今回は『理由』を文脈に応じて品よく言い換える方法を整理する。
目次
1.『理由』とはどんな性質の言葉か?
「理由」は、日常からビジネス文書まであらゆる場面で使われる一方、自分が伝えたい「なぜ」の種類が曖昧になりやすい語である。
まずは、この語が持つ性質を整理しておきたい。
意味のコア
「理由」は、ある判断・行動・出来事が「なぜそうなったか」を示すための語であり、原因・背景・根拠・意図・事由・契機といった複数の側面を一語でまとめて指す性質を持つ。
その射程の広さゆえに、文脈によって指す範囲が揺れ、伝えたい「なぜ」の輪郭が定まりにくくなるという構造的な特性がある。
なぜ、人は「理由」の言い換えを探すのか?
「理由があります」と述べるだけでは、それが客観的な因果なのか、内面の動機なのか、公式な事情なのかが相手に届かない。
また、ビジネス文書や論文で繰り返し使うと語彙が平板に見え、説明の解像度まで低く映るおそれがある。
さらに「こうした理由で」という言い回しは、責任の所在を曖昧にする言い訳のニュアンスを帯びやすく、フォーマルな文脈では特に注意が必要となる。
自分の「なぜ」がどの軸に属するのかを整える視点を、次章で確認していく。
2.『理由』を品よく言い換える表現集
ここからは「理由」を、文脈に応じて品よく・知的に言い換える方法を整理する。
2-1. 結果の原因を示すとき(原因)
- 原因
- 事象を引き起こした直接的なもとを特定し、問題解決の糸口を探る場面で使われる。
- 例:サーバー障害の直接的な原因を究明し、再発防止策をシステムに組み込んだ。
- 事象を引き起こした直接的なもとを特定し、問題解決の糸口を探る場面で使われる。
- 要因
- 結果に影響を与えた複数の要素を分析し、論理的に状況を説明する際に重宝する。
- 例:今期の売上増は、新規顧客の開拓と既存事業の効率化が主要な要因となった。
- 結果に影響を与えた複数の要素を分析し、論理的に状況を説明する際に重宝する。
- 起因
- ある事態が特定の事柄から生じたことを示し、発生の源を明確にする表現として扱われる。
- 例:本件のトラブルは、初期段階での情報共有不足に起因して発生した。
- ある事態が特定の事柄から生じたことを示し、発生の源を明確にする表現として扱われる。
2-2. いきさつや文脈を伝えるとき(背景)
- 背景
- 物事の背後にある社会情勢や組織の事情など、土台となる状況を概括する際に適する。
- 例:市場の急速なデジタル化を背景に、従来のアナログな営業体制を刷新した。
- 物事の背後にある社会情勢や組織の事情など、土台となる状況を概括する際に適する。
- 経緯
- 事態が現在の状態に至るまでのプロセスをたどり、複雑な事情を整理する場面に向く。
- 例:仕様変更に至った経緯を精査し、開発工程の遅延を最小限に食い止めた。
- 事態が現在の状態に至るまでのプロセスをたどり、複雑な事情を整理する場面に向く。
- 事情
- 相手の置かれた状況や個別の理由を汲み取り、配慮を示すポライトな文脈に使われる。
- 例:本人のやむを得ぬ事情を汲み、当面はリモートワーク主体の勤務形態を認めた。
- 相手の置かれた状況や個別の理由を汲み取り、配慮を示すポライトな文脈に使われる。
2-3. 論理的な裏づけを示すとき(根拠)
- 根拠
- 主張や判断が確かな事実に基づいていることを示し、説得力を高める際に向く。
- 例:本提案の採用は、過去3年間の運用データという確かな根拠に基づいて決まった。
- 主張や判断が確かな事実に基づいていることを示し、説得力を高める際に向く。
- 論拠
- 議論を成立させる論理的な柱を立て、結論の妥当性を厳密に担保する場面に適する。
- 例:新規事業の投資判断に際し、収益性の予測を支える客観的な論拠を提示した。
