小林製薬のマーケティング戦略 ヒット商品はスーパーニッチな市場から

小林製薬
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「”あったらいいな”をカタチにする」というブランドスローガンを掲げ、次々にヒット商品を世に送り出す小林製薬。

カテゴリートップのシェアを握るブランドは40を超えるという。

そのヒット連発のカギは消費者でさえもうまく言語化できていないニーズ潜在的な「プロブレム」の発見にあるという。

「見過ごされがちなお困りごとを解決し、人々の可能性を支援する」という企業パーパスを制定している小林製薬。

同社が“あったらいいな”をどう発見し、どうカタチにし、ヒット商品につながているのか?

本記事では同社の類を見ない商品開発のしくみに迫ってみたい。

目次

“あったらいいな”をカタチにする

「”あったらいいな”をカタチにする」というブランドスローガンを掲げ、次々にユニークな商品を世に送り出す小林製薬。

痒いところに手が届く「よくぞ思いついた!」と膝を叩きたくなるような商品も少なくない。

同社のネーミングセンスも群を抜いているとの定評がある。

人気商品にはトイレ用洗浄剤「ブルーレットおくだけ」、額に貼る冷却シート「熱さまシート」、瞳を直接洗う洗眼薬「アイボン」、傷あとの改善薬「アットノン」、のど用殺菌消毒薬「のどぬ~るスプレー」などがある。

消費者ニーズの隙間他社に先駆けて狙う、いわゆるスーパーニッチな商品といっていいだろう。

そのコンセプトやネーミングは直観的で説明不要のわかりやすさに常にこだわっているという。

直観的で説明不要のわかりやすさ
Image by Freepik

しかし、ロングセラー商品にあぐらをかくことはしない。

果敢に新商品を投入し続けるのも小林製薬流である。

同社は毎年、既存ブランドからのライン拡張も含めて25品目前後の新商品を発売しているのだ。

年間の新商品発売数もKPIの1つになっており、年間30品目を目指しているという。

最近のユニーク商品なら、安眠を促す温め耳せん「ナイトミン 耳ほぐタイム」や毛穴ケア洗浄料「ケアナボン」があるだろう。

「ナイトミン 耳ほぐタイム」は耳せんに発熱体がついており、遮音効果のみならず耳を温めることによるリラックス効果が期待できる。

「ケアナボン」は付属のカップに洗浄液をいれ、そこに鼻をひたして洗うと、洗浄成分の吸着力で溜まった毛穴よごれがしっかり落ちるという。

これら2つの商品をとっても、これまでなかった斬新な発想で、ピンポイントのニーズをすくいとる同社の姿勢がしっかり見てとれる。

「小さな池の大きな魚」戦略

小林製薬は自らの商品戦略を「小さな池の大きな魚」戦略と呼ぶ。

小さな池の大きな魚
Image by brgfx on Freepik

競合がひしめく500億円市場で5%のシェアを取りにいくのではない。

まだ誰も見つけていないニーズを見つけ出し、そのニーズを満たす商品で50億円市場の50%を取りにいく。

いわゆる「ニッチトップ戦略」を貫いているといってよいだろう。

小林製薬は現在、ヘルスケア、日用品、スキンケア、カイロの分野で160弱のブランドを擁しているが、各分野でトップシェアを握るブランドは40を超えるという(小林製薬 統合報告書2019)

実は小林製薬がまだ手つかずの未充足ニーズばかりを狙い撃ちするのには同社の出自に絡む事情がある。

雑貨や化粧品、医薬品の卸売りの会社として創業したため、卸の取引先であるメーカーとの直接的な競合を避ける必要があったのだ。

そして今や、そんなニッチトップ戦略が同社の商品戦略の神髄となっている。

「あったらいいな!」から始まるパーパス経営

ではどう消費者さえも気づいていないようなニーズを見つけ出すのか?

そのキーワードが小林製薬の社内用語でもある「プロブレム」だ。

対処方法がなかなか見つからない消費者の困りごとを指す。

同社の公式サイトには、ニッチな商品は大部分の消費者には意味がなくとも、特定の困りごと(プロブレム)を持つ消費者には何ものにも代えがたい存在になり得るとある。

ニッチ商品 代えがたい存在

そんな困りごとを見つけ出し、解決のアイデアを生み出すことを小林製薬は全社的な信条にしているのだ。

そしてそのことを明確に明文化しているのが、同社のパーパースステートメントである(同社公式サイト)

見過ごされがちなお困りごとを解決し、人々の可能性を支援する

私たちは、一人ひとりの暮らしの中の見過ごされがちな「お困りごと」を発見し、今までにない「アイデアや技術」によって解決することで、健康で快適な生活の実現や、社会での活躍をサポートします。

