「生ジョッキ缶」売れた理由 “じらす” SNSマーケティング 販促の成功事例に

スーパードライ 生ジョッキ缶
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2021年を代表する大ヒット商品となったアサヒビールの「スーパードライ 生ジョッキ缶」。

フルオープンとなる缶のフタを開けた瞬間、きめ細かな泡が自然にあふれ出し、ジョッキで飲む生ビールのような感覚が味わえる。

そのインパクトがビールになじみの薄い若者層を惹きつける。

意表を突く商品自体の魅力だけではない。実は大ヒットの背景では、映画の “先行試写会” を模したSNSプロモーションが火付け役となっていたのだ。

目次

開けた瞬間に生ジョッキのうまさ

アサヒビールの「スーパードライ 生ジョッキ缶」が2021年上期を代表する大ヒット商品となった。

21年4月初旬にコンビニエンスストアで先行発売されるや否や、たちまち人気に火がつき、SNSでも話題が沸騰

初回の出荷分は即完売となり、一時的に販売休止に追い込まれる。

その後も生産体制が思うように整わなかったことから、膨らむ需要に供給が追い付かず、数量限定で月に1度程度の発売が続いている。

そのため母体であるアサヒビールの業績を大きく牽引するほどではなかったが、「生ジョッキ缶」は空前のヒットとして注目を集め、日経MJ(Nikkei Marketing Journal)の2021年上期ヒット商品番付にも選ばれている。

では「生ジョッキ缶」とはそもそもどんな商品なのか? 

その答えを端的に表すのが「日本初。 開けた瞬間、まるで生ジョッキのうまさ。」というキャッチフレーズだ。

缶のプルタブを抜くと、フタがフルオープンになり、大きく開いた飲み口からきめ細かな泡が自然にあふれ出す。

フタが全開になるためゴクゴクと飲め、ほんのりとした麦芽の香りも楽しめる。

クリーミーな泡の視覚効果も手伝って、まさに飲食店でビールジョッキに注がれるような感覚に襲われるという。

「映え消費」が20~30代を惹きつける

味自体は従来のスーパードライとなんら変わらない。

しかし、コロナ禍で巣ごもりが長引く中、ビールの缶をプシュッと開けるだけでちょっとした “ハレの日” 気分が自宅で味わえるのだ

そんな格別な体験は、SNS上で恰好のシェア対象となった。動画や画像を添えた投稿も急増する。いわゆる「映え」を狙えたためであろう。

実はこの「生ジョッキ缶」は百発百中で自然発泡するとは限らないようだ。

同ブランドの公式サイトには泡がうまくでない、あるいは泡がふきこぼれる場合の対応法の説明もある。

消費者にとっては、その危うさ、不確実さも含めて体験価値なのだろう。

2021年6月2日付のBusiness Journalの記事には「生ジョッキ缶」のターゲットはビールになじみの薄い20~30代の層とある。

たとえビールに興味がなくても手を伸ばしてもらえるビールを目指したのだ。

“モノ” の所有より体験やつながりといった“コト” を重視する若い世代には、期せずして大定番のスーパードライブランドが打ち出した新機軸がピタッとはまったようだ。

SNSで拡散、堰(せき)を切るような話題量

Googleで検索する限り「生ジョッキ缶」に特化したテレビCMの痕跡はない(2021年10月時点)。

おそらく生産が追い付かず、CMを打ちたくても打てなかったのだろう。

アサヒビールにとっても夏の最需要期に攻勢を仕掛けられなかったのは大きな痛手だったに違いない。

しかし、その一方で、同社はSNS上での話題醸成という点では確かな手応えを得る。

2021年7月19日付のAdverTimes(アドタイ)の記事には、同年2月から6月までのツイッターにおける「生ジョッキ缶」を含む話題量の推移グラフが掲載されている。

