スノッブ効果 マーケティングの一矢に「逆張り」の心理 

スノッブ効果
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「スノッブ効果」とは商品が市場に広く出回るようになると、購買意欲が低下してしまう心理効果をいう。

「みんなが持っているなら、そんな商品はもう要らない!」という寸法だ。

この心理を逆手に取り、「希少性」を打ち出すことで購買意欲を掻き立てることも可能となる。

期間や数量、地域を限定した販売がその例である。

しかし、実は一方で「スノッブ効果」を狙ってより中長期の視点に立ち、ブランドのポジショニング戦略に「スノッブ効果」を絡めることで人気に火を付ける、そんなやり方もあるのだ。

目次

スノッブ効果とは?

身につけているものが周囲の人とかぶり、気まずい思いをする。そんな経験を持つを人は少なくないだろう。

着ている洋服が全く同じということもまれに起こり得るが、ブランドごとにそれほどバリエーションのないような、財布やバッグ、スマートフォンのケース、スニーカー、柄タイツ、香水などは案外油断ならない。

人とかぶっていることにふと気づかされ、なんとなく居心地の悪い思いをしてしまうことも多いのだ。

今回取り上げる「スノッブ効果」は、そんな人とかぶるのを嫌う心理と密接に関係する。

端的に言えば、商品が市場に広く出回るようになると、購買意欲が低下してしまう心理効果をいう。

みんなが持っているなら、自分はあえて買わない、使わないという人が一定数出てくるという現象だ。

スノッブ効果

なぜ逆張りを好む心理

広く普及した商品なら、それだけ評価されているのだろうし、安心感もあり、かえって購買意欲が高まるのではないか? 

当然そう考える人もいるだろう。

しかし、自分の個性を大事にしたい人たちにとっては、万人が商品を使い始めると、その商品を使う自分もまた、その万人の一員になったように思えてしまう。

アイデンティティが脅かされるようで気分がよくないのだ。

当然、商品に魅力は感じなくなる。

そこで市場の相場やトレンドには逆らった商品をあえて選ぼうとする。

逆張りで差をつけようとするのだ。

マーケターの視点に立てば、万人とは一線を画そうする心理を上手に刺激することで購買意欲を高めることができるといえよう。

粋で都会的なスノッブな人

ファッションの世界では「スノッブな人」という言い方もするらしい。

単に人とかぶりたくないというだけではない。

品格にはやや欠けるものの、粋、オシャレな都会的な感性の持ち主を指す(FASHION PRESS)

モダンな都市文化とマッチし、たとえばデニムやフェイクレザーであっても粋にさらりと着こなす人たちだ。

その粋なスタイル全般を指して「スノビズム」ともいうようだ。

都心部などでもよくみかえる、ややブルジョアな雰囲気が漂う個性的なセレクトショップはこの「スノビズム」の路線の沿っって市場を開拓してきたといえる。

スノッブの由来とは?

「スノッブ(snob)」という言葉自体、耳にする機会はさほど多くはないが、辞書によれば紳士や教養人を気どるような人たちを指すらしい。

「ワインスノッブ」といえば、かなりのワイン通で、その知識をやたらと披露したがるちょっと鼻につく人たちとの意味がある。

スノッブ

一方、前述したようにファッションの世界で「スノッブ」といえば、比較的ポジティブな意味となる。

もともと「スノッブ」は、19世紀に入って産業革命が進展した時期に、低い身分から成り上がった人たちが、一般庶民と差をつけようと、上流階級の紳士淑女の服装や持ち物、趣味、娯楽をまね、うわべを取り繕う行為に端を発しているという。

それゆえ、「スノッブ(snob)」には「紳士気取り」や「えせ紳士」という訳語が当てられている。

そんなスノッブな人たちが恐れることは何か? 