- 議論を成立させる論理的な柱を立て、結論の妥当性を厳密に担保する場面に適する。
- 道理
- 物事の筋道や社会的な妥当性を強調し、納得感のある合意形成を図る際に使われる。
- 例:取引の透明性を確保することは商売の道理に適(かな)っており、不透明な慣習を廃した。
- 物事の筋道や社会的な妥当性を強調し、納得感のある合意形成を図る際に使われる。
- 所以(ゆえん)
- 語源や歴史的な裏づけを語る際、知的な品格を添えて成り立ちを説明する表現を示す。
- 例:彼が業界でカリスマと称される所以は、妥協を許さない品質管理の姿勢にある。
- 語源や歴史的な裏づけを語る際、知的な品格を添えて成り立ちを説明する表現を示す。
2-4. 行動の意思や目的を示すとき(意図)
- 動機
- 行動を起こす引き金となった内面的な目的を語り、熱意や起点を伝える際に適する。
- 例:地域社会への貢献を動機に掲げ、有志による新規プロジェクトが始動した。
- 行動を起こす引き金となった内面的な目的を語り、熱意や起点を伝える際に適する。
- 意図
- 施策や発言の裏にある狙いを明確にし、誤解を防ぎつつ方向性を揃える場面に向く。
- 例:設計変更の真の意図を周知し、現場チームの作業精度を一気に向上させた。
- 施策や発言の裏にある狙いを明確にし、誤解を防ぎつつ方向性を揃える場面に向く。
- 目的
- 最終的に到達すべきゴールや果たすべき役割を定め、行動の正当性を語る表現を示す。
- 例:生産性の向上を目的とし、全社規模での基幹システム統合を強行した。
- 最終的に到達すべきゴールや果たすべき役割を定め、行動の正当性を語る表現を示す。
- 趣旨
- 企画や方針の根本的な考え方を共有し、関係者の理解と協力を取り付ける際に向く。
- 例:本会合の開催趣旨に賛同した各社が集まり、業界共通のガイドラインを策定した。
- 企画や方針の根本的な考え方を共有し、関係者の理解と協力を取り付ける際に向く。
2-5. 公的・公式な事情として述べるとき(事由)
- 事由(じゆう)
- 法的な手続きや公式な報告書類において、事実関係を淡々と述べる場面に適する。
- 例:契約解除の事由が発生したため、法務部門が速やかに通知書の作成に着手した。
- 法的な手続きや公式な報告書類において、事実関係を淡々と述べる場面に適する。
- 次第
- 儀礼的な挨拶状や公的な文書で、物事の成りゆきを格調高く説明する際に使われる。
- 例:事業所の移転に至った次第を報告し、関係各位への周知を徹底した。
- 儀礼的な挨拶状や公的な文書で、物事の成りゆきを格調高く説明する際に使われる。
2-6. 動き出したきっかけを示すとき(契機)
- きっかけ
- 物事が始まる日常的・具体的な端緒を指し、親しみやすい文脈で変化を語る際に向く。
- 例:顧客アンケートの結果がきっかけとなり、新サービスの開発に拍車がかかった。
- 物事が始まる日常的・具体的な端緒を指し、親しみやすい文脈で変化を語る際に向く。
- 契機
- 状況を一変させるような決定的な転換点を捉え、飛躍や変化の理由を示す場面に適する。
- 例:法改正を契機として、業界内の古い慣習を打破する新ルールが確立された。
- 状況を一変させるような決定的な転換点を捉え、飛躍や変化の理由を示す場面に適する。
3.まとめ:『理由』は、どの”なぜ”を指しているか
『理由』は、原因・背景・根拠・意図・事由・契機といった複数の「なぜ」を一語でまとめて指す語である。
その幅の広さは便利さである一方、文脈によって指す範囲が揺れやすく、伝えたい「なぜ」の輪郭が定まりにくくなるという性質を含む。
2章で示した分類を手がかりに語を選び直せば、説明の精度は自然と整っていく。