この「お困りごと」によって妨げられる快適な生活や社会での活躍「取り残された社会課題」ととらえ、その解決に貢献することで、人々の可能性を支援します。

「困りごと(プロブレム)」の発見

それほどの困りごとなら消費者に尋ねればすぐに返ってきそうだが、実はそうではない。

人は日常の生活の多くのことをほぼ無意識のうちに行っており、その困りごともやり過ごしているうちに習慣化し、意識にのぼらなくなる。

それゆえ改めて尋ねられても言葉に落とし込むのが難しい。

小林製薬から提案を受けて初めて、「ちょうどこういのが欲しかった」と自分が困っていたことに気づくのだ。

ちょうどこれが欲しかった
Image by cookie_studio on Freepik

その困りごと(プロブレム)の発見に向けて、小林製薬は全社員による「アイデア提案制度」という新商品のアイデアを毎月募る制度を設けている。

“あったらいいな” を生み出すために1982年から続いており、年間で4万件近い新商品のアイデアが社員から集まってくる。

よい提案を出した社員は社内報にも掲載され、経営層との食事会がプレゼントされるという。

主体性をもって挑戦した人を誉めるのも小林製薬の流儀なのだ。

とはいえ、年間で4万件にのぼるなら、集まったアイデアから実際に商品化されるのは針の穴に糸を通すような確率だろう。

それでも、小林製薬の社員全員がいったん生活の現場に立ち返って「こんなことに困っているのではないか?」と意識的に思いを巡らせる。

そんなマインドセット(習慣的な考え方や物事の見方の意)が全社的に共有される意義は大きい。

消費者の目線で考えることが自然に訓練される組織文化が根付いているのだ。

KPIに新商品の「4年寄与率」

見過ごされがちな困りごと(プロブレム)を商品開発の根幹に据える小林製薬だが、もう1つ、同社の商品開発の姿勢を語るうえで欠かせないキーワードがある。

KPIにもなっている新商品の「4年寄与率」だ。

これは毎年の全売上げに占める直近4年以内に発売した商品の比率のことを指す。

この寄与率は既存のロングセラー商品に過度に頼るのではなく、新商品、すなわち新たな市場創造によって着実に稼ぐ企業体質になり得ているかを見るという意味がある。

一方で、その目安をあえて4年と置いたのには別の事情もあったようだ。

東洋経済オンラインの2017年2月10日付の記事によれば、かつての小林製薬は新商品を出すこと自体が目的になっていた時期もあったという。

半年も経つと店頭から消えていく例も少なくなかったのだ。

それでは労力や開発コストだけが無駄にかさんでしまう。

さらにもし商品を使い続けようとしていたユーザーがいた場合、あっさり終売になってしまえば、その期待を裏切ることにもなりかねない。

新商品を積極的に開発するにしても、よくよく市場性を吟味し、そのポテンシャルをテストしてからとすることを鉄則とする。

市場性の見極め
Image by snowing on Freepik

そして、いったん世に送り出したらきちんと育成していく。

おそらく、その開発と育成のしくみが機能しているかを見る目安として4年のスパンは必要と判断したのだろう。

ロングセラー化への取り組み

商品の開発のみならず、育成にも重きを置く方針から、小林製薬は投入する新商品の中から2~3商品を選んで広告や販促を重点的に行う。

そして、販売の山を一の矢、二の矢、三の矢と継続的に作りながら育成していくという(小林製薬 統合報告書2022)

新商品をテレビCMなどで知り、たまたま気に入って買ってくれる人はそれなりにいるだろう。

新しいものに触れると、人の脳はちょっとした興奮状態に陥って妙に試してみたいという気になるのだ。

そのため、新商品はその実力以上にトライアル(試し買い/初回購入)を獲得してしまうことがある。

導入期を目掛けてテレビCMなど販売促進策が盛んに行われるとすればなおさらだろう。

小林製薬が問題にするのはむしろその後だ。

いかにリピート(継続購買)させるか、すなわちいかに商品を使い続けてもらえるかである。

第2、第3の販売促進策で勢いをつくりつつ、リピーターを徐々に増やし、そのリピーターたちからの影響力が波及することでさらに新規顧客を獲得していく。

いわゆる人気が人気を呼ぶ構図に持ち込むのだ。

人気が人気を呼ぶ好循環
Image by GarryKillian on Freepik

そんな好循環をいかにつくり出せるかを小林製薬は重要視している。

先に触れたように、小林製薬のパーパスは、人々の「困りごと」をなくし、快適な生活や社会での活躍を妨げないことだ。

新商品が市場浸透を促す持続的な好循環を生み、同社の商品を多くの人に習慣的に使ってもらい、生活文化に根付かせなくてはならない。

ワンショットの困りごと解決だけでは意味がない。

人々の生活そのものの質の改善に努めることに小林製薬の存在意義がある。

4年寄与率のさらなる向上へ

小林製薬の統合報告書2022によれば、同社はKPIである新商品の「4年寄与率」を13%に設定している。

実際の寄与率はかつては20%を超えていたが、昨今はダウン傾向にあり、2022年は10.2%にとどまった。

開発の初期段階でテストにかけるなど市場性の見極めを厳しくし、新商品の投入数に影響したことが一因と考えられる。

今後もその市場性の判断基準を緩めることはしない。

しかし、新商品の投入を積極的に行い、4年寄与率13%以上へ引き上げていく意向のようだ。

果たして小林製薬は今後、人々の生活に潜むどんな「プロブレム」を発見し、解決してくれるのだろうか? 

“あったらいいな”をカタチにする同社の着眼点と開発力、そして商品の育成力にこれからも期待したい。

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