上流階級になりすまそうと愛用してきた商品を、見下していた庶民たちが同様に使い始めることである。

そこでスノッブな人たちは一般庶民に改めて差をつけようと、それらの商品を使うのをやめ、上流階級を象徴する別の商品を探すようになるのだ。

こうした後からやってくる人たちに追随されるのを嫌い、差別化を望む心理は、現代社会においても消えてはなくならない。

ちょうど商品が普及期に入り、市場に蔓延(まんえん)し始めた頃が狙い目といえる。

機を見るに敏なマーケターたちは「スノッブ効果」によって購買意欲を引き出すチャンスを幾度となく嗅ぎつけてきたのだろう。

期間・数量・地域限定

安直なやり方ではあるが、「スノッブ効果」を引き出すのにもっとも手っ取り早い方法は、商品が本格的に出回る前を狙って「希少性」を打ち出すことだ。

たとえば数量限定で商品の先行予約を受け付けるケースがその典型だろう。

まだ誰も手にしていない商品を先取りできるため、自分以外の大勢の人たちと差別化ができる。ちょっとした優越感、特別感が味わえる。

先行予約の形をとらなくても、販売する期間や数量、地域を限定することで希少性をアピールするのも有効だろう。

とある実験では全く同じ商品でも希少性の演出によって価値が高まるという結果も出ている。

ステファン・ウォーチェルという社会心理学者が行った実験で、被験者に瓶に入ったクッキーを食べさせ、その味を評価してもらった。

被験者は2つのグループに分かれており、グループAには、10個のクッキーが入った瓶を、グループBには2個のクッキーが入った瓶をそれぞれ渡して味見させたのだ。

すると全く同じクッキーだったにもかかわらず、グループB、すなわちわずかな個数の瓶から選んだグループの方が味を高く評価したという。

希少性の打ち出し方次第で、人の味覚にまで影響を与えてしまうのだ。

こうした限定販売などの方法で希少性を高め、人気を博した例はマーケティングの世界では枚挙にいとまがない。

トレーディングカードやフィギュアなどのコレクターズアイテムや、アパレルやスニーカーブランドの限定アイテムはその典型だろう。

なかなか手に入らないものを自分はゲットできたという、「選ばれし存在」という特別感がスノッブな心理をくすぐるのだ。

限定商品の最高峰、スターバックス「47 JIMOTO フラペチーノ」

ここで期間限定と地域限定の合わせ技で人気を集めた例を一つ挙げよう。

スターバックスが都道府県ごとに期間限定で販売した「47 JIMOTO フラペチーノ」だ。

日経クロストレンドの2021年10月19日付の記事によれば、スターバックスが地域とのつながりを深化させる取り組みの一環で行われたキャンペーンだという。

東京なら「東京 オリジン コーヒー ジェリー キャラメル フラペチーノ」、神奈川なら「神奈川 サマーブルー クリーム フラペチーノ」、埼玉なら「埼玉 多彩玉 ストロベリー&シトラスフラペチーノ」とそれぞれ都道府県ごとにオリジナルのフラペチーノが期間限定でメニューに加わる。

材料がなくなり次第販売終了となるため、希少性はいっそう強くなる。

地元愛の表明に加え、限定メニューを首尾よく手にしたプチ自慢、そこに消費の刹那性も絡んだことで、このキャンペーンはSNSで多くの反響を呼んだという。

19世紀に誕生したスノッブな人たちが、一般庶民から追随されるのを嫌うことは先に述べた。

しかし、そうした人たちがもっとも恐れるのは、芯からの上流階級の人たちにあからさまに後れをとることだ。

それゆえFOMO(Fear Of Missing Out=取り残される恐れ)の心理が常に刺激されやすい状態にあるといってよい。

だからこそ、上流階級御用達の商品はどうしても手に入れたい。機会を逸したくない。

現代社会においても、スノッブな人たちの潜在的な恐れは変わらないだろう。

売り手側の常套手段だと分かっていても、スノッブな人たち限定商品に飛びついてしまう根底にはこのFOMOの心理があるのだ。

「スノッブ効果」を絡めたブランドのポジショニング戦略

さて、ここまで期間や数量、地域を限定し、希少性をアピールすることで、スノッブな心理を刺激し、購買意欲を掻き立てることを見てきた。

しかし、「スノッブ効果」は一時的な販促キャンペーンでのみ発揮される効果ではない。

より中長期的な視点で、ブランドのポジショニング戦略にもスノッブ効果を絡めるやり方もあるのだ。

ここからは、大衆受けするブランドとは一線を画し、アンチメジャーなブランドのポジショニングによって、スノッブな人たちを惹きつける、そんな例をいくつか挙げてみよう。

筆頭はアップルだ。

スノッブな心理を巧みに突いて、スターダムを駆け上がった代表的なブランドといえる。

同ブランドは1984年に、女性ランナーがハンマーを独裁者に向かって投げつけるというCMを放送している。

その映像はあまりにも衝撃的で、もはや伝説として語り継がれているといってよい。

アップルの「マッキントッシュ」の登場で、PC(パーソナルコンピューター)時代の幕開けを宣言する内容であり、当時のコンピューター業界を席捲していたIBMを強権的な独裁者になぞらえている

