし、それが本当なら、第三者効果が連隊の撤退という対処行動を引き起こしたことになる。

第三者効果の思わぬ落とし穴

そして、もう1つ、この第三者効果には思わぬ落とし穴がある。

先にも触れたが、第三者効果は自分に都合のよいように解釈する自己奉仕バイアスが要因となる。

自分には他者より優れた能力があると考えることで自尊心を保っていられるためだ。

他者を弱者と見ることでちょっとした自己高揚感が味わえるからだろう。

しかし、「自分は大丈夫」との自覚が度を超すと過信や慢心につながる。

メディアが発する情報の真偽確認を怠ってしまい、他者を弱者と見下していた自分に、メディアの刃(やいば)が向かってきてしまうのだ。

実際、昨今では第三者効果の意味合いが拡張され、「自分は他者よりもトラブルや犯罪の被害にあいにくい」リスクを楽観視する心理の要因としても第三者効果が着目されている(木村 2022)

とりわけ自分を「もの知りだ」と自負している人ほど警戒すべきだろう。

特定の分野で知識を蓄えてきたという慢心からガードが甘くなり、メディアの影響を受けないどころか、かえって自分が煮え湯を飲まされることにもなりかねないのだ。

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