今回は『そもそも』を文脈に応じて品よく言い換える方法を整理する。
目次
1.『そもそも』の一語に寄りかかる弊害
「そもそも」は便利な抽象語だが、頼りすぎると論点の切り分けが曖昧になり、説明の厚みや説得力が弱まってしまう。
起点なのか、本質なのか、前提の誤りなのか——本来分けて語るべき論点が一語に吸収され、「評価の具体性」も失われていく。
こうした“言葉への頼りすぎ”がにじむ場面を見てみたい。
口ぐせで使われがちな例
- 今回の遅延は、そもそも要件定義が曖昧だったことに起因します。
- 企画が迷走したのは、そもそも目的が共有されていなかったためです。
- トラブルが続くのは、そもそも体制設計に無理があったからです。
- この議論がかみ合わないのは、そもそも前提が異なるためでしょう。
- 成果が伸びないのは、そもそも指標設定が適切でなかったからです。
並べてみると、“そもそも”という定番に寄りかかり、表現の奥行きが薄れていたことが見えてくる。
そこで次章では、表現の幅を取り戻すための言い換えを文脈別に整理する。
2.『そもそも』を品よく言い換える表現集
ここからは「そもそも」を 5 つのニュアンスに整理し、文脈に応じて品よく・知的に言い換える方法を提示する。
2-1.【当初・元来】時間軸の原点に戻る
「そもそも=最初から/もともと」という最も素朴で直感的なニュアンス。
- 当初より
- 計画や方針の“最初の状態”を丁寧に示すフォーマルな表現。
- 例:本件は当初より顧客体験の向上を最優先に据えて進めてきました。
- 計画や方針の“最初の状態”を丁寧に示すフォーマルな表現。
- 元来
- 物事が本来持つ性質や成り立ちを示す、知的で落ち着いた語。
- 例:この制度は元来、中小企業の資金繰りを支援する目的で設計されました。
- 物事が本来持つ性質や成り立ちを示す、知的で落ち着いた語。
- もともと
- 平易で使いやすく、口頭・書面どちらにも馴染む中立的な表現。
- 例:この施策はもともと若年層の利用促進を狙って導入されたものです。
- 平易で使いやすく、口頭・書面どちらにも馴染む中立的な表現。
2-2.【本質・根源】核心やあるべき姿を突く
「そもそも=本質的には/あるべき姿は」という“深い問い直し”のニュアンス。
- 本来は
- 理想やあるべき姿を示し、現状とのズレを丁寧に指摘する語。
- 例:このプロセスは本来は自動化を前提に設計されているはずです。
- 理想やあるべき姿を示し、現状とのズレを丁寧に指摘する語。
- 本質的には
- 表層ではなく“核心”に焦点を当てる、最も知的な言い換え。
- 例:本質的には、今回の課題は情報共有の不足に起因しています。
- 表層ではなく“核心”に焦点を当てる、最も知的な言い換え。
- 構造的には
- 仕組みや制度の構造そのものに原因があることを示す分析的な語。
- 例:国内市場は構造的には固定費が高く、価格転嫁が難しい特徴があります。
- 仕組みや制度の構造そのものに原因があることを示す分析的な語。
- 端的に申し上げれば
- 詳細を省き、核心だけを簡潔に述べる最敬体の表現。
- 例:端的に申し上げれば、現行フローには改善余地が大きく残っています。
- 詳細を省き、核心だけを簡潔に述べる最敬体の表現。
2-3.【起点・前提確認】議論のスタート地点を置く
「そもそも=話の土台を整える」という、ビジネスで最も使いやすい機能。
- 前提として
- 議論の土台を明確にし、認識のズレを防ぐ最も汎用的な語。
- 例:前提として、本提案は既存顧客の維持を主目的としています。
- 議論の土台を明確にし、認識のズレを防ぐ最も汎用的な語。
- 立ち返りますと
- 混線した議論を品よく原点に戻す、格調高い表現。
- 例:立ち返りますと、本プロジェクトの目的は品質向上にあります。
- 混線した議論を品よく原点に戻す、格調高い表現。
- 出発点として
- 議論のスタートラインを示し、話の流れを整える語。
- 例:出発点として、まず顧客要望の優先順位を共有いたします。
- 議論のスタートラインを示し、話の流れを整える語。
- 遡(さかのぼ)れば
- 現状の背景にある“過去の起点”を示す、やや物語性のある語。
- 例:遡れば、この取り組みは現場の声を受けて始まったものです。
- 現状の背景にある“過去の起点”を示す、やや物語性のある語。
2-4.【論点整理・立て直し】迷走した議論を救う
「そもそも=何を話すべきか」を再定義する、会議で最も役立つ機能。
- 論点を確認しますと
- 議論の焦点を明確にし、場を整える実務的な表現。
- 例:論点を確認しますと、優先すべきは納期より品質確保です。
- 議論の焦点を明確にし、場を整える実務的な表現。
- 問いを立て直すと
- 思考の枠組みを変え、議論を建設的に再構築する語。
- 例:問いを立て直すと、本当に解決すべき課題は別にあります。
- 思考の枠組みを変え、議論を建設的に再構築する語。
- 観点を変えると
- 別角度から本質を捉え直す、柔らかく知的な表現。
- 例:観点を変えると、この施策は長期的な価値創出に寄与します。
- 別角度から本質を捉え直す、柔らかく知的な表現。
- 論旨を整理すれば
- 散らかった議論を一本にまとめる、ややまとめ寄りの語。
- 例:論旨を整理すれば、方向性は二案に集約されると言えます。
- 散らかった議論を一本にまとめる、ややまとめ寄りの語。
2-5.【批評・前提再検討】角を立てずに前提を疑う
「そもそも=前提そのものを見直す」という、最も高度な使い方。
- 前提そのものを検討しますと
- 相手を否定せず“前提”に焦点を当てる、最も上品な批評語。
- 例:前提そのものを検討しますと、この指標は現状に適合していません。
- 相手を否定せず“前提”に焦点を当てる、最も上品な批評語。
- 目的の設定を見直すと
- ゴールの妥当性を問い直し、議論を上位概念から整理する語。
- 例:目的の設定を見直すと、投資判断の基準自体を再考すべきです。
- ゴールの妥当性を問い直し、議論を上位概念から整理する語。
- 根本的な疑問として
- 原点に立ち返り、丁寧に疑義を提示する柔らかい表現。
- 例:根本的な疑問として、この施策は顧客価値に直結しているでしょうか。
- 原点に立ち返り、丁寧に疑義を提示する柔らかい表現。
- 率直に申し上げて
- 「実は…」という本音を上品に切り出す、態度表明寄りの語。
- 例:率直に申し上げて、現行の体制では十分な対応が難しいと感じています。
- 「実は…」という本音を上品に切り出す、態度表明寄りの語。
3.まとめ:『そもそも』を超える語彙の選び方
「そもそも」に一語で寄りかかると、起点と本質、前提の違いがぼやけ、論旨の精度が落ちてしまう。
文脈に応じて言い換えを選ぶことで、議論の筋道や意図の違いが立ち上がり、思考の透明度が高まる。
適切な表現が論理の輪郭を整え、対話の可能性を静かに形づくっていくことを心に留めたい。