この時からアップルは反逆児的なイメージをまとい、スノッブな人たちを虜にしてきた。

エッジのきいた、メインストリームに与しない姿勢が熱狂的なファンを生んだのだ。

日本でいえば「裏原宿(裏原)系」ファッションのブランドがそうだろう。

1990年代に一躍人気となった「アンダーカバー」と「ア・ベイシング・エイプ」などのブランドである。

当時の裏原宿は賃料が比較的安く、若いデザイナーたちが拠点を構えやすく、そこから個性的なブランドが起ち上がり、ファッション感度の高い若者たちを惹きつけたのだ。

路地裏でしか買えず、大手アパレルにはない異端な雰囲気が若者たちのスノッブな心理に火をつけたのである。

ほかにもメジャーを嫌う心理を突いて成功を収めたブランドはいくつもある。

「よなよなエール」「インドの青鬼」「水曜日のネコ」など、ユニークな商品名のクラフトビールを展開するヤッホーブルーイング、自然な風を再現する扇風機や高級トースターなどを手掛けるデザイン家電メーカーのバルミューダなどがその例だろう。

レッドブル一強だったエネジードリンクの市場に風穴を開けたアサヒ飲料の「モンスターエナジー」も実はそうだ。

レッドブルよりもさらに下の年代層をターゲットに、その層に刺さるエクストリームスポーツや音楽、ゲームなどのコンテンツにプロモーションの一環で盛んに協賛する。

レッドブルのようにテレビCMには頼らない。

やがてトップブランドに迎合するのを潔しとしない若者たちの心を掴んだのだ。

ジムニーにZARA、ノースフェイス、スノッブな人たちを狙い撃つ

本ブログでもスノッブ効果を引き出して人気を集めているブランドをいくつも取り上げている。

その序列のトップはスズキの「ジムニー」だろう。

軽自動車で四輪駆動、生粋のオフローダーという、ライバル不在の唯一無二性で、否応なしにスノッブな心理をとらえる。

ユーザーの支持は熱く、その多くが他の車種を一切検討せず「ジムニー一択」で購入しており、その人気はもはやカルト的な域に達しているといってよい。

一見するとメジャーでスノッブとは縁遠く思えるファストブランドの「ZARA」も、実はスノッブ効果をもたらすしくみをブランドに内包している。

シーズン中に短いサイクルで何度も商品を投入し、しかも大半が追加補充を一切しない “売り切れ御免” 方式。

そのため、気に入った商品ならいち早く手に入れたいという強いインセンティブが購入客に働くのだ。

パリやミラノなどでショーを開くハイブランドにも引けを取らない、オントレンドのファッションが手ごろな価格で身にまとえるのだ。

流行に敏感なスノッブな人たちはよけいに目を離せなくなってしまう。

タウンウエアとしてすっかり定着したアウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス」も「スノッブ効果」の受け皿となる逸品をそろえる。

同ブランド屈指の人気を誇る「バルトロ・ライト・ジャケット」だ。

もともとはヒマラヤや南極遠征用だった防寒ジャケットを一般消費者向けに改良している。

それゆえ、街着としては明らかにオーバースペックで価格も6万円以上となるが、シーズンごとに「抽選販売方式」がとられるほどの争奪戦になっており、入手困難なアイテムとしても知られている。

「スノッブ効果」はピークアウトの危うさもはらむ

今回は「スノッブ効果」を取り上げた。

世の中には、あまねく支持される商品に惹かれる人がいる一方で、なかなか手に入りにくい個性的な商品に魅力を覚える人がいる。

狙える市場のパイは小さくなるが、個性や希少性を打ち出し、スノッブな心理をくすぐることでユーザーを手堅く獲得するやり方もあるのだ。

一方で「スノッブ効果」には危うさもはらむ。

商品が市場に広く出回るようになると、購買意欲が低下してしまう心理効果ゆえ、折角人気を博したとしても、ピークアウトする時期が意外に早く訪れる。

推していたアーティストやタレントが人気になると、急に冷めてしまうような現象と軌を一にするといえるだろう。

そんな制約はあるものの、商品を勢いづける有効な手立てであることは確かだ。

ここぞというチャンスが巡ってきたときに逸することのないよう、この心理効果をマーケターなら頭の片隅に入れておくといいだろう。

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