発売月の4月には爆発的な話題量に達していたことが、そのグラフからは如実に見て取れる。

「生ジョッキ缶」はSNS上で若い世代が盛り上がれる条件をいくつも満たしていた。

かつてない「日本初」の試みであり、しかも聞いたことのない新興のブランドではない。

誰もが知る、往年のブランドがそれをやってのけたのだ。

クリーミーな泡があふれ出すフォトジェニックな消費も楽しめ、思わずシェアをしたくなるワクワク感が伴う。

わざわざグラスに注ぐ手間のいらない「手軽さ」もシェアの輪を飛躍的に広げることに一役買ったはずだ。

だからといって、アサヒビールは “自然発生の投稿” が日々増えるのを黙って見守っていたわけではない。

実はSNS上で話題を喚起するシナリオを周到に仕組んでいたのだ。

先行試写会型SNSキャンペーンが生んだ「ティーザー効果」

前述のBusiness Journalの記事によれば、フォロワーを多く持つインフルエンサーたちも含め、2,000人前後の人たち発売前に「生ジョッキ缶」を試飲してもらったという。

Googleで検索をかけると出てくるが、「生ジョッキ缶 発売前に飲める フォロー&リツイート」というツイッターを介したキャンペーンもその一つなのだろう。

映画でいう先行試写会のように、発売前に試飲する機会を得た幸運な先行組が、画像や動画とともに「生ジョッキ缶」の体験談を次々に投稿する。

アサヒビールはさらに、同商品が動画映えすることからユーチューブやインスタグラムなどにも攻略の場を広げていく。

スーパードライの缶からモコモコと泡があふれる様子を目の当たりにすれば、フォロワーやその投稿をたまたま見かけた人たちも興味をそそられずにはいられない。

普段は滅多にビールは飲まないが「生ジョッキ缶」なら実際に“試してみたい”と強い衝動にかられた若い世代もいたはずである。

しかし、即買いとはいかず辛くも発売日まではお預けとなるのだ。

情報を小出しすることでかえって興味が引かれることをティーザー効果というが、「生ジョッキ缶」ではその効果がてきめんとなった。

先に触れたツイッター上の話題量グラフでは、その話題量が発売直後に堰(せき)を切ったように跳ね上がっている。

心待ちにしていた人たちが一斉に買って試したのだろう。それは評判が評判を呼ぶ好循環が自走し始めた瞬間でもあったのだ。

いかに「クリティカル・マス」を超えるか?

雪崩 クリティカルマス
雪崩 クリティカルマス
雪崩 クリティカルマス

こうした好循環が生まれるしくみを説明するのに使えるのが、クリティカル・マスの概念だ。

「臨界質量」とも訳され、本来は核分裂の連鎖反応が自律的に維持されるのに最小限必要な質量のことを意味するらしい。

同様にビジネスの世界でも、事業の成長を維持するのに「最小限必要な規模」の意味で使われる。

また、クリティカル・マスを臨界“点”、その分岐点に焦点を当て、商品やサービスの普及、あるいはブランドやタレントの人気が一気に加速する「ブレイクポイント」を指すこともある。

身近な例でいえば、交通量の比較的少ない道路に設置された歩行者用の信号があるだろう。

赤信号でもそそくさと渡ろうとする歩行者はほんの一握りだが、そのうちその先駆者を追随する人たちが現れる。

その追随者がある一定の人数(クリティカル・マス)を超えると、信号無視をする気などなかった人たちまで尻馬に乗って渡ろうとする。

やがて「赤信号、みんなで渡れば怖くない」の集団心理に行き着くのだ。

はじめが肝心! 大ヒットの決め手は初速の喚起

「生ジョッキ缶」では、意表を突く商品自体の魅力もあったが、発売前に2,000人もの参加を募ったモニターキャンペーンが効果的だったのは間違いない。

クリティカル・マスの確保を加速させ、その気のなかった人たちまで動かしたのだ。

インフルエンサーマーケティングは今や手法としてすっかり定着している。

何もインフルエンサーは著名人や有名ユーチューバーとは限らない。

特定の得意分野を持ち、フォロワー数が数万人から数千人規模のマイクロ・インフルエンサーを絡めたキャンペーンも耳目を集めるようになってきた。

とりわけ新商品は初動の喚起がその後の行く末を左右する。

「生ジョッキ缶」の事例はクリティカル・マスに到達するための一つの道筋として大いに参考になるだろう。

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