ダメージケアの概念を覆し、「自分らしさの追求」を軸にした花王の新ヘアケアブランド「MEMEME」。
従来のダメージヘア用商品が「修復」に重きを置いていたのに対し、髪も気分も弾む”ブーストケア体験”で若年層の心を掴む戦略とは。
花王のヘアケア事業変革の完結編として投入された革新的コンセプトを、その戦略性から市場への影響まで多角的に検証する。
1.MEMEME(ミーミーミー)とは?
花王が2025年8月に発売する新ヘアケアブランド。
花王のヘアケア事業変革の第三弾として、ハイプレミアム市場への本格参入を図る戦略的商品だ。
従来のダメージヘア用商品が「髪の修復」を主眼としていたのに対し、「自分らしさを表現したい若年層」の感情的ニーズに着目。
ヘアカラーやアイロンによるダメージを前提としながらも、理想のヘアスタイルを諦めない積極性を支援するアプローチを採用している。
単なる機能性商品ではなく、「毎日鏡の前に立つ自分の気分を高める存在」として、ヘアケアに新たな価値軸を提案した意欲作である。
2.コアコンセプト
3.コンセプト評価
- 独創性:★★★
- ダメージケアを「自己実現の手段」に再定義した発想転換
- 魅力度:★★★
- デジタルネイティブ世代の価値観に深く刺さる共感設計
- 完成度:★★☆
- 技術革新と体験価値の統合は評価されるが、市場での実証はこれから
- 時代性:★★★
- 個性重視・自己発信の時代潮流に完全合致
- 影響力:★★☆
- ハイプレミアム市場でのポジション確立により業界に一定の影響
※評価軸について
- 独創性:他との差別化、新規性、アイデアの斬新さ
- 魅力度:ターゲットへの訴求力、感情的インパクト
- 完成度:コンセプトが実際の商品・サービスで適切に体現されているか
- 時代性:社会トレンドや時代背景への適合性
- 影響力:市場や社会への波及効果、文化的意義
ヘアケアを「問題解決」から「自己表現の楽しみ」へと転換させた画期的なコンセプト。
デジタルネイティブ世代の価値観を的確に捉え、感情的な共感を重視した戦略が注目される。
4.誕生背景
花王は「髪の生きる力を、人の生きる力へ」の事業ビジョンのもと、ヘアケアブランドの大幅再編を進めていた。
第一弾「melt」、第二弾「THE ANSWER」に続くフォーメーション完結編として投入されたのが本ブランドだ。
市場分析により、デジタルネイティブ世代を中心に「周囲に合わせるより、自分の好きなものに正直に、なりたい自分に向かって積極的にチャレンジしたい」という価値観の高まりが確認されていた。
同時に、ヘアカラーやアイロン使用によるダメージで「思い通りのヘアスタイルがつくれず悩む」層の存在と、「費やした時間に見合う満足度」を重視するタイパ志向も顕在化していた。
花王はこの状況を「修復中心のケア」から「積極的な自己表現支援」への転換機会と捉え、感情的価値を前面に押し出したブランド戦略を構築した。
5.コンセプトの特徴分析
「PLAY! ME<毎日過去最高のわたしを楽しもう>」は、従来のヘアケア概念を根本から覆す戦略的メッセージだ。
3つの視点から分析してみよう。
注目ポイント1:ダメージケアから自己実現への価値転換
最大の革新性は、ダメージヘアという「ネガティブな状況」を「ポジティブな自己表現の機会」に読み替えた発想転換にある。
従来のダメージケア商品は「傷んだ髪を修復する」という問題解決型アプローチが主流だったが、MEMEMEは「理想の自分になるための積極的な選択」という価値提案に転換している。
「毛先までぷるんと弾むうるツヤ髪」という表現も、単なる仕上がり説明ではなく「弾む気分」との連動を暗示し、感情的価値を前面に押し出している。
注目ポイント2:デジタルネイティブ世代への共感設計
「PLAY」「ME」「過去最高のわたし」といったキーワード選択は、SNS世代の価値観に的確に対応している。
自己発信が日常化した世代の「なりたい自分への積極性」「個性を楽しむ姿勢」「自分の気分を上げることの重視」といった特徴を、ブランド言語に巧妙に反映させている。
さらに「毎日」という継続性の強調により、一時的なケアではなく「日常的な自己肯定感の向上」という上位価値を提案している。
注目ポイント3:体験価値とテクスチャー革新の融合
コンセプト実現において、「爆なじみ処方」「クラッシュジェル」など独自の技術革新による「ワクワクする使用感」の創出が注目される。
単なる機能性向上ではなく、使用プロセス自体を「楽しい体験」に変える設計は、感情的価値重視のコンセプトと一貫している。
香り設計も「軽やかでエネルギッシュ」な印象により、「髪も気分も弾む」”ブーストケア体験”の完成度を高めている。
6.他業界への応用可能性
この「問題解決から自己実現支援への転換」コンセプトは他分野でも応用が期待できる。
スキンケア業界の「肌悩み改善」から「理想の自分表現」への転換、サプリメント業界の「不足補給」から「なりたい自分への投資」への価値転換など、従来ネガティブ要因を扱っていた領域での差別化戦略に適用可能だ。
重要なのは、ターゲット世代の価値観変化を的確に捉え、従来の問題解決型思考から感情的価値創造型への発想転換を実現している点である。
7.コンセプト言語の戦略性
このコンセプトの言語戦略で注目すべきは、「PLAY」「ME」という親しみやすい英単語の選択だ。
「PLAY」は遊び心と積極性を、「ME」は自己肯定と個性重視を表現し、デジタルネイティブ世代の感覚にフィットしている。
「毎日過去最高のわたしを楽しもう」という補完メッセージは、継続性と自己肯定感向上を同時に訴求し、日常使いするヘアケア商品としての価値を明確化している。
さらにブランド名「MEMEME」は、「私」を3回重ねることで自己愛と自己受容の大切さを表現し、ターゲット世代の「自分らしさ追求」志向に深く刺さる設計となっている。
8.体験・入手方法
- 発売日:2025年8月9日(7月29日以降、一部店舗で先行発売)
- 価格:ハイプレミアム価格帯(1,400円以上)
- 商品構成:シャンプー、トリートメント、クラッシュジェルトリートメント、モイストブーストオイル
- 特徴:ビタミン・ミネラル美髪MIX成分配合、爆なじみ処方採用
- 香り:レッドキウイ×フリージア、ブラックベリー×フリージア
話題のブランドコンセプトを徹底分析するシリーズ。新商品・新サービスから既存ブランドのリニューアルまで、注目を集めるコンセプトの戦略性と仕組みを解き明かしている。
独創性・魅力度・完成度・時代性・影響力の5軸で評価し、なぜそのコンセプトが響くのか、どんな工夫が込められているのかを分析。顧客の心をつかみ、競合との差別化を実現する「価値の約束」をつくるヒントを、マーケティング実務者に提供することを目指す。